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第四章

「浩二君もそういうところ見てかしら」
「それで付き合ってるのかしら」
「その辺り気になる?」
「やっぱりそう?」
「うん、そう言われると」
 前から気になっている。明子も頷いてそのことを認めた。
「どうなのかしら。浩二君」
「こういうことって聞きにくいからね」
「自分から言うのって難しいのよね」
「だったら彼のことよく観察してね」
「そうすればわかるわよ」
「浩二君のことをなのね」
 明子も話を聞いてそうして言う。
「よく見れば」
「そう、胸か性格か」
「どっちを見て付き合ってるかね」
「見極めるのよ、よく観察してね」
「そうすればいいから」
「わかったわ。それじゃあ」
 明子も周りの言葉に頷く。そのうえでお握りを食べ終えるのだった。
 それから暫く浩二をよく見た。自分の胸を見ているのかそれとも性格なのか、それを見るようにしたのだ。
 数日見ているがそれでもよくわからない。浩二は相変わらずの広島弁で話してくる。視線はその都度変わる。
 それで明子はわかりかねた。どちらなのか。
 それでだ。ついつい言いそうになった。
 ある日の下校中にいつもの下校中にだ。我慢できなくなってこう切り出したのだ。
「あのね」
「何じゃ?」
「ちょっと」
 自分のどこが好きで付き合っているのか尋ねようとした。その為に言葉を出した。
 しかし途中で口ごもってしまった。言いかけたところで考えが揺らいだ。
 それで言葉を止めたがすぐにだった。二人の周りで異変が起こった。
「んっ、これは」
「雨?」
 急にぽたぽたとしてきた。浩二も明子も上を見上げた。
 さっきまで晴れていた空が急に曇っていた。それで雨が降ってきていたのだ。
 それを見てすぐにだった。明子は自分の鞄から折り畳み式の傘を出した。
 すぐに開いて浩二の上にかざした。それでこう言ったのだ。
「はい、濡れるといけないから」
「悪いのう」
「いいのよ。気にしないで」
「ちょっと待ってくれや」
 浩二はここでも広島弁で明子に応える。そのうえで自分もその手を己の鞄の中に入れてだった。
 折り畳み式の傘を出してこう言った。
「わしもあるわ」
「あっ、用意してたの」
「備えあればじゃからな」
 明子に守ってもらいながらその傘を開いての言葉だった。顔はにこりとしている。
「そうじゃからな」
「そうよね。やっぱりね」
「けれどそれでもな」
「それでもって?」
「いや、咄嗟に明子ちゃんが傘出してくれたけえ」
 それでだというのだ。
「助かったわ」
「私が出して?」
「そうじゃ。濡れずに済んだ」
 自分も傘をさしてそのうえで話す。
「その気遣い、凄く嬉しいわ」
「こんなの普通じゃないの?」
「祖父ちゃんが言うとるわ。普通のことを普通に出来る人がな」
「凄いっていうのね」
「そうじゃ。明子ちゃんいつもそうじゃろ」
 普通の気遣いを普通に出来る。それでだというのだ。 
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