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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第3話 始動、マジンガーZ

 一同の目の前にはマジンガーZが立っていた。黒のボディに赤い放熱板、黄色い目と角を生やし口には縦状に溝が並んでいる。背丈は18mはあるその巨体は正しく空に聳える鉄の城そのものであった。

「これこそ、ワシの生涯最高傑作、何者をも恐れず、何者にも阻まれない究極にして無敵のスーパーロボットマジンガーZじゃ! 甲児、これを貴様に託すぞぉ!」
「お、俺にぃ!」

 甲児はギョッとした。何しろいきなりこんな化け物じみた巨大ロボットを託されてしまったのだから。普通は驚く筈だ。
 そんな甲児の前で祖父の十蔵は声高らかに大笑いしていた。

「左様、これはもう貴様の物じゃ! どう使おうとお主の自由じゃ、このマジンガーZがあればお前は人間を超えた存在「超人兜甲児」として生きられるのじゃ! これを使えば神にも悪魔にもなれるぞぉ!」
「俺が……神にも、悪魔にもなれる」

 ゴクリ、と甲児は固唾を呑んだ。神にも悪魔にもなれる。そんなとんでもない力を急に甲児は手渡されてしまったのだ。
 甲児は再びマジンガーZを見た。Zは何も言わず唯その場に立っているだけでもあった。一体こいつにはどんな力が秘められているのか? 本当にこれを使えば神にも悪魔にもなれるのだろうか?

「十蔵さん、神にも悪魔にもなれるって、一体どう言う事なんですか?」
「言葉の通りよ、この世を地獄に変える悪魔になるも良し、この世を救う英雄となるも良し、全ては操縦者である兜甲児次第なのじゃ!」

 なのはの問いに十蔵が再び大笑いしながら答える。
 その時だった。激しい振動が辺りに響き渡る。すっかり忘れていた! 外ではあの二体が暴れているのであった。


 エネルガーZとアイアンZ


 二体はこの兜十蔵博士が作り上げた試作型ロボットだと言う。そのロボットが暴走し町の中に解き放たれてしまったのだ。

「ふん、五月蝿い連中じゃわい、どれ……」

 十蔵はぶつくさ言いながら目の前のコンソールを操作する。すると目の前の巨大モニターに画像が映りだし、其処には二体の魔神が破壊の限りを尽くしていた。
 町は既に火の海と化していた。これこそ間違いなく地獄絵図と呼べる光景である。

「ひ、ひでぇ……」
「兄貴、俺達の町が!」
「ちっ、やはり実験とは言えあんな物を入れたのは間違いじゃったか!」

 十蔵が呟く。その言葉をなのはとユーノは聞き逃さなかった。

「あんな物? 一体何を入れたんですか?」
「あん? 何大した物じゃないわい、蒼い結晶体みたいじゃったがのぉ、中々高出力のエネルギーを出すもんじゃから試しにあの二体に組み込んでみたんじゃ」
『ジュエルシード!』

 二人が声を揃えて叫ぶ。間違いない。あの二体の中にはジュエルシードが内臓されているのだ。だとしたら何としても取り出さねばならない。だがその為にはあの二体の巨人と戦わなければならないのだ。
 そんな時だった。二体の魔神に向かい別のロボットが町を破壊しながらやってきた。
 髑髏の顔に鎌を取り付けた姿のロボットに二本の首を生やしたロボットだった。




     ***




「何だ? あのロボットは!」

 円盤に乗り機械獣2体を指揮していたあしゅら男爵は町で暴れ狂う二体の巨人を発見する。凄まじい暴れっぷりであった。既に町は半壊状態となっており火の海も同然であった。

「ふん、誰かは知らんが世界を征服するのは我らが主、Dr.ヘル唯一人と決まっておる。丁度良い! 機械獣ガラダK7! ダブラスM2! あの二体の魔神を叩き潰せ! 貴様らの力を見せ付けてやるのだ!」

