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得られない幸せ

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第一章

                        得られない幸せ
 その民族は欲していた。何を欲していたかというと。
「国だ」
「国が欲しい」
「自分達の国が欲しい」
 こう言うのだった。
「もう迫害されるのは沢山だ」
「国さえあれば迫害されない」
「自分達の国があればだ」
「私達はもう迫害されない」
「国があれば戦える」
 軍隊がある、だからだというのだ。
「外交もできるんだ」
「そして産業も持てる」
「あらゆる力が手に入って幸せになれる」
「国家があれば私達は守られる」
「もう迫害されない」 
 即ちだ。力があればいじめられなくなるというのだ。
「そうなるんだ。だから」
「国家が欲しい」
「絶対に欲しい」
「例え何があっても欲しい」
「どんなことをしても」  
 こう願ってだ。それで。
 大国の高官達に働きかけた。幸い彼等は知識人や銀行家、マスコミ関係者と影響力を持っている同胞が多くいた。その彼等の力を使ってだ。
 必死に働きかけ。ようやく。
 大国から建国の約束を取り付けた。何とかそこまで達した。
 しかしそれで終わりではなくだ。苦難はさらにあった。
 その場所は彼等の故郷だ。二千年程前に追われた場所だ。そこに戻ろうとしても既にそこには多くの他民族がいたのだ。
 それでだ。彼等は一旦立ち止まってこう議論をした。
「どうする?」
「あの民族をどうするか、か」
「そうだ。既に我々の土地にいるぞ」
「二千年開けた時に来ていたか」
「そして定住しているな」
「住んでいるぞ」
 このことが問題になっていた。彼等にとっては。
 しかしだ。ここで彼等はこの結論に達したのだった。
「あの土地は我等の土地だ」
「そうだ、我々のものだ」
「我々の土地に奴等が勝手に入り込んで住んでいる」
「そうしているだけだ」
「他の民族で宗教も違う」
 この結論に達したのだ。
「なら追い出しても構わない」
「追い出してそのうえで我等がそこに住む」
「あの土地は我等のものだからな」
「そこに勝手に入り込んだ連中のことなぞ知ったことか」
「何の容赦の必要もないぞ」
 こう話してだ。そのうえでだ。
 彼等は恐ろしい戦争と迫害を耐えた後でその土地に大挙して入り込んだ。そのうえで先に住んでいた者達を排除していった。
「この地に我々の国を興す!」
「我が民族の国を建国するんだ!」
「大国の支持も取り付けている!」
「御前達は出て行け!」
「俺達の国だ!」
「御前達の土地ではない!」
 武力までちらつかせてそのうえで彼等を追い出した。そうして。
 その地に入り込み建国をした。多くの他民族を追い出して。
 これで話が済む筈がなかった。その追い出された民族にだ。
 宗教を同じくする周辺各国がその国に一斉に宣戦を布告した。そしてだった。
 その国に雪崩れ込む。だが彼等は愚かではなかった。
 既にこのことは予測しておりかなりの装備を持つ軍隊を整えていた。その軍隊で各国を迎え撃ったのである。
 その戦争で彼等は国を守った。そのうえで。
 先住、彼等が言うには自分達の故郷に勝手に住み着いていた他民族への弾圧をさらに強めていった。容赦なく追い出し排除していった。それを見て。
 世界の僅かな者達が気付きだした。そしてこう囁き合うのだった。
「何かおかしいな」
「ああ、そうだな」
「あれは弾圧だな」
「間違いない、弾圧だ」
「迫害だ」
 このことにだ。彼等も気付きだしたのだ。
「彼等は二千年の間迫害されていたのではないのか?」
「弾圧され差別されていたのだろう?」
「虐殺も受けてきた」
「ペストの濡れ衣も着せられた」
 ペストは彼等が撒いたと言われていてだ。彼等は惨たらしく殺されていったのだ。  
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