英雄伝説~西風の絶剣~
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第93話 鈴の音
side:リィン
俺達は昏睡した人たちの情報を集めて一度ギルドに戻っていた。
「取り合えずデバイン教区長の話によると昏睡している人たちに異常はないみたいよ。ただコレが続けば体力が低下して危険だと話していたわ」
「そう……なら悠長にはしてられないわね」
シェラザードさんの報告を聞いたアイナさんは深刻な表情を浮かべる。
「でもどうして町の人が倒れたのかしら、それも一部の人ばかり……」
「……多分あの鈴の音よ」
エステルはどうして一部の人だけが昏睡したのか疑問に思っていると、シェラザードさんが鈴の音が原因だと話す。
「鈴の音って夕暮れ近くで聞いた奴?」
「フィー達も聞こえたのか?」
「うん、綺麗な音だったから覚えてる」
「私達も聞いたぞ。つまり全員が聞こえる程の大きい音だったという事か」
フィーが鈴の音について反したので俺はあの音が聞こえたのかと話すと彼女は頷いた。そしてラウラもその音を聞いたと答えた。
フィーはエリーズ街道、ラウラはマルガ山道の方を調べていた。全員が聴いていたとなるとかなりの範囲で聞こえたんだな、あの鈴の音は。
「じゃあこれって……」
「間違いなく結社の奴らだろう、町の住民たちが目撃した不審人物はいなかったみたいだし同時に複数人の人間が倒れるなんて普通はあり得ねえからな。俺達を挑発してやがるんだ」
「ああ、今まで幽霊騒ぎだの怪しい男の目撃情報だのなにかしらのコンタクトを取ってきたからな。今回も急に理由もなく町の住民が倒れるという不可思議な事が起こった、結社の仕業とみて間違いないだろう」
クローゼさんが何かを察してアガットさんが結社が挑発してきたと話す。
ジンさんの言う通り今まで結社は俺達に何かのコンタクトを取ってきた。今回もその可能性が高い。
「そんな事の為に町の皆を昏睡させるなんて許せないわ」
「でも鈴の音でどうやって眠らせたんだろう?」
「多分鈴の音を利用して術をかけるタイプの使い手だと思います。先ほど話にあったデバイン教区長さんもおっしゃっていましたが、薬や病気などではなく魂が捕らえられたような状態に感じたと……私もそう感じました」
エステルは故郷の親しい人達を昏睡させられたことに怒りティータはどうやって鈴の音を使って昏睡させたのかと言う。
するとエマが音を媒体にして術をかけるタイプのものだと話した。
「ならエマ君なら昏睡した人たちを起こせるのかい?」
「ごめんなさい、私の技量では眠った人たちを起こすのは難しいです……この術をかけた者は相当な手練れだと思います」
「エマは悪くないわよ、気にしないで」
オリビエさんの問いにエマは申し訳なさそうに答えた、そんなエマをエステルがフォローする。
「これ以上誰かが眠らされるのを避ける為に夜もパトロールをしたほうがいいと思います」
「うん、わたしも賛成。猟兵は夜の戦闘が得意だからこういうのはうってつけ」
俺は町のパトロールをしたほうが良いと話すとフィーも同意する、こういう時に役に立たないとな。
「じゃあ交代しながら見回りを続けましょう」
「いやシェラザード、お前さんは今夜は休め」
「えっ?」
「隠してるつもりみたいだけど何かを気にしてるんだろう?そんな状態じゃ集中は出来ない、今夜は僕達に任せて欲しい」
「でも……分かったわ、今日は皆に甘えさせてもらうわね」
シェラザードさんは見回りの時間を割り振ろうとしたがジンさんに休めと言われた。
オリビエさんの言う通りシェラザードさんは何かを気にしている様子だった。そんな集中していない状態ではいざという時に危ないだろう。
シェラザードさんもそう思ったからか反論を止めて従ってくれた。
「エステル、お前も姫さんとティータを連れて休め。内心キテんだろ?」
「アガット……うん、ありがとう」
アガットさんはエステルにも休めと言った。ロレントの町の人たちが昏睡したことは彼女にとって大きなショックだっただろう、それを察したから休めと言ったんだな、アガットさんは。
