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Fate/WizarDragonknight

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邪龍復活


 全てのヤマタノオロチの首がうねる。蛇の頭部一つ一つが、かつてウィザードたちを苦戦させたあのヤマタノオロチと同じく、無数の棘が生え、同じく赤い眼差しをしている。
 かつて、ウィザードたちを苦しめたヤマタノオロチと比べれば、首一本一本の大きさは小さい。道路のような太さがあった大荒魂と違い、グレムリンが変異した蛇たちは、人間の胴体ほどの大きさだった。
 だが、小型化しようとも、その圧は変わらない。
 ウィザードは全身に鳥肌が走るのを感じながら、えりかの背後にいる市長へ叫ぶ。

「市長さん! 本当に逃げてください! 多分、市長を守りながら戦う余裕はありません!」
「ふむ……」

 市長は顎に手を当てながら、ヤマタノオロチの体を見上げていた。

「君たちの戦いについては聞いていたが、これほどの化け物もいるのか。先日見滝原中央駅に現れたあの怪物やアマゾンも、その戦いの一環ということかね?」
「うっ……」

 顔を背けるウィザード。
 だが、ほとんど表情を変えないまま、市長は続けた。

「気にするな。君が責任を負うことではない。他の参加者の仕業なのだろう?」
「そうですけど……」
「それより、あの怪物は君たちでなければ倒すのは難しいようだ」

 市長の言う通り、八本の首はそれぞれ夜天に咆哮している。あれを倒すのは、確かに近代兵装では難しいかもしれない。

「申し訳ないが、君たちの手で討伐してもらえないだろうか。餅は餅屋という。刀使も君も、あのような怪物を倒すのが専門ではないのかね?」
「まあ、専門といえば専門ですかね……?」

 ウィザードは首を傾げながら、コピーの指輪をウィザーソードガンに発動。
 もう一本のウィザーソードガンを手にしたところで、グレムリンは指を鳴らす。

「さあ、大荒魂、魔王ヤマタノオロチの力、試させてもらうよ」

 グレムリンの指示に従い、ヤマタノオロチの首はそれぞれが別々の方向からウィザードたちへ接近。以前のヤマタノオロチと同じ動きだと感じながら、ウィザードと可奈美はそれぞれの剣で蛇の動きを受け流していく。
 二本のウィザーソードガンを銃に変形し、発砲しながら離れていく。
 だが、ヤマタノオロチの体はどこまでも伸びる。それが複数あれば、いとも簡単に回り込まれてしまう。

「くっ……!」

 ウィザードは指輪を切り替える。

『スモール プリーズ』

 体を縮小させ、大きな蛇たちの物理圧を掻い潜る。
 元の大きさに戻り、ウィザードは八体の蛇たちを見上げる。

「こいつら、本当に……」
「ヤマタノオロチだ!」

 かつて、見滝原の地下で戦った大荒魂。ウィザード、可奈美、そしてもう一人の刀使とセイバーのサーヴァントの尽力があってようやく再封印できた怪物。
 今のグレムリンは、それに匹敵する脅威だと、ウィザードは確信した。

「荒魂を、こんな道具みたいに……!」

 可奈美はヤマタノオロチの首に着地し、走りながら叫ぶ。

「こんなの、絶対に許せない!」
「何で? 君たち刀使だって、荒魂を退治しているじゃないか。それに、あのダサい武装だって荒魂を使っているんだろう? 結局は同じだと思うけど?」
「あなたは……荒魂のことを、何も分かってない!」

