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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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黒星団-ブラックスターズ-part8/近く遠い想い人

「にしても驚いたよな。まさかシエスタたちが、メイド喫茶で働いてたなんてさ」
「あぁ…」
メイド喫茶の一角の客席にて、メイドの格好で配膳しているシエスタとタバサ、テファと愛梨とアンリエッタ、そしてなぜかルイズとキュルケにハルナまでもが勤しんでいるのを見て、サイトとシュウは互いにそう呟く。
それは数日前、シエスタが最近ラクロス部の部活を早めに切り上げることが多くなったことと、そんな彼女にテファや愛梨も乗っかるように放課後を共にするようになったこと。サイトはシエスタを案じ、シュウは憐共々尾白に連れ出される形で連れ込まれた結果、そこでシエスタたちがメイド喫茶の従業員として働いていることを知った。しかもそのメイド喫茶はタバサの親戚が経営し、シエスタの叔父であるスカロンが別店舗の店長を務めている店舗だった。
シエスタはある理由でお金を稼ごうと親戚を頼った結果、叔父の伝でこの店にアルバイトとして雇われたのだと言う。
テファも孤児院の資金稼ぎに、アンリエッタは自身の組織と個人的な事情からお金が必要となり、愛梨もなぜかシエスタみたく小遣い稼ぎのために、そしてルイズとハルナとキュルケもはたまたなぜかここで働く意思を見せて今に至る。
ミスコンの前哨戦と謳っているルイズたちだが、その真意は…誰が一番メイドさんらしくサイトの気を引けるのかを競うためという、第3者から見るとしょうもない理由からであった。気がつけば期待の新人が多数現れ、タバサやスカロンは大喜び。
加えて、学校で評判の美人がメイド喫茶で働いていると言う噂を聞きつけて、サイトたちの学校の男子が下心丸出しに大勢押し寄せるように。
「でも、本当だったら俺たちの学校ってバイト禁止じゃなかったっけ?」
サイトが席を共にしているシュウ、憐、尾白、そしてギーシュに向けて問う。
「基本はそうだけど、ちゃんと事情を説明しとけば割と簡単にバイトはOKだぜ?志望大学の学費稼ぎとか、家庭の事情とかその他もろもろで。そのおかげで俺たちも遊園地のバイトやれてるわけだし。な、シュウ、尾白?」
「あぁ…」
「バイトを通じてかわいい彼女さえできたら、言うこと無しなんだけどなぁ」
シュウが頷き、尾白がどうでもいい願望を口にする。
「それは御尤もですね尾白先輩。ですが幸運でした!こうして美しい花々を愛で、彼女たちの祝福を享受できる素敵な場があるとぐばぁ!!」
尾白の下心丸出しの意見にギーシュが同調すると、そんな彼を咎めるようにサイトがげんこつを食らわせる。
「ったた…痛いじゃないかサイト!友に過剰な暴力を向けるなんて!」
「お前反省してるのか?本来ならこうして客がごった返す状況は、ティファニアたちが望む状況ではなかったはずだ」
頭をさすりながらサイトを非難するが、直後に自分に突き刺さるシュウの侮蔑と糾弾の意に満ちた視線に縮こまることになる。
そう、彼が今言った通り、本当ならシエスタたちは学校関係者や近しい知人たちには話さない上でアルバイトに勤しむはずだった。
「そうだぞギーシュ、お前とモンモンが軽々しく喋ったせいで、シエスタたちがバイトしてるのが学校中にバレたんだ。本当なら、皆に内緒でやるつもりだったんだぜ。特にテファ、大人数の人を相手にするの慣れてないタイプだろ。頑張ってはいるけど、きっとしんどいはずだぜ」
しかし、口の軽いギーシュとモンモランシーが喋ってしまったことが原因でたちまち、シエスタたちがメイド喫茶でアルバイトしていることが学校中の周知するところとなってしまったのである。特に大人しめな性格のテファには、いきなり大勢の人間に、それも男受けしやすい格好で晒し者になる状況は非常にやりにくいことだろう。
この時までには既にシエスタたちへの謝罪は済ませてあるのだが、こうして調子に乗っているギーシュについては反省の色があまり見られない。
「うぅ…もう謝ったんだから許してくれ」
