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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第208話:打たれる先手

 
前書き
どうも、黒井です。

今回も前回に引き続き透×クリス成分マシマシとなりました。 

 
 港湾埠頭に出現したアルカノイズと、それを率いていたミラアルクとエルザを退けた透とクリス。残念ながらミラアルク達の身柄を拘束する事は出来なかったが、襲われていた3人は助けられたし何より現場には破損したアタッシュケースが残されていた。
 その内容物から、彼女らの……延いてはジェネシスの狙いが何か分からないかとS.O.N.G.はアタッシュケースを回収し内容物の解析を行った。

 その結果分かったのは、彼女らが運んでいたのは全血製剤だと言う事であった。

「全血製剤? 何それ?」

 耳に覚えのない単語に颯人達が首を傾げる。無理もない。昨今は成分輸血が主流となっている為、最早使われる事も無くなっていたからだ。切歌と調などはあれを見てケチャップか何かと勘違いしたほどである。

「全血製剤とは、端的に言えば血液の成分全てを含んだ輸血用の血液の事です。提供者から採取した血液にそのまま保存液を加えたもので、赤血球と血漿を同時にかつ大量に補給できます」
「今主流になっているのはその逆で、患者が必要とする成分のみを輸血する成分輸血が行われています」
「「「へぇ~……」」」

 医学用語なんて当然の如く知らない颯人達は、アリスとエルフナインの説明を半ば右から左に聞き流す形で聞いていた。返ってくる気のない返事に、アリスは了子、エルフナインと顔を見合わせ小さく肩を竦める。

「まぁ珍しくはあるけれど、変なものでない事は確かね。ただ……」
「ただ……何だい、了子さん?」

 首を傾げる了子に奏が問い掛けると、エルフナインがコンソールを操作しながら答えた。

「ただでさえ最近は珍しい全血製剤ですが、それ以上に気になるのがその種類なんです」
「種類? A型とかB型とかって言う?」
「いいえ、そちらではありません。あの子……あの狼人間の特性を持つ少女が持っていたケースに入っていた全血製剤の種類は、Rhソイル式……140万人に1人とされる所謂稀血と言われる種類の血液なんです」

 エルフナインから引き継ぐ形でアリスが説明する。その説明を終え、彼女は真剣な顔になった。彼女はあの2人の体の事情を知っている。その元となった技術を生み出した彼女には、あの2人が今どの様な状態なのかが容易に想像できたのだ。

「これは恐らく、あの子達の体が関係しています」
「関係って……」
「まさか、輸血を必要としているとでも言うの……?」
「概ねその認識で間違いではありません。もっと正確に言えば、彼女達は人工透析を必要としているのです」

 アリスが生み出した、人体に直接手を加えて欠損した部位などを再生させる技術。エルザ達はその延長線上に位置する技術を用いて肉体を改造されている。要は人間に無い機能を新たに追加する事で肉体を大幅に強化し超常的な力を手に入れるにまで至っているのだが、問題なのは新たに追加した能力が人間と言う生物の器を大きく超えてしまっている事にあった。

「あの子達は、嫌な言い方になりますが端的に言って人と人以外の部分を継ぎ接ぎした体の持ち主です。本来であれば拒絶反応が出て然るべきなのですが、彼女達はパナケイア流体を用いてそれを克服しているのです」
「ぱな、けいあ……?」
「何だか、またまた難しい単語が出てきて頭が沸騰しそうなのデス……」

 専門知識を出されても、そちらに関する知識は人並み程度かそれ以下しか持ち合わせていない戦闘メンバーである。アリスの説明にチンプンカンプンと言った様子で隣の者と顔を見合わせたりしている。それを見兼ねて了子が噛み砕いた説明をしてくれた。

「ま、端的に言えば人とそれ以外とを繋ぎ合わせる潤滑剤みたいなものと思ってくれればいいわ。それを力の源にしてるのが、あの錬金術師の女の子達って事よ」
「な、なるほど……」

 一応の納得を見せる響に対し、クリスは隣に立つ透を見てある疑問を抱いた。

「人と人以外……って事は、透の場合とは違うのか?」
「そうですね。透君の場合は元々あったものが損なわれた状態。パズルのピースが欠けた状態です。それを元に戻すだけなら、パナケイア流体も必要無いので人工透析も必要ありません」
「ほっ……」

 アリスが生み出したのと同じ技術を使われているのであれば、もしや透にも何か問題が起きるのではと一瞬危惧したクリスではあったが、幸いな事に彼の場合はそう大事になるような事もなく済んだ事に安堵の息を吐く。透はそんな彼女の背中を優しく撫でつつ、では肝心のエルザ達はどうなのかと言う事を訊ねた。

