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第44話「《プランA》発動」

 
前書き
ネオ・代表O5−1です。第44話「《プランA》発動」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 エメラルドグリーン色のシャワービームは、こちらに届いていない。だが、カラクルム級の艦首から渦を描くように放射されるシャワービームは、爆発と閃光を生成しながら距離を詰めつつある。
 その後方では一旦退いたガトランティス艦隊が、踵を返し再び進攻を開始していた。砲撃を仕掛け、転進する友軍艦を狙い撃っているのだ。ガミラス、ブリリアンスに被害が生じ、地球連邦側にも被害が相次いでいた。

 このままでは全滅してしまう、古代がそう思っていた時だった。突然と、艦橋に警報が鳴り響いた。この警報は…。

 呼吸を整えたと同時に、相原は声を張り上げた。

 「司令部より緊急通達です。《プランA》発動。全艦隊、速やかに第三警戒ラインまで後退せよ」

 相原に対してか、それとも独り言なのか、疑問に思ったことを南部はそのまま口にした。

 「《プランA》なんて聞いてないぞ」

 それは古代も同じだったが、彼はその《プランA》に従い後退を命じた。《プランA》の通達は連合艦隊―――地球連邦軍の特別構成艦隊だけでなく、ブリリアンス艦隊や後退中のガミラス艦隊まで送られていた。
 
 連合艦隊は、同じ方向へと移動を始めていた。

 モニターには司令部より送られた進入禁止エリアが表示され、その進入禁止エリアは浮遊大陸へ伸びる直線上のゾーンだった。各部隊は現在も後退中だ。

 一部を除き後退が完了した直後、モニターの一隅に数字が現れた。23、22、21…、と表示されていることから、カウントダウンであることが分かる。

 「……」

 古代は血の気が引いた。一筋の汗が頬を通る。肩に力を入れてしまう。何故に血の気が引いてしまったのか、何故に一筋の汗が頬を通ったのかは分からない。だが、何故だろう。このカウントダウンは元ヤマトクルーにとって馴染み深いのは……まさか。

 カウントダウンの数字が0となった直後、電探士が叫んだ。
 
 「余剰次元の爆縮を検知!」

 古代は、蒼き閃光を見た。”それ”は、あっという間に戦闘宙域に達した。美しい蒼き二条の光道は進行する先の空間を引き裂くかのように、先端が鏃となっていた。一定の宙域に到着した途端に直線だった道筋が螺旋を描き始め、互いに縺れあう様に突き進み続ける。それはまるで相反せずだった男女が急速に仲を深め、互いに寄り添うかのようだった。

 数秒後、螺旋を描く蒼色のエネルギーは、第八浮遊大陸の周囲を周回していた衛星の側面を抉り、威力を衰えさせることも無く戦闘宙域に差し掛かった。

 ―――カッ!
 光芒が生じるや、無数の光条が生まれた。

 「(拡散している!)」

 分裂した蒼色のエネルギーが無数の指を持つ掌さながらに、ガトランティスの艦艇はおろか、浮遊大陸までも包み込もうとする。灼熱の閃光が、ガトランティス艦隊を覆った。爆発の光すら、強烈なエネルギーに呑み込まれる。浮遊大陸さえ亀裂を生じ、崩壊していった。砕けるというより、握り潰すような破壊だった。

 衝撃波が波紋の如く広がる。浮遊大陸が存在する惑星のガス雲が津波さながらにうねり、退避した連合艦隊の各艦は姿勢を崩しそうになる。

 「あれは、波動砲、ですよね。でも、あれは…」

 驚く相原は、溜息にも似た声を洩らす。自分達が知っている波動砲とは異なるからだ。

 「拡散するなんて…」

 南部も驚きを隠せないでいた。たった今、目のあたりにしながらも、その威力を未だに現実だと受け入れることが出来なかった。

 「…っ!」

 古代は波動砲の蒼き閃光を見続けながら、イスカンダルの女王―――スターシャ・イスカンダルと約束した事を追憶していた。

 ……
 …
 
 「約束してください」

 あの日の言葉を、古代は鮮明に覚えている。イスカンダルでの会話を。イスカンダルの女王スターシャが、宇宙戦艦ヤマトに訪ねて来たのだ。艦長の沖田十三に会う為に。宇宙戦艦ヤマトに彼女が足を踏み入れたのは、一度きりだった。

