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Fate/WizarDragonknight

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前の世界

 
前書き
今回の布石覚えてる人いるかな…… 

 
 研究室を出てからというもの、可奈美のマシンガントークはずっと続いている。果たして何をこの街の権力者と話すことがあるのだろうかと思いながら、ハルトはえりかとともに夜の見滝原を歩いていた。

「衛藤さん、相当嬉しそうですね」
「あそこまで剣術について対応できる人も早々いないからね。お爺ちゃんみたいに感じているんじゃないかな」

 可奈美の一言一言に対して笑顔で対応している市長は、まるで親類のようにも見える。
 彼女の家族構成は、確か父と兄の二人だったはず。思い返しながら、ハルトは夜空を見上げた。

「剣ですか……」
「何か覚えがある?」
「はい。その……前の世界、と言えばいいのでしょうか。私を変えてくれた人が、剣を使う人だったんです」
「前の世界……聖杯戦争に参加する前の世界?」
「はい」

 前の世界。
 聖杯戦争に召喚される英霊たちは、それぞれ別々での戦いを生き抜いてきている。ハルトのサーヴァント、真司も聖杯戦争に似たライダーバトルを潜り抜けてきたと聞くし、可奈美のサーヴァント、結城友奈も四国以外の全てが無くなった世界で戦っていたらしい。響も見滝原と似た世界でずっと戦ってきたと聞くし、えりかの世界もまたこことは別の世界なのだろう。

「どんなところだったの? えりかちゃんのいた世界って」
「……そうですね……大変な世界でした。ここよりも……多分」
「大変な世界?」
「はい」

 えりかは、どこか切なそうな目をしていた。どんな大変な世界だったのか、という質問はハルトの口からは出てこなかった、

「でも……蒼井を変えてくれた人がいた世界です。蒼井がいなくなった後でも、皆さん笑っていてくれるといいんですけど……」
「大切な人、だったんだね……」
「はい」

 にっこりとほほ笑むえりか。

「皆さん全員、蒼井にとっては大切な人です。色々心残りはありますけど、でもきっと、幸せになってくれています」

「そうか。きっと、皆えりかちゃんに感謝してるよ。……!」

 その時。
 ハルトの肌が、異常な魔力を感知した。
 薄っすらと赤くなった目が、空気の流れの中に鋭さを捉えた。それは、ハルトを掠め、目の前の市長へ向かっていく。

「危ない!」

 ハルトが叫ぶよりも少し早く、可奈美もその気配を察知したようだ。
 振り向きざまに千鳥の柄を振るい、市長へ迫る刃を弾き飛ばす。
 それにより、刃がえりかの目の前に突き刺さる。

「な、なんですか……!?」
「どこかから剣が飛んできたよ!」

 市長の前に立ちながら、可奈美は周囲を警戒する。
 一方市長は、全く表情を動かさないまま暗い夜の一点を見つめている。刃が飛んできた方を見上げているのだが、ハルトの目が間違いでなければ、今市長は、不可視の刃を目視で避ける動きをしていなかったか。

「これは……?」

 刃を拾い上げるえりか。
 腕サイズの刃が電灯に照らされ出した途端、その形状にハルトは目を大きく見開いた。

「あれは……!」
「ハルトさん……これって……!」

 そしてそれは、可奈美にも見覚えがあるものだろう。訴えるような目線で、ハルトを見つめている。
 頷いたハルトは、周囲にその気配を探る。
 夜の見滝原。すでに行き交う人の数もまばらになってきたその中に、不審な動きをする者はいない。
 その時。

「誰か探してる?」

 いつの間にか、目と鼻の先にその男の顔があった。
 季節を問わない、帽子とストールが特徴の青年。顔を大きく歪めた笑みを張り付けながら、ハルトの目の前で手を振っている。

