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髪の毛の薄い天使

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第一章

                 髪の毛の薄い天使
 彼はその時絶望に支配されていた。告白をして失恋しそれを煽った友人と思っていた連中に切り捨てられ。
 そしてクラスではそのことを馬鹿にされ孤立した。学校には友達はいなかった。
 家でも親に小言を言われる日々だった。何をしても上手にいかず辛く寂しい思いをしていた。その彼が行く場所は一つだけだった。
 彼が通う高校の最寄の駅前の古本屋だ。古く小さな店だがそこには本がうず高く詰まれている。そこにいつも入り。
 小説や漫画を探しそれを買って慰めとしていた。彼にとっては本だけが慰めだった。顔は暗く心はより暗かった。
 そしてその顔で店の店長、濃い顎鬚に眼鏡のカルメンを作曲した音楽家ビゼーによく似た彼にこう言うのだった。
「人が信じられないです」
「暗いことを言うね」
「どうしてもですね」
 彼はその顔で店長に話す。
「今は本当に」
「色々あるんだね。君も」
「ありますね」
 学校でも家でもだった。そのことは。
「最近本当に面白くなくて」
「何をしても」
「部活もする気ないですし」
 部活に入っても誰からも無視されるとわかっていたのだ。告白と失恋のことは学校中の誰からも言われていたからだ。
「ですから」
「そうなんだ。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「いい本があるよ」
 店長は微笑んで彼に言った。
「一冊ね」
「それってどんな本ですか?」
「まあ。偉人伝になるかな」
 店長は少し考えてから彼に述べた。
「そうした本だよ」
「偉人ですか」
「ワレンバーグって人は知ってるかな」
「ワレンバーグ?」
「スウェーデンの外交官だった人だよ」
 店長はそのワレンバーグという人物の国籍と職業も話した。
「ユダヤ人を助けたんだ」
「ユダヤ人っていいますと」
 彼はここからわかった。ユダヤ人を助けたというと。
「第二次世界大戦ですね」
「うん、戦争とは無関係のことだったけれどね」
「ナチスのユダヤ人への弾圧ですか」
 彼は学校の授業で教わったことをそのまま店長に話す。
「あの時のことなんですね」
「そうだよ。その時のことだよ」
 ナチスのユダヤ人への弾圧は戦争の頃に戦争と並行して行われていた為錯覚してしまうが実際は戦争とはまた別の行いだ。戦争による虐殺でも犯罪でもないからだ。
 党の、ナチスの弾圧として行われていた。そのうえでのことだったのだ。
 そのナチスの悪行のことを店長は彼に話していく。
「多くの人が死んだね」
「その時にユダヤ人を助けたんですか」
「君実際今人を信じられてないよね」
「はい」
 その通りだとだ。彼は店長に答えた。
「それはとても」
「だよね。そうだと思ったよ」
「わかるんですか」
「うん、この店には学生さんがよく来るけれど」 
 学生ということは彼もそうだった。
「けれど。辛い状況だと君みたいな感じなんだよね」
「僕みたいな」
「そう。暗い顔と目をしていて」
 店長はまずはそこから見ていたのだ。
「それで声の色も暗いから」
「そうしたことからわかるんですか」
「うん、そうなんだ」
 こう彼に話す。
「わかったんだ」
「ううん、そうだったんですか」
「何があったかは知らないけれど」
 店長も彼の過去は知らなかった。他ならぬ彼がそのことを話していないから。告白と失恋、その後の孤立と嘲笑のことはとても言えなかった。誰にも。 
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