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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第205話:絞り出される怒り

 戦いに突如乱入してきたジェネシスの新たなる幹部・オーガと、オーガに引き連れられてきた増援の魔法使い達。

 その登場によって颯人達は苦しい戦いを強いられていた。

「オラァァッ!」
「チッ!?」

 オーガはその名の通りパワーに秀でているらしく、バランス型の颯人ではその攻撃を完全に受け止めきる事が出来ない。迂闊に受け止めようとすれば防御毎押し切られて叩き潰されるのが目に見えているので、颯人は回避を基本に立ち回らざるを得なかった。

 颯人達S.O.N.G.の魔法使いの中で基本パワーに優れているのはガルドなのだが、彼は彼でベルゼバブを相手に釘付けにされている。インスタントにコネクトと同様の魔法を連発し、こちらの攻撃を無力化どころか跳ね返したり不意打ちをしてきたりするベルゼバブの攻撃にガルドも致命傷を防ぐので精一杯と言う様子だった。

 ならば他の装者や透はどうしているのかと言えば、彼ら彼女らは増援のメイジと錬金術師ミラアルクとの戦いで颯人達の援護に向かう余裕が無かった。

 魔法少女事変の頃から活動を控えめにしていたジェネシスであるが、どうやら連中はただ静かに潜みながら配下の魔法使いを増やすだけでなく、練兵して魔法使い全体の練度を底上げしていたらしい。オーガと共に現れたメイジは全員雑魚の琥珀メイジの筈だが、その動きが明らかに以前よりも良くなっている。巧みな連携と個人の技量にも優れ、数の利を生かして装者達を追い込んでいく。

 とりわけ苦戦を強いられているのは透だった。彼は最優先攻撃目標にされているのか休む間もなく攻撃の的にされ、動きに徐々に疲労が現れ始めていた。

「透ッ!」

 複数のメイジに集られる様に攻撃されている透の姿に、クリスが彼を援護しようとガトリングの銃口を向けた。だがそれは別のメイジの攻撃により妨げられ、砲身を破壊されたガトリングをクリスは手放さざるを得なくなる。

「クソッ、邪魔すんなッ!」

 苦し紛れに放つ小型ミサイルが、蜘蛛の子を散らす様にメイジ達を遠ざける。その間にクリスは再度展開したアームドギアをクロスボウにして光の矢を無数に発射。周囲にばら撒く様に放たれた光の矢により、メイジ達は強制的にその場を退避せざるを得なくなり、結果透もメイジ達の攻撃から一時的にだが何とか解放された。
 メイジが離れると、透は肩で息をしながらその場に膝をつく。

「はぁ、はぁ……」
「透、大丈夫か?」
「く、クリス……ありがとう」

 クリスに感謝しながら立ち上がる透だったが、その足取りは何処か覚束ない。先程まで苛烈な攻撃に晒され、大分体力と魔力を消耗したらしい。これ以上の戦闘は危険だ。

 一方響と切歌、調の3人もまた、メイジとミラアルクの攻撃により押さえつけられていた。

「くっ! コイツ等、明らかに前より強いデスッ!」
「洗脳されてるだけって話だったけど……」

 背中合わせになりながら、メイジ達の強さに険しい表情になる切歌と調。連携により互いの隙を無くして単体でも多数でも相手取れる2人であるが、相手も互いに脳内で繋がっているかのような連携を取られては苦戦も免れない。今まで彼女達が戦ってきた相手は、単純に個で異常な強さを持つかただ単に数で押してくるかの二択が主だったのだから。
 それでも険しい戦いを強いられながらも持ち堪えているのは流石と言ったところだろうか。

 そして響は1人、自在に空中を飛び回りながら時に急降下しパワーを増強させた腕や足で攻撃してくるミラアルクを相手にしていた。

「くっ! 何でこんな事をッ!」

 響は分からなかった。アリス達の話では魔法使いと錬金術師は仲が悪いと言う話だった。事実、時折目にするミラアルクとベルゼバブのやり取りを見る限り、両者の間に協調性の様な物は感じられない。ベルゼバブは明らかにミラアルクを見下しているし、ミラアルクは明らかにベルゼバブを敵視している。今にも互いに取っ組み合いを始めそうな両者が、何故こうして揃って立ちはだかるのかが響には理解できなかった。

「うるせぇッ! お前には関係の無い話なんだゼっ!」
「そんな事ッ!」

 響からの言葉を一蹴し、上空から肥大化した両足による蹴りをお見舞いするミラアルク。響はそれをジャッキを引いたガントレットによる一撃で迎え撃ち、両者の攻撃がぶつかり合った結果周囲には衝撃波が発生し運悪く近くに居たメイジがその衝撃で吹き飛ばされた。

