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エターナルトラベラー

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第七十五話

 
前書き
今回は閑話の短編です。今回はあれだけは欲しいよねっ!みたいな話で、バトル成分は少なめですね。 

 
その日、昼前からユカリの家に来たアテナはユカリが用意したお茶請けをかじりながらテレビを見ていた。

『今日は家にある廃油を使って簡単に石鹸を作る方法をお教えします』

と、テレビからは今更感のあるような話題を旬の芸人を使いながら、いかに簡単かにスポットを当てながら説明している。

そのショートコーナーを見終わったアテナは台所でお昼ご飯を作っているユカリに向かって話しかけた。

「家にある廃油で簡単に石鹸が作れるらしいな。この家に廃油を溜めたペットボトルを見ないのだが、石鹸を作っていたのか?」

ちょっとした好奇心。だが、ユカリの返答はおかしなものだった。

「いいえ。家で廃油は出る事は無いわ。だって無限に使える油だもの」

「そんな物が存在するはず無かろう。妾に出している揚げ物の類は何で揚げているというのだ」

テレビ番組で世の常識を身につけ始めたアテナが否定する。

「この『モルス油』は特別製でね、無限に近い回数揚げても全く汚れないのよ」

たまに()したりはするけどね、とユカリ。

「モルス油?」

「この世界とは別の世界で発見された油よ」

「別の世界だと?幽世(かくりよ)の事か?」

「そのカクリヨってものは知らないんだけど。世界は無数に存在するの。その数有る世界ではこの世界とは全く別の進化を辿る世界が稀に現れるわ。その油を手に入れた世界は『食材』が異常に進化した世界だった」

「………」

アテナはどう反応してよいか分からない。自身は叡智の女神でもあるゆえ、この世界の出来事であれば、その慧眼で見抜く事は可能だろう。しかし、別の世界となると…

「あ、その顔は信じてないわね」

「今の話の何処に信じられる箇所があったのだ?おぬしの息子と同じく妄言であろうよ」

「じゃあ、この油をアテナはどう説明するのよ」

「おぬしがこっそりと廃棄しているのであろう?」

「違うってっ!もう、本当に有るんだからね」

「ほう、それじゃどう言う世界だったのだ?取って来たと言う事は行った事があるのだろう?」

と、アテナが挑発する。即興の作り話でも聞かされたなら鼻で笑ってやろうとしたのだ。

「そうね、あの世界は…」










今日は機動六課が終わり、地球に帰ってきた為に海鳴の翠屋で働いているのだが、そこに旧知の二人が訪ねて来たために少し休憩を貰ってテーブルに付いている。

旧知の二人と言うのは、目の前で本当においしそうにシュークリームを食べている深板とファートだ。

「そう言えばさ」

と、俺は今まで疑問に思っていた事があるので、いい機会だと話題を振る。

「なんだ、獅子座さん」

まだ獅子座で固定か、深板よ…まあいい。

「魔法はリンカーコアの問題で無理だとしてもさ、念法は個人差は有るけど、大体の人が覚えられるだろう」

「ああ、そうだな」

俺が言った言葉にそれがどうした、と聞き返す深板。

「だけど、深板もファートも俺に精孔を開けてくれと言ってこないよね。どうして?」

問いかけた二人は逆に念法を使える事は他のSOS団メンバーには内緒にしろと逆に俺に忠告してくるほどだ。

普通、超常の力が手に入るならばそれを望むのではないか?と思ったのだ。それこそ、その力で無双する事を夢に思う事だって有るのではないか?

「ああ…その事か」

「うん」

何やら深板とファートは悟ったような表情を浮かべた。

「よく漫画やアニメなどで強い力は災厄を引き寄せるとかかっこつけたことが言われている物があるけど、…俺達は確信している。その通りだとっ!」

深板の言葉にうんうんと首を振っているファート。

「え?」

俺はその答えに戸惑った。

「アオはさ、魔法や念、忍術などを使えるのだろう?その事は確かにうらやましい。アオもオタクなら分かるだろう?もし自分に漫画やアニメの力が宿っていたらと妄想し、敵を無双したいと考える心が!だが、その力を実際に得たらどうだ?それはアオさんを見れば分かる。今までにどれだけ厄介事が舞い込んできたか」

とファートに言われ、頭の中で指を立てて数える。…一度や二度では無いほどの厄介事と死の恐怖を味わったなぁ…

「………」

核心を突かれ、俺は微妙な表情を浮かべた。

「そして、SAOで始まったデスゲーム。これで俺達に主人公特性が無い事も実証された。あの事件に主人公が居るとするなら、ソロで最前線に挑み続け、さらに俺達を解放させた黒の剣士キリトだろう。俺達は死の恐怖につるむ事でようやく打ち勝ったが、ボスレイドへの参加はしなかったしな。自分の命を懸けることが出来ないと、その時はっきりわかったよ」

七十五層の時は充実した装備に驕っていたと深板は語る。さらに、その驕りで死ぬ目にあったのだ、もう危険な事柄にベットは出来ないよと。

「それにVRゲームで戦闘を安全に模擬体験出来る世界なんだ、そこでは努力(レベル上げ等)をすれば誰だって強くなれるしね。安全に楽しみたいならゲームだけで十分なんだよ。現実世界で命の掛かった戦闘はしたくない。その為にはまず超常の力からは遠ざかった方が良い」

「だけど、それは俺とファートの考え方なんだ。もしSOS団内部でアオさんが念を使える事がバレてしまったら、もしかしたら念法を会得してしまうかもしれない。会得してしまえば、次は使ってみたくなるだろう?後は強力な自制心が無ければ使いたいと思う心を制御できない。結果、トラブルが起きる。そうなれば、俺達は獅子座さんに事の収拾を頼まなくては成らなくなる」

