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第46話「〈ゆうなぎ〉」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第46話「〈ゆうなぎ〉」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――地球連邦、第二護衛艦隊所属K47〈ゆうなぎ〉。

 カラクルム級は〈アンドロメダ〉へ、突進を開始していた。地球連邦軍では大型の部類に入る全長444mの〈アンドロメダ〉といえど、相手は全長520mと約80mの差がある。真面にぶつかれば、〈アンドロメダ〉とで無視出来ない被害を出してしまう。

 アンドロメダ艦長の山南は、咄嗟の反応で〈アンドロメダ〉は回避する。カラクルム級は元から〈アンドロメダ〉に特攻するつもりはなかったようで、回避そのものは決して難しくなかったようだ。

 山南は敵艦が側面を通過すると判断した時点で砲撃準備の再会を命じ、後甲板に搭載されている第3と第4砲塔が照準を合わせると同時に火を吹いた。急加速中のカラクルム級へ目掛け着弾せんとする。

 しかし、6本の新ショックカノンは命中せず、艦体左側を追い抜いてしまう。それでも速射性能と命中性が高性能の新ショックカノンは直ぐ修正を完了させ、二射目が放たれた。

 二射目はカラクルム級の艦尾右舷側に着弾し、6発の新ショックカノンは確かに命中。しかし、安堵するには未だ早かった。カラクルム級の後部に火の手が上がるも、機関部ではなかった。〈アンドロメダ〉の砲撃を受けてもな足を止めないカラクルム級は、加速させる一方だ。

 そんな中、だ。
 加速するカラクルム級の進路上に、1隻の地球艦艇―――改金剛型宇宙戦艦〈ゆうなぎ〉があった。

 「敵ガトランティス大戦艦、本艦に接近して来ます!」

 カラクルム級に視線をやりつつ、古代は指示を出す。

 「直ちに緊急回避!」

 〈ゆうなぎ〉の船体各部に設けられたスラスターに青い火が吹く。通常の姿勢制御だけではない。戦闘時に使用する高機動までも、青い火を噴射していた。艦が揺れ艦長席に深く座っていた古代は、歯を食いしばりながら耐えた。付近の艦艇も回避運動する最中だ。カラクルム級は、回避が完了したばかりの〈ゆうなぎ〉右舷を通過していった。安堵の息が、艦橋に満ちる。もしも回避が間に合わければ、改とはいえ金剛型が撃沈するのは容易に想像出来たからだ。

 「敵ガトランティス大戦艦、更に加速!」

 その報告を聞くや、古代は艦橋砲塔の旋回を命じた。カラクルム級に照準を合わせ、砲撃する為だ。古代達がいる艦橋砲塔は旋回すると、南部は照準を合わせ砲撃しようとするが……間に合わかった。

 「敵ガトランティス大戦艦、ワープ!」

 彼らの目の前でカラクルム級の前方が光り、生成されたワープゲートにカラクルム級は姿を消した。何処だ、何処にワープしたんだ。思考していた時、相原から声を掛けられる。

 「古代艦長…」

 古代が視線をやれば、相原は席を経ち緊張の色を浮かべながら振り返っていた。呼吸を整えた相原は口を開き、言葉を紡いだ。

 「!?…確かなのか?」

 彼は確かめるように聞き、二度目となるその報告を再び聞いた。

 「敵艦がワープする直前に、〈サラトガ〉と〈ディファインス〉が地球へ向けワープしています!つまりは―――」

 相原が言い終わるのを、待つ必要は無かった。損傷により作戦継続不能となった改村雨型宇宙巡洋艦〈サラトガ〉と同〈ディファインス〉は、司令部へ申請し受理したことで地球圏帰還の為ワープした。偶然とは思えない。あの大戦艦がワープ航跡をトレース―――追跡していたのなら。血の気が引くのを感じた古代はくっと顔を歪め、拳を握りしめた。

 「緊急ワープだ!本艦も地球に向かう!」

 〈ゆうなぎ〉は〈タイコンデロガ〉の呼びかけに応答することなく、地球圏へとワープしていった。そして〈ゆうなぎ〉は、第八浮遊大陸が存在していた某惑星宙域から地球圏にワープアウトした。

 古代の予想は、的を当てていた。
 最初に見えたのは、カラクルム級の噴射光だった。カラクルム級のエネルギーシャワー兵器が使用不能であるのは明白だった。二度目が無かったのも、連合艦隊と〈アンドロメダ〉の目を欺く為ではなかったのだ。

