リュカ伝の外伝
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言葉を知らぬはモノ知らず?
(グランバニア王都)
リューナSIDE
昨日は私の新しい家族と初対面をしました。
夫のご両親……つまり私の義両親。
まぁそれなりに複雑な諸事情を抱えており、どこの家庭も大変なんだなと感じております。
お二人とも息子の家に泊まるつもりだったみたいですが、やっぱりアトリエも兼用している事もあり、宿泊には問題アリとの判断で当初から確保しておいた王国ホテルに宿泊してもらいました。
一晩明けて翌日……今日は日曜日。
夫は再来週の新聞に掲載する漫画の打ち合わせがあり、王都観光は義娘の私に託されました。
因みに来週分の打ち合わせは先週の内に終わっており、基本的に二週間先の打ち合わせをする様になっています。
勿論学校は休みであり、私の会社も休日ではあるのだが色々な事(モノ?)を紹介する為に、会社を開けて(営業はしない)開発した品々を見てもらいました。
特に今推してるのはMP!
CC込みで、その性能等を紹介。
困ったわ……ルディーさんだったら、もっと上手に製品説明が出来るのだろうに。
あの人ホイホイとプリ・ピーの信者を増やしていってるから……
流石は大商人の孫。あの話術には感心するわ!
私の会社だけを案内してても仕方が無いので、王都を毎日何周もしている“グランバニア城下環状線”(と言う名前の列車路線)に乗って、そこから見える範囲だけでも案内しようと“グランバニア城前ステーション”(って名前の駅)に移動。
お二人が住むホックワルト村は物理的距離が比較的に近い為、王都の情報は結構入ってきている様子。
だからPONYのMPとかには凄い驚いていたけど、列車や町並みについては既に情報だけは知っているって感じでしたわ。
どちら(どれ)もお父さんからの発案なんだけど、それに関わった深さからMPとかに感動してもらったのは嬉しい。
しかしまだ建設途中って事で世界中から注目されているスタジアムを覧たいと要望が上がる。当然よね!
今、私達が乗っているグランバニア城下環状線からだと殆どスタジアムは覧えない。
列車の乗り換えだったり徒歩移動になる事を伝えたら即答で了承。
まぁ考えるまでも無いか。
私も早々に魔道車の免許を取得しておくべきでしたわ!
兎も角、建設途中であるスタジアムに到着。
この国でグランバニア城に匹敵する程の大きさを誇るスタジアム……
外観だけで無く中も見たくなってしまうのが人の常。
建築に使用する重機や工具等に、私の会社の開発品が使用されている事でお義父さまが「何とか融通を利かせてもらえないかな?」と小声で提案してきました。
気持ちは解ります……解りますけども、そんな事は出来るワケも無く……気まずく謝って理解を得ます。
でも、それを見たお義母さまに叱られてましたわ。
お父さんが居れば、そんな事関係なく融通をしてくれるのでしょう……
その場合は私がグランバニア王家の者である事を告げなければならないし、お義母さまは兎も角お義父さまには告げてはならないと思い、後日夫に告げようと思います。夫には解ってもらえるでしょうけど、お義父さまも良い人に変わりないから、少しだけ罪悪感がありますわ。
見れないのは仕方ない……そう割り切って我慢してもらうしか無いのですが、物書きを目指すお義父さまの力量を測りたくて、現状の外観から中が如何なっているのかを想像(妄想?)してもらい、それを書いて(もしくは口答で)説明してもらおうと提案しました。
するとお義母さまから失笑。
お義父さまも苦虫を大量に磨り潰して口の中に詰め込まれた様な表情に……
私が不思議がっていると、渋々ご自身の鞄からノート(ほぼ新品)を取り出し、四苦八苦しながら何かを書き出し始めた。
そして出来上がったモノ……多分内容は現状のスタジアム内観の予想だと思われるのですが、それが何故だか箇条書き。
別に建築途中の建物を表現してくれと言ってるだけなので、文学的にする必要も無いし、読んだ者を感動させる必要も無いのだけど、選りに選って箇条書きって……
私の勝手な予想だけど、この人(お義父さま)って言葉を知らないんだと思います。
頭の中で物語を紡いでいく事は出来ても、それを具現化する為の言葉を知らなすぎて他者には理解出来ない物語しか書けないのではないでしょうか?
例えば……『メラ』と言う言葉を知らないが為に、それの基本理論も効果も知っていて、しかもちゃんと魔法を作り出すのに十分な魔法力を有していながら、大切な言葉を知らない……いや言えないから唱える事が出来ない。つまり魔法を使用出来ないのと同じ状態になっているのではないでしょうか?
私のルーラと同じ現象……
私の場合は言葉は知ってた……
使用するに値する魔力も備わっていた……ギリギリでしたけどね!
でも理論を知らなかったから、あんな不味い物を飲まされて無理矢理知識とそれを受け入れる環境を体内(精神内?)に作り出す必要があったんだと思います。
私は思わず言ってしまった。
「今からでもちゃんと勉強すれば、小説家になれるんじゃないですか?」
と、素直な感想を……
それを聞いたお義父さまが瞳を輝かせてお義母さまに……
「俺も来年から芸高校に通いたい!」
と、素直な欲求を……
当然ですが喧嘩が始まりますよね。
私の一言が原因で義両親が喧嘩を始める……って、最悪じゃないですか!?
どうしよう……魔法で逃げちゃいたい気分です!