「それじゃあ、あの子達の場合は……」
「彼女達の場合は、パナケイア流体が時間経過で淀み、体を蝕んでしまいます。恐らく力を強く使えば使う程、その消耗は激しくなるでしょう」
「勿論力を使わなくても、その肉体を維持する為だけでもパナケイア流体は淀んでいく筈です。つまりあの人達は、生きる為に定期的な人工透析を必要としていると言えます」
「全血製剤を欲しがったのもそれが理由、か」

 エルフナインとガルドの言葉に、透は先程の自分の行いを後悔していた。彼女達が運んでいる物が何なのかを知らなかった……と言うより、何かを運んでいたと言う事すら知らなかったとは言え、自分は彼女達が生きる為に必要なものを取り上げる形となってしまった。彼女達が生きる事に何の罪もないと言うのに、それを阻害するような事をしてしまったのだ。
 あの時、エルザがテレポートジェムを取り出した時、それを妨害しなければ少なくとも彼女達が生存を脅かされる様な事は無かったのにと後悔せずにはいられない。

 そんな彼の気持ちを察したのか、クリスが優しくその手を取った。

「ッ、クリス……?」
「気にする事ねえよ。透は悪くねえ」
「でも……」

 もしあの戦いで、無理矢理にでも彼女達と対話をしようとしていれば何かが変わっていたのではないかと思わずにはいられない。そう思うと俄然、透は響の事を凄いと思えた。彼女は例え戦闘中であろうとも、危険を顧みず敵との対話に臨める覚悟がある。それに比べて自分は、まだ言葉を失っていた時の事を引き摺っていると情けなくなってきた。

 俯く透を見て、クリスは少し背伸びすると彼の両頬を包むように掴んで自分の方を向かせて正面から目を合わせて口を開いた。

「それに、だ。アイツらのケースを直接壊したのはアタシだ。責任があるとすれば透だけじゃなくてアタシにもある。だからそんな1人で気を落とすな」

 真剣な表情で、しかしどこか憂いる様な揺らぎを見せるクリスの瞳に透も漸く肩から力を抜いた。2人でどんな事も背負うと約束した筈なのに、自分はまた1人で全部背負おうとしていた事に気付かされたのだ。その間違いを教えて正してくれた、クリスの優しさに透の心も解される。

「ゴメン……ありがとう、クリス」
「ん……分かればいいんだよ」

 漸く落ち着きを取り戻した透にクリスも満足そうに笑みを浮かべる。そして冷静になって考えてみると、自分達は鼻先が触れ合う程顔を近付け合っている事に気付いた。

 ハッとなってクリスが周囲を見渡せば、颯人と奏は面白いものを見るような目で2人の様子を眺め、響や切歌、調達は顔を赤くして両手で顔を隠しながらも指の隙間から覗き見ている。翼にマリア、ガルドなど他の年長者に至っては温かいものを見る目を向けてくる始末。

 透の事を想うあまり周りの存在を忘れていた事に気付かされ、恥ずかしさのあまりクリスは透の胸板に顔を埋めてしまった。状況に気付いた透も、これ以上クリスを刺激しない様にと特に颯人達に対して静かにとジェスチャーしながら優しくクリスを抱きしめる。
 その様子に颯人と奏は声を上げずに笑いながら軽く手をタッチしあった。

 直後、2人がタッチしたのを合図にしたように慎次が部屋に入って来た。

「失礼します。被害者からの聞き取りが…………? 皆さん、どうしました?」

 何やら変な雰囲気が漂う発令所の様子に慎次が首を傾げる。弦十郎は思わず苦笑しながら、気にせず報告を続けるよう彼に告げた。

「気にするな。それより、報告の続きを」
「は、はい……。被害者達によると、埠頭にて、件の2人と黒ずくめの男2人を目撃し、麻薬の取引現場だと思ったようです」

 つまりは野次馬根性で覗き見していたらそれがバレて危うい所だったと言う訳か。好奇心は猫をも殺すとはこの事だと颯人は思わず溜め息を吐いた。

「バッカだね~。つか、普通の麻薬の取引現場だって見てるのバレたらただじゃ済まねえだろうよ」
「情報を警察か何かに売るつもりだったんじゃないのか? そう言う情報を提供すれば、幾らかは謝礼が入るだろ?」
「どうだったかな、奏?」
「んぁ~……何か拳銃の場合は一丁押収ごとに10万円とか聞いた事あるけど……」

 段々と話が脱線しそうになっていたので、弦十郎は軽く咳払いして颯人達の視線を集めて話を纏めた。

「つまり、ジェネシスを支援している者が居ると言う事か」
「ジェネシスか、それとも彼女達をかは分かりませんけれどね。ただジェネシスには錬金術関連の知識が乏しいでしょうから、彼女達を使える様にする為に彼女達を仲介に別の組織と手を組んでいる可能性は無きにしも非ずでしょう」