本当に優しい人だよな。
そしてエステルはシェラザードさん、ティータ、クローゼさんを連れてブライト家に向かった。
「俺とフィーは慣れてるから良いけどラウラとエマも休んでいいんだぞ?」
「いや私も西風で夜間の訓練をさせてもらったことがある、それに力無き民が苦しめられているのに動かないなどアルゼイドの者としてあり得ない事だ」
「私達魔女は夜に活動することも多いですし今回の相手は恐らく魔術に優れていると思います、少しは役に立てると思うので……駄目でしょうか?」
「いや、二人が良いなら頼りにさせてもらうよ」
こうして俺達は夜のロレントを見回る事になった。俺はラウラとペアを組んで夜の街をパトロールしていく。
「今の所何も起きていないな」
「うん、そうだな。このまま何も起きなければいいが……」
執行者だけでなく窃盗犯が来る可能性もあるから集中しておかないとな。
「しかし今回の相手は厄介だな。霧の中から人を昏睡させるとは……睡眠無効のアクセサリーを付けているが果たして効果はあるのだろうか?」
「まあ付けていないよりはマシだろう」
結社の執行者ともなれば状態異常無効化を無視して眠らせれる可能性もある。だがそれで対策をしないのは愚か者なので付けてはおいた。
「エステルの気持ちを考えると凄く悲しくなるよ、私もレグラムの皆が昏睡したらとてもショックだからな」
「ああ、そうだな。俺は故郷が無いから長く共にした人たちは西風の皆だ、もし皆が昏睡させられたらきっと想像以上にショックを受けると思う。まあ皆が昏睡させられるイメージが湧かないけど……」
「ふふっ、あの人達なら本当に効かないかもしれないな」
ラウラは故郷のレグラムの人たちを思い出してエステルの内心を察して表情を曇らせた。俺も西風の皆がそうなったらショックを受けると話す。
でも実際皆が昏睡するイメージが湧かなくて苦笑いをしてしまう、団長なら即座に起きて反撃しそうだ。
それを頭の中で思ったのかラウラも笑みを浮かべて肯定した。
「でもレグラムか、最近は行ってなかったな。皆は元気にしてるか?」
「ああ、皆元気だ。門下生の皆もクロエたちもそなたやフィーに会いたがっていたぞ」
「そうなのか?門下生の皆は何度も手合わせしたり訓練をしたから仲良くなれたとは思っているけどクロエたちは未だに俺を警戒してるように思うんだけど……」
「あれでもそなたの事は気に入ってるはずだ、照れているだけだろう」
「そうかな?」
俺は門下生のフリッツさんやラウラの妹分であるクロエ達を思い浮かべていた。最近は会いに行ってなかったし今回の件が終わったら久しぶりに顔を出してみようかな。
「まあどの道一度は顔を見せに行かないといけないぞ。なにせ私とそなたは結婚の約束をしたのだからな」
ラウラにそう言われて俺はハッとした。そうだ、ラウラとの関係をヴィクターさんに報告しに行かないといけないから必ずレグラムには立ち寄らないといけないんだ。
「因みに父上は私を自分から奪おうとするなら相応の覚悟をしておくようにと言っていたぞ。完全な本気ではないにしろ相当な武力を持って対峙してくるだろう」
「だよな……ヴィクターさんも娘馬鹿だからな」
ラウラの言葉に俺は冷や汗を流す。ラウラと結婚するにはあの人を認めさせないといけないし間違いなく戦闘になるだろうな……
「……でも俺は勝つよ。例え相手がヴィクターさんでもラウラを貰うために何度だって挑むつもりだ」
「それでこそ私が惚れた男だ」
俺が決意を込めてそう言うとラウラは笑みを浮かべてはにかんだ、それがとても綺麗で可愛くて俺は思わず見入ってしまう。
するとラウラが手を差し出してきた。
「どうしたんだ?」
「……今は見回り中だ、現を抜かすようなことはできない。でもこのくらいなら良いだろう」
「ああ、そういう事か。うん、喜んで」
俺は差し出された手を優しく握って指を絡ませる恋人つなぎをする、するとラウラは嬉しそうに身を寄せてきた。
「愛してるぞ、リィン」
「ああ、俺も愛してるよ。ラウラ」