 あしゅら男爵の命を受けて二体の機械獣が咆哮し突っ込んでいく。それを見つけた二体の魔神もまた機械獣に向かい突っ込んでいく。
 まず最初に攻撃を仕掛けたのはガラダであった。頭部の鎌を取り外し投げつける。その鎌に向かいアイアンZが向かい立ち腕を交差して受けの体勢を取る。
 ガキンと音がした。ガラダの投げた鎌はアイアンZの装甲を傷つける事なく砕けて折れてその場に落下してしまった。
 その光景にあしゅら男爵はギョッとした。

「馬鹿な! 鉄板すら豆腐の如く切り裂くガラダの鎌を受け付けぬだと! ええぃ! ダブラス、お前のレーザー砲で奴らを分解してしまえぃ!」

 ダブラスが続いて顔から光り輝く熱線を放ってきた。
 それに挑むかの様に今度はエネルガーZが前に立つ。するとエネルガーの目から輝くビーム砲が発射された。互いに放たれた光は目の前でぶつかり合い激しく発光する。
 その押し合いに勝ったのはエネルガーのビーム砲であった。ダブラスの熱線を押しのけてダブラスの二つの首を吹き飛ばし、そのまま胴体にまでビームを放ちその巨体を真っ二つに焼き切ってしまったのだ。
 驚くあしゅら。だが、そんなあしゅらなど眼中にないかの如くアイアンZは残ったガラダに向かい豪腕を放つ。
 顔面に諸に食らったガラダが前のめりに倒れる。その顔は歪にへこみ火花を放っていた。そんなガラダの頭部をアイアンZは鷲掴みにした後、力任せに引き千切ってしまった。
 頭部を失い手足だけがピクピク動くガラダ。其処へ再びエネルガーのビーム砲が放たれる。情け容赦ないその一撃はガラダをこの世から消し去るのに30秒は掛からなかった。
 その光景を目の当たりにしたあしゅら男爵は言葉がなかった。無敵を誇る機械獣がたった数分でくず鉄にされてしまったのだから。




     ***




 同様にその光景を見ていた甲児達も言葉を失った。何という強さだろうか? あの二体の怪物をアッサリと倒してしまったのだから。しかもあれでまだ試作型だと言うのだから驚きが止まらない。

「あ、あんな化け物をお爺ちゃんが作ったってのかよ」
「それだけじゃないですよ甲児さん、あの二体にはジュエルシードが内臓されてる。多分そのせいで性能が何倍にも増強されてるんです」

 ユーノが付け足すように言う。あの二体にはジュエルシードが内臓されているのだ。その為普段の性能の何倍もの力を発揮出来る事が頷ける。
 だが、その言葉を聞いていた十蔵は鼻を鳴らしていた。

「何くっちゃべっとるんじゃ! あんなガラクタなんぞこのマジンガーZに比べれば玩具も同然!」
「だ、だけどお爺ちゃん! あいつら物凄く強いんだぜ? 本当に勝てるのかよ?」
「あぁ、確かにあの二体は強い。じゃが! あのマジンガーZはもっと強い! もう失禁しちまう位強いぞぉ!」

 一同は正に息を呑んだ。あのマジンガーZは遥かに強いと言う。モニターの前で暴れまわっている二体を遥かに上回るその強さとは一体どれほどの物なのだろうか。甲児の中に不安が募る。だが、その中に甲児は異様な興味を抱き始めた。
 どれほどの力を持っているのか見てみたい。あのロボットに乗ってみたい。そう思い出したのだ。

「分かったよお爺ちゃん。俺、あれに乗るよ」
「良く言った! それでこそワシの孫じゃ!」

 甲児の決断を喜ぶかの様に十蔵が諸手を挙げて叫んだ。

「ところで、どうやってあのマジンガーZを動かせば良いんだ?」
「Zの足元にあるじゃろう。あのホバーパイルダーに乗り込んでZとドッキングすれば良いんじゃ、ドッキングは全てコンピューターが行ってくれる。お主は叫ぶだけで良いんじゃ。「パイルダー・オン」と」
「へぇ、以外と簡単じゃねぇか」

 自信満々に甲児はパイルダーの元へ向かう。その光景を見ていたシローも思わず飛び出した。

「何でついてくるんだよシロー?」
「兄貴一人じゃ危なっかしくて任せてらんねぇよ。俺も一緒に乗る」
「けっ、生意気な弟だ。目回しても知らねぇからな」

 笑みを浮かべながら甲児は操縦席に、シローはその後ろのスペースに飛び乗った。最初はすぐに動かせると思った甲児だったが、操縦席を見た途端ギョッとした。辺りには無数のボタンがあるのだ。その光景に思わず頭がクラクラしてきた。

