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東方守勢録

作者:ユーミー
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第八話

 ピンク色で少しウェーブのかかったショートカットの髪。水色を基調とした着物に、蝶のような模様が描かれた扇子。そこにいたのは紛れもなく冥界の白玉楼の主人『西行寺 幽々子』本人であった。
「どういうこと……幽々子」
「んー気分転換?」
 目を丸くしたままそう問いかけた紫に、幽々子は少しとぼけたようにしながら答える。それが感にさわったのか、霊夢の目つきが急に険しくなっていた。
「ごまかさないで! 気分転換で許されるわけないでしょ!」
「でもね~理由なんてないんだものぉ」
 困った様子で扇子をパタパタさせる幽々子は全く事の重大さを分かっていないようだ。いつも考えることが分からない彼女だが、今回の件はいつも通りですまされるようなものではなかった。
「でもね~そっちも外来人がいるじゃないの?それもおかしいんじゃないの?」
「俊司君は革命軍とは違うわ。だから私たちの仲間よ」
「ふ~ん。じゃあ私がこっちにいるのもいいんじゃないの?」
 もっともらしいことを言っているようだが、俊司は元々革命軍ではなくこの状況を知っていた人間でもない。それに比べて彼女はもともと幻想郷の人間として戦っていたはずだろうし、そうとなれば彼女達を裏切ったとも言える。とても同じだとは言いがたい。
「幽々子様!せめてきちんと説明してください!!納得がいきませんよ!!」
 主従関係である妖夢は特に納得がいっていないようだ。すると幽々子は急に妖夢を睨みつけると、声のトーンを落としてしゃべり始める。
「妖夢、敵がそうやすやすと説明するわけがないでしょう?自分で考えなさい」
「ゆっ……幽々子様……」
 どうやら彼女は本気の様だ。だとするとますます彼女が相手に回った理由が分からなくなってくる。そうせざるをえない理由があるか、洗脳されてしまって革命軍の一員であると思いこんでいるのか、それとも……。
「まあいいわ……とりあえず、さっさと終わらせましょう」
 幽々子は扇を閉じるとそのままスッと右手をあげた。それに反応するかのように後ろの兵士たちは俊司たちにむけて銃を構え始める。殺伐とした空気が一瞬で場を埋め尽くした。
「私の任務はここであなたたちを始末すること。だから消えてもらうわよ?みなさん」
「そんな!」
「……やれ」
 幽々子の指示とともに一斉射撃が始まる。彼らに指示を出す彼女の姿は、いつも白玉楼でのんびりと過ごしている彼女とは別人のようだった。
 もはや迷っている暇はない。紫達は幽々子と戦うことを決心し戦闘態勢を取った。
「全員こっちに来て!!」
 霊夢は全員を自分の背後に集めると、前方に結界を張り飛んでくる鉛玉を防ぎ始めた。長時間防ぐことは出来ないだろうが、軽く作戦を考える時間ならあるだろう。
「幽々子様……どうして……」
 幽々子の裏切りは妖夢にとっては特につらかったのだろう。さっきの事も考えると彼女の精神に与えたダメージはでかい。
「妖夢、今はそれどころじゃないわ。この状況をどうするか先に決めましょ?」
「ごめん、結界に集中しないといけないから、あんたたちで決めて」
「わかったわ……とにかく、まずはこの攻撃をやめさせましょう」
 霊夢が結界を張っている間は安全ではあるが、そのかわり攻撃を入れることができない。一瞬だけ結界を解いたとしても、高速で飛んでくる鉛玉を簡単によけられるのはスピードに慣れている文くらいだろう。
 なんとかして攻撃をやめさせればいいのだが、さらに問題になってくるのが幽々子の存在だ。本来なら彼女達の能力を使って簡単に止めることができるのだが、彼女がいる限り対策をしてこないはずがない。どうするべきか紫達は悩み始める。するとそんな彼女達を見ていた俊司は、なぜか自信ありげに話を始めた。
「……いや、やめさせる必要はないよ。銃撃は絶対にやむ」
「断言できるの?」
「ああ……この銃と違うならな……」
 俊司はそう言うと持っていたハンドガンを彼女達に見せた。みたところあいつらが使うような武器ではあるが、どうやら決定的な違いがあるらしい。
「その銃とあの銃になにか違いがあるんですか?」
 不思議そうに問いかけると、俊司は返事を返してから離しを続けた。
「弾だよ。この銃は弾がないって言ってたからさ。でも本物にはちゃんと弾があるんだ」
