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武士

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第二章

「お父さんとお母さんと大切にしてな」
「そうしてですね」
「弱い者は助ける。正直でいる」
 嘘を吐かないだけではなかった。
「そうしたことをしないとだ」
「駄目なんですね」
「そうだ。そうしてなるものだ」
 先生は茂平に話していく。
「わかったな。兵隊さんになるのは厳しいぞ」
「けれどなれるんですよね」
「しっかりと勉強して立派な人になればな」
 なれる、先生は約束した。この約束がそのまま茂平の心に残り彼はこの日から真面目に勉強をして嘘を吐かなくなった。
 悪戯もしなくなった。父はそんな茂平を見てこう言うのだった。
「最近どうしたんだ、一体」
「あんた急に変わったわね」
 母も言う。畑仕事の後の晩御飯の中でだ。当然そこには兄や弟、妹達もいる。全員で雑炊の晩御飯を食べているのだ。
「急に勉強もしてな」
「悪戯もしなくなって」
「何かあったのか?本当に」
「いいことでもあったの?」
「俺決めたんだ」
 茂平は自分のお椀の中の雑炊をかき込みながら両親に応えた。
「兵隊さんになろうって」
「何っ、兵隊さんにか」
「あんたなろうっていうの?」
「うん、俺なるよ」
 こう両親に言うのだ。
「徴兵の検査あるよな。それに受かって」
「何とまあ。兵隊さんになりたいのか」
「そりゃまた凄いこと言うね」
 親達も兄弟達も茂平の今の言葉には目を丸くさせた。そしてこう言うのだった。
「そりゃ勉強もできて立派な人じゃないとな」
「なれないわよ」
「だから今こうしてるんだよ」
 子供だが決意してのことだというのだ。
「俺頑張って兵隊になるからさ」
「なれるならなれ」
 これが父の返事だった。
「いいな。立派な兵隊さんになれよ」
「なっていいの?」
「悪い筈がないだろ」
 口減らしとはまた別の意味でだ。父は雑炊のおかわりをしながら茂平に言う。
「兵隊さんだぞ。武士なんだぞ」
「だからだよな」
「そうだ。立派な人になれ」
 兵隊は即ちそうである故にだった。
「いいな、立派な人になれよ」
「うん、俺なるから」
「武士になるんだ。本当にな」
 こう言って息子の後押しをした。それは母も同じだった。
 手を止めてこう息子に言う。母も真剣な顔だった。
「頑張るんだよ。凄いお侍さんになるんだよ」
「そうだよね。じゃあ」
「それでいいことを一杯するんだよ」
 立派な人は行いがいい、こうした前提があるからこその言葉だった。
「わかったね」
「わかってるよ。じゃあ俺凄い兵隊さんになるよ」
 両親にも言ってもらえた。無論兄弟達もだ。兄も弟、妹達も言う。
「格好いい兵隊さんになれよ」
「兄ちゃんお侍になるんだね」
「じゃあ絶対になってね」
 いつもこう言ってもらえた。こうしてだった。
 茂平は実際に軍隊に入る為に頑張った。その結果小学校を卒業してから暫くは町に出て工場で働いていた。その間も勉学は怠らない。
 そして十八になった時に務めている工場の工場長にこう言った。
「わし、陸軍の教導団受けます」
「何っ、陸軍に入るのかい!?」
「はい、そのつもりです」
 こう言ったのである。
「そのつもりです」
「そりゃまた凄いことを言うな」
 工場長も愕いた顔で返す。
「兵隊さんになるか」
「それで合格した場合は」
「ああ、いいよ」
 快諾だった。それは顔にも出ていた。 
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