それは余りにもバカらしいと語る深板。

「そうかもね」

深板達に諭されて確かにそうだと俺も思う。

「それで?どうしてそう言う話になったんだ」

「いや、ヴィヴィオ達の事で深板たちにはかなり世話になったからね、何かお礼をと思ったのだけど、その時に思いついたのがこれだっただけ」

お金はあのFateの映画で皆それなりに裕福なので謝礼金を渡すのも変な感じがすると考えた結果なのだ。

「いや、別にそこまで恩を感じる事では無いよ」

「ああ」

深板とファートがそんなに気にする事でもないと言った。

「…だが、そうだな…。もし、獅子座さんが叶えてくれるなら一度位は行ってみたい世界があるな」

「うん?管理内世界への渡航は…まぁクロノに言えば何とかなるかな?」

「…そこで当然のようにクロノくんを便利アイテムのように言えるアオには突っ込みを入れたいが、とりあえずスルーして。深板は何処か行って見たい世界があるのか?」

と、ファート。

「ナルトやハンターハンターの世界が有ったのだ。トリコの世界が有ってもおかしくないと思わないか?」

「ああ……たしかに。あの世界は行ってみたいね」

深板の言葉にファートが納得した。

「トリコ?」

俺は記憶がそろそろ曖昧なのだ、トリコの世界と言われても、以前なら思い出せたかもしれないが、もうカケラも思い出せない。

「ああ…獅子座さんの記憶は劣化が激しくてあの世界の事をもう思い出せないんだったな」

深板は俺の事情を思い出してその世界の事を説明してくれた。

聞けば、どうやらその世界は美味しい動植物で溢れかえり、地面や断層すらお菓子みたいな所があると言う。

「へぇ、すごい所だね」

「ああ。飽食の限りを尽くしている世界だ。ああ…一度で良いから行ってみたいっ!例え危険だと分かっていてもっ!」

「確かにっ!」

深板の言葉にファートも同意する。

「ソル、平行世界のデータに該当する世界はある?」

クロノ経由で貰った並行世界マップに参照するようソルにお願いしてみた。

『該当世界がありました。管理外128世界。危険指定世界に認定されています』

「あるのっ!?」
「マジでっ!?」

深板とファートのテンションが上がった。

「危険?」

『魔力素が存在しない事と、現地の動植物の獰猛さによるもののようです』

なるほど。魔導師では魔力の再チャージが出来ない状態での渡航は危険と言う事か。

ソルの言葉を聞いてから深板とファートに目を向ければ行ってみたいと言う思いがその表情からありありと伝わってくる。

「……行きたいんだよ…ね?」

「あ、ああ…だが確かに危険な事は確かだ」

「ああ」

深板とファートが行きたいが、やはり危険だと心のストッパーに引っかかっている。

「だが、それは護衛も無しで行った場合だな。そんなに危険なところには行かないつもりなのだが…」

え?もしかして俺に護衛をしろと言う事か?

くぅ…確かに彼らの知識が無ければヴィヴィオを助けられなかったのも事実。ここで恩を返しておきたい。

「わかった、分かりました。ただ、すこし時間は掛かるよ。しっかり準備していかないといざと言うときに困るからね」

カートリッジの生産に余裕を持たないとダメだろう。

「おおっ!本当に良いのか?」

「ああ」

「やったなっ!深板っ!」
「ああ、楽しみだなファートっ!」


と言う事で管理外128世界へと行って来ると夕飯時にみんなの前で話題に出すと何故か皆で行く事になり、キャロやヴィヴィオ、家にホームステイしているエリオの学業の事も有り、行くのは夏休みと言う事で計画を練ることになった。

解明の進まない管理外128世界の調査と言う名目でクロノに次元航行艦で送ってもらう事三日。ようやくたどり着いたそこは、文化レベルこそ余り変わらないが、その飽食っぷりはどの世界にも無い活気に包まれていた。

グルメ時代と銘打っているらしいその世界の比較的治安の良い場所に降ろしてもらった俺達。

その世界の通貨は以前に管理局が換金したと思われるものと手持ちの円を交換してもらい、言語は一番一般的なものをソラの念能力、アンリミテッドディクショナリーでインストール。言語、お金共に問題は無いし、宿泊関係も勇者の道具袋に神々の箱庭を入れてあるから何とかなるだろう。