「や、やべぇ、ボタンだらけだ。こりゃ一筋縄じゃいかねぇよ」
「これだよ」

 情けないとばかりに溜息を吐くシロー。その光景に不安そうになるなのはとユーノ。

「だ、大丈夫かなぁ甲児さん?」
「心配だなぁ」
【生兵法は怪我の元、と言うことわざもあります。彼は今すぐ止めた方が懸命と思われますよ】

 流石のレイジングハートも心配なのかそう言う。と、言うかデバイスが良くことわざを知っていた物だとこの場は感心出来る。

「ま、良いや。バイクと同じ要領でやってみりゃ上手くいくだろう」

 操縦桿を握り締めてエンジンを始動させる。するとパイルダーはゆっくりと上昇していく。それに甲児の心は歓喜に震えるのを感じた。

「すげぇ! 見ろよシロー。俺達飛んでるんだぜぇ!」
「良いからさっさとドッキングしてくれよ兄貴ぃ、このままだと本当に俺達の町が火の海にされちまうよ」
「っとと、そうだったな」

 慌ててそれに気づいた甲児がパイルダーを移動させる。Zの頭部には何かをはめるかの如くポッカリと穴が開いていた。あそこにパイルダーを入れればZは動く筈だ。甲児は直感した。

「ようし、俺の言う通りにしてくれよぉ」

 祈るように呟き、甲児は叫んだ。


「パイルダァァァァ・オオオォォォォン!!!」


 甲児の叫びに呼応し、パイルダーの両翼の二枚の翼は折り畳まれ、そのまZの頭部とドッキングした。Zの両目が光り輝き全身に力がみなぎってくる。

「こ、これがマジンガーZか。これが……俺の力になるってのか?」

 Zとドッキングした甲児は驚きに包まれていた。視界が一変した。全てが小さく見える。まるで自分自身が巨人になったかのようだ。これが祖父十蔵の言う神にも悪魔にもなれる力だと言うのだろうか。

「成功じゃ! 甲児よ、貴様は今日から超人になったんじゃ! その力は今日からお前の力じゃ!」
「分かったぜお爺ちゃん! よぉし、見てろよぉ。俺達の町をぶっ壊したツケを払わせてやらぁ!」

 腕を鳴らしそう言う甲児。するとZの足元の床が急に持ち上がりだした。それと同時に天井の壁が二つに割れだす。

「な、何だ? 外に出られる」
「甲児、戦いは喧嘩とほぼ変わらん、思う存分ぶちのめすが良いわい!」
「あぁ、喧嘩は俺の十八番だ! 見ててくれ、お爺ちゃん」

 目を輝かせながら甲児は外の光景を目の当たりにする。外では二体の魔神が我が物顔で暴れ狂っている。その下では大勢の人々が逃げ惑っているのが見える。
 その人たちを踏み潰そうと追い回す二体の巨人。許せる光景ではなかった。

「やいやいてめぇら、弱い者いじめも其処までだ! この俺とマジンガーZがてめぇらの相手をしてやるぜぇ!」

 操縦席から甲児が叫ぶ。その声を聞いたのか、二体のマジンガー一斉にマジンガーZを見る。今度はマジンガーZを標的と定め二体同時に襲い掛かってくる。

「あ、兄貴ぃ! 来る、来るよぉ!」
「黙ってろ! 舌噛むぞ!」

 慌てふためくシローを黙らせて甲児は操縦桿を握る。それを迎え撃つようにZを走らせる。
 だが、それに対しZ自身は敵に向かわずその場でクルクルと回転しだしたのだ。

「わあああ! どうなってんだぁこれはぁ!」
「しっかりしてくれよぉ兄貴ぃ! 目が回る~」

 操縦席に居た二人は溜まった物じゃない。高速のジェットコースターの回転を何度もさせられてる気分だった。其処へアイアンZがショルダータックルを当てる。それを食らったZは何も出来ず仰向けに倒れてしまった。

