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金木犀の許嫁

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第二十六話 里帰りをしてその十一

「大阪も多いですが」
「神戸もですね」
「同じですよね」
「港町ですと」
「人足の斡旋があって」
「それで、ですね」
「それを行うのもです」
 その仕事を受け持っていたのもというのだ。
「ヤクザ屋さんだったので」
「人足斡旋は、でしたね」
「呉もそうでして」
 軍港で知られるこの街もというのだ。
「ですから」
「港町はヤクザ屋さん強いですね」
「そして多いです」
「そうでしたね」
「そしてどうもです」
 幸雄は難しい顔で話した。
「私としては」
「ヤクザ屋さんは、ですか」
「拒否反応がありまして」
 それでというのだ。
「そちらと関りがある業界は」
「どうしてもです」
「駄目なんですね」
「はい、ですから」
「就職もですね」
「入りませんでした」
 そうだったというのだ。
「私は」
「そうでしたか」
「はい、ああした世界は」
「犯罪が普通の」
「好きになれません、入れ墨もです」
 これもというのだ。
「駄目ですから」
「そういえば」
 佐京が言って来た。
「うちも入れ墨は」
「入れるなとですね」
「もう絶対に」 
 それこそというのだ。
「言われてきました」
「そうですね」
「あれは駄目だと」
「それは武士だからです」
「武士ならですね」
「絶対にです」 
 幸雄は佐京にも話した。
「入れては駄目です」
「それが武士ですね」
「ですがヤクザ屋さんは」
「入れますね」
「それがステータスにもです」
 その筋の者のだ。
「なっています」
「それ程ですね」
「ですから」
 それでというのだ。
「そこで分かれます」
「武士とヤクザ屋さんは」
「完全に」
 そう言っていいまでにというのだ。
「そうなります」
「戦う立場でもですね」
「ヤクザ屋さんはアウトローでして」
 その世界の者達でというのだ。
「法律の下で生きません」
「アウトローの価値観で、ですね」
「それが厳しいものであろうとも」
「また違いますね」
「は、法律それに武士道はありません」
「武士道ですね」
「武士道は軍人にもありましたが」
 二次大戦までの帝国陸海軍である、彼等の極めて厳しいことで有名な軍律も武士道に基づくものであるのだ。
「ヤクザ屋さんにある筈がなく」
「別世界の人達なので」
「ですから」
 それでというのだ。
「入れ墨も入れています、その入れ墨がです」
「幸雄さんはお嫌いですか」
「生理的に受け付けないです」 
 そうだというのだ。
「やはりそれは」
「先祖代々の考えですね」
「幸村公からの」
「だからですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「そこは」
「やっぱりそうですか」
「武士は入れ墨で飾らず」
「心ですか」
「傾いてもいいですが」
 所謂傾奇者の話もした、安土桃山時代に闊歩した奇矯な身なりをした武士達であり織田信長もそうであった。
「それでもです」
「心はですね」
「立派であるべきです」
「それが武士ですね」
「はい、そして」
 それにというのだった。
「常に清潔にもです」
「しておくことですね」
「それが武士だとです」
 その様にというのだ。
「私は考えていてアウトローの世界は」
「それに関りがあるなら」
「どうしてもです」
 そうした世界はというのだ。
「抵抗があります」
「そうですか」
「そのことは否定しません」
 こうした話をしつつだった。
 幸雄は車を走らせていった、神戸から大阪に近付いていっていた。真昼と夜空は今の家族と共に実家に帰っていた。


第二十六話   完


                    2024・5・15 
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