 実際それはあり得そうな話だと思った。ジェネシスとしては、小間使いはともかく本格的な仲間とするにはエルザとミラアルクは心許無いと言える。だがこれが、別の組織との中継ぎとしても意味合いを持つのであれば話は別だ。その第三者組織からの助力を受け、暗躍や策謀を巡らせてこないとも限らない。雑魚だった琥珀メイジの練兵もそうだが、ここに来てジェネシスが本気を出してきたような気がする。

「問題は仮にそうだとして、何処の誰が支援しているかと言う事だが……」
「考えられるのは、これまで幾度となく干渉してきた米国政府……」
「先だっての反応壁五発射以来、冷え切った両国の関係を改善する為に進められてきた、月遺跡の共同調査計画……疑い始めたら、それすらも隠れ蓑に思えてきてしまうわね」

 先の戦いにおいて、米国が無断で反応兵器を使用した挙句にそれで自国の領土を焼かれてしまった一件は人々の記憶にも新しい。あの一件で前大統領は退陣に追い込まれ、新たに就任した大統領は自国の政治家への不信を取り除く為に忙殺されている。

 表面上は関係改善の為に様々な協力をしている日本と米国……その裏で、米国が嘗ての覇権と栄光を取り戻す為力を付けて他国を出し抜こうとしていたとしても不思議ではなかった。つい最近米国空母がアルカノイズと魔法使いに襲撃されたりもしたが、それすらもパフォーマンスの一つと考えられなくもない。
 あおいの言う通り、疑い始めたらキリがなかった。

 暗中模索を絵に描いた様な先の見えない状況に誰もが押し黙った……その時、突如発令所に警報が響き渡った。何事かとあおいが即座にコンソールを操作し、警報の原因が何なのかを報告する。

「米国、ロスアラモス研究所が、ジェネシスの魔法使いと思しき敵性体に襲撃されたとの報せですッ!」
「何だとッ!?」

 ロスアラモス研究所とは、F.I.S.崩壊後に新たに発足された米国の先端技術の発信地点にして異端技術の研究拠点。先日の南極で発見された遺骸を運び込んだのもあそこである。
 そこがジェネシスにより襲撃された。やはり同じ魔法使いやシンフォギアが存在する日本の研究機関などに比べて、他国の研究機関は襲撃や緊急事態に対しては弱いと言わざるを得ない。幾ら国力があろうとも、それを活かし切るだけの防備が無ければ意味が無かった。幾ら高性能の銃を作ろうとも、弾が無ければ人一人を殺すのも難しいのと同じだ。

 朔也がコンソールを操作し、現地の映像を正面のモニターに表示する。幸いな事に映像はこちらにも回されたらしく、今現場で何が起こっているのかを知る事が出来た。

 果たして映像には、燃え盛る施設の様子とその中に佇む1人の魔法使いの姿がある。それは颯人達も良く知る、敵の幹部の姿であった。

「あれは……メデューサか!」

 特徴的な紫色の仮面と蛇が巻き付いた様な杖を持つ魔法使いはメデューサであった。彼女は崩れてあちこちで火の手が上がる研究所の中を進み、何かを探している様子だった。
 それが何なのかは直ぐに分かった。彼女は米国が南極から持ち帰った遺骸を回収しようとしているのだ。

 ガルドはそれを阻止しようと即座に魔法でロスアラモス研究所へと飛ぼうとした。テレポートの魔法を使えば一瞬だ。だがそれは、何時の間にか傍にいた輝彦により止められてしまった。

「止めておけ」
「輝彦、何故だッ! 今行かなければ、重要な遺骸が奴らの手に渡る事に……!」
「もう手遅れだ。奴らに先手を打たれた……その時点でこちらの負けだ。それに、今あそこに飛び込むのは自ら罠に掛かりに行くようなものだ」

 冷静になって考えてみれば、如何に魔法使いに対しては防備が手薄だと分かっていても何の策も無しに行動を起こすとは思えない。恐らく見えない所に別の幹部か何かを待機させているに違いない。
 無論この場の全員で向かえば対抗できない事もないだろうが、言うまでもなくそれは現実的ではない。こんな言ってしまえば局所的な戦いに全戦力を投入して、他所で何か起こればそれこそ問題となる。

 結局、今回颯人達に出来る事はメデューサが好き放題するのを見る事だけであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第208話でした。

気が付いたらまた透とクリスをイチャイチャさせてしまった。そろそろガルドとセレナとかももっとイチャイチャさせんとな。

本当は最後の方で颯人かガルドを研究所に向かわせて一戦交えさせようかとも思ったのですが、テンポが悪くなりそうだったので没。代わりに次回は思いっ切り戦闘回になるかもです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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