リュカ伝の外伝
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恋愛の作法「恋文編」
(グランバニア王都:中央地区・マルティン邸)
ルディーSIDE
「如何かな……俺は芸術的なセンスが全然無いから、文章を書いても堅苦しい物になってしまうんだけど、今回のそれは色々な文献を読み漁って俺にしては情熱的に仕上がったと自負してるんだよ。芸術家志望の君に添削をお願いしたいのであるが……?」
「え? あぁ、うん、これね……膨大すぎて、新製品の企画書かと思ったよ……あはっ……あはははははっ!」
僕の目の前に数百枚はあるのではないかと思える書類の束を出してきたのは、最近お友達になった『マルティン・ゴライヤー』君。
優秀な成績で魔技高校にストレートで入学し、4年間無事に勉強と研究をする事にのめり込んで、去年めでたく卒業。
しかし魔法の研究に目覚めた彼は、そのまま魔技高校の講師として就職。
魔技高校側も彼の能力を評価して問題なく採用。
日夜、得意分野の熱魔法の分野で、人々の暮らしをサポートする開発が出来る様に努力をしている。純粋だが、決して悪い人では無い。
うん。悪い人では無いんだけど……
「如何したんだい? 先ずは読んでみてもらわないと……」
「うん。これね……読まなきゃ内容は理解出来ないよね。うん。そこが問題だと思うよ」
「ど、如何言う事だい!?」
「君は……何を書いてきたのかなぁ?」
「だ、だから……文学的な手紙を……」
「うん。そうだね……“文学的”な……恋文、つまりラブレターだよね?」
「そ、そんなにハッキリと言わないでくれよ……恥ずかしい(顔赤)」
そう……今僕の目の前にある書類の束は、マル君なりに頑張って文学的(?)に仕上げたラブレターなのだ。
しかも、たった一人に宛てた1通のラブレターなのだ。
如何してこうなっているのか……説明させてもらうから聴いてもらえるかな?
数週間前の出来事なんだけど、僕の乗ってるM・Hは燃費が頗る悪くてね……その日は雨も降っていて、更に燃費が悪くなってたんだ。
まぁ雨と言うより、風がかな?
向かい風を突き進むと、その分エネルギーを使用するから、通常状態よりもバッテリーの減りが早いんだ。
全ての魔道車に言える事なんだけど、M・Hに関しては如実にそれを感じ取れるレベルで魔道結晶が減っていくのを体感出来る。
尤も……魔道結晶の購入は王都内の居たる場所で行えるから、お金さえ持っていれば困る事は無いんだけど、偶然彼と出会った事で、今の状況へと繋がるんだ。……これが人との縁ってヤツかなぁ?
僕のM・Hの魔道結晶が完全に無くなり、仕方なく僕は魔道車を降りて一番近いコンビニ(魔道結晶取扱店)に傘を差して向かったんだ。
だけどその店には現在魔道結晶の在庫が限られていた。
無いワケじゃないんだけど、魔道車用の大きいサイズの魔道結晶が品切れになっており、在るのは小型の家庭用機器に使用する物ばかりでした。
それでも多少の充填は出来るし、もう少し先の店に行けば売ってるだろうから、別に絶望する必要は無いんだよ。
面倒くさいって気持ち全開で、他の店に行こうとしたんだけど……
そこで現れたのが彼君。
同じ店に居たらしく僕と店員さんの会話を聞いていた(故意にでは無く聞こえてただけ)みたい。
彼なりの善意からだろうが困ってる人(僕の事)を助けようと話しかけてきた。
話しかけられた僕は、かなり戸惑ったけどね。
他人を容姿で判断するのは如何なモノかと僕も思うけど、彼の容姿は初見では強烈に映る……
一言で言うと『真っ白キングスライム』って感じ?