「ハロー」
「っ!」

 ハルトは反射的に蹴りを放つ。
 だが、ハルトの蹴りは虚空を穿つ。
 そしてすぐ背後に、青年の気配。

「そこかッ!」

 振り向きざまに放つ裏拳。だがそれもまた、虚空を切る。

「ほらほら。こっちだよ、ハルト君」

 その声とともに、ハルトの脳天に衝撃が走る。
 頭部を蹴られたような衝撃に前のめりになりながら、ハルトは指輪を発動。

『コネクト プリーズ』

 手にしたウィザーソードガンを発砲。ハルトの魔力により操られた銀の銃弾たちは、そのまま虚空のアスファルトを穿つ。
 甲高い破裂音が鳴り響く。すると、銃弾が傷付けた道路に、音もなくひらりと帽子が舞い降りた。

「おやおや……いきなり凄い攻撃性だね」

 帽子を拾い上げる、見えない攻撃をしてきた敵。
 人間の姿をしたそれは、作られたような笑みを浮かべながら帽子を被り直した。

「久しぶりだね、ハルト君」
「ソラ……!」

 その姿を見た途端、ハルトの顔が歪む。

「お前、何でここに……!」
「見滝原にいるんだ。たまたま会っても仕方ないでしょ?」

 ソラ。
 それは、ハルトにとって因縁深い名前だった。
 この見滝原に来る前からの敵。人間の心を持ちながら、ファントムという怪物としても活動をしている狂人。
 ハルトはウィザーソードガンの銃口をソラに向けたまま、可奈美の背後にいる市長へ目を向ける。

「……逃げてください。……危険です」

 ハルトは決してソラの一挙手一投足から目を離すことなく、背後の市長へ警告した。
 だが、彼から動く気配はない。それどころか、ソラは完全にターゲットを市長へ変更したようだ。

「その顔は見覚えがあるね。確か、見滝原の市長さんでしょ? 名前は確か……」

 ソラは名前を口にしようとするが、それよりも先にハルトがウィザーソードガンを発砲する。
 ソラは手にした新たな刃でその銃弾を斬り落とし、「やれやれ」と首を振る。

「ハルト君。まだ僕が喋ってるじゃない。その間くらいは待っててよ」
「お前の無駄話を聞く暇なんてない……」
「……全く。折角君の秘密を内緒にしてあげてるのに」

 ソラはわざとらしく舌を出す。

「ついでだ。そこの市長さんには、絶望してもらおうかな。もしかしたらゲートかもしれないし」

 そう言うソラの顔に、ファントムの紋様が浮かび上がる。
 ハルトと可奈美は、それぞれの力の源を手にするが、すぐに背後の市長へ目配せする。

「あの、これから俺たちがすることは……」
「案ずるな。君たち……というより、蒼井君の事情は把握している。気にせずに戦いたまえ」
「……! ありがとうございます!」

 すでに、ソラの変異は始まっている。
 ストールが特徴の彼の姿は、だんだん凶悪なものへ変異していく。
 緑の体色を持つ異形。小柄ながら、その凶悪性を顔にも浮き彫りにさせているそれは、両手に持つ刃をクルクルと回転させた。

「あれは……!?」
「ファントム。聖杯戦争関係なしに、この世界に根付く脅威だよ」
「ファントム……!?」

 おそらくこの世界で初めて目にするであろう魔人の姿に、えりかは目を丸くする。

「ファントムって……亡霊? お化け? そんなものまでこの世界にいるんですか?」
「ファントムは、魔力を持った人間を絶望させて仲間を増やす。その人間の希望や命を吸い上げてね……」
「魔力を持った人間……?」
「ゲートって言うんだけどね。まあ、その辺の話はまた今度ね」
「この世界も、元々大変だったんですね……」