 カラクルム級の地球圏への侵入は司令部でも確認されており、月軌道の戦闘衛星が迎撃態勢へ移行していた。戦闘衛星は、全長が短く横幅が大きい黒基調の無人砲台だ。上下共に横1列となり無砲身の陽電子衝撃砲がズラリと並ぶ。改金剛型と同じ無砲身の陽電子衝撃砲が、多数搭載されている。

 カラクルム級を射程に収めた戦闘衛星は、陽電子衝撃砲を斉射した。放たれた陽電子衝撃砲の半分は命中するが、カラクルム級を沈めることは出来ず、その勢いを削ぐことすら出来ない。カラクルム級はその艦首を戦闘衛星にぶつけ粉砕しても、勢いを止めることはなかった。

 「敵ガトランティス大戦艦の落下コースは、首都です!」

 「奴ら、落下軌道を調整しているのか!?」

 「間違いないよ、南部。首都の地下には司令部があるんだ。目的は司令部、上の首都はついでだろうね。…これが、ガトランティスのやり方か」

 首都が置かれている日本には、司令部が存在する。司令部は地下に存在するとはいえ、カラクルム級の特攻で首都を消し飛ばすことなど難しくない。ましてや、軌道を調整しての特攻なら尚更だ。 

 〈ゆうなぎ〉は今、カラクルム級の直上にいる。機関出力に全て回していた為、砲撃していなかった。だが、それは追いつく為に回していたからで、現在はカラクルム級に追いついている。此処で食い止めてみせる。古代は砲撃を命じた。
 
 そして、だ。
 艦橋砲塔、甲板に搭載されている砲塔、艦底部の砲塔、全ての陽電子砲塔をカラクルム級の船腹へ旋回させた直後、陽電子衝撃砲を斉射した。何回も何回も、しかし…。

 「駄目だっ、ゆうなぎの主砲では…っ!」

 自身を《大砲屋》と呼ぶ南部が、音を上げた。改金剛型の主砲といえど、射抜くことは出来ない。最も強力な艦首砲を撃てば、の思いがある。だが、このまま回頭すれば、カラクルム級を止めることは不可能に等しかった。悔しさが、彼を支配していた時だ。

 「撃ちかた止め!」

 「え!?りょ、了解!」

 古代の命令に、南部は驚きの色を浮かべて振り返る。

 「コース修正、敵艦の下に回り込め!」

 艦長帽子の位置を正した古代は、カラクルム級を見据えながら言葉を紡ぐ。

 「敵艦下部から押し上げ、軌道を変える。推力全開!」

 砲塔が元の位置へと戻ると同時、〈ゆうなぎ〉はカラクルム級から少し離れた。艦橋の窓から地球が見えた。月軌道を超え、地球の大気圏に突入するのも時間の問題だった。必ず、落下軌道を変えてみせる。古代がカラクルム級を睨みつけている中、〈ゆうなぎ〉の艦首がカラクルム級の下部に接触する。激しく、だ。エンジンノズルの噴射光を輝かせ、船体をめり込んでいく。

 「落下軌道、変えれません!」

 くっと、古代は表情を歪めた。せめて、開発が進んでいない所へ落とすことは出来ないか。最後の手段として、限界的に機関出力を向上させるオーバーブーストの使用命令を下そうとした時、相原が呼びかけてきた。

 「古代艦長!司令部の森一尉より秘匿回線で呼び出しが来ています!」

 「雪から?」

 「繋ぎます!」

 古代君、と聞き慣れた呼びかけが届く。何事かと聞き返す暇すら、森雪は与えなかった。イスカンダル航海を共にした彼女は、回線を切り替えるわ、と回線を切り替えた。

 「…古代」

 通信スピーカーから発せられたのは、イスカンダル航海を共にした男の声だった。この、聞き慣れた声は…。

 「真田さん」

 男―――真田志郎は、手短に告げる。

 「敵艦の軌道データをこちらに送ってくれ」

 古代は目を見開いた。手短ではあるものの真田の言わんとしているのは、古代自身が考えていた事でもあるからだ。だが、しかし、こんな短時間で出来るのだろうか。古代は不安になってしまいそうになるのを阻止する為、首を横に振った。今は信じるしかない、真田さんを。

 「軌道データ転送、完了しました」

 相原から報告を受けた古代は、力強く告げる。

 「全艦、逆噴射準備。我々は、”あの艦”に希望を託す!」

 誰も、古代の判断に口を挟まない。真田と交わされた僅かなやりとりを、彼らは理解しているからだ。〈ゆうなぎ〉は船体をカラクルム級の下部から引き剥がすと、母なる青い星―――地球の姿があった。その一角には真っ赤な1つの軌跡があり、その正体はカラクルム級だ。既に大気圏に突入し始めており、赤熱化した大気が纏わりついていた。