 彼の言うとおり、このハンドガンは河童の『河城 にとり』が改造を施しており、どういう仕組みになっているかは知らないが弾薬を必要としない。しかし本来の銃は各自適合した弾薬を使用しないといけない。さらにマガジンもあるわけでリロードを行わないといけない。その間は完全に隙ができるわけで、その瞬間に結界を解く事も出来るだろう。
 本来であれば誰かがリロードをしている間は誰かがカバーを行うのが理想だ。しかし目の前の敵は全員がカバーを考えずに攻撃を行っている。こうなればリロードの隙は完ぺきに出来るし、隠れる場所もないため攻撃を当てるのも容易になる。
「なるほどね……私たちにはわからないことだからね……」
「どうやらその考え当たってるみたいよ!」
 襲撃を行っていた兵士達は次々とリロードを行い始め、まるでガス欠を起こしたスポーツカーのように攻撃のスピードを落として行った。絶好の攻撃チャンスだ。
「よし!今のうちに!」
 霊夢は予定通り結界を解いて攻撃態勢に移ろうとする。ここまでは予定通りだ。
 だがこの時五人はまだ気づいていなかった。攻撃していたのは銃を持っていた敵だけだった事を。
「駄目だ! 結界を解くな!!」
「えっ」
 俊司の声に反応して霊夢は結界を解くのをやめる。彼の目に映っていたのは、不穏な動きを見せていたあの人物だった。
「油断大敵とはまさにこのことよね~」
 そう言って扇を広げた彼女の背後には、蝶のような弾の弾幕が形を作り始めていた。兵士全員で銃による攻撃を行い、リロード中は彼女が弾幕で隙を補う。それが彼らの戦歩だったのだ。
「さてと、どこまで耐えられるかしら?」
 幽々子は扇を縦に振り下ろす。その動きに合わせるように弾幕は宙を舞って紫達に向かってきた。
「くっ!」
 衝撃を受けて顔をゆがませる霊夢。鉛玉をはじくくらいならあまり力を必要とはしないが、幽々子の弾幕となると防ぐのにもかなり体力を消耗する。
 もしあの時結界を解いて避けるようにしたならばどうだろうか。こちらは幻想郷一・二の実力を持つ紫・博麗の巫女霊夢・白玉楼の庭師妖夢・幻想郷の伝統ブン屋文、この四人ならば彼女の弾幕を避けることは可能だろう。だが問題なのは外来人の俊司だ。彼はゲーム画面で彼女の弾幕を見ていたにしろ、現実世界で彼女の弾幕を見たことはない。つまり結界を張らなければ彼が被弾するのは確実だし、よけきったとしても次の兵士の攻撃は避けきれないだろう。ここに来て彼の存在が裏目に出てしまったのだ。
「くそっ……どうしたらいいんだ……」
 俊司も自分自身がいたためにこうなっている事に気づいていた。それゆえに考える作戦も良いものではなく、精神的にかなり追い込まれていた。
「俊司君落ち着いて。まだ時間はあるわ」
「そうですよ! いざとなればこの射命丸文が突破口を切り開いて見せます!」
「とにかく、銃撃をとめることはできないのは事実よ。それ以外の方法を考えましょう」
 なにかないかと必死に考え始めるが一向に解決策が見当たらない。時間はただただ進んでいくばかり……。霊夢の気力も限界に達し始め、結界がどんどんと薄くなり始める。明らかな消耗戦。しかも敗北は目に見えている。その状況がさらに俊司たちをあせらせていった。
「どうしたら……」
 追い込まれすぎて逆にいらいらし始めた俊司は、頭をかきむしりながらブラザーの右ポケットに手を突っ込む。そして中にあったある物をつかんだ瞬間、彼はないかに気付いたように目を丸くした。
「これって……」
 ポケットから出てきたのは紫から渡された白紙のスペルカードだった。スペルカードにそれぞれ個々の必殺技を込めることができるなら、今この状況を切り抜ける方法があるかもしれない。俊司の思考がうなりをあげて動き始める。
「わかった!」
 答えが出た瞬間、俊司は喜びのあまり声をあげていた。
「なにかいい方法がみつかったんですか?」
「ああ、霊夢! 次幽々子さんの攻撃が始まったら結界を解いてくれ!」
 俊司の提案にその場にいた誰もが驚いていた。
「えっ!? でも……」
「いいから!」
「……わかった」
 霊夢は言われるがままにタイミングを計ろうとする。俊司もスペルカードに自分の考えた必殺技を込めながらその時を待っていた。
 そんなことは知らず、幽々子はそろそろ勝負をつけようと動き始める。
「さてと……そろそろとどめといきましょうか」
 幽々子は懐から一枚のカードを取り出すと、目の前でそれを掲げて発動させた。