 えりかが小声で呟いた。
 一方、グレムリンはやれやれと肩を窄めた。

「他人事みたいによく言うよ。君も、僕と同じファントムなのに……」
「……」

 ファントム、グレムリン。
 ソラが変異したそのファントムは、全く変わらない口調で言った。

「やっぱり、知ってたんだ……」

 可奈美は、小さく呟いた。

「ハルトさんが……ファントムだってこと」
「あれれ? 可奈美ちゃん、知ってたの? なんだ、僕だけが知ってる秘密だと思ったのになあ」
「まあ、この前それで色々あったからね……」

 ハルトは横目で可奈美を盗み見る。
 彼女も同じくハルトへ目線を合わせており、目が合ったと分かったとき、彼女もまた微笑していた。

「悪いけど、俺は今償いのために生きるって決めたんだ。松菜ハルトを殺して生まれた罪からも、もう逃げるつもりもない」
「ふうん……何だ、つまんないの」

 グレムリンはハルトへ興味を失ったように肩を落とす。

「じゃ、もういいや……このまま君たちを倒しちゃってもいいかな」
「来る……!」

 ハルト、可奈美、えりかは同時にそれぞれのアイテムを手にする。
 指輪、御刀、スマホ。それぞれのアイテムを、三人同時に起動。

「変身!」
「写シ!」
___どうか 安寧な記憶を___
『フレイム ドラゴン』

 ハルトの体から飛び出す赤いドラゴンの幻影。それはハルトの体を旋回しながら、やがてその身に吸収されていく。

『ボー ボー ボーボーボー』

 新たなウィザードの姿、フレイムドラゴン。
 それを見たグレムリンは、目を見張った。

「へえ、新しい姿だね。それはウィザードなのかな? それとも……ファントム?」
「両方だ」

 ウィザードは答えながら、ウィザーソードガンを手にする。
 一方、可奈美の身を包み込む写シ。可奈美をはじめとした刀使(とじ)が共通して持つ、肉体を霊質変化させるもの。御刀から齎される神秘の力は、隠世(かくりよ)より力を刀使へ与えてくれる。
 また、時を同じくして、頭上の空間に大きな穴(ワームホール)が開く。出現した六つの機械。それぞれ細長い形が特徴のそれは、定められた通りの配置でえりかの腰に装着される。

「えりかちゃん、市長を守ってて。アイツは俺と可奈美ちゃんで倒すから!」
「はい!」

 えりかが市長の前に立ったのを確認し、ウィザードと可奈美は頷き合う。
 同時に駆け出し、グレムリンへ剣を振り降ろす。
 だが、グレムリンはその特徴である高速移動を駆使。
 瞬時に二人の剣先より消失し、市長の首元へ回り込む。

「残念! さあ、ついでに絶望してもらおうかな!」

 ウィザードとえりかが反射できず、察知した可奈美が急ぐがもう遅い。
 そのまま、刃が市長の肉体を貫___

「!」

 一瞬、グレムリンの動きが鈍る。
 市長の目線を浴びた。それだけに見えるが、一瞬グレムリンの動きが鈍化したように見えた。

「させません!」

 えりかの盾が一瞬遅れて割り込み、グレムリンの刃を弾く。
 さらに、グレムリンの速度に追いついた可奈美が、横から斬りかかる。

「!」

 グレムリンはそのまま可奈美の斬撃を防ぐ。
 ウィザード以上に、可奈美の素早さはグレムリンに匹敵する。
 すぐさまウィザードには視認できない速度の世界で、可奈美とグレムリンは打ち合いを繰り広げていた。
 ウィザードには目で追えない速度の戦い。
 だが気のせいか。
 すぐ背後の市長は、可奈美たちの動きを目で追えているのではないか。