 200秒…190秒…180秒…、首都落着までの予測時間を電探士が報せる。モニターには、落下軌道と共にカラクルム級を示す表示が刻々と位置を変えている。

 頼む、と祈った瞬間。地球の海中から、三本からなる青い光の矢がカラクルム級へ向かう。束となった青い光の矢―――陽電子衝撃砲の束がうねるように海水を突き進み、水蒸気と共に海水を波紋さながらに吹き飛ばす。陽電子衝撃砲の束が天へ向かい一直線に駆け上がる。やがて、カラクルム級に吸い込まれるように突き刺し、真正面を射抜いた。艦尾まで貫かれたカラクルム級は次の瞬間、大きな火の玉と化し爆発四散する。た〜まや〜、である。

 「やった、のか…?」

 「あぁ、やったんだ!」

 歓喜の声が艦橋を包む最中、古代は衛星から転送されたモニターの映像を凝視していた。海面の一角に立ち込めた水蒸気の向こうに、防波堤に囲まれた海底ドックが確認出来る。海底ドックは透明なグラスドームに覆われていたのだが、その中にあった海水は陽電子衝撃砲の発射により蒸発している。

 引き裂かれたグラスドームの中に、横倒しとなって浮かぶ”あの艦”がいた。古代は、”あの艦”の名を口にする。

 「宇宙戦艦ヤマト」

 真田の指揮の元、あの艦―――宇宙戦艦ヤマトは、この海底ドッグで改装中だった。船体には装甲が外れている箇所もある中、危機を知り、三連装主砲を撃ったのだ。

 不意に、1年ほど前の出来事が脳裏を過る。

 ―――古代、現実を見ろ。

 イスカンダルで交わした約束により、〈ヤマト〉の艦首には《封印》が施された。スターシャは地球を救う約束を果たす為、コスモリバースシステムを自分達に託した。〈ヤマト〉そのものをコスモリバースに改造し、地球へ帰還させる。そうでなければ、地球を救うことは出来ないからだ。改造にあたり艦首の波動砲発射口に蓋をし、《封印》された。その《封印》こそ人類がイスカンダルの轍を踏まない証なのだと、古代は信じていた。

 だが、《封印》は、〈ヤマト〉の艦首から消えている。既に地球は、沖田が交わした約束を違えていた。だから、自分はあの時…。グッと拳を握りしめていたその時だ。

 「こ、これは…」
 
 突然と、世界が色を転じた。艦橋も無く、南部や相原を始めとする環境要員の姿も無い。息づかい、計器、機関から伝わる僅かな唸りすら聞こえない。星々の輝きもなく、あるのは暗闇だけ。ただ、艦長席に座る自分だけがいる。古代は見渡し、席から立ち上がる。

 正面に視線を戻した古代は、つい先程まで視界に無かった男の背中を見た。自分と同じ、艦長の地位を示す黒いコートを着ている。古代は違和感を覚えた。暗闇であるというのに、男の背中がくっきりと見えているのだ。それだけでなく、男はオレンジ色に輝いていた。この状況を作り出したのは、彼なのだろうか。

 違和感だけではない。この男を見ていると、何処かで会ったような気がしてならない。彼の背中だけとはいえ、見ていると懐かしさを覚えた。まさか、彼は…。男の名前を、古代は口にする。呼びかけるように。

 「沖田艦長」

 男―――沖田十三は、古代へ振り返らない。無言のまま、真っ直ぐと闇を見つめていた。宇宙艦隊司令長官にして宇宙に対して豊富な知識を持つ物理学者で、年齢は57歳。常に冷静沈着で強靭な意思と不屈の闘志を胸に秘める彼は、宇宙戦艦ヤマトの初代艦長としてイスカンダル航海を成功に導いた人物だ。

 かつて古代は、沖田に不信感を抱いた。それは、兄―――古代守がメ号作戦の真の内容を知らされないまま死んだからだ。連れて帰って来なかった沖田を、進は許すことが難しかった。しかしイスカンダル航海を得て、もうこの世にいない兄の意志を知り、1年であれど沖田について知り、彼を信用し尊敬するようになっていた。不信感が、消えた。

 尊敬と共に、古代にとって父のような存在だった。だが彼はあの時、青い星に戻った地球を前に亡くなった筈だ。それが何故、自分の前にいるのだろう。やはり、この状況を作り出したのは、彼なのだろうか。戸惑う古代に、沖田は口を開いた。