「それが謝罪をするべきものの言動か?グラモン」
「まぁまぁ、それ以上いじめてやるなって。もうこうなったもんはさ、こういう店ってのもあるし、ここは敢えて客として楽しもうぜ」
許しを請うギーシュを庇うように、憐はこれ以上はやめるように言い、シュウもこれ以上ギーシュのためにピリピリするのも無駄なことだと悟ってそれ以上は言わないことにした。
本当なら内緒で行うはずのシエスタたちのバイトだが、結果的に客が増えたことは、店側としては好機であった。
この状況を見て更なる売り上げアップを目指したスカロンたちは、『チキチキメイドさんチップレース』なるイベントの開催を宣言。優勝したら店側から特別賞を授与できる権限を与えると謳うことで、より一層メイドさんたちの競争を加速させることになった。
このチップレースは実に効果を発揮し、開始して以来シエスタをはじめとしたメイドさんの配膳を求めて客がどっと押し寄せるようになった。

そんな感じで始まったチップレースの模様なのだが…

「か・い・ちょー!か・い・ちょー!」
「お呼びでしょうか?ご注文をお聞きしますね」
「シエスタちゃん、こっち向いてぇ!」
「ご注文ですね?少々お待ちを!」
シエスタはもとより手慣れているようで、スムーズに接客に勤しんでいた。アンリエッタも客の注文を一言一句ミスすることなく聞き届けている。他の生徒や教師とのコミュニケーションが重要視される生徒会長という立場にいるからこそ、客に不快な思いをさせることなく満足度の高い接客ができるのだろう。
「ティファニアちゃ〜ん!お冷オナシャース!」
「は、はぁい!すぐにお持ちいたします!」
「愛梨先輩!こっちにもサービスしてください!」
「はーい♪もう少し待っててね、たっぷりサービスしてあげますから」
しかし客の…特に学校の男子生徒らのあの反応、完全にアイドルの追っかけである。ティファニアの場合だと、男子が、彼女のとある部分の揺れっぷりを堪能しようと、空になったグラスに水を注がせたりしている。本人が気づいていないのはせめてもの救いか。…いや、果たして救いなのだろうか微妙だ。
「こここの下郎!む、むむむ胸がなんですってぇ!!」
「あ、ルイズの奴また客を殴った」
ルイズはそのプライドの高すぎる性格が災いして大苦戦。ぺったんこな胸をいじられたりで怒りを簡単に爆発させてしまっていた。案の定だな、と付き合いが短くも濃いサイトは思った。
「接客業する気あんのかあいつ」
「まぁまぁ、ルイズもまだ始めたばっかだろ。広い目で見てやろうぜ」
セクハラには同情するが、厳しい目でシュウがルイズの接客する様を見て呟く一方、憐が一応のフォローを加えて見守っている。
「そうは言うけど、憐先輩から見てルイズのあの態度どうなんすか?」
「…さぁ他の子の様子はどうなんだろうなぁ」
「お前あからさまだろ。話の避け方。あ、キュルケ〜!俺にもサービスくれ〜!」
「はぁい♪すぐにお伺いしますわ〜♡」
憐がいかにもなスルースキルを出したのを見てため息を出した尾白だが、そんな彼もキュルケの誘惑に股も惑わされていた。現に、わざとくびったけポーズをとって胸元を揺らし、なぜか自分だけ開けているメイド服の胸元の谷間を晒すキュルケの仕草に鼻の下が伸びている。
「あいつまた誑かされてるよ…」
憐はそんな尾白を見て呆れている。懲りない男だ。憐も可愛い子や美人は好きだと言えるが、尾白やギーシュのように女に見境なしなわけでは決してない。でなければ年上の彼女なんて作れっこないのだ。
「ご主人様がコーヒーを注文なさるだろうと思っていたので、はい、あらかじめ作っておきました!愛梨の愛情たっーっぷりの」
「うぉ!?いつの間に!」
「まさか、僕らの注文を先読みしていたとでも言うのか…!?」
「ご主人様のことなら、なーんでもお見通ですわ。…ねぇご主人様、よろしければこのコーヒーがもっとおいしくなれるように、おまじないをかけてみてもいいですか?」
「おまじない?…まさか」
「おいしくなーれ♪おいしくなーれ♪萌え萌え~きゅん♥」
「ずぎゅん!」
愛梨は緊張すらしておらず、それどころかシエスタやアンリエッタに匹敵しうる仕事ぶりであった。初日から二人同様の的確でスピーディ、そして客のニーズに全て応えきり、注文間違いや皿を割ったりこぼしたり、などといったミスが全くなかったのだ。それだけでなく、時折見せるあざとい仕草、客を惑わす言葉遣いを披露し、それはキュルケに近い、男を惑わす魔性の女の如くであった。今のように虜にされた男はすでに数知れず。