 可奈美は叫び、全身に赤い写シを宿らせる。
 白い写シの変化に応じ、可奈美の御刀、千鳥の刀身が赤く伸びる。

「太阿之剣!」

 可奈美の主力技が、グレムリンへ振り下ろされた。周囲に熱気をまき散らしながら、それは赤く染まったグレムリンに命中。
 だが。

「何も分かっていない? それは君の方じゃない?」

 だが、可奈美の剣を肩に受けたグレムリンには、ほとんどダメージはない。むしろ可奈美の千鳥、その刃の部分を掴み、顔を近づける。

「漏出問題だとか政治的利用とか、人間の都合でずっと振り回されている怪異。ほんっと哀れだよねえ?」
「……そういうのが……っ!」

 可奈美は唇を噛みしめる。
 果たして、彼女の脳裏には何が走っているのだろうか。

「そういうのが、何も分かってないって言ってるの!」

 可奈美はその身を回転させる。
 忍び寄って来ていた蛇たちの口を切り裂き、さらに大きく飛び退いた可奈美は着地。左右より迫ってくる蛇の頭部を避け、距離を置いた。

「迅位!」

 そして、可奈美の体はより高位の時間流へと移行する。
 ウィザードの目が追えない動き。これまでグレムリンは対応していたが、ヤマタノオロチの力を得たことで、俊敏性に関する能力を失っているようだった。
 だが、それはあくまでグレムリン本人の話。

「なるほど……君たちには感知できるようだね」

 グレムリンが評する通り、八体の蛇はそれぞれ可奈美の動きに合わせて鎌首をもたげていた。
 そのうち一体が、虚空へ口を開く。
 すると、その口内より、怒涛の水が流れ出す。それは飛び込んだ可奈美を捕え、一気に地表へ押し流していく。

「うっ……!」

 ウィザードの隣に着地した可奈美は、千鳥を構えなおした。

「ハルトさん、さっきのあの時計……」
「あれはどう見ても、以前我妻由乃が俺からウィザードの力を奪った物と同じものだ。……なんでお前がそれを持ってるんだ……? 参加者でもないお前が……!」
「もらったんだよ。君の予想通り、聖杯戦争の監督役から」
「……! キュゥべえか……!」
「いや。モノクマだよ」

 グレムリンは肩を震わせた。

「彼、結構面白いものを見たがっているみたいだからね。僕がちょっと協力してあげることにしたら、前金としてもらったんだよ」
「……っ!」

 ウィザードはソードガンを握る力を増やす。

「お前、人間になりたいんじゃなかったのか……? 人間になるどころか、そんな化け物になってどうするんだ!?」
「急がば回れってね。最終的に人間になれるなら、僕はそれでいいんだよ」

 グレムリンは吐き捨てる。

「君と違って、僕にはちゃんと人間になれるアテ(・・)がある。そのためには、この力があった方がいいんだよ……」
「目的のために、ヤマタノオロチを……!」
「そうだよ?」

 グレムリンが可奈美へ向き直った。

「丁度君たちがヤマタノオロチを倒した後だったかな。封印もまだ固まってなかったし、ちょっと力を拝借したんだ」
「……!」

 可奈美はきっとグレムリンを睨んだ。

「折角大荒魂になったんだ。刀使を倒すのが筋ってものかな?」
「……」

 鋭い目つきのまま、可奈美は無言で懐からそれを取り出す。
 小さな棒に無数の鈴を付けたそれ。可奈美はそれを鳴らし出すと、鈴より光が漏れ出した。
 それを見た途端、ヤマタノオロチの首が震える。

「なるほど……どうやらそれが、対ヤマタノオロチの切り札か」

 グレムリンがそう認識した途端、ヤマタノオロチたちの首が動き出す。
 八本のうち、四本の首が可奈美を血走った目で可奈美へ迫る。
 だが、可奈美は軽い足取りでヤマタノオロチたちの猛攻を回避していく。ジャンプし、千鳥でその上から圧し掛かって来た首を切り裂く。さらに、身を翻して体を回転させ、蛇たちの首を回避する。
 着地と同時に鈴祓いを鳴らし、

「祭祀礼___
「そんなもの、させないよ!」

 一瞬の光が、可奈美の体を覆っていく。
 だがそれは、可奈美の地下から出現した蛇によって遮られる。

「え」

 宙に投げ出された可奈美へ、蛇の口から雷が放たれた。閃光は的確に可奈美の手から目覚めの鈴祓いを弾き飛ばし、神具は夜の闇の中に消えていった。

「しまっ……!」

 一瞬、可奈美の気が飛んで行く鈴祓いに反れた。
 その隙を、グレムリンが見逃すはずがない。蛇の頭が可奈美へ頭突き、その小柄な体を大きく吹き飛ばす。

「うわっ!」
「可奈美ちゃん!」

 ウィザードは叫ぶ。
 地面を転がった可奈美へ、容赦なくヤマタノオロチの首が絞め上げていく。

「うっ……ぐあああああああああっ!」

 ぎちぎちと締め上げられ、可奈美が悲鳴を上げていく。彼女の手から千鳥が零れ落ち、写シが解除される。
 それどころか、残り数本の首が可奈美へ牙を剥く。

「おやおや、どうやら、この蛇たちはその子に恨みがあるみたいだね」

 グレムリンは、一番手頃な蛇の頭を撫でながら言った。
 残りの蛇の頭が、一斉に可奈美へそれぞれの光線を放つ。
 七色のそれは、生身となった可奈美を容赦なく消滅させようと。

