有能な人材を追い出すと

「監督が中村追い出したな」
「コーチのな」
「いいコーチだ」
　中村紀洋、彼はというのだ。
「打撃理論があって教え上手でな」
「しかも熱心だな」
「しかも親しみやすい」
「選手から見てな」
「だが監督は追い出してな」
「いい助っ人も二軍に置いたままだな」
「いい監督やコーチ、選手をな」
　そうした人材をというのだ。
「追い出しているとな」
「強くなるどころかか」
「今みたいにな」
「弱くなるか」
「そうだ」
　まさにというのだ。
「本当にな」
「やっぱりそうか」
「今のフロントは駄目だ」
　老人は言い切った。
「そして監督もな」
「生え抜きのスター選手だったけれどな」
「期待したけれどな、わしも」
「皆そうだったな」
「しかしな」
「ああしてか」
「中村コーチを追い出してな」
　そうしてというのだ。
「いい選手でも気に入らないとな」
「それ言われてるな」
　マスターも言った。
「干しているって」
「そんな風だとな」
「強くなる筈がないか」
「有能な人間は野球でもな」
「使わないと駄目だよな」
「干す、ましてや追い出すとな」
　そうすると、というのだ。
「強くなる筈がない」
「今の中日はああなって当然か」
「ああ、思えばそれはな」
「落合さんからか」
「そうだろうな、あの時も何でだと思ったが」　
　それでもというのだ。
「今はな」
「余計に思うな」
「ああ、ドラゴンズがまた黄金時代を迎えたいなら」
　老人はコーヒーを飲みつつ言った。
「いい人材を追い出さない」
「それが一番だな」
「フリーエージェントで逃げられることもな」
　そうなることもというのだ。
「同じでな、そうでないといい選手も育たない」
「人を追い出すってことは人を粗末にしているってことだからな」
「人を粗末にする場所で人が育つか」　
　そもそもというのだ。
「言うまでもないな」
「全くだな」
「そうだろ、しかしわしはもうドラゴンズの日本一を見た」
　老人は微笑んでこうも言った。
「杉下が投げた以来のな」
「だから満足しているか」
「あの時もうこれでいいと思った、後は若いモンが見てくれ」
　老人は微笑んだまま言った、だが彼はそれからも長生きした。そうしてドラゴンズを愛し応援し続けたのだった。


有能な人材を追い出すと　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２４・６・１８