声をかけられて振り向いた瞬間に思わず『うおっ!』って声が出てしまったからね。
でも本人は何時もの事の様で気にする事無く笑顔で居てくれた。
本当に良い人なんですよ。
これだけでも彼の良い人っぷりが窺えます。
そんなマル君ですが僕の話を聞いて、僕のM・Hに自分が魔力を充填すると提案してくれました。
しかも無料で……
流石に悪いから、そのコンビニで何か欲しい物を奢りますって言ったんだけど、そう言うつもりで話しかけたのでは無いから、気を遣わないでくれって言われて……
でも僕だって引けない。
何かお礼はしたいから、別に形ある物で無くても良いから言ってくれって頼んだんです。
そうしたら少しの間考えて……
『じゃぁ君(僕の事)の魔道車に乗せてくれ』
と言ってきた。
最初は運転したいのかなと思い、『免許はありますよね?』と訊いたんだけど、如何やら運転をしたいんじゃ無くて、まだ乗った事無いから運転手としてではなく同乗者として魔道車に乗りたいって意味でした。
更に具体的には、マル君の家はここから少しの所にあるのだけど、魔道車で送って欲しいとの事だ。
本当に直ぐそこ……徒歩2~3分の場所だった。
でも魔道車に初めて乗るので、敢えて少し別のとこまでドライブをして帰りました……10~15分のドライブでしたけど。
こんな事があり、年上で魔技高校出身者という接点の無いマル君と友達になったのですが……
彼は今……というより、結構以前から恋をしており、その事で思い悩んでいるのです。
色恋事なのでその道の師匠であるリュカ様に相談しようとも思ったのですが、ちょっと色々とあってリュカ様に相談しにくい精神状況にあるので、今回は遠慮してしまいました。
それで今に至るのですが、正直マル君の恋愛相談に首を突っ込むべきでは無かったと後悔をしております。
と言うのも、今初めて知ったのですがマル君が恋している相手がヤバいって事に気付かされまして……
目の前に置かれた恋文という別名を授かってる書類の束の先頭部分に、お相手様の名前を明記してあるのですが、そこには『スノウ・ホワイト様』と書かれておりました。
あれぇ~……この人僕知ってるよぉ~……
確かぁ~この国の王様のお妾さんじゃなかったけかなぁ?
確かぁ~……
スノウさんもピエールさんも、ご自身がリュカ様のお妾である事は秘密にはしてないと思ったけど……
マル君は知らないのかなぁ?
「あ、あのさぁマル君……き、君が好きになってる、この……スノウさんってさ……」
「あ、うん。結構な有名人だから、ルディー君も知ってると思うけど魔技高校で教鞭を執っているエルフ族の女性だよ。『ヒャド』系と呼ばれる冷気系統の魔法や技術に詳しい才女なんだよ!」
はいアウト!
色々な意味で駄目でしょ!
マル君には解らないのかなぁ?
「マル君さぁ……このスノウさんが王様の愛人だって解ってる?」
「解ってるよ。でもさ、人を好きになるのに理屈じゃ無い。そう色々な人が言ってる事だし、俺も同感なんだ。だから明確に駄目だと解るまでは諦めないでスノウ教授にラブコールを送り続けるつもりさ」
誰かの愛人って事態が明確に駄目な理由にはならないモノかね?
「如何やら君には女子の素晴らしさを理解出来て無い様子だな」
そんな事は無い! 僕の方がマル君より面識があるからね……
でも如何するか……
スノウ教授に僕の立場を説明しといて、僕がルドマン最高商評議会議長の孫である事は秘密にしてもらえる様に……
その為にはリュカ様にマル君の事を伝えて……
あれぇ~? これってリュカ様は既に存じている出来事なのかなぁ?
言っちゃぁ状況が拙くなったりしない?
まぁリュカ様だから、『俺の女に手を出すな!』とか言って死刑にしたりはしないだろうけど、周囲からの反応は冷ややかなモノになる。
そう言えばマル君はスノウ教授に如何程の気持ちを伝えているのだろうか?
何か周囲の状況から推測するに……ただ一方的にマル君の気持ちの高ぶりをスノウ教授に押し付けてる様に見えなくも無い。
と言うか、情熱的な文を書かせると目の前の書類の束が出来上がるのに、相手が誰であれマル君の愛する気持ちが伝わってるとは考えづらい。
きっと何一つも伝えられて無いと思う。
大体なんで僕がマル君の恋愛に首を突っ込まなきゃならないんだ?
つか、これ恋愛でもねーし!
相談されちゃって、その気になっちゃって、今に至る訳だけど、彼なりに他の文献……即ち他人が書いた恋愛小説等を読んできたのだろう。
当然だが今回の状況とは全然別物なんだから、考え方の参考程度にしかならないと思うけど、多様な方面でマル君の成長に繋がれば……
って場合でも無いか(笑)
だ、駄目だ……考えても何も解らない。
マル君には悪いけど、“この事態を知ってて放置した?”ってリュカ様に睨まれるのはゴメンだから、早めにお二人と会って聞き出しちゃうからね!
ルディーSIDE END
後書き
マルティン・ゴライヤー君のモチーフは
DBの人造人間19号です。
でも良い奴です。
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