「きゃ!」
「うわ!冷てぇ!」
別の席からハルナの悲鳴が聞こえてきた。この混み合った環境が影響してうっかり転び、客の頭に水をぶっかけてしまったようである。
「ごめんなさいごめんなさい!すぐに新しいのをお持ちします!」
「ハルナは…ドジっ子属性で勝負か」
ハルナは元々裕福な家庭で育ってきており、普段の生活も親が雇った家政婦に頼っていることが多いらしい。そのせいか家事全般に不慣れであった。ましてや給仕なんて苦難の連続で、その点においてはルイズとほぼ同レベル。ただ良くも悪くもプライドの塊であるルイズと比較すると、客への礼儀はしっかり弁えている分だけマシかもしれない。結果的にドジっ子メイド・ハルナが誕生することとなった。
そのドジっ子ながらも直向きに給仕する様は、一応の人気は獲得できている。とはいえトラブルは元よりないことに越したことはない。いくら人気が出ても、皿を割ったり注文の品を落としたりすればその分だけ貰える給料も信頼も落ちるだけである。

それでも各々、メイドに瀕して仕事に勤しむのだった。



勤務時間が終わり、すでに全員元の制服姿に着替え終えたルイズたちも含め、サイトたち全員が店の外に出た。
「納得いかないわ!私が最下位ですって!?」
最下位は、悲しいことだが当然ルイズであった。
「いやルイズ、そうは言うけどよ…」
「サイトの言う通り。すぐに怒ってお客様に迷惑をかけるなんて論外。そんな状態でチップレースで上位なんて片腹痛い」
「うぐ…」
客に対して簡単にプッツンきてはグラスのお冷をかけるわ怒鳴るわ暴力を振るうわ、一部のマニアックな者を除いて客からの評価は最悪であった。ルイズはこの評価に不服だったものの、決して自分の過ちを認識できないほど愚かではない。タバサやサイトから的確な指摘を喰らって落ち込みはしたが、反省はしたようだ。
「準最下位はハルナ。手先が不器用すぎる。遅くてもいいから、慎重に。壊した食器の分だけ給料を引かせてもらったから、以後注意」
「うぅ…はい」
準最下位はハルナ。ルイズと比べると全く短気ではない分、上位に並ぶ女性陣同様に人柄面において高評価ではあるが、グラスを割ったり溢したりとドジっ子といえる不器用さが災いして、結果的に客に迷惑をかけた面においてはルイズに近い。サイトからの呆れと哀れみの感情が籠った目に「うぅ…平賀君、そんな目で見ないで〜…」と悲しそうに懇願した。
「二人はダントツのビリケツ。他のみんなと比べて売り上げがすこぶる低め。今日の反省を次回に活かすこと」
「「はい…」」
下位の二人と違い、それ以上の順に位置するメイドさんたちは接戦気味であった。厳しいタバサ先輩の注意に、反撃できる要素のない二人は素直に受け止めるしかないのだった。
「次の順位は私。その次の上位は、キュルケ。初めてにしてはかなり多くの客が取れてる。ありがとう」
「ふふん、当然よ。何たってあたしだもの」
タバサは無口で声が小さいところは接客業に勤しむ者としてはマイナス要素ではあるものの、客のニーズに的確にかつ迅速に応える仕事っぷりもあり、また彼女の幼さと儚げな、またはクールともいえる雰囲気がツボになった男子からは好評であった。…一部、タバサのことを『○門』だの『○波』だのと呼んで萌える、ルイズのとはまた違ったマニアックな客がいたが。
「あんな破廉恥な方法で客の気を引くなんて、本当に恥じらいのない女ね。」
「そういうあなたは恥じらいがすぎる上に堅物すぎて客の気を引く気があるのかすら怪しいじゃない。ま、硬いのは違うところで、あたしみたいな色気で攻められっ子ないでしょうけど」
「な…いい、色気がなくて悪かったわね!か、硬いってどどどこのこと言ってるのよ!」
「あーら、あたしはあんたの石頭のこと言ったつもりだけど?誰も胸だなんて言ってないわよ」
「うぐぐぐぐ…」
「ルイズ。また悪い癖」
「…うぅ」
