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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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敵ではないです

(グランバニア王都:中央東地区・旧マルンハック公爵邸)
ピパンSIDE

今日も学校が終わり、放課後と呼ばれる学生の自由時間が始まる。
何時もなら部活(剣術部)だったり、仲の良い友達と中央地区へ遊びに行ったりと、俺も学生(義務教育中の学生)なりに忙しい。

だけど今日は部活が休みであり、行きつけの楽器店(因みに店名は『ヴォン・ジョミ楽器店』。店主が“ヴォン・ジョミ”さん)にて欲しくなった商品が新発売される為、小遣いを握り締め魔道人員輸送車(バス)に揺られてやって来た。

この楽器店は、父さんが音楽という趣味に目覚めドラムセットを買う切っ掛けとなり、その道の達人(色んな道だけど)であるリュカ様に紹介して貰い、俺も趣味としてMG(マジカルギター)を買って貰った店だ。

リュカ様経由(と言っても、実はプーサン社長)で紹介して貰った為なのか、何も買わなく(新商品の確認やお金の持ち合わせが無い様な時の事)でも気さくに色々と情報を教えてくれる仲になった店だ。偶然に街中で出会っても、色々と教えてくれる良い店主さんである。

まぁ偶然に街中で遭遇する確率は低い。
メタルキングの群れに遭遇して全滅させるくらい低いだろうと思っている。
何故ならば、俺の基本的な生活圏内とヴォン・ジョミさんの基本的な生活圏内が離れているからだ。

詳しく言えば、俺はグランバニア王都の城前地区に住んで(しかも城内)いて学校も城前地区内にある。
買い物だって各地区に商店街がそれなりにあるし、特殊だったり限定的だったりしなければ王都内の何処でも買えるから、基本的に子供(特にまだ義務教育課程中)は別地区に行く事は少ない。

だけど今日は例外だ。
メタルキングの群れを全滅させる確率を引き当てた俺は、先々週の部活帰りにヴォン・ジョミさんからプリ・ピー(プリンセス・ピープル)仕様のアイテムが発売される事を教えて貰い、今日は学校から直帰せずに自宅から離れた中央東地区へとやって来たのだ。

因みに新発売されたのはストラップだ。
MG(マジカルギター)を肩から提げる紐状のアイテムだ。
他にもドラムステッキや、白紙の五線譜(白紙というのは音符等の記号が書かれてない譜面って意味)とか複数発売された。

正直言うとプリ・ピー(プリンセス・ピープル)のプロデューサーであるリュカ様から、もっと事前に教えて貰ってたし……何よりも既に各アイテムをサイン入りで貰っていたから、購入の必要は無かったんだけど、如何(どう)やらワザワザ俺の通う学校付近まで出張ってくれて、偶然を装い教えてくれたみたいなんだ。

リュカ様からそれを訊いて、父さん(当然母さんにも……ってかそっちが主体)に相談して俺の推してるMG(マジカルギター)担当のエミヘンさんストラップと、父さんの惚れ込んでしまったドラム担当のアーノさんドラムステッキを購入した。

本当にヴォン・ジョミさんはいい人で、俺と父さんがプリ・ピー(プリンセス・ピープル)に嵌まり一緒にMG(マジカルギター)とドラムを練習してる事に協力してくれている。リュカ様が薦めるだけあっていい人度が半端ない。

入店した時も待っていたかの様に温かいコーヒーを出してくれて、初冬の寒さを労ってくれた。
だからつい店に長居をしてしまい、お喋りに花を咲かせてしまう
そして店の外を見れば、随分と日が傾いて来ている。

「おや、ピパン君。少しお喋りをし過ぎてしまった様だね……暗くなる前に子供は帰らないと」
「そうですね。目的のストラップと……まぁ(つい)でのドラムステッキも購入しましたし、今日は帰ろうと思います。温かいコーヒーも飲めましたしね、ごちそうさまでした(笑)」

購入した商品が梱包された紙袋を自分の学生用鞄に仕舞うと軽く頭を下げて店を出る。
風こそ無いが流石に寒さが厳しくなってきた。
本格的に暗くなる前に帰るのが妥当だろう。

俺は楽器店がある裏路地から魔道人員輸送車(バス)停がある表通りへと歩き始めた。
しかし途中の空き屋敷で声(大きなクシャミ)が聞こえてきて足を止める。
この空き屋敷は有名……だけど人が住んでいるとは訊いた事が無い。

「ほらぁ……冬にそんな格好をしてるからですよ。鼻水を拭いて下さい」
クシャミの声は女性だったが、今度はそのクシャミ声の人に対しての声が聞こえた……しかも知っている声だな。
誰なのかと思い、少しだけ空いている空き屋敷の門の隙間から中を覗いてみる。

