魔術師の娘
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第一章
魔術師の娘
日本の横浜の一角に小さなアクセサリーショップがある。そこには色々な可愛らしいアクセサリーが売られている。女の子の出入りがかなりある。
店の娘はいつも店の衣装である黒いゴスロリ調の服でいる。黒く大きな目に小さな口、黒く背中の真ん中辺りまで延ばした髪という実に女の子らしい格好だ。
その黒い目は瞳が大きく丸い。頬は痩せていて顔は白い。まさに女子高生がゴスロリを着ているという外見だ。
その少女新山唯はいつも笑顔で店の客達に言う。
「私いつもなんですよ」
「いつも?」
「いつもっていうと?」
「お母さんに教えてもらってるんです」
こう言うのだった。
「アクセサリー作りのこととか占いのこととか」
「あっ、このお店占いもしてくれるからね」
「タロットで」
「はい、お母さんに本当に教えてもらってます」
そしてその母はというと。
「時々お店に出てくれますよね」
「あの奇麗な人よね」
「胸も大きいし背も高いし」
「女優さんみたいな人よね」
「凄い美人さんよね」
「奇麗なだけじゃないんですよ」
唯はにこにことしたまま話していく。
「優しいし何でも教えてくれるんですよ」
「ふうん、そうなの」
「お店のことも」
「実はですね」
唯はその母のことを親しい客達にさらに話す。
「お母さんとは血がつながってないんです」
「あれっ、そうなの」
「そうなの?」
「そうなんです。産んでくれたお母さんは私が小さい頃に亡くなって」
そうしてだというのだ。
「何年か前にお父さんがお見合いで結婚して」
「それでなの」
「今のお母さんが来てくれたのね」
「そうなんです。所謂継母ですけれど」
この表現だけだと古典的な虐めの話になりかねない。しかしだった。
「お母さん私にとても優しくて色々教えてくれるんですよ」
「お店のこととか?」
「お家のこととかも」
「そうなんです。本当に色々教えてくれます。だから大好きです」
こう笑顔でいつも自分の母のことを話すのだった。それは店の中だけでなく学校でも同じだった。唯は母が大好きだった。
しかし一つだけ気になることがあった。母の小百合はいつも夜になると自分の部屋、地下にある一室に篭る。それで何かをしているのだ。
黒く波打つ長い髪にやや横に大きく薄い唇を持つ口の左の付け根には黒子がある、切れ長の二重の目は睫が長い。その瞳は黒の中に星の瞬きが多い。顔は白く細長い。
背は唯とは違い高く胸も大きい。いつも黒く丈の長いドレスを思わせる服を着ている。
その小百合に夜に一人になる理由を聞く。すると妖しい微笑みでこう言われるだけだった。
「唯ちゃんが十八になればね」
「私が十八になれば?」
「教えてあげるわ」
その時にだというのだ。
「その時からね」
「私が十八の時にって」
「お店のことももっとじっくりとね」
店は母が開いたのだ。それで経営している店だ。夫の健次郎は会社のサラリーマンをしている、普通の家庭dと言っていい。
小百合はその店のことをこう唯に言うのだ。
「私の後は小百合ちゃんだからね」
「私がお店を継ぐのね」
「そうよ。小百合ちゃんは私の娘で」
それにだというのだ。
「弟子だから」
「弟子?」
「十八になればわかるわ」
ここでも多くを言わなかった。小百合は。
妖しい笑みを浮かべてこう娘に言うのだった。
「その時にね」
「私がお母さんの娘なのはわかるけれど」
「弟子ってことは?」
「それってどういうこと?」
「お店のものの作り方とか。どうして売れるかとか」
そうしたことを話す小百合だった。
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