キュルケは、既に御周知のとおりのお色気メイドキャラで攻めた。メニューを谷間から取り出したり、わざとおしぼりを落としてはそれを拾おうとした際にチラッとスカートの下に隠れた腿を晒したり、投げキッスもさも当たり前にして客を誘惑する。元よりその色気で多くの男子を虜にしてきたキュルケだ。入りたてとは思えない人気の急上昇ぶりだ。それを見たルイズが注意を入れるも、適当に言い負かされたり、逆に接客もまともにできない彼女の現状を指摘されて逆ギレしたせいで、かえって客からの評判を悪くしてしまうなんてこともあった。今もキュルケの挑発に乗り、タバサから再三の注意を食らう。
「次はティファニア。仕事のスピードはまだまだ、でも正確さ、客への気配りも悪くない。トラブルに対してしっかり対処もできてる。加えて嘘偽りのない真心からの対応が客からの好感度上昇。この調子で励んで」
「あ、ありがとうございます」
「ただ、客によっては難癖をつけたり強引に関係を迫る不届者もたまに出る。あなたも気をつけて」
「わ、わかりました」
ティファニアだが、孤児院と違い相手は同年代以上の客で、それも毎日違う客が変わり続けるためか緊張が目立った。加えて初めての接客業であるためどうしても不慣れさが露わになる。それでも子供たちの相手をした時のように、客一人一人の注文をしっかり聞き、当然未経験だったから多少の失敗もあったものの、即座に謝罪して機嫌を損ねないように気を配った。時間をかけてしまうことこそあれど直向きに、かつ健気に接客していった。その仕事ぶりと、加えてその美貌と抜群のスタイルが客の目を引いたため、彼女もまたキュルケ同様に客の人気は鰻登りであった。
「そして最上位は…シエスタ、アンリエッタ会長、そして…愛梨先輩」
そんな彼女たちでも、簡単に越えられなかったのは、すでにこのバイトで経験を培ってきたシエスタとアンリエッタ、そして意外にもテファたちと同様入りたてであるはずの愛梨であった。
「愛梨ちゃんが1位!?マジか!」
「すっげぇじゃん!こんなことってあるんだ!」
「むむ、まさか愛梨先輩がここまで人気を博すとは」
「私たちが今の順位を積むのに期間を要したのに、とても驚きましたわ」
前からの知り合いでもある尾白や憐もそうだが、同じく同列の1位であったシエスタとアンリエッタも、この結果には驚いていた。
「前から勤めてたシエスタと会長と並ぶ新人、まさに100年に一人の逸材」
「ふふーん、どうシュウ?私の仕事ぶり」
「まさか1位タイとはな…」
タバサからも太鼓判を押され、得意げになる愛梨。対するシュウも、こればかりは関心を寄せた。
「これでお堅いシュウも、少しは私の魅力に気づいたんじゃなぁい?」
「…まぁ、さすがに俺も驚いた」
率直な感想、実際のところ顔にほとんど出てないだけでシュウも驚いてはいた。っが、愛梨としてはもっと自分にメロメロになってくれるようなリアクションをシュウに求めていたらしく、愛梨は口を尖らせた。
「ぶぅ、またそんな適当な返事。ちょっとくらい興味を示してくれたっていいでしょう?ねぇテファ」
「ふぇ!?わ、私!?私は別に、その…」
急に愛梨から話をふっかけられ、テファは返答に困った。ここで素直にそうです、などと恥ずかしくて言えない。
「負けたわ…完全に」
「私たち、身の程知らずでしたね…」
この三人が1位を争ってる独壇場で、他の皆はその壁を越えられない状態である。サイトを巡ってシエスタと競い合っているルイズとハルナだが、もはや勝負にすらならない現実に打ちのめされたのは言うまでもない。
「ま、まぁまぁ!まだ初日だろ。また明日から頑張ればいいさ」
肩を落とす二人をサイトが慰める。
「ルイズ、あなたは本来賢い子です。自分の失敗を省みて、次に活かすことができるはずです。今回の反省点を振り返り、明日の勤務に備えてください。それでも無理だった場合は、私もサポートしますわ」
「あ…ありがとうございます会長。でも、会長自らお手を煩わせるわけには行きません。仰られたこと、しっかり胸に刻みますわ」
ここで落ち込むばかりになればそれこそ実家の家名を汚すことになる。サイトに続き、アンリエッタからも励まされたルイズは、落ち込んだ気分を奮い立たせようと気を張った。
「期待してますよ。っと、では私はここで失礼します。急がないと面会の時間に遅れてしまいますので」
ルイズが元気になったのを見て、ひとまず安心したアンリエッタは携帯電話から今の時刻を確認する。午後7時を過ぎている。予定の時が近づいていたようで、アンリエッタはもう行かなくては、皆に頭を下げて早々に歩き去ろうとする。