そして俺達は交代の時間になるまでお互いの手を離さないように強く絡めて繋ぎ続けた。
―――――――――
――――――
―――
side:フィー
リィンとラウラが帰ってきたので見張りを交代してエマと一緒に街を歩いているよ。でもラウラってばリィンとずっと手を握ったままで羨ましかった。
寝る時もお互いに身を寄せ合ってくっついてたし……まあわたしも抜け駆けしちゃったことがあるしこれでお相子かな。
「エマ、どんな感じ?」
「今のところ不審な気配や魔力を感じたりはしませんね」
「ん、なら良し」
エマの魔法には本当に助けられるね、まだ出会って少ししか立ってないけどエマの事は信用できるよ。
だからこそちゃんと確かめておかないとね。
「ねえエマ、わたし腹の探り合いは苦手だから直球で聞くね。リィンの事好き?勿論女の子としてだよ」
「はい、私はリィンさんの事が女として好きです」
わたしはストレートに質問をしてみたがエマはあっさりと答えた。
「ん、凄く素直でビックリ。ラウラでも最初は否定したのに」
「隠す必要は無いですから」
「そっか。ならどうして告白しないの?」
「まだ出会ったばかりですしあくまで感ですけどクローゼさんやアネラスさんもリィンさんに惹かれていますよね?その二人が答えを出せたら想いを伝えようと思っています」
「なるほどね」
わたしはエマの考えを聞いて納得した。
「それで私はフィーちゃんの信用は取れましたか?」
「うん、エマならいいよ。わたしも貴方を信頼してるし魔法も凄く頼りになるから。もし時が来ればわたしもリィンを説得するし協力する。最悪皆でリィンを襲っちゃおう」
「それは楽しみですね♡」
わたしはエマもリィンのハーレムに入れることにした。わたし達にはない強みがあるしおっぱいも大きいからリィンが喜びそう。
「因みにエマはいつリィンを好きになったって自覚したの?」
「そうですね、あれは前にリィンさんが銀と戦った際に……」
その後わたしはエマとリィンについていっぱいお喋りをした、勿論見回りもしっかりやったよ。
「またリィンは無茶したんだね、そういうところは本当に直してほしい」
「そうですね、アレは私もないなって思いました」
「同感。もっとわたしを頼ってほしい、前にも……」
ちょっと愚痴っぽくなっちゃったけどリィンのカッコいい所や可愛い所も話した。そして時間が来たのでオリビエ達と交代してギルドの2階に上がった。
「お帰り、フィー、エマ。夜食作っておいたから食べなよ」
「うん、ありがとう」
すると起きていたリィンとラウラが目玉焼きの乗ったトーストを差し出した。わたしはお礼を言って一口齧る。
因みにセリーヌは疲れちゃったのか机の上で丸まって寝てるよ、お昼にいっぱい遊んで疲れちゃったんだって。
「美味しい……卵はちゃんと半熟だしリィン上手になったね」
「まあフィーにばかり作ってもらうのも悪いからな。結婚したらお互いに家事をしないといけないし今からそういう所も鍛えて行かないとな」
「うんうん、ちゃんとわたし達の未来を考えれてて偉い。ご褒美にナデナデしてあげる」
「ははっ、ありがとうな」
わたしはリィンの言葉に嬉しくなっちゃって彼の頭を撫でた、まあリィンがしゃがんでくれないと出来ないのが悔しいけど。
「私も料理のレパートリーを増やしておきたいな。フィーには負けていられない」
「なら私が教えてあげますよ。お婆ちゃんがズボラな人だったので料理や掃除などは自分でやっていましたので」
「そうなのか、それは心強いな」
ラウラとエマは仲良くおしゃべりをしていた。あとでこっそりラウラにもエマが仲間になるってことを話しておかないとね。
その後わたしとエマは夜食を食べ終えて状況の確認をリィンとラウラも交えて行った。
「現状おかしなことは起きなかったな、敵も警戒してるのかそれともまた何かを企んでいるのか……」
「とにかくわたし達が不利なのは変わらないね。霧のせいで動きにくい」
「だが明日になればエマの捜索魔法……だったか?それで何か解決のきっかけを得られると良いのだが」