「いてて、くそぉ! 見てろよぉ。今度はこっちの番だ!」

 そう言いZを起こそうとする甲児だったが、当のZと言えば無駄に手足をばたつかせているだけで全く起きる気配がない。

「この、くそ、言う事聞けよコラァ!」
「何してんだよ兄貴ぃ! このままじゃ何も出来ずにマジンガーがやられちまうよぉ!」

 操縦に四苦八苦する甲児の後ろで野次を飛ばすシロー。そんな二人の乗ったマジンガーZに向かい二体の魔神がゆっくりと迫ってきているのが見えた。




     ***




「ええぃ、何をしとるんじゃ甲児はぁ! そんな奴らさっさと片付けんかぃ!」

 モニターの前では十蔵が檄を飛ばしていた。だが、モニターの前ではその声も聞こえる筈もなくマジンガーZがただただ二体の魔神に嬲られている光景が続いている。

「このままじゃ甲児さんが……私達も行こう!」
「なのは、本気なの? 相手は10m以上の巨人なんだよ」
「でも、ジュエルシードがあるんだから集めないと!」

 なのはの言葉に反論できる言葉を失うユーノ。あのまま二体の巨人を放って置く訳にはいかない。だが、甲児はマジンガーの操縦が満足に出来ず苦戦を強いられている。ならば此処は自分が行かねばならない。そうなのはは思ったのだ。

【マスター、敵は以前とは比べ物にならない強敵です。くれぐれも慎重に戦って下さい。何せマスターもまだ戦いに関しては素人同然なのですから】
「は、はい……そうでした」

 考えてみれば自分も甲児の事を言える立場じゃなかった。まだ自分もレイジングハートの扱いには不慣れな部分もあったからだ。しかし弱音など吐いていられない。何としても奴らを倒してジュエルシードを手に入れなければ更に被害が拡大してしまうからだ。

「レイジングハート、お願いね!」
【了解しました】

 なのはがレイジングハートにそう言うと、突如眩い光が放たれる。

「な、何じゃ!」
「呪文もなしにセットアップが出来るなんて、やっぱり彼女は凄い素質の持ち主だったんだ」

 突如放たれた光に十蔵は驚き、ユーノは彼女の素質の凄さに感動していた。そんな中、光が晴れると其処には白いバリアジャケットを纏い一本の杖を手にしたなのはが居た。

「な、何じゃその格好は? お主コスプレの気でもあるんか?」
「い、いえ……これはコスプレじゃなくてそのぉ―――」
「なのは、今は急ごう」

 なのはの肩に乗りユーノがそう促す。それを聞いたなのはがハッとする。今は急いで甲児の助けに行かなければならないからだ。此処で無駄話している場合じゃない。

「そ、それじゃ十蔵さん、行ってきますね」
「行って来るって、何処へじゃ?」

 今一良く分かっていない十蔵の前でなのはの足元に光り輝く翼が生え、彼女を空へと誘った。その光景に再び十蔵はギョッとした。

「と、飛んだじゃとぉ! 昨今の女子は空も飛ぶんか! しかし……」

 十蔵は空に浮かんだなのはを見る。その視線に気づいたなのはが振り返る。

「どうしたんですか? 十蔵さん」
「う~む、柄は良いがガキのパンツ拝んでも嬉しくないのぉ」
「ふぇっ!」

 ハッとしたなのはがスカートを抑える。どうやら十蔵には丸見えだったようだ。カァッと顔が真っ赤になりその場から逃げ出すかの様に外へと飛び出していった。




     ***




 外ではマジンガーが満足に動く事も出来ず良いように二体の怪物に嬲られている光景が続いていた。起き上がろうとするのだがZは未だに手足をばたつかせてるだけで起き上がる気配が未だにない。

「何してんだよ兄貴ぃ! 遊んでないでさっさとやっつけちまえよ!」
「分かってるんだよ。だけどボタンが多すぎてどのボタンで起き上がれるのか分からないんだ! くそっ、このままやられて溜まるかってんだぁ!」

 怒鳴る甲児とは裏腹にマジンガーZは全く甲児の言う事を聞かない。初心者がスペースシャトルを操縦するとこうなるのだろう。そんな光景が其処にあった。そんな時、今度はエネルガーZの両目が光り輝き先ほど二体の機械獣を葬ったビーム砲を今度はマジンガーZ目掛けて放ってきた。