「おおおおおっ!おいしそうなものがいっぱいだっ!」

「おおっ!あの出店から行ってみようぜっ!」
「おうっ!」

と、テンションマックスの深板とファートがお金を片手に駆け出していった。

「俺達も行こうか。ヴィヴィオ、何か食べたいの有る?」

ヴィヴィオに問いかける。

「んー、あ、あれが食べたい」

と言ったヴィヴィオは屋台に向かってダッシュ。勢い良く駆けて行った。

「ちょっと、ヴィヴィオっ!危ないからいきなり駆け出しちゃダメだよっ!」

それを直ぐに追いかけるシリカはすっかり一児の母のようであった。

「エリオくんは何が食べたい?」

と、デート気分なのかエリオと腕を組んでいるキャロが自分の隣に居るエリオに尋ねた。

「うーん、何でもいいけど…あ、あれなんか美味しそうじゃない?」

「それじゃ、買いに行こう」

と言って離れていった。フリードは置き去りである…

そう言えば、この世界には多種多様な生物が生存し、珍しいペットも多いためかフリードが飛んでいても割りと皆気にしないようだった。

この世界では空飛ぶトカゲなぞさしたる珍しさも無いのだろう。

「なんか、初々しいわね」

ソラがキャロとエリオを見て微笑ましいと呟いた。

「わたし達もまだまだ若いよ」

と、ソラの呟きになのはが突っ込んだ。

しばらく散財して屋台物を楽しむと、一路郊外へ。

「さて、これから深板たちのリクエストからモルス山脈へと行く事になるのだが…深板にファート。行っても大丈夫なのか?」

彼らの知識にあると言う事は原作があり、その主人公が行ったと言う事だろう。その辺は大丈夫なのかと問う。

「俺達もただ出店で騒いでたわけじゃないぜ。ちゃんと情報収集は済ませてある。大丈夫だ、どうやらまだ原作の数年前っぽいぞ」

良く分からないがまだ世間に四天王と呼ばれる人達の存在が余り知られていない時期と言う事らしい。

「それじゃあ後はどうやって行くかだね」

フェイトが思案する。

「どうやって行くの?飛行魔法?」

問いかけたなのはだが、それに俺は否と答える。

「いや、ここで魔力を使うのは得策じゃない、全員が飛べるわけじゃないし、フリードと俺とソラで手分けして乗っけていこうかと思う」

「乗せる?」

どういう事となのは。

「忘れているかもしれないけど、俺とソラはドラゴンに変身できるんだよ」

と言った後に俺はその姿を銀色のドラゴンに変える。

「きれい…」

呟いたのはフリードを使役するキャロ。

「きゅるーる」

フリードは何が嬉しいのか俺の周りをくるくる飛び回っている。

「アオさんっ!?」

「アオさんがドラゴンに変身したっ!?」

驚きの声を上げたのはシリカとエリオ。

あ、そう言えばシリカにはこの事を教えてなかったっけ…あまり変身しないから忘れていたよ。

「わぁ、パパかっこいいっ!」

ヴィヴィオはドラゴンを目の前にしても臆することなく、寧ろ嬉々として俺の背中によじ登ってくる。

「ま、この姿なら二・三人は運べるだろ。後はソラとフリードと俺とで手分けすれば問題ない」

「そうだね」

そう同意したソラも金色のドラゴンへと姿を変えていた。

そう言えば深板達がさっきからやけに静かだな。

そう思って視線を二人に向けると二人とも白めを剥いて気絶していた。

そうか、一般人の彼らには刺激が強かったか…

そんな彼らを背中に乗せるとそれぞれ俺達に乗り込み俺は空を駆ける。

翼を動かし、空を駆けるこの感覚は人の形で空を飛ぶのとはまた別の心地よさがあった。

「おおおおおっ!?速いっ!落ちるっ!た、たすけ…」

「あははははっ!はやいはやいっ!」

背中の上でファートが絶叫していたが、ヴィヴィオは逆に嬉しそうにはしゃいでいた。

しばらく飛ぶと前方からギャアギャアと鳴き声を上げながら飛んでくる複数の影。それは鳥のような、豚のような、地球の常識ではありえないフォルムをしていた。大きさは全長8メートルほど。かなり大きい部類だろう。

「何か来たっ!ソラ、キャロっ!速度を上げて旋回、かわして引き離すよっ!」

「はいっ!」
「うんっ」

俺は翼をたたむように縮めると落下する勢いを推進力に変えて高度をはずして突っ切る。

「死ぬっ!しんじゃううううううっ!?」

絶叫するファート。深板の声が聞こえないが大丈夫だろうか?

危険そうな生き物には極力近づかず、モルス山脈へとたどり着いた頃にはファートは息も絶え絶え、深板に至ってはずっと気絶していたらしい。

気絶できた深板はある意味幸運だっただろう。絶叫アトラクションの如き身のこなしでの旋回を繰り返す絶叫タイムをスルーできたのだから。

さて、地球のナイアガラの滝すら霞ませる大瀑布が視界の全てを覆っている。

「す…すごい…」

「うん。…これだけでこの世界に来た甲斐があるわね」

魂が震えるほどの感動にソラも同意した。

目の前のそれはいかなる者もその流れ落ちる水量で押しつぶさんと言う錯覚が見えるほどだ。

「あ、あそこに何かが落ちてきてる」

ヴィヴィオが指差した方向を見ると、小さなビルなんかよりもかなり巨大な生き物がその滝を滑り落ち、その重量にて押しつぶされて息絶えて行く所だった。

皆その光景に絶句する。

「……それで?その目的の場所は何所だって言ったっけ?」

と、俺は深板とファートに問い掛けた。

「ああ、あの滝の裏に洞窟があって。そこを進めばある筈だ」

深板が答える。

「で?そこへはどうやって行くの?どこかに裏道があるとか?」

「無いよ」

「じゃあどうやって行くんだよっ!」

むしろその物語ではどうやっていったんだよと問いかける。

「それはもちろんこの滝を割ってだよ」

「この滝を?向こうまで何十メートルあるか分からないこの滝をか?」

「ああ。…と言う事で獅子座さんお願いしますっ!」

出番ですよボスっ!とばかりに深板が言った。が、しかし…

「いや…無理だから。俺に滝を割れと言われても無理だからね」

「ええ!?」

硬で幾ら念を込めて殴っても滝を割れるような気がしないし、スサノオの絶対防御でもその質量に潰されそうだ。…この間深板達に教えてもらったアレなら行けるかも知れないけれど、かなりシンドイから拒否したい。

「ブレイカー級魔法は?」

ファートが進言する。

「行けるかも知れないけど、貫通したら中の洞窟が崩壊するんじゃない?」

「ああっ!?」

しまったと叫ぶ深板。

「別に滝を割る必要は無いんじゃない?」

ソラが妙案があると口にする。

「ど、どんな!?」

深板とファートがどんな手が!とソラに詰め寄った。

「洞窟の入り口まで転移すれば良いだけでしょ。洞窟の位置は『円』を広げれば分かるし、短距離転移ならそれほど魔力も使わないから問題ないわ」

「なるほどっ!」
「転移なら簡単ですねっ!」

深板とファートが良かったと喜んでいた。

あー…確かに…。深板たちの言葉で割る方に思考が傾いてたよ。

と言う訳でソラの言ったとおりに洞窟の入り口まで転移してやってきました。

「暗いよ…パパ…」

洞窟には光源が少なく薄暗い。中に行けば更に暗くなるだろう。

「ちょっと待って。ソルお願い」

『ライトボール』

フヨフヨと五個ほど光る球体を出してあたりを照らし出す。

「こっから先は特に凶暴なモンスターは居ないはずだ」

と、深板が前世の記憶からそう言った。

この大瀑布を越えられる生き物が少ないのだ。餌も少ないだろうから哺乳類系の生き物には劣悪な環境だろう。

ちょっとした洞窟探検の気分で進むと、半円球のドームの真ん中に溜まり池が見えてくる。その池は光を反射するかのように金色に輝いていた。

「ちょっと待ってくれ」

突然深板が俺達に待ったを掛ける。

「どうしたんですか?」

シリカが後ちょっとなのに何か有るのかと問い掛けた。

「ああ。あの池にはサンサングラミーと言う魚が住んでいるんだ」

「サンサングラミー?」

聞きなれない名前に皆疑問顔だ。

「ああ。その魚は凄く臆病で、少しでもストレスを感じると死んでしまう。特に強い奴の気配に当てられるとひとたまりも無い」

なんだ…その習性は…

「つまり…?」

「アオさん達が近づくと確実に全滅するだろうね」

「ええー!?」

「じゃあどうするのっ!」

ファートの言葉にどうやって目的の物を取るのだと叫ぶなのはとフェイト。

「弱い人間なら問題ない。だからここは俺とファートに任せてくれ」

「つまんなーいっ!」

とヴィヴィオが子供ゆえに我慢できないと言ったが、ヴィヴィオは念を習得している。それゆえ一般人よりは確実に強い。ここは我慢してもらわねばならないか。

「ヴィヴィオが近づくとお魚さんがみんな死んじゃうんだって。ヴィヴィオ、それはかわいそうだと思わない?」

「うー…分かった。ヴィヴィオ待ってるよ」

シリカの説得で何とかヴィヴィオは我慢したようだ。

俺はポリタンクの入った勇者の道具袋を深板に渡し、深板達はそれを持って池へと近づいていった。

「おおおっ!?これは…すごいな深板」

「ああ、キレイだ…」

等と感動している声が聞こえる。

「うーうー…」

その声を聞いてヴィヴィオの我慢が早くも限界を迎えそうだ。

「あ、そうだっ!」

ヴィヴィオは何かを思いついたとばかりにシリカの手を離すと一足で池までかけて行った。

「ヴィ、ヴィヴィオ!?」
「ヴィヴィオちゃん!?」

静止の声も聞かずに駆けて行くヴィヴィオは無事に池に到着すると、その中をのぞき見る。

「わー。凄い銀色のお魚さんっ!」

「ヴィヴィオ!?」
「サンサングラミーは!?…アレ?大丈夫だ…」

え?どういう事?