「迅位斬!」

 だが、そんなウィザードの思考は、可奈美の技によって停止された。
 可奈美の斬撃が、グレムリンを高速の世界から現実へ叩き落としていた。

「やるね。……さて、君はどうかな?」

 グレムリンはウィザードへ剣を向ける。

「……来い!」

 ウィザードはそのまま、ウィザーソードガンでグレムリンへ斬りつけていく。
 グレムリンの両手剣は、多段による連撃数によりウィザードよりも斬りつける機会が多い。
 だが、ウィザードは自らの体に炎を宿らせる。
 グレムリンの攻撃をいなし、必要な場合は左手の掌で刃を食い止める。
 さらに、反撃であるウィザーソードガンの斬撃には赤い光が宿り、その威力が跳ね上がっていく。
 やがて、最初は互角に見えた戦いも、あっさりとウィザードが優勢になっていく。

「はああああああああっ!」

 切り上げた斬撃は炎を宿し、グレムリンの体を吹き飛ばす。

「ぐあっ!」

 悲鳴を上げるグレムリン。
 その隙に、ウィザードは両手を大きく広げる。全身にみなぎる炎の魔力は、その両手に集約。グレムリンの体を炙るように放たれる。

「うわっ!」

 焼き焦がしたままグレムリンを吹き飛ばす炎。
 さらに、グレムリンが転がっている間に、ウィザードはソードガンの手を開く。

『フレイム スラッシュストライク』

 すさかず発動する炎の斬撃。
 十字に切り裂かれたそれは、防御するグレムリンの刃を粉々に吹き飛ばし、本体にも大きなダメージを与える。
 ファントムへの変身を解除させ、人間態となったソラは地面に投げ出された。

「ぐ……っ……驚いたなあ、ハルト君」

 脱げた帽子を被り直し、ソラはウィザードを睨む。再びグレムリンに変身した彼は、首を左右に振った。

「そんなに強くなられちゃ、流石に僕も勝てないなあ……でもずるいなあ。魔法使いの力とファントムの力って混ぜられるんだ」
「……」

 ウィザードはグレムリンの軽口に応じることはなかった。ただ得物の武器を向けたまま、彼の次の動きを睨んでいる。

「まあいいや。丁度君に見せたいものもあったし」
「見せたいもの?」

 そうしてグレムリンは、懐からそれを取り出す。
 黒い、懐中時計のようなアイテム。
 それを見た途端、ウィザードと可奈美は同時に目を見開いた。

「あれは……!」

 かつて、ウィザードの力を奪ったものと同質のもの。見滝原中学を異形の空間に変貌させ、さらにその生徒の一人を、偽物のウィザードに変身させたもの。
 そして、その中心部に描かれた巨大な蛇の顔を認識した途端、ハルトと可奈美はぞっとした。

「あの蛇って……!」

 そして。
 グレムリンは___その顔には、ソラの顔さえも見えた___にやりと笑みを浮かべ、そのスイッチを押した。

『ヤマタノオロチ』

 グレムリンが懐中時計を起動させると同時に、ガイダンスボイスが流れだす。
 紅蓮の力が、グレムリンの緑色の体を包んでいく。
 やがて強大な蛇の力は、グレムリンの肉体を書き換えていく。
 緑色の体色を中心とした体が、禍々しい赤に染まっていく。
 見滝原の地に封印されている、強大な禍神、ヤマタノオロチ。その力を顕現させ、その身が蛇の肌となる。肩が左右に禍々しく広がっていき、その頭部も蛇に飲まれたように

「ソラ……お前……それは……!」
「君よりも先に、僕は願いを叶える……そのための力さ」

 グレムリンの尾の蛇たちが蠢く。

「どうだい? 彼女(・・)に似てきてるかもね?」
「お前……人間になりたいんじゃなかったのか……!? 人間を目指すはずなのに、そんな怪物になってどうするんだ!?」

 ハルトが叫ぶ。
 だが、グレムリンはソラとしての顔を消失させ、ヤマタノオロチの力を露わにする。腰から八つの蛇の頭が浮かび上がり、その肌を突き破る。
 見滝原の夜天へ叫ぶ八体の蛇は。
 あの魔王ヤマタノオロチを強く思い出させた。 
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