「うわぁ、あちちぃ!」
「あっちぃよぉ兄貴ぃ!」

 パイルダー内は正に蒸し風呂状態だった。高温が止め処なくパイルダー内に伝わってくる。しかし、当のマジンガーZはビクともしてなかった。あの時は機械獣を10秒と経たずに焼き切った程のビーム砲を受けていると言うのにマジンガーZの装甲には焦げ一つついていない。しかし、このままではどの道パイロットがもたない。
 そう思っていた時だった。エネルガーに向かい桜色の光弾がぶつかりそれを吹き飛ばした。

「な、何だ?」
「甲児さん!」

 声がした方を向いた。其処にはバリアジャケットを纏い杖状になったレイジングハートを握り締めるなのはが居た。

「な、なのはかぁ? 何だってそんな格好。コスプレじゃねぇか!」
「ま、また言われた……コスプレじゃないのに」

 なのは自身にはちょっぴりショックだったのだろうか。結構気にしてるようだ。

「それよりもさぁ、どうしてなのはちゃん空飛んでるの? ワイヤーアクションとか?」
「い、いえ……これはワイヤーとかじゃなくて、魔法の力なんですけど」
「魔法だって? おいおい、幾らなんでもそりゃないだろ? アニメの見すぎじゃねぇの?」

 甲児が笑う。だが、現にこうしてなのはが飛んでいるのを見ると認めざるを得ないのかも知れない。

「レイジングハート、どうだった?」
【駄目です。分厚い装甲が邪魔でジュエルシードまで到達していません。あの装甲を突き破らない限り封印は難しいです】

 先ほど放った光弾が封印できたかどうか聞いたが結果はご覧の有様だった。やはりあの二体の分厚い装甲に阻まれてジュエルシードにまでたどり着いていないようだ。

「甲児さん、何とかしてあの二体の魔神の装甲を破ってくれませんか? あの装甲が邪魔で封印が出来ないんです」
「そ、そうは言ってもよぉ。起き上がれないんだ!」
「ふぇぇぇ~~!」

 余りに予想外の答えになのはは驚いた。これでは封印できるはずがない。マジンガーの協力なしではなのは一人であの二体の巨人の封印はかなり難しい。まず封印する為にはあの分厚い装甲を破る必要があるのだが先ほどでも分かった通りかなり分厚い。下手な一撃では跳ね返されるだけで終わるのみだ。
 となればマジンガーZの協力が不可欠なのだが、肝心のZは手足をバタバタさせるだけで全く起き上がれないで居る。
 このままでは何の展開の進展も見られない。そう思われた時だった。また別の方向から一体のロボットが現れた。
 今度は女性型のロボットだった。頭部に操縦席が見られ、それを動かしているであろう操縦者が見える。赤を基調とした細身のロボットであった。

「お父様、見える? 二体の巨大ロボットが暴れてるわ! もう一体居るけど、倒れて手足を動かしてるだけみたいよ」
『こちらでも確認した、暴れてる二体のロボットは兜十蔵博士が作った試作型のロボットだ。だが、もう一体は私にも分からん。とにかく慎重に行くんだ。アフロダイAには武器が内臓されていないのだからな』
「分かったわ。任せて」

 そう言いアフロダイAは倒れたマジンガーZに近づく。其処で操縦者はギョッとした。それを動かしていたのは自分と年が同じ位の少年だったのだ。アチコチ手を動かして操縦しているのを見るにどうやら素人なんだろう。

「其処の君、聞こえる? 聞こえたら返事して!」
『え? 何だ、ってかあんた誰?』
「良いから言う通りにしなさい。私が指示する通りにボタンを押して。そうすれば起き上がれるから」

 少女が指示する通りに甲児はボタンを押して操作した。するとマジンガーZはゆっくりと起き上がり再び二本足で立ち上がったのだ。

「すげぇ、立ち上がったぜぇ兄貴ぃ!」
「あぁ、助かったよあんた」
『どう致しまして、でも貴方素人なのね、ロボットも満足に動かせないなんて』
「わ、笑うなよ。初めて乗ったんだからよぉ。それなら教えてくれよ! あいつらをやっつけないといけないんだ」
『オッケーよ、簡単にだけどレクチャーするわ。良い? まずは―――』