「ヴィヴィオちゃん、どうやら『絶』で気配をたっているみたいよ」

「母さん?」

母さんの言葉にヴィヴィオを視れば確かにオーラの流出が止っている。『絶』だ。

「あの…ゼツって何ですか」

と、エリオ。

「ああ、この場で絶を知らないのはエリオだけか」

「えと…どう言ったものですか?」

「簡単に言えば気配を消す技術だよ、エリオくん」

キャロが本当に簡単にエリオに教えていた。

「気配?」

「見て。ヴィヴィオの姿をしっかり見ていないと見失ってしまわない?」

キャロに言われて視線を向けるエリオ。

「本当だ…居るはずなのに、見ると言う気持ちが無いと見失ってしまいそう…」

「うん。それくらい今のヴィヴィオは存在感が薄いんだよ」

なるほどと一応エリオはキャロの説明で納得した。

「とりあえず、完璧に気配を消せば何とかなりそうかな?」

俺は絶で気配を消すと池へと近づく。

「あ、ストップだ獅子座さんっ!」

突如深板の制止の声が響く。

「あ、お魚さん死んじゃった…」

ヴィヴィオが悲しそうに呟く。

「ええ!?」

「アオさんクラスだと幾ら気配を絶ってもダメって事?それじゃわたし達も?」

「多分…」

と、なのはの言葉にフェイトが同意した。

しょんぼりと戻り、深板たちの帰りを待つ。

「お魚さんキレイだったっ!」

と、ヴィヴィオが良い物を見たという顔で帰ってきた。

「そう、よかったね。ヴィヴィオ」

シリカがヴィヴィオの頭をグリグリ撫でている。

「うんー」

しばらくすると深板たちも戻ってきた。勇者の道具袋を貸してあるのでポリタンクを持ち運ぶ苦労は無い。節操無しに20リットルのポリタンクを100本ほど買い込んでいたからね。くみ上げるのに時間が掛かったようだ。

「それで、ここには何を取りにきたの?」

「これです」

と言って道具袋からポリタンクを一つ取り出す深板。

「これは…あの池の水よね?」

「はい」

と言いつつキャップを緩め、中身を見せる深板。

「これは天然の食用油なんです」

「油?」

「はい、それも無限に使えそうなくらい汚れないんです」

「それは凄いわねっ!」

「はい。もうこれで廃油の心配はありませんよ」

「それは良いんだけど…無限に使えるなら100本も要らないんじゃない?」

と言う俺の突っ込みに深板は…

「俺は回復薬は制限ギリギリまで買い込むタイプだ」

と返した。

確かに、RPGの序盤で回復薬を纏め買いする気持ちは分かるけど、結局使わないでストレージを圧迫する結果だよね?

勇者の道具袋の許容量がどのくらいか分からないけど…


目的の物の一つを手に入れた俺達はモルス山脈を出て街へと戻ると夜のご飯は豪華にコース料理を食べ、この世界の飽食振りに改めて驚き、満腹になると部屋に戻って休んだ。

次の日はかなり危険な所に行くと深板達が言うので、今日は俺とフェイトは深板達の護衛としてジダル王国へと、他の人たちはテーマパークへと行く予定で分かれた。

数多くの美味いもので溢れるであろうテーマパークへ行ってみたくは有ったが、深板たちを単身で行かせる訳には行くまい。これは彼らへの恩返しでもあるのだ。

ジダル王国へは電車に乗り、ひたすらトンネルを地下へと降りていく。

ホームを経る事に寂れていき、治安が悪化していく。

それでも目的の駅のホームは整っていたが、あちこち堅気ではない人達の気配が漂っている。

そんな彼らに目を付けられないようにさっさと移動すると、目的の巨大カジノ。グルメカジノが見えてきて、その巨大さに圧倒された。

「ここ?」

「ああ、ここだ。ここでお土産をゲットして帰るのがこの旅行の一番の目的だ」

そうファートが語る。

「ここなら数々の食材が手に入るからね」

「だけど、ここはカジノでしょ?」

つまり賭場だ。その景品を得る為には当然賭けなければ始まらない。

「ギャンブルで稼げる訳ないだろう!」

「何を言うかな獅子エモン」

誰がアオダヌキかっ!たぬきははやてだけで十分だっ!

「以前リスキーダイスが有るって言ってたじゃないかっ!」

あ…確かに俺達が未来から帰ってくるくだりで言っていたような気もする。

そして、それを使えば確かにギャンブル事は負けないだろう…だが。

「有るけど…危険だよ?もし大凶が出たら最悪死ぬほどの大怪我を負うことも有りえるし…」

「一度くらいは大丈夫だろう。ね?一回だけでいいからっ!」

「俺からも頼むよ…一回で良いから…ね?」

深板とファートが拝み倒すように俺に迫る。

「っ…ダメだっ!」

貸しても良いかもと言う考えを俺はどうにか制する。

「まぁ仕方ないか…」

やけにあっさり引くものだな。何か有るのか?

「それじゃ獅子座さんが頑張ってもらうしかない」

は?







一番大きなカジノに入り、400万円をつぎ込んで100万円のグルメコインを4枚購入したのだが…それだけでもレートのおかしさに驚いていた所、更に驚かせる事が起きる。

「これがグルメコイン…それも100万円の…」

「ああ、そうだぜ深板」

フルフルと震えながら深板とファーとは一枚ずつそのグルメコインを握り締め、おもむろにガリっとその歯で噛み砕いて飲み込んでしまった。

「は?」
「え?」

驚きの表情で二人を見つめる俺とフェイト。しかし、二人は…

「うみゃあああああああい」
「すごいっ!ほっぺたがおちるうううううううおおおおおおっ!?」

「え?このコイン食えるのかな?」

「ちょっと待ったっ!」

ガリっと食べそうになるフェイトを何とか静止させる。

「なに軍資金を普通に食おうとしているっ!」

「ご…ごめんなさい…」

「そしてそっちの二人は何故普通に食っている!?美味いのかこんちきしょうっ!」

まさかコインを食べるとは思わなかったので俺もいささか混乱している。

「いや、グルメコインは高ほど美味いんだ。ここに来たら絶対食おうと二人で決めていたんだ。反省はしても後悔はしていないっ!」

「ああっ」

キリっとした表情で言い切りやがった…

「はぁ…まぁいいよ。それで、既に軍資金は二枚になってしまったんだけど、どうするんだ?」

「ブラックジャック、ポーカー、チンチロリンと、ディーラーの居るのはだめだ。どうせ裏で操っているだろ」

何?ここはそんなにブラックなところなのか?まぁ、この治安の悪さからしてまともな所じゃないのは分かっているけれど。

「と言うわけで、アレで稼ごうと思っている」

と言って指差されたのは見上げるほどに巨大なスロット。それも両端まではかなりの距離がある。

「100面スロットだ。おそらくこのカジノで一番リターン率が高い」

え?100面?