「面会?どなたかと会うお約束ですか?でしたらぜひ、このギーシュ•ド•グラモンに護衛をお任せあれ!」
「野暮なことするな。かえって会長が危ねぇだろ。お前と言う毒牙のせいで」
図々しく立候補してきたギーシュをサイトが諌める。
「失敬な!僕は紳士として彼女を安全にお送りするだけだ!」
口上は立派だが、これまでのギーシュの浮気性を考えれば全く説得力がない。寧ろある種の危険が迫るだけだ。アンリエッタやテファ以外の全員がギーシュに白い目を向けていた。
「知らないのギーシュ?アンリエッタ会長にはお慕いしてる方がいらっしゃるのよ」
これ以上ギーシュが食い下がらぬよう、ルイズはギーシュに一つの真実を告げ、それを聞いたギーシュ、加えて尾白がギョッとした。
「マジか!?」
「何い!?き、聞いてないぞそんなこと!一体どこの誰だ!会長に手を出すよからぬ輩は!」
「それはお前だろ。って、尾白先輩まで狙ってたのかよ…」
さらりとサイトが突っ込む。
「えっと…私情なのであまり公にお話ししておりませんでしたが、事実ですわ。実は私、心に決めた殿方がいるのです。その方が今、病院で今も静養中なので、少しでも力になれることがあればと思って」
それがアルバイトをやっている理由の一つなのだとアンリエッタは、ルイズの証言を肯定した。
「でも会長のご実家なら、お金の具面とか問題ないのでは…」
「これは私の、あの方のためにできることをしたいと言う我儘からなので。自分の力で彼のために尽くす姿を維持するのも、私なりにあの方…ウェールズ様への想いを貫くことにも繋がると思ったのです」
「素敵ですわ会長!私感動いたしました!意中の男への一途な愛を己の力で証明する、あたしそういうの好きですわ!」
「私も同感です。それほど会長から思いを寄せられてるそのお方、とても幸せな人だと確信いたしました!」
シエスタからの指摘に対し、自分個人の力で、想い人への愛を証明するという意思表示に、恋に熱を上げるキュルケはもちろん、シエスタをはじめ他の女性陣もまたアンリエッタを称賛した。
「シュウ、あたしはあなたの告白待ちだからね。あまり待たせちゃだめよ?」
「……」
聞いてないことを愛梨がシュウに向けてくるが、シュウは目を逸らして反応しないことにした。こういう話をいちいち振られると気が気でない。
「ぐぅ、会長…この高峰の花は既に誰かのものなのか」
がっくり肩を落とすギーシュ。そんなギーシュの方を尾白が手を置いて「わかる。俺も同じ気持ちだ」と語る。
「だから手を出そうなんて発想出すなっての。そんなにモンモンにシバかれたいのかよ。最初に会った頃だって、後輩の子に手を出してたじゃねぇか」
「いつの話を蒸し返してるのかね君は!」
「いつのってそりゃ…ん?」
未だにアンリエッタへ浮気心を抱き続けるギーシュにサイトは彼の過去の過ちを蒸し返すが、ふとあることに気づく。ギーシュが、確かケティという一学年下の子と浮気していたこと…それはいつのことかと言われると、なぜかそれを思い出せなかった。
「えっと、いつのことだっけ」
「私に振らないでよ」
なんとなくサイトはルイズに尋ねるが、他人の浮気の詳細情報なんて覚えたくもないものだそう
「やれやれ、君は人が悪いな。覚えのない罪状で僕をはめようだなんて」
「そう言って過去の過ちを誤魔化すところが余計に怪しいんだよな」
ギーシュがやれやれと肩をすくめて見せたが、憐はいかにも疑り深くギーシュを見ていた。
「本当に覚えがないんだが!」
「覚えてないほどなんて、ギーシュさんもう救いようがないですね」
「信用0」
「まぁギーシュだし」
反論するものの普段の女にだらしない態度が原因で『ギーシュは自分の浮気のことを深刻に捉えていない、いい加減なゲス野郎』と見なされ全く信用されず、ハルナやタバサ、加えて愛梨からも侮蔑の言葉と視線を浴びせられ、ギーシュは枯れた。
「…シュウ。悪いけど会長を送って頂戴。ギーシュは論外だし、だからと言ってこのバカ犬にさせようにも、ちょっと不安だわ」
「あぁ、わかった」
「あのさ、ちょっと待てルイズ。さっきの言い方だと、俺もギーシュなんかと同列扱いじゃね?」
先ほどのルイズの言い回し方の裏に隠れた意味を察したサイトは、不満げにルイズを睨む。