 少女、弓さやかが甲児に簡単な操縦法を教えている間、なのはは一人二体の魔神を相手にしていた。
 魔神からしてみればなのはなど周りを飛び回る羽虫程度でしかない。その為手を振り回して振り落とそうとする。
 が、なのは自身も其処まで馬鹿ではなく、腕をかわし何度も光弾を叩き込む。しかしそれでも敵の装甲を破る事は出来ず苦戦は必死であった。
 其処へ更にエネルガーが目からビーム砲を放つ。間一髪でそれをかわすなのは。あんな物を直撃したら一瞬で蒸発してしまう。
 息を呑みそう思っていた為に、彼女の動きは一瞬止まっていた。

「なのは! 前!」
「え?」

 ユーノの声が響く。前を向くと其処にはもう目の前にアイアンZの巨大な手が迫ってきていた。避けるには間に合わない。思わず目を瞑り身を丸めて防御の姿勢を取る。
 その時、轟音が響いた。巨大な鉄の塊がぶつかりあった音と似ていた。異変を感じたなのはが目を開くと、其処にはアイアンZを殴り飛ばしたマジンガーZの姿があった。
その隣にはあのアフロダイAも居る。

「こ、甲児さん!」
「待たせたななのは! デカブツ相手は俺とマジンガーZに任せてくれ」

 先ほどとは打って変わり自信満々でそう言う甲児。そんな甲児の目の前で殴られたアイアンZが起き上がる。顔は歪に変形していた。どうやらアイアンZの装甲はマジンガーより強度はなさそうだ。

「甲児君、余り無茶しちゃ駄目よ。貴方まだ素人なんだから」
「ちぇっ、言ってくれるぜ。見てろよ! こんな奴らちゃちゃっと畳んでやるぜ!」

 息巻きながら大地を駆けるZ。だが、足元の瓦礫に足を躓いて今度はうつ伏せに倒れてしまった。

「いてて、足元に注意するの忘れてた」
「兄貴のバカヤロー! めちゃくちゃかっこ悪いじゃねぇかぁ!」

 二人して頭を抑える。ゆっくりと起き上がろうとしたが、其処へアイアンZがやってきてマジンガーを蹴り飛ばす。再び仰向けに倒れてしまうZ。
 そんなZの頭部へ足を放とうとするアイアンZ。だが其処へアフロダイAがタックルを当てて吹き飛ばす。

「ほら御覧なさい。早く立ち上がってよね」
「わ、分かってらぁい!」

 怒鳴り声をあげながら操縦桿を操作し、Zを起き上がらせる。その前ではアイアンZとアフロダイAが激しい殴り合いを演じていた。力では圧倒的にアイアンZの方が勝っている。しかしアフロダイはその放たれる一撃を逸らしてかわしている。その光景に甲児は息を呑んだ。

「すげぇ、あの子ロボットを自分の手足みたいに動かしてる」
「何ぼうっと突っ立てるんだよ兄貴ぃ! 女の子に負けて情けないったらありゃしないぜ」
「うっせぇなぁ! 分かってるんだよ。だけどどうやって戦えば良いんだ? 殴るだけじゃなくて何かもっとパッとした武器とかないのかよ?」

辺りのボタンを見ながら甲児が呟いていた。その時、目の前のモニターに十蔵の顔が映りだした。

『阿呆! 何しとるんじゃ? 武器を使え武器を!』
「お、お爺ちゃん! そうは言ってもどれが武器なのか分からないんだ!」
『右のコンソールパネルがあるじゃろうが! それが武器パネルじゃ』
「コンソール? これか!」

 十蔵の言った箇所には複数のボタンが設置されていた。どれを押そうか迷っていた時、目の前でアフロダイAがアイアンZに押し倒されていた。迷っている時間はない。試しに一つのボタンを押してみた。
 すると、突如Zの腕が飛び出して凄まじいスピードでアイアンZ目掛けて飛んでいったのだ。放たれた腕は分厚い装甲のアイアンZの胸部を何なく貫通して空に舞い上がりZの元へ戻っていった。