「アオさんは写輪眼を持ってるだろ?だったらベタ押しで100面そろえるのも簡単でしょ」

深板とファートがそう説明する。

「つまり、この100万円分のコインを投入してスロットで100面そろえろと?」

「「ザッツライトっ!」」

正解っ!じゃねぇよっ!

「あ、本当に倍率が凄い…一番高い倍率は『7』じゃ無くて『肉』なんだ…さすがグルメ時代…」

倍率表を見てフェイトがこぼした。

「仕方ない…ソル、偽装をお願いね」

ピコピコとソルが点滅し、幻影魔法で俺の瞳に細工する。これで写輪眼を発動させても外見的には変わりなく見えるだろう。

俺はコインを握り締めると投入口に入れ、巨大なレバーを引く。すると100面あるスロットが勢い良く回転し始めた。

チャララチャララ音を立てながらスロットは回転する。

『写輪眼』

写輪眼を発動させ、スロットを見れば、その絵柄の全てが止ったかのような感じで見て取れる。

後は手元のボタンでスロットを止めるだけだ。

ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピ

トントンと手元のボタンを押すたびに左からスロットの回転が止っていく。

それがそろえられるたびに周りから『おおっ!』と言う声が漏れる。

そして最後の一つが止り、全ての絵柄が揃う。

『わあああああっ!?』

「な、何?」

周りの観客から驚きの声が木霊した。

「こんな100面もあるスロットが揃うなんて事は普通無いんだから、皆驚きもするだろう。…だが、ここからが問題だ。おそらく怖い人たちが来るから…アオさん、最悪は相手を鎮圧するか逃げるかしないとだめかも」

いや、それなら最初からやるなよな危険な事…

「じゃあ、次は私だ」

そう言ったフェイトはコインを投入すると再回り始めるスロット。

そして次々とまた揃っていく。

「え?フェイトさん、どうやって?」

深板が問う。

「凝と神速の応用。連続10個までなら一回の発動で特に問題ないかな」

写輪眼を使う必要も無かったのね…と言っている間に100面が揃う。

『おおおおおおっ!?』

周りの観客がまさか二度も100面スロットが揃う場面に立ち会えるなんてと騒いでいるが、…そろそろ黒服のやばそうな人たちが俺達を囲っているのだけれど。

「まさか、100面スロットを制覇するお客様が現れようとは」

声を掛けてきたのは黒服にサングラスの従業員。しかし、やはりどこか堅気では無さそうな雰囲気を纏っている。

「どうでしょう。奥でもっと良い所が有るのですが。良ければ案内いたしますよ」

どうするんだ?と深板とファートに視線を送るとフルフルと首を振っている。

「お断りします。勝った時は帰るに限りますね」

「そうですか…残念です。景品はあちらにご用意しておりますのでお受け取りください」

ああ、なるほど…勝ちすぎているから後で消すって事ですね。流石に俺とフェイトの二人でが二百万で二兆円分の食材を持ってかれるとと言う事か。

しかし脅しには脅しで対抗しますよ。

俺はオーラを解放し、その存在感を上げる。

「直ぐ受け取りに行きますね。もし、手違いがあったらかないませんから。そう思いますよね?あなたも」

「………っ」

俺のプレッシャーを受けてその男はしゃべれなくなりながらも必死に頷いている。

去っていった黒服を確認して振り返ると深板とファートが震え上がっていた。

「こっちまで殺気に巻き込むのはやめてくれ。恐怖で絶対寿命が縮んだぞっ!」

「と言ってもな深板。脅しておかないと団体さんでリンチっぽい展開だったじゃん」

「まぁ…そうなんだが…うん、今日はもう帰ろう。早く帰って寝たい気分だ」

と言った深板の言葉で来て早々にUターンが決定された。まぁ、目的は達成されたっぽいから良いけれど。

山のように積まれた景品を勇者の道具袋に詰め込みジダル王国を後にする。背後から黒服たちが後を付けてくるが、視線を向けてやると下がっていった。

実力の違いには敏感なようだ。

後日、ソラ達が訪れて100面スロットでカジノを崩壊一歩手前まで追い込むのはまた別の話。


さて、この世界の滞在は半分がレジャー、その他の半分が修行とこの世界の調査である。

今日はレジャーと修行、ついでに調査も兼ねてこの世界の美食屋と呼ばれる人たちがまず最初に向かうと言うビギナーズマウンテンにやってきた。

この世界の動植物には捕獲レベルなるものが人間の手で付けられていて、そのレベルが上がるほどに対象の強さが上昇するらしい。

このビギナーズマウンテンはその捕獲レベルが最高で3ほどと言う、ここで躓くようならば美食屋としてはやっていけないだろう。

とは言え、捕獲レベル1でも猟銃を持ったハンターが10人がかりでやっと仕留められるレベルらしいので、深板とファートは久遠とアルフに護衛を任せると街で食べ歩きをしていると別行動を取った。

