歩きスマホは悪いけれど
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第一章
歩きスマホは悪いけれど
道を歩いている若者を見てだ、野上利治長い顔と鼻の下が目立ち小さな目と短くした白髪の老人である彼は首を傾げさせた。痩せていて背は一七七ある。
「スマホをするのはいいが」
「歩きながらは?」
「よくないな」
一緒にいる妻も友加里小柄で丸い顔で白髪の穏やかな顔立ちの彼女に言った。
「やっぱり」
「皆言うけれどね」
「ああした子はいるな」
「何処でもね」
「歩く時は歩く」
野上は強い声で言った。
「そうじゃないとな」
「危ないわね」
「だからな」
それでというのだ。
「ああしたことはな」
「したら駄目ね」
「よくないな」
またこの言葉を出したのだった。
「本当に」
「それはそうだけれど」
妻は夫にそれでもと言った。
「あまり五月蠅く言うのもね」
「それで聞く子もいればな」
「聞かない子もいるでしょ」
「そうだしな」
「まして顔見知りでもない子に言うと」
「トラブルにもなるしな」
「言わないことよ、それはそれでね」
知らない相手に言うこともというのだ。
「相当なことでないとね」
「歩きスマホはまだ相当じゃないか」
「普通にそれで歩いていたらいいでしょ、ぶつかりそうでないとね」
「それならか」
「いいでしょ」
「そういうものだな、わし等の若い頃もな」
夫はここでその頃のことを思い出した。
「思えばもっと酷かったか」
「歩きながら本読んだりね」
「スマホじゃなくてな」
「新聞とかね」
「煙草だってな」
所謂歩き煙草の話もした。
「あれで火傷した人もいたし」
「歩き煙草を下に持っていて擦れ違った人と」
「わし等の若い頃も人のことは言えないな」
「歩き煙草と比べたら歩きスマホはまだね」
「ぶつかったり交通事故になりそうでないとか」
「まだね」
歩き煙草と比べてというのだ。
「いいわよ、それに下手に言ってトラブルになるより」
「いいな」
「まだね」
こうした話もしたのだった、そしてだった。
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