「す、すげぇ…」
『あれこそ必殺の一撃、その名もロケットパンチじゃ! じゃが、あんなものまだまだじゃぞぉ』

 十蔵が笑う。その前では胸部を貫かれたアイアンZが肩膝をつき火花を散らしている。

「なのは、今だ!」
「うん!」

 チャンスとばかりにアイアンZの胸部目掛けて光弾を放った。するとその中から蒼い結晶体が現れ、レイジングハートの中に吸い込まれていく。
 回収を終えると、アイアンZは機能を停止しその場に倒れてしまった。残ったエネルガーZが再びZへ向けてビーム砲を放ってきた。

「へん、二度も同じ技なんざ食らう兜甲児様じゃねぇや! てめぇにはこいつをお見舞いしてやらぁ!」

 そう言って別のボタンを押す。するとマジンガーZの目からも同じようにビーム砲が放たれた。しかしその威力は桁違いだった。互いのビームがぶつかり合い、エネルガーのビームを弾き飛ばしマジンガーのビームはエネルガーの頭部を吹き飛ばした。

『あれこそ光子力ビーム! あれを浴びた奴は一瞬にして蒸発してしまうわい』
「すげぇ……そんじゃこのボタンは何だ?」

 物は試しとばかりに別のボタンを押す。すると今度はマジンガーの口から猛烈な突風が発せられた。
 しかし、それは唯の風ではなかった。その証拠にその風を浴びたエネルガーの体が瞬く間に腐食していったのだ。装甲は錆びてボロボロになりその場に立ち止まってしまった。

『どうじゃ驚いたか! あれこそ強力な酸を含んだ風を放つルストハリケーン! あの風を浴びた奴に待つのは腐敗の道だけじゃわい!』

 モニターの前で十蔵が笑いながら言う。そんな十蔵の笑い声が聞こえないまでに甲児は驚き震え上がっていた。あの二体の強力な魔神をこのマジンガーZはいとも容易く倒してしまった。正しく神にも悪魔にもなれる力とはこの事を言うのだろう。

「すげぇ……すげぇよお爺ちゃん! このマジンガーZは本当に無敵のロボットだったんだねぇ!」
『ガッハッハッ! 当たり前じゃろうが! ワシが作ったロボットは天下無敵じゃぁ!』
「良いなぁ、兄貴こんな凄いロボット貰って」

 シローが物欲しそうな顔をしてそう呟く。それを聞いたのか十蔵がフッと笑みを浮かべる。

『すまんのぉシロー。お前のを用意する時間がなかったんじゃわい』
「気にすんなよお爺ちゃん。それなら俺のもまたすぐに作ってくれりゃ良いしさぁ」
『残念じゃが、それは無理じゃ……ワシにはもう時間が……』

 その言葉を言い終わる前に十蔵は倒れた。その光景を見た甲児がハッとする。

「お、お爺ちゃん!」
『グゥッ……すまんな、甲児…シロー…お前達の両親を殺したのはワシじゃ……そのマジンガーZは、ワシなりの罪滅ぼしみたいな物じゃ。ワシが死んだらお前達兄弟だけになってしまう……じゃが、マジンガーZがあればお主は世界一強い男になれる……甲児よ、そのマジンガーZでどの様な道を歩むか? あの世から見させて貰うぞ! フフフッファアアァァァッハッハッハッ……』

 その言葉を最後に十蔵は倒れた。もう何も言わない。何を言っても答えない。兜十蔵は、今日この日にその命を賭した最高傑作を残し、この世を去った。甲児の目から止め処なく涙が溢れ出る。

「嘘だ…嘘だろ? お爺ちゃん……お爺ちゃああああああああああん!!!」

 甲児は叫んだ。それに呼応するかの様にマジンガーZもまた、天に向かい雄叫びを挙げた。機械の発する駆動音が、あたかもZ自身の叫びにも聞こえてきた。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

悲しき別れをした少年。
だが、少年は涙を拭い託された力を使いこなす為に特訓に励む。
しかし、其処へ悪しき野心を秘めた者が更なる脅威を持ちやってきた。


次回「マジンガーZ危機一髪」


お楽しみに 
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