「当たり前じゃない。あんた目を離すとすぐ他の女に目移りするじゃない。それも特にむ…むむ…む…」
むむむとなぜか言い淀んだルイズ。
「む?なんだよ」
「あんたが逆立しても手に入らないものよねぇ」
「黙ってなさいよキュルケ!」
「そ、そうです!何もそれだけが女の子の魅力ってわけじゃないんですから!」
ここにして察しが悪くなったサイト。キュルケは肩を竦めながら叶わぬ望みを抱えるルイズを笑い、ハルナもルイズの不満に同調して言い返すのだった。
「じゃああたしも一緒にシュウに着いて行くね!」
「お、おい。くっつくな」
「ぬぉ!」
「くっそ、シュウの野郎…」
「あ~あ」
アンリエッタの身の安全というなら、特に断る理由もない。受け入れたシュウに乗っかるように愛梨も同行を決め、彼の腕に自分のそれを絡める。サイトや尾白からも、押し当たっている胸の感触を味遭わされているであろうシュウを羨ましそうに睨む視線が、彼に向けて突き刺さるのだった。ギーシュほど見境無しではないが、思春期男子であることは同じ二人であった。やっはり危険じゃないの…とルイズは苛立ちと呆れを同時に味わった。
「あ…」
愛梨がシュウの腕に自分のそれを絡めるだけでなく、わざと胸を押し当てるそれを見たテファは、反射的に声が漏れる。どこかその表情は…痛みを覚えているようにさえ見えるやや悲痛気味なものであった。
「…ティファニア、あなたも良ければ私たちと一緒に帰りませんか?」
「え、いいんですか?私まで」
そんなテファを見かねたのか、アンリエッタはテファも帰りの同伴に誘う。
「何も遠慮など。あなたは私のいとこではありませんか。先輩、ご負担をおかけしますが、どうですか?」
「俺は別に構わない」
シュウも特に断る理由はなかった。そこから流れるようにサイトたちは解散。枯れたギーシュに誰も目をくれなかった。



「ウェールズ様…あなたのアンが来ましたわ」
心電図やビープ音の鳴る一室の病室にて、アンリエッタは呼吸マスクを着けて眠っている青年に言葉をかける。この青年こそがアンリエッタの恋人…ウェールズだ。
でも関係があるのは彼女だけではない。
「ウェールズ兄さんだったのね、会長の恋人さんって…」
「知り合いだったの?」
テファの口から、元からウェールズのことを知っていたような口ぶりに愛梨が目を向ける。
「私とティファニアが従姉妹なのは既に聞き及んでいますわよね。私の父はウェールズ様のご実家から婿養子入りした身で、ティファニアのお父様もウェールズ様の父君とはご兄弟に有らせられるのです」
「でもお父さんは、実家から勘当されたの。お母さんとの結婚に猛反対してたから。兄さんのことも、話に聞いていたくらいでお話ししたことはなかったんだけど…」
しかし親戚関係でこそあるが、互いの親の事情が重なった結果、関わり自体は深くなかった。
「なんで反対されたの?」
「私、ほら…母がエルフだから」
愛梨から両親の結婚が反対されていた理由を、自分の耳に触れながらテファは説明した。
「…今更、種族の違い如きに拘るのか。当人が一緒に幸せになるなら、それに越したことはないだろうに」
「先輩…」
シュウは、種族の違いを理由にテファの両親の結婚に反対したウェールズの父親に対し、あくまで他人事ではあるとは言え悪印象を抱いた。
「私も叔父様の判断には賛同しかねます。だって、いくら兄弟といえど、結婚を決めるのは叔父様ではなく、ティファニアのご両親…当人の意思で決めることですもの。ですが、そう簡単に割り切ろうとも変わろうともしないのも、人の性かもしれませんわね」
アンリエッタもウェールズの父親がテファの両親の結婚に反対したことを良く思えなかった。
「でも私はティファニアのことはウェールズ様から幾度か聞いておりまして、ぜひお話ししたいと思っておりました。だから同じ学校で出会えた時は嬉しかったですわ」
「そんな、恐縮です…」
こんな自分にそこまで会いたがっていたのかと思うと、照れ臭さを感じるテファ。
「でもウェールズ様は、他国で父親…私の叔父上に当たるお方の仕事の補佐をなさっていた時に、ビースト事件に巻き込まれて以来、こうして眠り続けているのです…」
悲しげに目を伏せるアンリエッタは、意識のないウェールズのてをぎゅっと握る。以前なら握り返してくれていたであろうが、今は握り返してくる感触はない。
「…」