 響はそのまま力を強く籠め、ミラアルクからのドロップキックを拳で押し返し殴り飛ばした。

「おぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うぉっ!? この、馬鹿力がッ!」

 まさか拳を振り抜いて蹴りを押し退けられるとは思っていなかったミラアルクは、空中でねずみ花火の様に回転しながらも何とか体勢を立て直す。そして顎先に流れてくる汗を拭いながら、再度響に突撃し今度は両腕を肥大化させての力比べに移行した。人外の腕となった両腕で掴みかかって来るミラアルクを響が正面から迎え撃ち、互いの手を押し合い互いの吐息が掛かる程顔を近付け合っての押し相撲が始まった。

 両者一歩も引かず睨み合う2人。その時、ミラアルクが響の目を見ながら微かに笑みを浮かべた。

「……フッ」
「え?」
「分かるゼ、今イグナイトモジュールがあればって考えてるんだろう?」
「あっ!」

 ミラアルクの言葉は事実であった。正面からの力比べであれば、単純に出力が上がる決戦機能であるイグナイトさえあれば圧倒出来る。だがあの機能は、先のパヴァリア光明結社との戦いの最中に失われてしまった。
 アダムがサンジェルマン達から奪ったラピスの力を乗せた砲撃。あれを受け止める際に響達装者はそのエネルギーを用いて纏うギアをリビルドした。お陰で従来のギアに比べて大きく出力を上げる事が出来るようになった訳だが、その代償として彼女達はイグナイトもジールを失ってしまっていたのだ。
 ミラアルクはその事を知っていたのである。

「決戦機能を失って、戦力ダウンしたのは調べが付いてるんだゼ!」

 決戦機能が使えなければ、単純な出力勝負では負けないとミラアルクが響を押し込もうとする。が、彼女はそれに抗い逆にミラアルクを押し返し始めた。

「だからって、負ける訳にはぁッ!」

 徐々に響の腕がミラアルクを押し返す。それに対し、ミラアルクは響の目をしっかりと見据えながら、その目をステンドグラスの様に輝かせた。

「ッ!?」

 直後、響は一瞬意識が途切れたようなおかしな感覚を覚えた。まるで授業中に一瞬居眠りをしてしまったかのような、僅かに時間が飛んでしまったような奇妙な感覚。思わず力が抜けかけるのを、彼女は気合で押し退けミラアルクを無理矢理引き剥がした。

「くっ!?」
「な、何ッ!? 今のは……」

 未だ何処かフワフワとする頭から、靄を払う様に頭を手で押さえながら首を振る。そんな響の姿に、ミラアルクも苦い顔をした。

「チッ、流石に虚を突かないと、目くらまし程度か……」

 互いに苦い顔をしながら睨み合う響とミラアルク。

 S.O.N.G.とジェネシスの戦いは一進一退の様相を呈しながら、しかし長時間戦っている颯人達の方が徐々に押されつつある。
 そんな中で颯人は一瞬の隙を見てフレイムドラゴンとなり、オーガを相手に尚も激しい攻防を繰り広げていた。

「フンッ! ぜぁぁっ!」
「くそ、この野郎ッ!」
〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉

 ドラゴンの力を借りながらも尚こちらを圧倒してくるオーガの力に、颯人は悪態をつきながらもスペシャルの魔法を使い強烈なブレスによる攻撃をお見舞いした。生半可な防御では防ぐ事叶わない威力の火炎。
 だが次にオーガがやってきた行動は、颯人の予想を超えていた。

「ハッ!」
〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉

 颯人のスペシャルに合わせる形で発動したオーガのスペシャル。するとオーガの体が左肩から右腰に掛けて裂ける様に大きく開き、その中に颯人が放ったブレスが吸い込まれて消えてしまった。

「はぁっ!?」

 防がれるか避けられるかするのは予想していたが、まさか吸い込まれるとは思っていなかった颯人は一瞬驚きその場で固まってしまった。オーガはその隙を見逃さず、颯人に向けて手を向けるとその手から先程彼自身が放ったのと同じ炎を放ち攻撃してきた。

「喰らえッ!」
「なっ!? うぉぉぉぉっ!?」
「ハヤトッ!?」

 自分で放った炎を自分で喰らう事になり、颯人は回避が間に合わず炎に炙られ吹き飛ばされる。壁に叩き付けられる彼を心配してガルドが駆けつけようとするが、その彼の前にベルゼバブが空間を繋げて放った刺突を放ち動きを妨げた。