 英雄と名高い沖田十三だが、その時は病の床にあった。流星爆弾症候群が、沖田の身体を冒していたからだ。

 古代は艦長代理として科学者でもある副長の真田志郎と情報長の新見薫3人で、スターシャを艦長室へ案内した。彼女は、傾国級の美貌の持ち主だった。その容貌は長い金髪と輝く金の瞳をし、胸元や肩回りなどの素肌が見えるドレスを着用しており、首回りは水晶石のような飾り付けがあった。

 スターシャは用意された椅子に座り、静かに古代達と相対していた。

 「貴女が差し伸べていただいた救いの手を、我々は波動エネルギーを転用した破壊兵器を作り上げてしまった。その責は、重く捉えています」
 
 沖田は腰掛けをし、車椅子に座っていた。スターシャに非礼を詫び、彼女が快く認めたところから会話が始まった。

 ガミラスの流星爆弾により地球環境は激変し西暦2199年初頭の時点で、地下都市に避難した人類も生存出来るのは残り1年と追い詰められていた。そのような状況の最中、イスカンダルから地球を再生させる装置―――コスモリバースシステムの存在を知らされた人類は、人類の希望である宇宙戦艦ヤマトをイスカンダルへと送り出した。イスカンダルに行き、受領しなくてはならないからだ。

 太陽系を出ることすらままならない人類にイスカンダルは波動エンジンの技術を提供したことで、真田志郎の手により、光の壁を超えることが出来る時空跳躍航法―――ワープが可能とした。

 人類にとってワープは、神から与えられた聖火に等しかった。革命的な技術的開発が種族の歴史を変えたとするならば、ワープ技術はかつての電気の発明以上の価値を持つ。時空間を繋ぎ合わせ光の壁を超えるこの技術は、種族の繁栄を約束した。

 必ず1年以内にコスモリバースシステムを持ち帰る。固い固い決意を胸に抱きながら、宇宙戦艦ヤマトは旅立った。天の川銀河を抜け、大マゼラン銀河のイスカンダル星へ。

 行く手に広がるのは、人類未踏の世界だった。航海の途中ガミラスと砲火を交え、数多の苦難を乗り越え、ようやくイスカンダルへと辿り着いた。だが、女王スターシャはコスモリバースを渡すことを渋った。真田の手により開発され波動エネルギーを転用した兵器―――波動砲を装備していたからだ。それが、彼女を不安にさせた。

 波動砲は一撃で木星の浮遊大陸を崩壊させるに留まらず、その余波は木星の大赤斑の形をも変えてしまう代物だ。光の壁を超える術を持つ地球人類が、他文明を支配する為の道具として使わないと、誰が断言出来る…。

 沖田がスターシャへ非礼を詫びた際、「我々」と言いはしたものも、航海の判断は己に帰するものばかりに思っていた。だから、波動砲を使用した責任は全て私にある発言をしたのだ。

 沖田の瞳を、スターシャは()っと見つめていた。病の床にあるとは思えない力強い瞳を、この男はしている。地球人類の生殺与奪の権は、私が握っていたといっても過言ではない。だからなのだろう。沖田は全ての咎めを自分で背負うという意思を示した。地球人類に罪は無い。ただ、自分の責任なのだと。

 スターシャは、沖田から僅かながら視線を逸らす。違う、地球人は罪では無い。罪なのは、…私達イスカンダルなのだ。僅かとはいえ逸らしていた視線を沖田に戻した彼女は、ポツポツと語りだした。

 「あなた方が波動砲と呼ぶもの……アレを最初に作ったのは、私達です」

 誰もが目を見開く中、スターシャは伏し目がちになりながらも続ける。

 「かつてイスカンダルは波動砲でこの大マゼラン銀河を血に染め、帝国を築きました。しかし、満足することなく、一定の銀河系を除いて、数多もの銀河系を血に染めあげた。イスカンダルは、この宇宙の覇権を握っていたも同然だったのです」

 頭上から降り注ぐ陽光が、穏やかな波に宝石のような光を与えている。だが、スターシャの表情は、どこか暗かった。

 「あの兵器の恐ろしさは、私達が一番よく知っています。だから、地球にもガミラスにも、技術供与はしなかった」

 古代はスターシャ訪問の前日、この星の墓地を見た。無数の小さな墓標が丘を超え、何処までも続いていた。墓地に訪れた古代とスターシャ以外、誰1人もいない。ただ、風の音ばかり聞こえる墓地だった。