そこに居たのは……ルディーさん!?
何時も通りに綺麗な身嗜みをしており、そこはかとなく優しげな雰囲気を醸し出してくるお兄さんだ。
俺や父さんと同じでプリ・ピー(プリンセス・ピープル)推しの人。

実はサラボナ通商連合のトップである“ルドマン最高商評議会議長”のお孫さん。
その関連でリュカ様とも縁を持ってるし、父さんも知己を得ている。
因みに……と言うか当然だが、空き屋敷には他数名が何かしていた。

だが兎も角も俺は「ルディーさん?」と声をかけていた。
まぁ当然だよね。
他の人達には面識ないし名前も呼べないからね。

しかし俺の声に素早く反応したのはルディーさんではなく、一緒に居る男性と女性だった。
男性は所謂“執事”みたいな格好してる40代半ばの男……
女性はそのまま“メイド服”を着ている30歳前後の女……

だが間違いなくこの二人はボディーガードだろう。
俺が声をかけた瞬間に身構え、男の方は着ているロングコートの背面側に隠してるショートソード(と思われる)武器に手をかけた。

女の方も素早く空き屋敷の入り口へ向かい、声のした方(俺)と空屋敷内に居る人物との壁役になり、俺と対峙している。
グランバニアのメイド服と違いロングスカートではあるのだが、多分あの太股あたりに細身のダガーナイフを隠してるんだろう……スカートの端を少し持ち上げて臨戦態勢である。

「あれ? やぁピパン君……如何したんだい、こんな所で?」
ボディーガードからは一瞬反応が遅れて、ルディーさんが俺の事に気が付く。
勿論だが彼は俺の事を警戒してないので、普段通りの優しい口調で……

とは言え、俺を警戒している二人の為、俺は敢えて両手を上げて無手(武器無し)(プラス)無抵抗である意思を見せて空き屋敷の門から入り身体全体を見せた。
少しだけ開いてる門の隙間からの進入になったので、両手を上げた子供が蟹歩きで入ってくる様を見せている状況だ。

「一体如何したの?」
「あ、いえ……俺が危険人物で無い事をそちらの二人に……」
俺の言葉に最初は首を傾げたルディーさんだったが、直ぐに意味が解った様で、

「こ、こら! 彼は危険じゃ無い! この国の軍務大臣閣下のご子息だぞ! 身構えるなんて失礼な態度を止めなさい!」と……
ルディーさんから言われ、ゆっくりとだが普段の状態(多分、通常警戒態勢)に戻る二人(ボディーガード)

外(今、俺等が居る方)が気になった空屋敷内に居た人物が出てくる。
今の遣り取りの声(音)がして気になったんだろう。
俺を阻む感じで立っているメイドの後ろの出入り口から、一人の女性が出てきた。

「ほらデイジー……こちらに来てご挨拶を!」
それに気付いたルディーさんが、出てきた女性に声をかけて俺への挨拶を促す。
だが俺は仰天する!

何に仰天か? 全てにだ!
まずその女性の美しさ……初めてビアンカ様やリュリュ様に出会ったら同じくらいの驚きをするだろう。
そのくらい彼女が美人なのだ!

次の仰天ポイントは……ファッションセンスだ。
黒を基調としたフリルが付いた衣装……“ゴスロリ”(?)と言うのか、俺はファッションは詳しくないからあやふや(不明瞭)だが、そんな服でも解るくらいボディーラインを強調している格好。

しかも『胸の谷間は見せるモノ!』と言わんばかりに強調しており、上から下までのスリーサイズを想像してしまう。
リュカ様なら既に見抜いてらっしゃるだろうけど、俺には持ち合わせてない能力の為、思春期の男子らしくあの巨乳の谷間を脳裏に焼き付ける事しか出来ない。

ルディーさんに呼ばれ小走りに彼に近付いて、そして彼の後ろに隠れる様に引っ付き、俺の方へと視線を向ける“デイジー”と呼ばれる美少女。
俺個人の見た目では、凄く高飛車でプライドだけが先を行ってる様に見える……

けど「は、初めまして……デ、デイジーと申します……よ、よろsk……」
もう最後は何を言ってるのか聞き取れないくらい小声。
見た目(衣装や容姿)とは裏腹に、かなりの恥ずかしがり屋だと見受けられる。
だとしたら、せめてもっと大人しい衣装を着れば良いのに?