「ぐっ!? チィ、邪魔するなッ!」

 ベルゼバブの妨害により颯人の救援に向かう事が出来ずにいるガルドを尻目に、オーガは大剣を肩に担ぎながらゆっくりと颯人へと近付いて行った。

「んっんー、悪くねえな。なかなか使い勝手が良さそうだ」
「テ、テメェ……俺の魔法を食ってそのまま自分の物にしやがったな……」
「ご名答。俺は何でも食って自分の力にする事が出来るのさ。それこそ技や魔法だけじゃなく、こんな物までな?」

 そう言ってオーガが切歌と調の方に手を向けると、その手に錬金術の陣が浮かび上がり無数の魔力弾が2人に向けて放たれた。予想外の方向からの予想外の攻撃に、2人は僅かながら反応が遅れその攻撃により被弾してしまう。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
「切歌ちゃん、調ちゃんッ!?」
「余所見とは随分余裕だゼッ!」

 悲鳴を上げて吹き飛ばされる2人を咄嗟に助けようとする響だったがミラアルクがそれを妨害する。透とクリスもまた多数のメイジを相手にせざるを得ず、ガルドも同様と言った具合であった。

 このままでは被弾した2人がメイジにより袋叩き似合う。だが現状、誰も2人を助けに向かう事が出来ずにいた。
 この事態に颯人はどうするべきかと頭を回転させる。今この瞬間、オーガをやり過ごして2人の救援に向かうのは厳しい。もし今、インフィニティーになる事が出来るのであればどうとでも出来る自信があったが、指輪を付け替えて魔法を発動するまでの間にオーガが何もしないでいてくれるとは思えない。

――だったら……――

 隙が無いなら作ればいい。颯人はこっそりと自分の体の影で隠れた方の手に何かを仕込み、それを使ってオーガに一瞬でも良いから隙を作らせようと画策した。そして切歌と調の2人から興味を失ったオーガが、再び颯人の方を見た。

 その時、出し抜けにオーガの体を燈色と青色の竜巻が吹き飛ばした。

[双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-]
「ぐぉぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あ? これって……」

 突然の奇襲に対応できず吹き飛ばされていくオーガ。見覚えのあるその技に颯人だけでなくS.O.N.G.の誰もがその技が飛んできた方を見れば、そこには何時の間にそこに居たのか既にシンフォギアを纏っている奏と翼、そしてマリアの3人がこちらに向かって来ていた。

 3人は三手に分かれ、マリアは切歌と調、翼は響の元へと向かい、奏は膝をついている颯人の元へとやってきた。

「待たせたな、颯人。ここからはアタシも一緒だ!」

 アームドギアを構えながら言う奏に、颯人は一瞬言葉を失いながらも頭を振って気を取り直す。

「いや、ちょ、待て待てッ! コンサートはどうしたんだよッ!」
「安心しろって。アンコールも込みでさっき全部終わった」

 まさかと思い颯人が懐中時計を取り出せば、時刻は終了予定時間をとっくの昔に過ぎていた。遠くから見える会場の方を見れば、鮮明には見えないがそれでも会場を離れていく車の動きなどが見て取れた。

 その光景に呆気に取られる颯人に対し、奏は彼の胸板に軽く拳を当てながら感謝の言葉を口にした。

「ありがとうな。颯人の、皆のお陰で歌を聞きに来てくれた人達は皆楽しんでくれた。皆が笑顔で、アタシと翼、マリアの歌を聞いてくれた。誰1人失われずに、だ。あの時とは違う」

 奏の脳裏に、3年ぶりに颯人と再会した時のライブの光景が思い浮かぶ。あの時は多くの観客に犠牲が出てしまった。だが今回は違う。全ての観客が楽しみ、満足しながらこのライブを思い出に帰っていった。それはただライブが成功したと言う事以上の安心と満足感、達成感を奏達に齎してくれた。
 颯人は奏から向けられる笑みに、それまで体に圧し掛かっていた疲労が抜けていくのを感じた。あれ程重く感じていた体が今は驚くほど軽い。胸に当てられた拳を通じて、力が流れ込んでいるような感覚を味わっていた。

 気付けば颯人は胸に当てられた奏の手を包む様に掴んでいた。

「そっか……今度は、しっかり守れたんだな」
「あぁ」
「なら、後は……」
「アイツらを何とかするだけってな!」

 そう言って2人が視線を向けた先では、奏と翼の合体技で吹き飛ばされたオーガが体勢を立て直している姿があった。オーガは痛めた首筋を気遣う様に首筋に手を当て、筋肉を解す様に数回首と肩を回している。