 スターシャが口にした帝国は、遥か昔に失われた。イスカンダルの現在の住人は、王族のみ。女王と言いながらも、最早支配するべき臣民すらいない帝国なのだ。無数の墓標と人の手の触れない豊かな自然が、今のイスカンダルの姿だった。

 「約束してください。私達のような愚行を繰り返さないと」

 沖田は頷き、静かながらも力強く応えた。

 「お約束します」

 …
 ……

 あの時のスターシャの眼差しを、古代は一生忘れることは出来ない。スターシャは今亡き沖田を通し、人類全体と約束した。彼女が沖田に向けた眼差しには、確かな信頼の光があった。全ての地球人の言葉だった筈だ。

 ―――古代、現実を見ろ。

 真田の言葉が、脳裏を過る。

 ―――先の戦争で、地球は大きく痛手を(こうむ)った。

 イスカンダルへの航海で沖田が波動砲の使用を認めたのも、宇宙戦艦ヤマトを生き残る為だった。言外に告げているのだと、分かっていた。だが、古代は見たのだ。…波動砲によって破壊された惨状を。

 ガトランティス艦隊の残骸が漂っている。直撃で蒸発してしまったガトランティス艦も多い筈だ。生き残った艦もあるが、満足に戦闘も航行も出来る状態ではないのは明白だ。

 イスカンダルの航海で、沖田は敵艦隊へ向けて波動砲の使用を命じたことは一度も無かった。これ程の威力なのか、と波動砲の引き金を引いていた古代さえ慄然を禁じ得ない。

 波動砲は、敵を壊滅させただけではない。標的となった第八浮遊大陸は、最早原型を留めていない。それだけでなく、発射軸線にあったガス状の惑星などは変動が生じ、バランスが崩れ始めていた。

 『こちら、地球連邦防衛軍総旗艦〈アンドロメダ〉』

 突如として、音声通信が艦橋に響き渡る。同時に、観測班が捉えた映像がモニターに映された。その艦は磯風型・村雨型・金剛型と異なる艦艇で、誰もが初めて見る新鋭戦艦だった。

 青みがかった明灰色の船体は、宇宙戦艦ヤマトよりも直線的だ。硬質でどこか無機質な印象を与えているが、武骨さを感じさせていなかった。艦名の由来となったのはギリシャ神話の王女だが、このフォルムは勝利の女神ニケの翼を思わせる優美さがある。

 ただ、艦首の2つの穴が、古代には禍々しい砲口に見えた。その2つの穴は、波動砲の発射口だ。先程の蒼き二条の光芒は〈アンドロメダ〉から放たれており、波動砲の発射口は余熱で燻っていた。
 
 『第八浮遊大陸の消失を確認。続いて、本艦は掃討戦に移行する。地球・ガミラス・ブリリアンス連合艦隊は、引き続き静観されたし』
 
 声の主が誰なのか、古代は気づいた。第二次冥王星海戦で金剛型宇宙戦艦〈きりしま〉の艦長を務めた男―――山南修だ。〈きりしま〉で司令官である沖田を支えていた山南の年齢は、50歳を超えたばかりだ。言葉を交わす機会は少なかったが、古代は彼の風貌をよく覚えている。顎髯を伸ばし、顎先だけ残した鬚を常に整えていた洒落者。

 『なお、諸君らの健闘に敬意を表する』

 相原や南部も、山南を知っている筈だ。その2人は憤り、吐き捨てた。

 「こんなのって…っ!」

 「なんの茶番だよっ!」

 古代も新鋭戦艦を目にするのは初めてだったが、名前は既に聞き及んでいる。彼は立ち上がり、口にする。

 「アンドロメダ級一番艦〈アンドロメダ〉、もう完成していたのか」

 古代を含めた連合艦隊の将兵の視線が、アンドロメダ級一番艦〈アンドロメダ〉に集中する。〈アンドロメダ〉は掃討戦の為、〈ゆうなぎ〉の右横を通り過ぎていった。



 ―――アルポ銀河 ブリリアンス本星〈ブリリアンス〉。

 「……」

 第八浮遊大陸攻防の一部始終を、司令官席に座って観ていた者がいる。ブリリアンス・ギルドの頂点に君臨する女ギルド長、スヴェートだ。

 そんなギルド長とはいうと…、

 「拡散波動砲、…cool and beautiful」(拡散波動砲、…クールで美しい)

 コーヒーカップを片手に、うっとりとした表情で観ていた。現場の将兵がこれを見たら、間違いなく制裁を下すことだろう。天罰が下るのを祈るばかりである。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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