 「古代」

 この声、間違えない、沖田艦長の声だ。数秒が経過した時、古代に振り向くことなく告げた。

 「古代、〈ヤマト〉に乗れ」

 それが何を意味するのか、今は分からない。



 ―――アルポ銀河 ブリリアンス本星〈ブリリアンス〉。

 司令部にて、『宇宙戦艦ヤマト、敵艦を撃破』を確認していた女ギルド長スヴェートは…。

 「やった…やったぞ!地球は救われた!首都だけど地球は救われたんだ!ざまぁみろ、ガトランティス!」

 「それは何よりです」

 「やったー!宇宙戦艦ヤマト、ありがとう!!」

 パチパチと奏でられる拍手の音が本部内の司令部に響く最中、涙するスヴェートは両手を掲げ、バンザイポーズをしていたのだった。


ーーー

現状公開可能な情報:ブリュンヒルト級一番艦〈ブリュンヒルト〉。

艦種:戦艦
役割:艦隊旗艦/艦隊総旗艦
全長:1039m
ハイパードライブクラス:0.6
統合エネルギー変換システム
装甲:複合装甲、対ビームコーティング
防御:流体金属、ブリリアンス・フィールド、重力フィールド
機関:重力ブリリアンス•ドライブ、ハイブリッド式重力ブリリアンス・ドライブ
武装
・重粒子砲x多数
・レールガンx多数
・対艦ミサイルx多数
・対空機銃x複数
補助装備
•ワルキューレ戦闘艇

概要
 ブリュンヒルト。
 それは、北欧神話に登場する女戦士ヴァルリアの1人を指す。鎧と戦争の意味を持つドイツ語のこの言葉は、まさに艦隊旗艦/艦隊総旗艦に相応しい名称である。

 本級は新鋭艦にして試作艦で、防御優先の設計だ。防御優先とはいえ、高い攻撃力と防御力を両立させている。

 美麗のフォルムであるブリュンヒルトは全長1000mを超え、流線形の形状を持ち、艦首部分は剣のような鋭さを持つ。船首部分に金色の紋章があしらわれ、船体後部は白鳥の翼を思わせる推進機群と最新にして一対の試作機関―――ハイブリッド式重力ブリリアンス・ドライブを搭載、艦尾部上面には1基の重力ブリリアンス・ドライブが逆三角形を構成するように搭載されている。
 艦橋は後部船体下面の最前部にある全面ガラス張りの風防状構造物内部にゴンドラ式に釣り下げられており、ワープや戦闘の際には艦橋のみ上昇し内部に収納される。

 船体の表面は白銀の流体金属が多用され、最新にして新設計のハイブリッド式を搭載するなど、最新鋭の技術の粋を尽くした。宇宙に浮かぶ白鳥の如きフォルムは、見る者の心を奪う。
 美しさだけでなく、前衛的な技術がこの艦に詰め込められており、アップグレードされたオリジナル機関と重力ドライブのハイブリッド―――ハイブリッド式重力ブリリアンス・ドライブを艦の中央に設けられている。この機関はブリリアンス・フィールドと重力フィールドを形成、流体金属の制御、重粒子砲の加速装置、ワープ制御能力の全てを統括しており、それら機能を一元化し集約することにより、艦のエネルギー配分の効率化と高出力化を一手に実現することが出来た。

 ブリュンヒルトは高いワープ能力を保有し、ワープの際では赤いリングを形成する。ワープが行われる際は、艦の後方に赤いリングが発生する。この赤いリングを中心に空間を歪め、ワープしていく。

 ブリュンヒルトの内装は美しく、座席は赤と金で装飾されている。また、配下の司令官―――スーパータクティカルドロイドとタクティカルドロイドらの同時通信も可能だ。

 武装の内の重粒子砲と対空機銃は流体金属の内部に内蔵され、通常の重粒子砲の他、大型の重粒子砲も搭載し、遠方から敵の防御兵装を射抜くだけの砲撃戦能力がある。艦の上面と後方に対艦ミサイルユニットが多数装備し、全方位に対し柔軟な攻撃能力を有する。武装はブリュンヒルトを覆う流体金属に全て内蔵されており、重粒子砲の発射時には自らの流体金属を少量蒸発させてしまう。しかし、ブリュンヒルトはこの現象を、重力ドライブによる流体金属制御技術を用い、流体金属の消耗を最小限に抑える珍しい機構である。

 本級は現在、一番艦〈ブリュンヒルト〉のみで、二番艦の生産は検討中だ。

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後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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