亡郷『亡我郷 ― 道なき道 ― 』

スペルカードの発動とともにおびただしい量の弾幕が俊司たちに向けられる。はたから見れば絶望的な状況だ。しかし俊司の目は死んではいなかった。
「霊夢頼む!」
「ええ!」
 霊夢は指示通り結界を解いた後、俊司の後ろに回り邪魔にならない位置に立つ。そして前に出てきた俊司の右手には青白く光るスペルカードが握られていた。
「あら?もう防がないの?」
 幽々子は笑みを浮かべて彼らをからかう。だがそんな挑発に彼がのるわけがなかった。
「いいや、これが打開策なんだよ!」
 俊司は持っていたカードに念を込めると一気に発動させた。

変換『コンバートミラー』

 カードの発動とともに巨大な盾が俊司の前に出現する。縦の前方は鏡となっており、そこには幽々子と兵士達の姿が映り込んでいた。しかしそれ以外はなにも変わった者がない。
「……あらあら? ただの見かけ倒しなのかしら?」
 幽々子もただの盾かと思い鼻で笑っていた。だが彼はただの盾を出したつもりはなさそうだ。
「いいや? まあ見てなって」
 なぜか自信に満ち溢れた表情でどっしりと構える俊司。その間にも幽々子の弾幕は徐々に近づいてきていた。
「ちょっと俊司! どうするつもりなの!」
 少し焦り始めた霊夢。だが俊司はこんな状況になっても冷静のままだった。
「大丈夫だよ霊夢。これが狙いなんだ」
(狙い? いったい何を考えてるの……)
 俊司の意図が考えられず呆然とする霊夢。そしてそんなことを話していた瞬間、幽々子の弾幕の最初の弾が俊司の盾にぶつかる。だが異変が起こったのはその直後だった。
「なっ!?」
 急に甲高い音が響き渡ったかと思うと、鏡から大量の光が漏れ始める。あまりの強さに思わず目をそらしてしまう幽々子。
「なにが……!!」
 幽々子の目に飛び込んできたものは衝撃的なものだった。
 幽々子が放った弾幕は異様な光を放つ盾に向けて集まり始めていた。自分が思い描いていた弾幕の軌道とは完全にはずれ、まるで吸い寄せられるようだ。
 やがて弾幕は少しずつ盾の中へと吸い込まれていった。
「私の……弾幕が……」
 予想外の出来事に驚きを隠せない幽々子。そんな彼女をみながら予定通りと言わんばかりに俊司は笑みを浮かべた。
「これがコンバートミラーの能力だよ。まあ弾幕が出せないから、こういったスペルカードを使うしかないんでね」
 弾幕の吸収が終わると盾は静かに消えていった。幽々子の弾幕は跡形もなくなり、辺りには静寂が漂い始める。
 しばらくすると何を思ったのか幽々子は不敵な笑みを浮かべ始めていた。
「ふふっ……所詮吸収しただけなら消耗戦と同じじゃない! 射撃部隊!」
 後方にいた射撃部隊が一斉に銃を構かまえる。これではさっきの状態に逆戻りだ。
 しかし俊司は全く動じるどころか、まっすぐこちらを見ていた。それもあせっている様子ではない。なぜか自信満々のようだった。
「……残念ながら、1つ見落としてると思いますよ?」
「なにを言って――」
「『コンバートミラー』が変換する鏡ってことをお忘れです」
「なっ!!」
俊司は軽く不気味な笑みを浮かべると、持っていたハンドガンを構えた。
「まさか……変換って!」
「お察しの通りだと思いますよ?」
そう言って俊司は引き金を引いた。乾いた発砲音と共に鉛玉ではなく強烈な光がその場にいた全員を襲う。
「くっ……なに……が……!?」
 光が収まった瞬間彼女の目に映ったのは、さっき自分が作り出したスペルカード、亡郷『亡我郷 ― 道なき道 ― 』だった。
 
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