まぁ、ヴィヴィオやキャロは修行も有るので付いてきているのだが…

飲み水になるくらいきれいに透き通る河のほとりに簡素なベースキャンプを作り、探索を開始する。

「あっ!リス…さん?」

探索開始早々にヴィヴィオが発見した小動物。リスっぽい生き物なのだが、何処か地球のリスとは形が違う。

「きゅ!?」

ヴィヴィオの声で此方の存在に気がついたそのリスはポロリとコブ取り爺さんの如くパンパンに張っていた頬が転げ落ち、地面に転がる。

そのリスはそれも構う物かとわき目も振らずに茂みの奥へと逃げていった。

「これは…栗?」

拾い上げてみると、薄皮に守られるようにして、栗が四個ほど詰まっていた。

「なになに?」

「え?本当に栗なんですか?」

ヴィヴィオとキャロが近寄ってきて、それは何と興味深深のようだ。

クリネズミ。

驚くとその頬が剥がれ落ち、その中には絶品のクリが詰まっていると言う。捕獲レベルは1以下だそうだ。

「……不思議な世界ね」

ソラもこの現象にはあっけに取られていた。

その後、辺りの探索すると出るわ出るわ…おかしな生態をした動植物が…まったく、この世界の常識が自分達のそれと隔絶していると再確認出来た事件だった。


探索を再開して半時。森を進むとカサリと木の葉の揺れる音が聞こえた。

「グラァァァッ!」

茂みを掻き分け現れた二メートルを越える巨大な熊っぽい生き物が立ち上がり両手を上げて此方を威嚇している。

どうやら彼のテリトリーに入ってしまったようだ。

「うわっ!?」

驚きの声を上げたエリオだが、オーラの流れを見るにそれほど強そうには感じない。

「ヴィヴィオ」

俺は隣に居るヴィヴィオを呼ぶ。

「なにー?」

「ヴィヴィオが倒すんだ。修行の成果を見せる時だよ」

「アオさんっ!?ヴィヴィオはまだ子供なんですよっ!」

俺の言葉を制止するシリカの声が響く。

「だからだろ。自分の力の強さを認識しさせないといけない。それと、命を奪うと言う事もね」

「そうかもしれないですけど…」

彼女が念を覚えて五年。キャロとどっこいどっこいであり、俺達の中では遅い部類に入る。

「頑張ってくるよっ!」

と言ったヴィヴィオが駆け出していく。

「『堅』をしてれば大丈夫」

「うん、落ち着いて頑張るんだよ」

なのはとフェイトは一言アドバイスをして見送った。

「アオさんっ!ヴィヴィオは大丈夫なんですか?」

エリオも心配なようで行かせても良いのかと糾弾するような目つきだ。

「エリオくん…」

キャロは何て説明すればよいのか戸惑った。

「大丈夫だろ。あれでもヴィヴィオは強い。あの程度の敵に遅れを取る事は無いだろうけど…問題は精神だろうね」

そう俺が答える。

この戦いはヴィヴィオにとって初めての実戦であり、初めて相手の命を奪う戦いだ。

「やあっ!」

駆け出したヴィヴィオは熊…ラグーベアの腕を掻い潜り、攻撃を当てていく。

捕獲レベルは2と言った所だ。

「グオオオオォォォォォっ!」

「っ…!」

ラグーベアのブオンと振るわれた腕に辺り投げ飛ばされるが、しっかりと両腕でガードしていたようでダメージは殆ど無い。空中をくるくると回転して着地すると再び地面を蹴って攻撃する。

「はっ!」

ヴィヴィオの突き出したコブシはラグーベアを突き飛ばし、地面を転がり突き出た岩に激突し、絶命させた。

「あっ……!」

相手の命を奪った事にようやく気付いたのだろう。ヴィヴィオはうずくまりショックを受けたようだ。

ここでどう折り合いを付けるか。ここでマイナスの方面に思考が進むなら、俺はヴィヴィオの記憶をいじり念関係の事を忘れさせるつもりだ。

しかし、彼女は「ごめんなさい…そして、ありがとうございます」と言う言葉を発した後泣き崩れた。…これなら大丈夫だろう。生き物の死を慈しめるのなら、自分の力を自制する心を持てるはずだ。

「エリオくん!?」

「ぐっ…かはっ…ごほっっ!」

むしろ今やばいのはヴィヴィオよりもエリオだった。彼は生き物の命を奪うと言う現場に立ち会ったことが無かったのだろう。突如として目の前でその命が消えてしまった事にショックを受け、嘔吐してしまったようだ。

これは俺も経験がある。大丈夫だろうか…最悪は記憶を消さなければ成るまい。


ぱちぱちと焚き火の弾ける音がして、その上の鍋からこぽこぽとスープの茹る音が聞こえる。

ヴィヴィオの倒したラグーベアで作った熊鍋だ。臭みが全く無く、煮込めば煮込むだけ美味しさが増し、それでいて硬くならないその肉は正に絶品であった。


夕食が終わり、焚き火に薪をくべていた時、焚き火の反対側に立つ影に視線を上げた。

「エリオか。…どうした、まだショックから立ち直れないか?」

「いえ…それはなんとか…」

「そっか」

どういう答を出したのかは分からないが、その表情をみれば負の方面には行っていないようで安心した。

「それじゃ、他に何か用があるのか」

「はい…ヴィヴィオが使ったゼツとかケンとか言うのはいったい何なのでしょうか」

ああ、それか。エリオはヴィヴィオの戦闘力の異常さに答えが欲しかったのか。

「教えても良いけど、別に知らなくても良い技術だね」

「そう…なんですか?…あの、その技術、キャロは使えるんですか?」

「ここに居る人間で使えないのはエリオだけだね。ただ、無闇矢鱈に教えてもいい技術って訳じゃない。家族や近しい人物で信頼できる人間になら、と言う感じかな」

シリカみたいに事故で精孔が開いた場合や、ヴィヴィオみたいにどうしても必要だった場合は教えちゃってるけども。

「僕は…」

「別にエリオになら教えてもやっても良いんだけど、キャロを一生離さないと誓えるならね」

「…っ!?」

なんて冗談を混ぜるとエリオは真っ赤になって押し黙り、駆けて行った。

「あらら…でもまぁ、本当にそれくらいじゃないと…ね」

一時間後に帰ってきたエリオは真っ赤になりながら答を言い、念法を覚える事になる。これでようやく俺達は家族として隠し事がなくなったようだ。

探索二日目。

森の中の崩れ落ちて削られた斜面の断面の中に一際輝くオーラを纏った石が埋まっていた。

「これは?」

引っこ抜いてまじまじと見つめる。

「なに、その石」

フェイトの声に周りにソラ達が寄ってくる。

「いや、良く分からないけれど、結構強いオーラを感じたから」

「あ、本当だ」

と凝をしたなのはが言った。

「中に何かが入っている感じ?」

ソラもこの石をみてそう分析した。

「中か…」

「割ってみたら良いんじゃない?」

ヴィヴィオが簡単な事じゃんとばかりにそう言った。

「そうだね」

俺は懐から果物ナイフを取り出すと、流を使って切れ味が増したナイフで石を削っていく。

「種?」

キャロの声。

そう、中から出てきたのは何かの種であった。

「何の種だろう」

「撒いてみたら良いんじゃないかな」

「なのは…そんな事をしても芽が出るまで何日掛かるか…」

「フェイトちゃん、そこはアオさんの能力で時間を速めればどうって事は無いよ」

「あ、そうか」

と言う言葉を交わすと皆が俺に視線をよこした。速く埋めろと言わんばかりの視線だった。

「あーちゃん、速く」

母さんにまでせかされた俺は仕方なく近場の地面に種を埋めると『クロックマスター』で時間を加速させた。

木はぐんぐん伸びるとやがて幾つかの大きな実をつけた。

「果物…だね。それにしては…」

その強烈な匂いに唾液が溢れてくる。

「おいしそうな匂い!食べてみたいっ!」

今にも幹を上りその巨大な実に噛り付かん勢いのヴィヴィオを何とか止める。

「パパっ!?」

非難がましい目で見られようが、今まで取ってきた食料と同じくディテクトマジックやソルにサーチしてもらい、毒物が入ってない事を確認しなければ危なくて食べるわけには行かないのだ。