「問題は敵も魔術に長けていそうな事なんですよね、技量は相手の方が上ですし対策されてしまうと難しいかもしれません」
リィンは敵の動きを警戒してわたしは霧のせいで動きにくいと話す。ラウラはエマの魔法で解決の手掛かりを得られると良いというがエマは不安そうにそう呟いた。
「まあまずはやってみて判断しよう。俺はエマを信じてるし上手くいくさ」
「リィンさん、ありがとうございます」
リィンはガッツポーズをしてそう言うとエマは柔らかな笑みを浮かべてお礼を言った、少し顔が赤かったね。
「リィンってばすぐに女の子を褒めるよね。エマも狙ってる?」
「な、なに言ってるんだ!俺は純粋な思いでエマを励ましてだな……」
「いっそ団長みたいにハーレムでも作ったら?リィンにはもうわたしとラウラがいるしエマが増えてもいいんじゃない?」
わたしがリィンをからかうと彼は慌てた様子で首を横に振った。
「フィー、あまり俺をからかわないでくれ。エマだって嫌だよな?」
「あら、私はリィンさんが望んでくださるなら喜んでハーレムに入りますが?なんならどんなことでもして差し上げますよ」
「ええっ!?……ゴクッ」
リィンはエマに同意を求めたが逆にハーレムに入ってもよいと言われて驚いた、そしてエマの大きな胸を見て唾を飲みこんだ。このスケベ。
「リィンってば本当におっぱい好きだよね」
「私の胸もよく見てるからな」
「リィンさん、可愛いですね♪」
「い、いやそんな事……エマもからかわないでくれ!」
リィンはわたしのジト目にたじろぎラウラの呟きに冷や汗を流した。そして可笑しそうに笑うエマに溜息を吐いてそう言った。
「ふあぁぁ……眠くなっちゃった」
「なら少し仮眠を取ったらどうだ」
「ん、そうするね」
わたしはリィンの膝に行くとすっぽりと収まるように座り込んだ。
「ここが一番好き……」
「寝づらくないのですか?」
「猟兵は何処でも寝られるように訓練してるから平気……」
「いや、そんな直に寝られるのはそなただけだと思うぞ」
「んみゅ……褒めてくれてありがとう」
「誉めてないぞ、まったく……」
わたしはリィンの暖かさを堪能してるとエマが寝づらくないかと聞いてきたので訓練をしてるから平気だと答える。
でもラウラがそんなにすぐに寝れるのはわたしだけと言ったのでお礼を言った。するとラウラは困ったように笑みを浮かべていた。
もう限界だね、わたしはリィンの腕の中で眠りについた。お休み……
―――――――――
――――――
―――
朝になってわたしはオリビエに起こされて目を覚ました。
オリビエが何か楽しそうにしていたので周りを見て見るとリィンの右腕を抱き枕にして眠るラウラとリィンの肩に寄り添って寝てるエマがいた。
そしてそんなわたし達をカメラで写真を撮るオリビエ、後で1枚加工してもらっておこう。
因みに後でバレたのかリィンに追いかけまわされるオリビエがいたらしいよ。
その後は合流したエステル達の持ってきてくれた朝ご飯を食べていよいよエマの捜索魔法を使う時が来たの。
「それではアイナさん、昨日お願いしたモノをいただけますか?」
「ええ、これでいいかしら?」
「はい、この大きさなら問題ありません」
エマはアイナからロレント地方が描かれた大きな地図を貰った。
「もう一度確認しますがこの地図は使えなくなっても問題無いですか?」
「予備はいくつかあるから平気よ。でも何をするの?」
「こうするんです」
エマは机の上に防水用のシートを広げるとそこに貰った地図を置いた。そして昨日月光草と犯人の歯形が付いた果物を入れた魔法薬をゆっくりと地図に垂らしていく。
「地図を濡らしちゃうの?」
「はい、こうして破らないようにゆっくりと染み込ませていきます」
エステルの指摘にエマは頷いて答える。そして地図全体が液体で覆われた頃、エマは杖を取りだして何かの呪文を呟き始めた。
「私達の知らない言葉でしょうか?興味深いですね」
エマの呟く言葉は聞いたことのない単語ばかりだった、それを聞いていたクローゼは興味深いと話す。
凄いね、わたしは難しい言葉なんか聞いてたら直に眠くなっちゃうよ。
「蒼き炎よ、我が示す探し物を汝の清浄なる炎で導きたまえ」