「ちっ、そっちも増援か。まぁいい、どれだけ来ようと皆俺が食ってやる」
「上等だ。食えるもんなら食ってみやがれ。奏、行くぞ!」
「あぁっ!」

 颯人と奏は手に指輪を嵌め、それぞれハンドオーサーとギアコンバーターに翳した。そうして発動するのは、互いに信じあい愛し合うからこそ生まれる最強の魔法。

〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉
〈ブレイブ、プリーズ〉

 インフィニティースタイルとなった颯人と、ウィザードギアブレイブとなった奏がオーガの前に立ち塞がる。2人から放たれる気迫にオーガは一瞬気圧されそうになるも、それを堪えて足を前に進め大剣を2人に振り下ろした。

「オラァァァッ!」

 振り下ろされた大剣を、颯人はアダマントストーンの鎧で受け止める。レギオンファントムの一撃すら容易く受け止めた鎧は、オーガの大剣でも傷一つ付かない。逆にオーガは全力を乗せた一撃を弾き返され、大きく体勢を崩してしまった。

「ぐっ!?」

 弾かれた反動で仰け反ったオーガに、すかさず奏が一撃叩き込む。穂先に炎を纏った槍のフルスイングで、鎧に包まれたオーガの胸元を焼き切りながら吹き飛ばした。

「ぐぁっ!? く、このぉっ!」

 吹き飛ばされながらオーガは颯人から吸収したドラゴンブレスを奏に放つ。だが奏はそれを体を炎に変換する事で無力化し、そのままオーガに突撃して体を再構築し槍を振り下ろした。

「ハァァッ!」
「がはっ!? ち、だがなぁっ!」
〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉

 オーガが再びスペシャルの魔法を使った。大きく裂けて口の様に広がるオーガの体は、そのまま奏を一飲みにしようと迫る。

「その力毎、俺が全部食ってやるぜッ!」
「させるかよッ!」
〈インフィニティ―!〉

 奏がオーガに丸呑みにされようとした時、颯人がインフィニティーの指輪による超高速移動を発動。一瞬で奏の元へと近付き、彼女をオーガから引き剥がすと空振りしたオーガの背後に回りアックスカリバーで逆に一撃を叩き込んだ。

「ハッ!」
「がぁぁっ!? く、そがぁっ!」

 背後を取られて怒りに任せ大剣を振るうオーガ。だが颯人はそれを素早く回避し、攻撃を外して隙だらけになった所を奏が攻撃。槍の刺突でもんどりうって倒れた所に再び接近した颯人の蹴りが炸裂しオーガは一回転してひっくり返った。

「ぐはっ!?」

 颯人と奏のコンビネーションの前には、得意の”喰らう”魔法も使う暇がない。

 オーガが2人に圧倒されている頃、翼は響と共にミラアルクと対峙していた。

「立花、大丈夫か!」
「はい!」

 それまで1人でミラアルクの相手をしながら、時に横やりを入れてくるアルカノイズやメイジに手を焼かされていた響は翼が来てくれた事で精神的にも持ち直した。守るべきライブを守り、誰1人犠牲にせずに済んだ。その事実が自信となって響に力を与えてくれた。

 対して、ただ事では済まないのがミラアルクである。響だけでも彼女1人では持て余したと言うのに、翼まで相手にしていては敗北も覚悟しなければならない。
 しかも彼女には、単純に戦う以外の目的もあったのだ。しかし…………

――チッ、ありゃダメっぽいゼ。あっちの黄色と同じで、今は虚が突けねえ。クソッ! 本当だったらライブに便乗して揺さぶるつもりだったってのに……――

 奥歯を噛みしめながら苦い顔をするミラアルク。一向に攻撃を仕掛けて来ない彼女に、翼は様子を伺っていると見て先んじて攻撃を仕掛けた。

「来ないのか。ならばこちらから行かせてもらうッ!」

 足のブレードをブースターにして一気にミラアルクが居る高度まで上昇する。迫りながら大剣を構える翼に、ミラアルクは舌打ちをしながらも片腕だけを肥大化させてその一撃を受け止めた。

「このっ!」
「その腕、その耳、やはりただの人間ではないな。貴様、一体何者だッ!」

 ミラアルクが錬金術師である事は既に理解している。そしてここ最近、錬金術師といざこざが起きている事に加えてその錬金術師とジェネシスが手を組んでいる事も把握していた。これらから導き出される答えは、ミラアルクもまた先日空母を襲撃した錬金術師の仲間であり、彼女もまた聖骸を狙っている一味であると言う事に他ならない。そんな輩が何故自分達のライブを襲撃しようとするのかが分からず、翼は剣戟をお見舞いしながらその真意を問い質そうとした。