『どうやらこれは虹の実と言う植物らしいです。現在では絶滅してしまったと言われているようです。食用であり特に毒や麻薬成分は入っていません』

この世界に来て直ぐに大金をはたいて買った食材のデータ。その膨大な食料データをソルにインストールし、ソルはその中から検索をかけて出てきた情報を伝えてくれた。

「大丈夫なの?ソル」

『はい』

「やったっ!」

安全だと分かったヴィヴィオは俺の手からすり抜けると猿のようにするすると木を登り、虹の実に取り付くと下を向いて声を上げた。

「落とすよーっ…えいっ!」

「おっとと…って!おもっ!」

ブチっともぎ取られて落下してくる虹の実を受け取ろうとキャッチして余りの重さに危うく取り落とす所だった。

「つぎいくよー」

と言って五個ほど実った虹の実をひょいひょい落として行き、それをソラ、なのは、フェイトがキャッチしていく。

「わっ!」
「お、重いッ!」
「これは…凄く濃厚な匂い…」

「わ、わわっ!」
「エリオくんっ!?」

最後の一個をキャッチしようとしたエリオを後ろから支えるように腰を抱き、片手で虹の実をキャッチしたキャロ。

「あ、ありがとう…キャロ」

「ううん。エリオくんに怪我が無くて良かった」

すこしラブコメ的展開になっているのだが、あれは男女逆じゃないかなぁ…まぁ、今のエリオではこの重さの木の実を受け取れるだけの筋力は無いから仕方ないけれど。…がんばれ、エリオ。まだ念の修行は始まったばかりだよ。

木の実を取り終えたヴィヴィオはひょいっと飛び降りると音も無く着地した。

「パパ、切ってっ!」

「はいはい」

ナイフを片手に虹の実を縦に割るとぷるんとしたまるでゼリーか何かのように刃が通り、あふれ出る甘い匂いが強烈に鼻腔を通り抜け、その匂いが食欲を刺激する。

「スプーンか何かですくって食べた方が良いかも知れないですね」

と言ったシリカが皆にスプーンを配った。

子供が優先だろうと思い、まずヴィヴィオがそのスプーンで虹の実をすくって口に含んだ。

ゴクリと嚥下する音が聞こえる。

「お…おいしい…今までにこんな美味しい果物食べた事無いよ…」

「ほ、本当?ヴィヴィオ」

それを聞いたキャロも我慢できないとスプーンですくって虹の実を食べた。

「お、おいしいっ!エリオくんも食べてみてよっ!」

「う、うん…」

俺達の方にいいですか?と言う視線をよこしたエリオに頷いたのを確認したエリオも一口食べてみる。

「こ、これは…!おいしすぎる…」

さて、子供達が食べたのを確認してから俺達も口をつけたのだが…それは途轍もなく美味しく、至福の瞬間だった。

しかし、その幸福な時間も長くは続かない。何故なら俺達の周りを凶暴な動物達の気配が立ち込めてきたからだ。おそらくこの虹の実の匂いを嗅ぎつけて来たのだろう。

「囲まれたね」

ソラが言葉を発するよりも早くエリオ以外は既に警戒態勢に入っている。ヴィヴィオすら気を引き締めているのは確実にアオ達の影響だろう。

「ああ」

「どうするの?」

虹の実自体は勇者の道具袋にしまったのだが、その木と立ちこめる匂いは未だ健在で、その匂いにつられて来ているのだ。

「アオさん?」

俺が虹の実の木に近づいたので、何をするのだと問いかけるなのは。

俺は右手をそっとその樹脂に触れると時間を巻き戻し、種の状態まで戻した。

「どうやらこの原因はこの木だったみたいだからね。このまま放置するとこの辺りの動物が食物連鎖を超えて争いかねない。それはどうかと思うし」

「そうだね。…でも、今更囲んでいる動物達には関係ないみたいだけどね」

と、ソラ。

「匂いを風で散らすかして誤魔化せないかな」

「やってみる価値はあると思うけど」

どれほど効果があるか分からないねとフェイト。

どうするかと考えていた時、ゾクリと嫌な感じが通り抜けた。

「こ、これはっ!?」

「殺気っ!?」

「それもここ辺りの動物達とはレベルが違うほどのものよっ!」

なのは、フェイトが慌て、母さんがそう感じ取った。

その殺気に当てられて辺りの動物達はみな逃げ出していく。それは分からなくも無い。あれほどの殺気に当てられたら俺でも逃げたい所だ。

「ヴィヴィオ!、キャロちゃん!」

シリカは何が来ても守って見せるとヴィヴィオとキャロ、ついでにエリオを自身の後ろに匿う様に前にでる。

そして皆各々のデバイスを起動し、バリアジャケットを装着したり堅で防御力を上げたりして敵の来訪に備える。

俺は『円』を伸ばし、殺気を放ったであろう生物を探すと、俺のオーラが触れたのが分かったのか、相手の方から此方へと距離を詰めてくるのが分かった。

「来るよっ!」

人間離れした跳躍力で太陽を背に振ってくる影は俺達から10メートルほどの所に着地した。

「人間?」

「でも、彼のオーラは強烈過ぎるわ。人間と言われてもちょっと信じられない…」

フェイトの呟きに答えたソラ。

「いやぁ、すまんすまん。おぬしらの実力ならここら辺の奴らじゃ相手にならんじゃろうが、それで襲ってくる奴らを全て傷つけるとここらの生態系がな」

と、結構軽いノリで浅黒い初老の男性が快活そうに言いながらこちらに歩を進めてきた。

一応相手は殺気を放っていないが、その実力はコブシを合わせるまでも無く強者だ。

「わしは一龍と言う。たまたまこの辺りを散歩しておったのじゃが、突然強烈な甘い匂いがしたと思ったらあたりの動物達が騒ぎおってな。興味を引かれて来てみた所おぬしらが囲まれていたからこれはいかんと蹴散らしたのじゃが…おぬしの手に持っている種が原因か?」