「伯母さん! デボラ伯母さん! 出てきて下さい。ご紹介したい人が居ますから!」
まだ誰か居るのだろうか?
いや、ワザワザ大声で読んでいるのだろうから、空屋敷内には居るのだろう。
ルディーさんの声につられて俺も出入り口に目を向ける。

「うるさいわね、寒いってのに! 誰よ? ここには私達しか居ないはずでしょ!? あの金髪の若造がそう言ってたじゃない!」
「世の中には“偶然”や“不可抗力”ってモノが存在するんですよ。ウルフ閣下にだって予測なんて出来ませんよ」

そんな遣り取りをしながら出てきたのは……これまた凄い格好の女性だ。
年齢は……若く見えるが俺の母より上かなぁ? でも紛れもない美女だ!
やはり黒を基調とした服装で、名前は分からないけどノースリーブの胸元が大きく開いた服に、ジャラジャラと装飾品が巻き付きまくってるミニスカート。

手首・足首は当たり前……
指の先や、多分お臍も着飾っている完全武装状態。
顔は絶世の美女だが俺の出現が気に入らないのか、それとも笑顔という概念が存在しないのか、終始不機嫌そうな顔を向けてくる。

「ゴメンねピパン君(笑) こちらの女性は僕の叔母……母の姉の“デボラ”伯母さんだ。このデイジーの母親でもある」
「……で? こいつは何なのよ!」
初冬とはいえかなりの薄着状態だが、そんな事は感じさせず腕を組んで見下ろす様に俺をにらみつけ質問。

「はぁ……彼はピパン君。ピパン・ハンター……軍務大臣閣下のご子息です。お母様は元国務大臣のオジロン閣下の娘さんです」
「……って事は、こいつもリュカの血縁!? 冗談じゃないわ、帰りなさいよ!」

如何(どう)言う人物なんだ、この女性は?
突然『帰れ』と言われ、当人はまた屋敷内に入ってしまった。
ってか、リュカ様に敵意を向ける女性(特に美女)って初めて見た。

「ゴメンねぇ。伯母さんはああいう人でさ……まぁデイジーだけでもよろしく」
「……はぁ。あ、初めましてデイジーさん。俺はピパンと申します。どうぞよろしく」
母親の方に圧倒されてしまったが、気を取り直して美人の娘さんに近付き挨拶をした。

「ど……どうm……」
だが近付き過ぎたのか驚いて余計にルディーさんの後ろに隠れてしまう。
しまったな……リュカ様にもっと女性との接し方を学ばせて貰えば良かった。

「所で君は如何したんだい? もう学校は終わって、家に帰っていてもおかしくない時間だけど?」
「あぁ……それはですね……」





俺は軽くだがここに居る経緯を伝えた。
「なるほど……そういえば今日は発売日だったね」
リュカ様から既に貰っているルディーさん……
俺が再購入した経緯で思い出す。

「ルディーさん達こそ、こんな場所で何をしてるんですか?」
「実はさ、このデイジー……僕にとっては妹の様なモノ……と言うか妹なんだけど、来年度から芸高校(芸術高等学校)の音楽科に入学が決まってさ」

「うわぁ凄い! おめでとうございます!」
「うん、ありがとう。ほら……」
「あ、ありがとうございm……」
俺の祝辞に自分の後ろに隠れてるデイジーさんに返答させる。だがやはり語尾は聞き取れない。

「で、当然ながらサラボナからなんて通えないから、グランバニアに引っ越す事になったんだけど、『心配だから』って母さん(伯母さん)も一緒に引っ越すって言い出しちゃって、二人が住む家を探してるんだ……僕的にはデイジーだけの引っ越しで、なんなら僕とルームシェアでも良いと思うんだけど……伯母さんが我が儘でね」

「そうだったんですか……それでウルフ閣下に相談して、この屋敷を薦められたんですね」
「うん。ここ以外にも何件か候補は貰ったんだけど、今日全部見て……伯母さんは嫌がってる」
嫌がる?

「『古い』とか『狭い』とか『立地が』とか言ってるけど、結局は中古物件ってのが気に入らないんだろうね。あの人(伯母さん)他人(ひと)からのお下がりとか嫌いだから、新築……と言うか土地から購入して、自分の屋敷を持ちたいんだろう」

「なら建ててあげれば良いんじゃないですか? こう言っては失礼ですけど、ルディーさん達はお金持ちなんだし、リュカ様とも知己を得ているんだし、土地の用意も建築も簡単な事だと思いますが?」

「それが簡単に出来れば、あの伯母さんに手を焼かないんだけど……」
如何(どう)やら何かある様子だな。

ピパンSIDE END



 
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