その言葉と同時にエマの杖の先から小さな蒼い炎が出て地図に落ちた。
「ちょっとエマ!地図が燃えちゃう……えっ?」
「炎が動き始めたわ」
エステルが慌てるが蒼い炎が地図をゆっくりと移動し始めた。これにはシェラザードも驚いていた。
「凄い、炎が生きてるみたいに動いてる……どんな原理何だろう?」
「この方角はマルガ山道か」
ティータは興味深そうに目を輝かせて炎の動きを目で追っていた。ジンは炎の向かった先がマルガ山道であることを呟く。
「炎がどんどん道を昇って行ってるな。あっ、止まったぞ」
「ここって翡翠の塔がある場所じゃないか?」
リィンは炎の止まった場所を見てラウラが場所の名前を呟く。
「ここに窃盗犯がいるって事?」
「はい、恐らくは……」
「なら話は早ぇじゃねえか。さっさとそこに向かって盗人共を……」
エステルの問いにエマが頷いた。それを見ていたアガットはパンッと拳を鳴らして気合を入れる。
だがその時だった、不意に聞こえた鈴の音に全員に緊張が走る。
「今のって昨日の……」
「まさか誰かがまた……」
ティータが顔を青くしてクローゼが誰かが倒れたんじゃないかと察した。
「直に状況の確認をしないといけないわね、数人は残った方が良いんじゃないかしら?」
「同感だな。執行者を放っては置けん、また何かしてくる可能性がある」
「しかしこれだと俺達も町から離れられねぇな」
「そのことなら何とかなりそうよ」
シェラザードは状況の確認をするのと町の防衛の為に数人は残った方が良いと言う、それにジンも同意した。
彼の言う通り執行者がどこにいるか分からない、窃盗犯と一緒にいてくれたら一番楽だけどその可能性は低いだろう。
町の防衛もしないといけないので満足に動けないとアガットが言うとアイナが何とかなりそうと話をし始めた。
「昨日皆に各関所を回ってもらった際に状況をまとめた報告書を渡してもらったでしょ?それで軍に話が行って町の防衛の為に部隊を派遣してもらえることになったの」
「もう情報が来たのかい?ギルドの情報網は優秀なんだね」
「エマちゃんとジークのお蔭で手紙のやり取りが出来るようになったからよ」
「ピューイ」
ギルドと軍の手際の良さにオリビエが驚いていた。どうやらエマの魔法でジークが霧の中を飛べたらしく手紙の受け渡しが早く出来たみたいだね。
ギルドの掲示板の上に止まっていたジークが誇らしげに鳴いた、相変わらず頼もしいね。
「そういう事なら窃盗犯も軍が来てから追うことにした方が良いのかしら?」
「いや執行者がそんな呑気に待ってるとは限らん、余計な事を伝えられて窃盗犯に逃げられる前に先手を打った方が良い」
「そうね、場所が分かったなら放置しておくのは得策ではないわね。また悪さをされないうちに対処してしまいましょう」
エステルは軍の部隊が来てから動いた方が良いかと尋ねるとジンとシェラザードは行動した方が良いと話す。
人数もいるし動けるうちに対処しておいた方が良いのはわたしも同感、さっさと捕まえちゃおう。
そして窃盗犯を捕まえに行くメンバーはエステル、リィン、ラウラ、ジン、わたしの5人になった。
わたしとリィン、ラウラは自分の恰好を真似されて悪さされている、一発はぶん殴ってやらないと気が済まない。
そしてマルガ山道を進み翡翠の塔の前に来た、すると一階の奥から誰かの話し声が聞こえた。
「いやー、大量大量!大儲けだな!」
「はい、流石はボスです!猟兵に変装して霧に紛れて盗むなんて普通は考えませんよ!」
「まあそれが出来たのは赤いスーツを着た子供みたいな奴から変な札を貰ったからなんですよね。これのお蔭でこの濃霧がまるで無いみたいに視界が良好になるから仕事が楽でした」
「まあこれも俺の持つ人徳のお蔭だな!がっはっは!」
黒髪の中年が酒瓶をラッパ飲みしながら豪快に笑っていた。その横でトマトやチーズ、ハムを食べている銀髪の小さい太った男が黒髪の男をボスといって褒めている。
そして横で宝石などを物色していた青髪の背の高い男がなにやら気になることを話していた。
「赤いスーツ……結社の一員かしら?」
