破った約束
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第二章
「何か今は太ってる奴嫌なんだよ」
「しかし太ってるのもな」
「その人それぞれでしょ」
「それでそう言うのはな」
「よくないわよ」
「いいんだよ、デブは努力してない証だよ」
両親の言葉を遮って自分の言葉を返した。
「そんな奴何を言ってもいいよ」
「それはどうなんだ」
「あんた変わったわね」
両親は忌々し気に言う息子に呆然とするばかりだった、この時だけでなくだ。
彼はテレビでそうした体形の人を観たり外に出て見てもだった。
いつもそうした体形の人を馬鹿にして蔑んだ、それで言うのだった。
「デブは死ね」
「デブは痩せろ」
「デブくたばれ」
「デブ臭いんだよ」
「デブは運動しろ」
「デブは節制しろ」
「デブはもっと努力しろ」
その度にこう言った、そしてだった。
見かねた母が遂に言った。
「あんた子供の頃太ってたでしょ」
「だから今は努力して痩せてるんだよ」
ジムに通い続けている、アルバイトもして。そのうえでの返事だった。
「それならいいじゃない」
「よくないわよ、子供の頃太ってる人を馬鹿にしたりしないって言ったわね」
「そんなの知らないよ」
これが息子の返事だった。
「それよりもあの時散々言われたんだ」
「それで言うの」
「そうだよ、僕だって言われたんだ」
だからだというのだ。
「他人にも言うよ」
「そうしていくのね」
「そうだよ、デブはデブだってね」
「そうなのね」
「他には何もしてないからいいじゃないか」
言うだけだからだというのだ。
「それじゃあね」
「そのまま言っていくのね、あんた」
「変えるつもりはないよ」
こう言ってその通りにだった。
彼はしていった、運動を続け引き締まったスタイルを維持してだった。
太っている人を罵り続けた、もう両親は何も言わなかった。だが。
結婚した後で奥さんに言うとだった。
「ひっぱたかれたのね」
「痩せろデブって言ったらね」
実家で母に憮然として答えた。
「それで今度言ったら離婚だってね」
「最初で言われなかっただけましよ」
「そうなんだ」
「そうよ」
「他の誰かに言ってもって言われたよ」
「だから言ったでしょ、人の体形はそれぞれよ」
母は厳しい声で告げた。
「あんたもね」
「子供の頃は太っていたから」
「その時言われて嫌だったでしょ」
「凄くね」
「じゃあ言わないの、自分も前はそうだったし」
それにというのだ。
「人が嫌がることはね」
「言わないことだね」
「本当に今度はないわよ」
離婚されるとだ、息子に警告した。
「いい奥さんでしょ」
「僕には勿体ない位のね」
「そう思うならよ」
「言わないよ」
息子は約束した、そして今度は約束を守った。スタイルはそのままで汗をかき続けても二度と言うことはなかった。
破った約束 完
2023・12・12
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