だけど流石に大人なので、ある程度の所で一時休戦。
しかし観光を続けられる様な状況ではないし雰囲気でもないし、一旦夫の家に帰る事に……
お義母さまは夫(息子)を味方に引き入れる事を考えたんだと思います。
ここからだと列車移動よりも魔道人員輸送車での移動の方が早かった為、奇しくもお二人に初魔道人員輸送車体験をしてもらいました。
うん。やっぱり早急に私も免許を取ろうと思いますわ!
(グランバニア王都:東中央地区:ラッセル邸)
取り敢えず気まずい雰囲気の中……そこからの脱出を期待して自宅へと帰還。
勿論それだけで物事が成就する程世界は甘くなく、待ち受けていたのは未だに終わっていない新聞社との打ち合わせ風景でした。
今日は『常々情報社』との打ち合わせだったらしく、夫の作品を自社に掲載させるべく編集作業をしてくれる担当さんと真剣な顔で何かを話し合っていました。
この常々情報社は比較的絵(絵画や挿絵等)の掲載に積極的な新聞社で、どちらかというと字の読めない……識字率の低い人向けな新聞社である。
もしかしたら新聞社と言うよりも出版社と呼んだ方が良いのかもしれません。
他の新聞社さんは夫の作品を掲載するのに編集担当者さんを2人付けていて、手が空いている方(つまりは暇な方)が作業をする担当する事になっているのだが、ここは1人。
常に固定された状態の編集担当だ。
『キャサリーン・オールドマン』って名前の女性。
歳は24歳で2歳の男の子を育てているそうだ。
旦那様は新聞とかには関わりの無い普通のサラリーマンだそうです。
でも担当さんが1人の為、作品への理解度が深く、打ち合わせもスムーズに進むと夫は何時も言っている。
それだけ夫の作品に全力を注ぎ込みたいそうだ。
そんな風に夫の作品に打ち込んでもらえるのは凄く嬉しい……
私達が早めに帰ってきた事もあるが、大分仕事に熱中していたらしく飲み物も既に無い状態でした。
なので険悪な義両親の方を少しだけ放置させてもらって、私はまだ仕事中のお二人に新しくコーヒーを入れ直し提供。
その間も険悪な義両親は、それ程大声ではないがブツブツと口論を止めてくれない。
こんなにも早く帰ってきた訳を理解出来てしまった夫は、気分転換のつもりだったのか何があったのかを訊いてしまう。
そうなると止まらないのが夫婦喧嘩!
お義母さまの『個人的趣味にだけ留めて欲しい』って希望を嫌がり、『やっと何が必要なのかが解ったんだ! 昔からの夢を奪わないでくれ!』と少年の心を全開でアピール!
なので話は平行線。
何一つ進まず……何一つ交わる事の無い不毛な口論大会。
夫は夫で、やはりお義母さま贔屓な為、不公平さから余計にお義父さまも意固地になる。
そして出てきた一言……
「幼い頃のお前は、俺が話す物語を聞いて喜んでたじゃないか! そして、その物語にお前風味の挿絵を描いてくれてた……嬉しかったんだぜ。何だか一つの作品をお前と一緒に作り上げたみたいで!」
私はこの時衝撃を受けた!
幼い頃に近所のお兄ちゃんの拙い言葉を真剣に聞いてそれを絵にする……
まさに今やっている事ではないだろうか?
私は興奮気味にそれを告げる。
すると早く仕事に戻りたいと思っていたであろう常々情報社のキャサリーンさんが……
「それって……原作者と漫画家の二人体制で、分業して一つの作品を完成させるって事ですよね?」
と明確にしてくれる。
その通りだ。
まるで私とお父さんの様に、新製品のアイデアを出してくれるお父さんが居て、それを製品化する事の出来る私が居る。
何だかそれって良い感じ♡
私は嬉しくなって、「義親子で分業漫画を描けたら、凄く素敵ですよね」と不用意な発言をしてしまった……
すると止まらなくなるのはピュアハートな持ち主のお義父さま!
昔からの夢である事と、新しい義娘からの後押し(私的には後押ししてないけど、してもらったと言い張り出した(困惑))で俄然小説家への道を進もうと意欲的になる。
だけどお義母さまからの現実的な苦情が……
「私達の生活は如何するのよ!? 『学校に通い直す』だの『勉強をし直す』だの言ってるけど、その資金は何処にあるのよ!? 最近生活に余裕が出てきたのは、息子が稼いでくれてるからなだけで、アナタも働かなきゃ金銭面的に解放されてる訳じゃ無いのよ!」
「じゃ、じゃぁ……働きながら、勉強する。そ、それなら良いだろ!」
「出来る訳ないでしょ! 大体、子供の頃に勉強を嫌って今の状態なんでしょ!? 働きながら勉強って……仕事の方に影響が出てクビになるのがオチよ!」
「そ、そんな事は無い! 俺だって本気を出せば……!!」
「今まで本気を出した事の無いヤツの『本気を出す!』は当てにならないわ!」
う~ん……厳しいわ(笑)
結局の所、仕事をしながら勉強をすると言う事がお義父さまには不可能だとされ、今回の提案は悉く却下されました。
私が余計な事を言ってしまったから、話がこんなに面倒臭くなったので、少しだけ責任を感じております。
だからと言うワケでも無いのですが、私も持てるを伝手使って少しでも言葉の勉強が出来るようにと、義務教育課程で使用される国語の教科書を手配してプレゼントしました。
兎も角お義父さまに必要なのは、語力や識字率とかでは無く……純粋に言葉を知らないって事なのです。
だからそれらを何度も読み返して、世の中に存在知る常識的な言葉を学んで欲しいなと思いました。
リューナSIDE END
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