「させません!」

 それは、えりかの声。
 跳び上がったえりかは、そのまま手を振るう。
 彼女の手の動きに合わせて、六つの機械が回転しながら蛇たちを切り裂く。
 少しだけ緩んだヤマタノオロチの拘束。だが、それでも負傷した可奈美は動けない。

「君……ちょっと邪魔かな?」

 グレムリンは指を振る。
 すると、えりかの背後に回り込んできたヤマタノオロチが、彼女の盾を弾き飛ばす。

「ええっ!?」

 えりかが驚いている間にも、すぐさま彼女を別の首が捕らえる。可奈美と同様、えりかはヤマタノオロチの蛇により締め上げられていく。

「えりかちゃん!」
「うう……っ!」

 落ちていくのと同時に消滅していくえりかのセラフ。さらにヤマタノオロチにより、えりかの体は徐々に悲鳴を上げていく。

「さあ、ハルト君。これで邪魔も入らず、君と二人っきりだ」

 残り六本の首が、ウィザードを見据える。うち一つの口が、ウィザードへ大きな口を開けた。

「……っ!」
「彼女たちの前で、君が消えるのを見届けさせてもらおうかな」
「させるかっ!」
『チョーイイネ スペシャル サイコー』

 発動された、ウィザードの必殺技、その一つ。
 胸にドラゴンの頭部が装着されたそれ。蛇の頭部と同じように大きな口を開き、その口内から炎が吐き出される。
 ドラゴンブレス。
 フレイムドラゴンが持つ新たな必殺技であるそれは、蛇の炎とぶつかり合う。

「だああああああっ!」
「はああああああっ!」

 ドラゴンと蛇。
 二つの炎は拮抗し合い、夜の見滝原が赤く染まっていく。炎は竜巻となり、高く突き上がっていく。

「だああああああああああああああああああああああッ!」

 ウィザードはさらにドラゴスカルに魔力を込める。
 すると、炎の勢いが増す。それは、ヤマタノオロチの炎を上回り、だんだんとグレムリンへ近づいていく。

「すごいね……これが今の魔力か……でも」

 グレムリンは少し顔を下げる。
 すると残り五本の首が口を開く。
 五属性の力が、炎に追加。すると、ウィザードのドラゴブレスを上回る炎となる。

「っ!」
「こっちには首がまだ六本。君の負けだよ」

 ドラゴブレスを飲み込みかねない量の炎は、津波のようにウィザードの前に覆いかぶさろうとしてくる。単純計算でウィザードの六倍となった炎は、そのままウィザードを飲み込んだ。

「ぐっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 だがウィザードは、全身に炎の魔力を滾らせる。炎の塊を内側から破裂させ、ウィザードを覆う炎を吹き飛ばした。

「はあ、はあ……」

 だが、その為にかなりの魔力を消費してしまった。体力も奪われ、ウィザードは膝を折る。
 ファントムの魔力と合わさり、確かにウィザードは強化された。だが、聖杯戦争を呼び寄せる地脈でもあるヤマタノオロチには、まだ届かない。

「もう君は、終わりだよ」

 グレムリンの指示で、蛇たちが迫る。
 回避するにはもう間に合わない。
 ウィザードは、他の二人と同じく、蛇に縛り上げられてしまった。

「ぐあ……っ!」
「さあ、ハルト君……僕と似たような存在の君を失うのは惜しいけど……でも、君からウィザードのベルトをもらうのもいいかもね」
「ふざけるな……!」

 ウィザードは抵抗するが、ヤマタノオロチの拘束は解けない。それどころか、蛇の方がウィザードへ力を込めて拘束してくる。

「聖杯戦争の参加者も大したことないし……これなら、誰も僕の邪魔を出来ないかもしれないね」 
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