リュカ伝の外伝
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ただしイケメンに限る
(グランバニア王都:城前地区)
ギャンルSIDE
冬の朝練は辛い。
まだまだ本物の冬は先なんだけど、もう既に朝晩の冷え込みに身体が辛い。
周囲からは『まだ若いのに、何言ってんだ!』と言われる事がよくあるが、俺は寒いのが苦手なのだから仕方ないだろう。
「部長(ギャンル先輩)おはようございます!」
学校内を部室に向かっている俺の後ろから挨拶をして過ぎて行く後輩。
「マッケイン、おはよう」
アイツはまだ6年生なのだが、“フェンシング部”にかける情熱は目を見張るモノがある。
俺は去年までの副部長時代から彼には目をかけてきた。
もう数ヶ月で俺も最上級生の9年生になるが、そうなれば部活も引退……
学年的に1年早いかもしれないが……アイツを副部長に推薦して、何れは顧問に『アイツこそ部長に適任だ』と言い切ってやろう。
俺より少し後に来たのに、俺より率先して部室のドアを開け、朝練の準備を頑張っているマッケイを見ながら、来月の大会の事に思いを馳せる。
前回は予選を突破出来なかった……今年こそは!
朝練の準備が終わり8割以上の部員が集まり、ガヤガヤと騒がしくなってきた頃合いに、隣の建物……つまり隣の“剣術部”から「トァー!!」とか「ウリャァァ!!」とか気合いの入った声が聞こえてきた。
だがそれに混じり「掛け声だけ大きくて如何する! もっと身体の中心に力を込めるんだ!」と叱咤も飛んでく。
叱咤の声の主は……ピパン。
現在絶賛義務教育期間中1年間(お互いが3年生の時)だけ違うクラスだった常に俺の視界に入り込んでくる、いけ好かない優等生だ。
父親が軍務大臣(つまりは軍のトップ)なのだから強いのは当たり前で、母親も短期間(こいつを出産するまで)だが文部魔法大臣だったから頭が良いのだって当然だろう。
そんな環境に恵まれただけなのに人気者の男……俺のライバルだ!
本来は俺も剣術をやっていたんだが、この学校(義務教育学校)に入学して2年間……ヤツと一緒に部活をしてきたが、俺に全然試合出場の声がかからず、俺の実力を見せる場が与えられず、ヤツだけ段位が上がっていき、3年生の時にフェンシング部へと移部を決めた。
それ以降もヤツは剣術部で活躍を続け、今では副部長として下級生を指導している。
現状は既に本来の最上級生9年生が引退をしていて、俺等8年生が部活等で最上級生代わりに部長へ就任したりしてる。俺がそうだ。
まだ8年生だが、7年生から副部長としても頑張ってきたから、その成果を評価され顧問に言って部長になれる様にお願いしたんだ。
だがヤツは違う。
ヤツは来年度からは最上級生の9年生なのに、部活では副部長のままだ!
顧問に嫌われているのか、他の部員に嫌われているのか……まぁ両方だと俺は思ってるが、部長の座は別の奴に渡して、アイツはまだ副部長だ。
やはり他の部員へや顧問への根回しってのは必要だよな。
事前に根回しとかをしておけば、俺の事を嫌っていた先輩の“ケクルル”の様に、俺の部長昇進を阻もうとしても顧問が奴の意見をもしして決定してしまう!
ヤツも嫌われた結果、何時までも副部長をやらされてるんだろうぜ!
激しい剣術部からの掛け声を聞きながら、俺は自分等のフェンシング部内で部活動を進める。
寒いし大会が近いから、隣の馬鹿共(ヤツ指導の剣術部)みたいに、無理矢理の気合い入れ練習などはしない。
疲れない程度の朝練を終えて、気が付けば昼休み時間。
クラスの仲の良い友達と集まって給食。
終われば早い者順で校庭や体育館を使って身体を動かせる。
運動嫌いの奴らは教室(自身の教室に限らず)で陰キャ同士集まって何かをやっているが、アクティブな俺は校庭の野球グラウンドを逃さない。
今日も他のクラス相手にホームランをブチかましてやるんだ!
そうとなればさっさと昼ご飯だ。
友達の“ガルディルバー”と一緒に腹の中に掻き込む。
だがガルディルバーには嫌いな食材があったのか、食べる手が止まり溜息を吐く。
「どした?」
「何で俺はお前と顔を合わせてメシ食ってんだろうなぁ……そう思っちゃって」
失礼な奴だな!
「友達に言う事か!?」
「悪ぃー!」
「でも突然なんだよ!?」
「……あれが目に入っちゃってさ」
言われて視線を向けた先には……ピパン!
同じクラスの女子5人に囲まれて、俺等と同じ給食を食べている。
その5人が、また可愛い奴ら揃い……
「ちぇっ……ナンパ野郎が!」
「そうは言うけど、アイツはイケメンでモテるからなぁ!」
家柄に引き寄せられてるだけだろ!