アンリエッタとウェールズを見て、シュウも表情を変えてはいないが悲しみを感じた。ビーストのせいでまた誰かが、こうして当たり前の幸せを奪われていく。アンリエッタと同じ悲しみと共に、このような不幸を招いたビーストへの怒りが沸々と湧き上がる。
「ウェールズ様、早くお元気な姿をアンに見せてくださいませ。そして、眠られた間の分だけたくさんお話ししましょう?もちろん、ここにいるあなたの従姉妹…ティファニア達とも。
それに、喜んでください。あなたが気にかけていたティファニアに、素敵な騎士様が隣にいらっしゃるんですよ。きっとあなたとも仲良くなれると思いますわ」
「私の騎士?………っ!か、会長!何言ってるんですかぁ!?」
「そうだよ!この人は私のなんだから!」
 自分に騎士がいる。それも隣に…と聞いたテファは横を見やると、真っ先に該当する男子顔が目に入る。このタイミングでの『騎士』の意味するところは一つ。それを理解したテファは顔を真っ赤にし、突然さらりと爆弾発言をかましてきたアンリエッタに声を上げる。愛梨も愛梨で聞き捨てならないぞと、シュウの所有権を主張し出す。
「あらあら、ふふ。女の戦いが始まったみたいですわ」
「笑ってる場合か、やめろ。ここは病室だ」
病院内で騒ぎを起こして目を付けられてはたまったものではない。愛梨の発言については突っ込み返そうかとシュウは二人に静かにするように注意した。
「そうだ。騒ぐのは止めた方がいい」
新たに耳に入った声に、シュウ達全員の意識がそちらに向いた。
「でなければ、我々のような輩に見つかりやすいのだからな!」
「誰!?」
そこに並んでいたのは…

「銀色のレイダー、シルバーブルーメ!」
一人は手が隠れるほどの長いセーターを着た銀髪の少女、
「赤いスナイパー、ノーバ」
一人は赤いマントを纏う少女、
「そして私こそ漆黒のリーダー、ブラック指令!」
最後の一人は黒いマントを羽織った黒い長髪の女、

「我ら『ブラックスターズ』!」

奇抜な格好をした三人の女達であった。
関係者以外の面会は許可されない状況での、見覚えのない人物達との邂逅。シュウと咄嗟にテファ達の前に立って彼女達を下がらせる。
「ブラック…スターズ?」
黒マントの女はシュウには目をくれず、後ろにいるアンリエッタに注目した。
「君が魔を封じる古い一族の末裔…アンリエッタ君だな?」
「私…?」
「悪いが君を連れて行かせてもらうぞ。我ら『ブラックスターズ』の野望成就にためにな!」




バイト先のメイド喫茶での勤務を終え帰路に立つシエスタは、サイトに自宅まで送ってもらうことになった。バイトの一件が発覚して以来、シエスタたちに粘着する客や不審者が帰り際を狙ってくることをルイズが懸念したためである。それらのトラブルを避けるためのボディガード役を引き受けることになったのだ。とは言えルイズとハルナからすれば、サイトにシエスタを任せるのは気が気でないこと。ならばと自分たちも同行しようかと考えたものの、帰り道が全く違う方角故に家が遠いため、無念だがこうしてサイトとシエスタが二人きりになるのを許すしかなかった。憐を頼ろうかとも思ったが、残念ながら予定があったとのことだ。
「サイトさん、帰り道の同伴、ありがとうございます」
「これくらいお安い御用だよ。俺たちの家ちょうど隣同士だし」
「ふふ、サイトさんがお隣さんでよかったです」
サイトとしても帰宅ついでにシエスタのお守りをするのは悪い気はしないしちょうどよかった。改めて隣人でよかったと思える。
「…」
しかしどうしてだろうか。なぜかサイトは、奇妙な気まずさを覚えて話を振ることができなくなっていた。
(き、気まずいな…俺、こう言う時シエスタとどんな話してたっけ)
突然、理由のわからない気まずさに困り果てるサイトだが、なんとか話題を探そうとする。
「あ、サイトさん。あれを見てください」
そんな中、シエスタがある方角を指差す。
「あれは…公園?」
指差した方角に、滑り台やブランコ等、いかにも幼い子供が遊ぶ遊具が並んでいた。
「覚えてませんか?私たち、小さい頃はよくあそこで一緒に遊んでたじゃないですか」
「えっと…」
言われてみて、サイトは昔の記憶を辿る。
…確か、よく同年代の男子とウルトラマンごっこしていたような…
(…ん?ウルトラマンごっこ?そんなのやってたか?)