「答えろッ! 貴様ら、一体何が望みだッ!」
「うるせえんだ、ゼッ!」

 翼の攻撃を受け止めつつ、ミラアルクはもう片方の腕も肥大化させそれでもって翼を殴りつけた。一撃放った直後の翼は、この攻撃を完全に受け止めきる事が出来ず地面に向けて殴り飛ばされてしまった。

「うぐっ!?」
「翼さんッ!」
「案ずるな、大した事は無い……!」

 地面に叩き付けられた翼を心配する響だったが、翼は即座に体勢を立て直す。その様子に腹の底から呻き声を上げながら、ミラアルクはいよいよ限界である事をベルゼバブに告げた。

「おい魔法使いッ! こっちはもう限界だゼッ! お前らもそろそろ退いた方がいいんじゃないか?」
「何を……! この程度の連中に、我々が後れを取るなど――」

 ミラアルクからの提案を渋るベルゼバブだったが、直後放たれたガルドの一撃に大きく吹き飛ばされた。

「そこだッ!」
「しま、ぐぉぉっ!?」

 魔力の奔流に吹き飛ばされるベルゼバブ。見渡せば他の増援のメイジ達も、マリアの参戦により調子を取り戻した切歌と調、そしてクリスと透のペアにより数を減らしていた。
 この状況に、ジェネシスも限界を察し後退する事を余儀なくされた。

「ちぃ、ここまでか……オーガッ!」
「クソがぁッ!」

 ベルゼバブからの合図に、オーガも憎々し気に叫びながら先程颯人から吸収したブレスを周囲に放ち見境なく周囲を破壊した。強烈な火炎に、颯人と奏はともかく他のS.O.N.G.の仲間達が被害を受けそうになる。それを黙って見過ごせる2人ではなく、彼らは後退するジェネシスの追撃よりも仲間と周囲の安全を守る事の方を優先させた。

「アイツら、自棄起こしやがって……! 奏ッ!」
「任せろッ!」
〈ブレイブ!〉

 奏の背中から広がった炎の翼が、オーガの放ったブレスを受け止め周囲と仲間達を優しく包む。お陰で必要以上に被害が広がる事は防げたが、代わりにジェネシスとミラアルクにはまんまと逃げられてしまった。

 自分達以外誰も居なくなった光景に、颯人は溜め息を吐きながら変身を解いた。そして改めて周囲を見渡し、最後にコンサートが行われていた会場を見る。

 魔法で視た未来ではアルカノイズの攻撃などで崩壊したコンサート会場が、今はその形を保ちながら興奮冷めやらぬ観客達で賑わっている。
 会場が健在な様子に安堵する颯人に、同じくギアを解除して隣に立つ奏が微笑みかけた。

「颯人……ありがと」
「あぁ」









 戦闘が終わった事は即座に本部へも知らされた。もしもと言う事態に備えていた弦十郎達は、会場が無事で観客にも誰1人犠牲者が出ず、戦闘に参加した者達も全員無事と言う文句のつけどころのない結果に笑みを浮かべた。

「何とかなったようだな」
「そうね。ん~! 皆、お疲れさ――」

 弦十郎に続き了子が発令所の皆に労いの言葉を掛けようとしたその時、突然部屋全体に響き渡る程の音が響き渡る。何かを強い力で殴りつけたような音に、全員が何事かと音のする方を見ればそこには誂えられたコンソールに拳を叩きつけて肩を震わせているアリスの姿があった。
 震えていると言っても、それは喜びに震えているのとは明らかに違う。見ただけで分かる程に感じられる怒りのオーラに、誰もが目を見開き口を半開きにして唖然としていた。

 その視線を受けつつ、アリスは絞り出すような声で呟いた。

「何故……何故……!? データは全部破棄した筈なのに……!?」

 震える声でそう呟くアリスの視線は、手元のコンソールの画面に映し出されたミラアルクに向けられているのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第205話でした。

原作では多大な犠牲を出し、会場も崩壊し翼も半洗脳状態となってしまった凱旋コンサートですが、本作では犠牲0と言う結果に納まりました。最初はこの戦いの最中翼は原作通りに半洗脳状態にする予定だったのですが、書いてる内にそれは無理だとなって結果この様になりました。

新たな幹部も退け、文句なしの結果になった……と思いきや、最後の最後でちょっと問題発生。ノブレに関係したアリスの怒りの理由に関してはまた後程語られる予定です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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