「世の中は軟弱野郎が好まれるのか?」
「アイツって軟弱野郎かな?」
「だって1年生から続けてきた部活も、部長になれてないんだぜ! 実力を評価されてないんだろ(笑)」
「お前知らないのか?」
「何を!?」
「最上級生が引退するにあたり、8年生の副部長に部長への話は出てて、剣術部なんかでは顧問も最上級生やピパン以外の副部長も……当然だが全ての下級生も満場一致で彼を部長にって切望したんだぜ!」
「“切望”って大袈裟な!」
「でもアイツ自身が『1年間、副部長をやらせてもらって気付きました。俺にはまだまだ力量不足。選手として持てる力を出し切る事が精一杯でした。とは言え俺が引退する最終年度も副部長として協力していきたいと考えてます。だから部長には、その責任感を評価して“サラミィス”が良いと推薦させて貰います』って断ったんだってよ!」
「ふ、ふん! 自分の事をよく分かってるじゃねーか!」
「推薦されて部長になったサラミィスも、元々から選手としては使えない奴だったけど、部長って立場になって顧問の“ラビル”先生と他校や大会事務所に行き来して、選手以外としての活躍の場を得たみたいだぜ」
「ふ、ふ~ん……偶然だが、適材適所になったって事か?」
「剣術部の友達は『ピパン君が導いた』って言ってるよ」
偶然に決まってんだろ!
「ピパンくぅ~ん♥ この間ぁ中央区に美味しいしアイスクリーム屋さんがぁ出来たんだよぉ! 今度ぉ一緒にぃ行こうよぉ♥♡」
「良いねぇ! 俺の部活が休みで、何か予定の無い時に一緒に連れて行ってよ」
男(イケメン限定)に愛想を振りまく事しか出来ない“ポリノスーン”が猫なで声で話しかける……本当にアイスクリームに興味があるのかは不明。
「え~……これから冬で寒くなるってのに、アイスクリーム屋は無いわぁ~」
「な、何よ! 温かいお茶も一緒に飲めば問題ないでしょ!」
女同士の牽制か、“ネモリア”がポリノスーンの提案を否定する。
「まぁまぁ……冬のアイスも美味しいし、温かいお茶と合わせるのも楽しい……それに冬が終われば暖かくなるわけだし、そうなったら皆で一緒に食べに行こうよ」
「「「うわぁ~……いくいくぅ!!」」」
イライラする!
クラスの女共が給食を前にしてキャピキャピ牽制し合ってピパンの気を引こうとしている。
男は中身が重要だ!
ちょっと家柄が良くったって、ちょっと運動神経が良くったって、ちょっと学校の成績が良くったって、ちょっっっっとイケメンだからって……男の価値はハートだ!!
義務教育なんて大人からの押さえ付けが終わり、真の俺の価値が他人様に知れ渡る様になれば、ヤツの真の姿が露見して本当の漢たる俺が女に囲まれる時が来るはずだ!
アイツになんか俺は負けない。
ギャンルSIDE END
(グランバニア王都:中央地区)
ピパンSIDE
来月ある剣術部の大会で、会場となる予定の中央地区体育館へ俺と顧問のラビル先生は来ている。
エントリーする部員の情報等を大会運営に渡して、控え室等の確保の為の事務手続きなのだが、部長のサラミィスに所用があって俺が副部長として代わりに来ている。
手続き自体は大した労力では無く、本来であれば30分も掛からずに終わる。
だが今回の大会は規模が大きく、しかもフェンシング部の大会と同日開催になっている為、同じ会場を使用する事となる我々(剣術部)にも影響が出ている。
“影響”と言っても時間的なモノだ。
剣術部だけの大会だったら、学校から魔道人員輸送車に乗って会場へ来て資料を渡して学校に戻る……1時間から1時間半程度かな?
学校に戻れば30分くらいは俺にも練習する時間も出来るだろう。
だが今日は余計に1時間くらいの時間が奪われ、今から魔道人員輸送車で学校に帰っても、部員達は帰宅……もしくは帰宅準備をしている時間だろう。
それが最初(学校を出る前)から解ってるのでラビル先生から「今日は直帰で良いよ。お前なら何処かフラつく事も無いだろうし、大丈夫(問題を起こさないって意味)だろ?」と現地解散の指示。
正直ラッキーだ。
俺は会場から出て顧問と別れると、直ぐに中央公園の方へと歩き出す。
最近流行りつつあるポップスミュージックをストリートミュージシャンとして公園内で披露している人達が沢山居る。
俺もMGを始めたばかりで、ポップスミュージックに興味津々になっており、同じくらいであろうと思われるレベルの方々のテクニックを勉強しようと画策中。
今日の様なチャンスを逃すわけにはいかないね。
少ないながらも小遣いを持ってきてるので、未来の音楽家のテクニックを拝聴する前に、中央公園付近の唐揚げ屋『ジョナサンのからあげ』ってチェーン店で、買い食いを決行する事に……
目的の店に向かっていると、路地の奥から声が……
「君、道に迷ってるんでしょ!? 案内するって! そんなに恥ずかしがらないでよぉ」
と男の大きな声が聞こえる。
男の声が何だか語気が強く感じてしまい、俺も路地にまで入って状況を確認。
すると強い口調で喋ってたのはクラスメイトのギャンルだった。
長い黒髪の女性の手を引っ張っている。
一見すると強引なナンパをしている様に見えるが、アイツはバカで粗野で少し顔が怖いがそういう乱暴者とか不良とかでは無い。
あの顔に相手の女性が驚いてトラブルに発展しているんだろう。
手助け(この時はどちらかと言えばギャンルに対して)しようと声をかける。
「おいギャンル……落ち着けよ」
「ん? あぁ!?」
俺の声を聞いて振り向く。
その瞬間、手を引っ張られてる女性の顔を確認出来た。
なんと……デイジーさんだ!?
ピパンSIDE END
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