サイトはその記憶に違和感を覚える。こんな記憶あっただろうか。確か自分はシエスタが言った通り、彼女とよく遊んでいたはずなのに。また記憶の語弊を認識して自分でも首を傾げる。そもそもウルトラマンの…ウルトラセブンの子である自分もウルトラマンだ。父は確かに憧れのウルトラ戦士だが、本物を知るからこそ、わざわざウルトラマンごっこなんてする気になれない。
「…あー、そういえば…そうだったな。確かおままごとしてたんだっけ」
振り返っているうちに、確かに幼いシエスタと一緒に遊んでいた頃の記憶が蘇った。
「ええ、かくれんぼもよくやってました。あの頃のサイトさん、本当に隠れるのが得意でしたもの。一度隠れたらなかなか見つけられなくて、どこにいるんだろって探してたら、あそこの土管の中に隠れて寝ていたんです。
後で話を聞いたおじいちゃんも『若い頃のダンにそっくりだな!』って大笑いしてました。サイトさんのお父さんも、いつの間にか姿を消すのがお得意だったとか」
「はは、そうそう。確かそん時、気が付いたらシエスタが隣に寝てたもんだから驚いたよ」
「ええ、私も気づいたら隣で寝ちゃって、次の日は風邪を引いて一週間も学校を休むことになったんですよね」
 お互いにその時の失敗談を笑って語り合う二人。当時はq一週間も休んだせいで、ただでさえ日頃の勉強不足さが一層祟ってさらに授業の内容に追いつけなくなったものだとサイトは笑った。
「他にもサイトさんと遊んでることをダシに、同じ歳の男の子からサイトさん揶揄われましたよね。それを聞いた私が泣いていたら、サイトさんはその子に対して怒って、私嬉しかったです」
「そんなこともあったんだ、俺それは覚えてなかったなぁ」
 サイトとしては、別段大したことではなかったので覚えていなかったようだ。とはいえ覚えていたとしても、シエスタの語る当時の、自分達の仲を揶揄った男子に怒っていたであろうとは思う。
「本当に、あの頃は楽しかったなあ。また戻れたらよかったのに。私とサイトさん、二人だけで…」
もう遠くなってしまった幼い頃の記憶に想いを馳せるシエスタは、遠い夕日を見上げる。
「サイトさん、今日は寄り道して行きませんか?」
だから少し、サイトを寄り道に誘い出してきた。
「え?いいけど、門限とか大丈夫なの?」
「ええ。お母さんたちにはちゃんとメールでお話を通せば、割と遅くまで大丈夫なんですよ。それに…」
「最近、サイトさんと一緒に過ごす時間が減ってきてますから、少しでも一緒にいたいんです。幼い頃の思い出だけじゃ、まだまだ物足りないですから」
「え…」
 シエスタが少し積極的に自分を誘ってきた意図を察したサイトは、思春期男児らしい照れを見せる。
「さ、行きましょうサイトさん!」
 サイトの悪い気は起こしてない反応を見て、シエスタは心の中でガッツポーズを決めると、サイトの手を引いて行くのだった。
しかし…

「きゃああああ!」

聞き覚えのある声による悲鳴が聞こえてきた。
「今の声って」
「会長!」
聞き間違いでなければ今のはアンリエッタの声だ。確か今日の帰り、交際中の男が入院している病院へ面会に、シュウたちがその帰路に同伴しているはず。
それでも今の悲鳴が聞こえてきたということは、なにかあったのだ。
「シエスタ、先に帰ってて。俺が様子を見てくる」
「そんな、危ないですよサイトさん!」
シエスタはサイトを引き止めようとする。サイトが行けば、仮にアンリエッタ達に何かが起きていた場合、サイトにもその危険が降りかかるだけだ。行ったところでどうにもならないだろうと言おうとするが、サイトは自分の予想を超えた速度で既にアンリエッタの悲鳴が聞こえた方角へ消えていった。
「…」
一人取り残されたシエスタは、ますます痛感させられた。
出会ってからずっと近くにいたはずのサイトが、どんどん遠い存在になってしまった寂しさを。
 
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