「ギルドへの報告で怪しい赤いスーツを着た子供を見たという情報が上がっている。可能性はあるな」
エステルとジンはその赤いスーツの子供に似た情報があったと話す。
「それにしても楽な仕事だぜ。なんで西風の兄弟がいるかは知らないがリベールじゃ猟兵は嫌われてるから絶対にあいつらの仕業だと思われるはずだ」
「西風のせいで俺達は猟兵を続けていけなくなったんだ、いい気味ですよ」
「今頃とっ捕まって泣いてるかもしれませんよ」
「がっはっは!済々するな!」
わたしとリィンは西風の旅団という言葉を聞いてあいつらの正体に気が付いた。
「なるほど、あの3人は『くずれ』か……」
「くずれ?」
「何らかの理由で猟兵団を維持していけなくなった元猟兵の事だ、他の団との争いに負けてメンバーが殆ど全滅した、もしくは仕事を失敗して信用を失ったとかそういう場合にくずれになることがある」
「そしてくずれは高い確率で犯罪者になるの。あいつらみたいに盗みをしたり殺しをして金を得ようとする、そしてまた団を作ろうとするんだ」
リィンのくずれという言葉にエステルが首を傾げた。リィンはエステルに猟兵くずれに付いて説明してわたしが補足する。
「結局はただの犯罪者さ、さっさと捕まえてしまおう」
「そうね、ロレントの町の皆を困らせたりティオの農園を荒らした事を後悔させてやるわ!」
リィンの言葉にエステルは気合を入れる。そしてリィン達は奴らの前に出た。
「そこまでだ!お前らが窃盗犯なのはもうわかってるんだぞ!」
「だ、誰だ!」
「お前がバカにしてたリィン・クラウゼルだよ」
「げげっ!?」
リィンの自己紹介のリーダーの男は驚愕の表情を浮かべた。そりゃさっきまで馬鹿にしてた相手が目の前にいたら驚くよね。
「ど、どうしてここに!?遊撃士や軍に追われてるんじゃないのか!?」
「どんな情報を掴んだのか知らないけど俺達は遊撃士と協力して今ここにいるんだ、追われることはないよ」
「はぁっ!?なんで遊撃士と猟兵が協力してるんだよ!?おかしいだろう!」
まあ確かにリベールでは猟兵は嫌われているので協力関係にあるとは思わないよね。
「まあ確かにそうだがお前達には関係ないだろう。お前達は俺達に変装して好き放題したんだ、報いは受けてもらうぞ」
「くそっ、捕まってたまるか!」
リィンの鋭い視線にリーダーの男はすぐに逃げ出そうとした。なるほど、元猟兵だけあって動きは速いね。でも……
「よっと」
「ぐわっ!目がぁ!?」
わたしは閃光手榴弾を投げて窃盗犯たちを無力化した、実はリィンが注意を引いてる間にわたしは既に奴らの背後に回り込んでいたんだよね。簡単な仕事だったよ。
そしてあっという間に窃盗犯たちを取り押さえた。
「くそっ!西風め!どこまで俺達の邪魔をするんだ!」
「知った事か。そもそも西風に復讐するならともかく何の関係もない一般人に迷惑をかけた時点でお前らはくずれ以下の外道でしかないんだよ」
怒鳴るリーダーの男にリィンは冷たく言い放った。そもそも負けた方が悪い猟兵の世界でわたし達にやり返そうとせず関係ない人達から窃盗してる時点でこいつらに同情の余地など無い。
「あんた達がロレントの町で盗みをしてフランツさんを怪我させたのね!一発ぶん殴ってやるわ!」
「俺も破甲拳をぶちかましてやる」
「ならわたしはゴム弾をありったけ打ち込む」
「あまりやり過ぎぬようにな」
「ひぃぃ……!」
エステルはスタッフを構えてリィンも破甲拳の構えを取った。わたしもゴム弾を装填してラウラはやんわりと注意をした。
顔を青くする窃盗犯たちにジリジリと近づいていくわたし達。安心して、命までは取らないから。
「ん?……これは霧か?」
すると塔の内部にも霧が発生してジンが反応した。
「みんな気を付けろ!何か起こるかも……!!」
そしてジンはわたし達に注意を促そうとするが一瞬で霧がわたし達を飲み込んで意識を失ってしまった。
そしてその場には誰もいなくなってしまった。
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