そう目の前の老人、一龍は問う。

俺は誤魔化しても良い事は無いだろうと感じ、素直に肯定する。

「そうですね。この種は何か強烈に動物達を誘惑するようです」

「この辺りにそのような木の実は無いはずなのじゃが…グルメ界から飛来したのかもしれんのう…そうなると、IGOに提出するのがIGO加盟国でのルールじゃ。それは分かっているな?」

なるほど、この世界での常識か。その辺は俺達は疎いのは旅行者なので仕方が無いだろう。

「そうなんですか…えと、どうやれば?」

事を荒立てたく無いので素直に聞いてみる。

「本来なら面倒な手続きがあるのじゃが、一応IGOの会長はわしじゃからな。わしが預かって置こう。一応発見者と言う事で君達の名前と国籍を教えて欲しいのじゃが…ふむ、どうやらそれは聞かない方が良い様じゃな」

何も言っていないのだが、この一龍は此方がのきっぴらに出来ないような立場だと感じ取ったようだ。

その間も、言っている事が正しいかソルに調べてもらった結果は完全に白。どうやら本当の事のようだ。

「そうしてくれると助かります。…これはあなたにお預けしますね」

「すまないな」

と言って俺からその種を受け取った一龍は、興味深そうに俺達を見る。

「ふむ…その年で中々に凄い技術を持っているな。…しかし、それゆえにロスがもったいないのう…」

ロスしている?彼には俺が纏っているオーラが見えているようだった。と言う事は相手は念能力者かっ!

「そうじゃな、興味があれば食林寺と言う所を尋ねなさい。そこで修行すればわしの言っていた意味も分かるじゃろうて」

そう言うと一龍は虹の実の種を持って帰っていった。

「っはぁー」

彼が居なくなると皆緊張の糸が切れたように深呼吸をする。

「彼…途轍もなく強いわね…今の私達でも戦えば負けるかもしれないわ」

「ああ…」

俺と同等の時間を生きているソラをしてそう言わせるのだ。彼とぶつからなくて本当に良かった。特に魔力の再チャージが出来ないこの世界では念に頼らざるをえないのだから尚更だ。

「それにしても、食林寺だったかしら?そこに行けって言っていたわね」

と母さん。

「俺達がまだロスが大きいと言っていたね」

「時間が有れば探してみる?」

と聞いてきたソラ。

「そうだね…それにしても久しぶりに勝てないと感じられる人に会ったよ…この点は反省しないとだね。強くなった気で居る時は凄く危ないし、上には上が居る…」

「うん…」

一龍との邂逅で消耗した俺達はベースキャンプに戻り、そうそうに畳むと街へと戻って宿を取った。

今日は皆ベッドで寝たい気分だったのだ。

その後、どうにか食林寺なる所を探し出し、そこで教えてもらった食義の修行で死にそうになりながらも何とか会得。

食の有難味を骨の髄まで教え込まれました。全ての食材に感謝を忘れない。これは本当に大切な事です。

食義の一つ、食没により最大オーラが爆発的に上昇したのは嬉しい誤算だった。

短い滞在であったが、深板とファートがみるみると太り、出会った頃の彼らの感じに戻ってしまっていたが、まぁ…些細な問題か。

俺が二人にこんな事でよかったのかと滞在が終わり帰還のために乗り込んだ次元航行船の中で問うと、「これでも貰いすぎなくらいだ」とか「十分楽しめた」と言っていたのでよしとしよう。







「その時手に入れたのがこのモルス油。これは本当に便利でこれだけは愛用しているのよ」

お金の節約にもなるしね。とユカリ。

「それでね。その世界にはその後もちょくちょく行って、こっそりと箱庭で飼育と栽培を始めたの。その珍しい食材を偶にアテナ達に気付かれないように夕食で出したりしていたのよ」

「………」

荒唐無稽なユカリの話にアテナは話の半分も信じていない。

「……まぁ、その食没がユカリの呪力が異常に高い理由だとすれば、辻褄はあう…のか?」

アテナから見るユカリの呪力(オーラ)は一流の魔術師などは隔絶し、神殺しの域にまで来ているのでは無いかと思わせるほどに強力だ。

「今度私の箱庭に招待するわ。危ない所だから普通の人は入ったら死んじゃうかもしれないけれど、アテナなら大丈夫よね」

アオがヴィヴィオを助けた後、リオの家から引きあげてきたグリードアイランドを使い、ユカリもプレイし、クリア特典を貰っていたのだ。

その一つが自分用の『勇者の道具袋』と『神々の箱庭』だ。道具袋は皆が一つずつ持っている。やはり、その便利さが群を抜くからだ。

そして神々の箱庭はトリコの世界の動植物の飼育のために取ったといっても過言では無いかもしれない。それほどまでに彼女の箱庭は多種多様の動植物で溢れかえり、独自の生態系を構築していた。

「……まぁ、機会が有ればな」

ピンポーンッ

アテナがおざなりに返した時来客を告げるチャイムが鳴る。

「あ、お客さん。この時間は甘粕さんね。はーい、今行きます」

と言ってユカリは玄関へと駆けていく。

「いつもの妄言であろうよな?だが、変な油は実際にある。しかし…食没なんて物があったとしても妾が覚えられるものでは有るまいが…ふむ…」

考えながらアテナはユカリが変な袋…勇者の道具袋から取り出したひとかけらの果物を供えられたスプーンでまるでゼリーのようにすくって口に含む。

「こっ…これは…」

それは正にこの世の美味いを詰め込んだような果物だった。口に含んでから喉を通り終わるまでに7回もその味が変わっていく。

これはあの時アオ達が持ち帰った虹の実から発芽させて増やしたものだ。その木は今も箱庭の中で茂っている事だろう。

「これを出されれば確かに別世界の事を信じぬ訳にはいかぬな…本当にユカリは面白い」

本当に次から次へとビックリ箱のような少女だとアテナは再確認した一幕だった。 
 

 
後書き
と言う事でトリコの世界でした。あの世界の実力者の天元突破ぶりは凄いですよね。サイヤ人もかくやと言った感じでまさにジャンプって感じです。
次のユカリのバトルは順番的にあの人です。3連続ユカリ無双の前のほのぼの?閑話と言うことです。 
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