リュカ伝の外伝
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そのままでいい
(グランバニア王都:GEOビル)
アーノSIDE
プリ・ピーを結成してから比較的小さいステージで演奏させてもらってきたけど、昨日は初めてと言えるくらいの大きなステージだった。
主目的が新発売の魔道車の展示促進会だったので、私たちが目当ての客は少数だったけども、あの演奏でファンに引き寄せられたら幸いだろう。
演奏した曲目も概ね好評であると手応えは感じている。
だが……最終5曲目に関しては、正直プリ・ピー内でも反省する出来映えとなっている。
目の前で演奏を聴いている社長……いや、国王陛下のお顔が終始渋かったのが記憶から拭えない。
自らが演奏する事によって学んできたつもりのポップスミュージックを形にしたいとの思いと、それをさせてきてくれた社長に恩返しがしたいとの思いで、メンバー全員力が合わせて作り上げた曲だったが、作り上げ演奏した私たちですら出来の悪さに辟易してしまった。
昨日の展示会が全て終わり、後片付けなどは軍の方々が手際よく済ませてる中、私たちは自分の分(音楽機材とか私たち用の魔道車とか……あとは私物)だけを片付けてたのだが、社長がリーダーのアイリーンだけを明日(昨日の時点なので今日の事)事務所に来てくれと……
多分……私たちが作った5曲目の『グランキング』が劣悪すぎて説教されるのだろう。
その場でしないのは当然他に人が居るからであり、アイリーンだけ呼ばれたのは彼女が私たちのリーダーだから、代表として叱られるのだろう。
それくらいの事は流石に解る。
だから本当は全員で事務所に行き、皆一斉に叱られるつもりだったのだが、以前からエミヘン・ピノ・キャロは如何しても外せない予定が入っているため、私(アーノ)とヴァネッサ先輩がアイリーンに同行する事に。
私たちはGEOビルに入って直ぐに1階の受付事務室(所謂メインの部屋)に入る。
そこには休日にもかかわらず奥様が受け付け事務員として座っていた。
自らが煎れたであろうコーヒーを飲みながら持ち込んできた本を読んでリラックスしている。
「あら? アイリちゃんが来る事は社長から訊いていたけど……如何したの2人とも? 昨日はいっぱい頑張って今日は疲れてるでしょうから、お家でゆっくり休んでれば良いのに」
「あ、いえ……多分叱られるので、アイリーンだけに押しつけられないと思いまして……本当は全員が集まらなきゃならないのですが……」
「な~に? 叱られるようなことをしたのぉ? なあに……息子の悪口でも言った?」
「そ、そんな事は言いませんし、殿下の事で悪い事なんて何も存在しませんよ!」
「あらアイリちゃんはまだまだ視野が狭いのね。あの子も結構アレなのよ(笑)」
だとしても応対し殿下の悪口を言えるわけがない。
「まぁ何でも良いか。社長は朝から2階で何かしてるわよ。凄く真剣に取り組んでるから仕事(国政)じゃないわね(笑)」
「重要度が……」
真面目に取り組んでるから仕事(国政)じゃないって……アイリーンの呟きも解る!
まぁ何時までも奥様とおしゃべりを楽しんでるワケにもいかないから、私たち3人は2階のスタジオへと向かった。
重い二重戸を開けて中に入ると社長……では無く上半身Tシャツのラフな格好をしたリュカ陛下がピアノを弾きながら譜面を書いていた! つまりは作曲である!!
くはぁ~……
何時までも見てられる。
普段陛下(社長)は露出度が控えめなのだが、実は脱げばバキバキの細マッチョというマニア御用達の官能ボディーの持ち主なのだ!
「あぁすみません、お仕事中なのにお邪魔してしまいました」
「何を言ってんだよアイリーンちゃん。この時間に来る様に言ったのは僕なのだから、ちっともお邪魔にはならないよ……でも何でヴァネッサちゃんとアーノちゃんも居んの?」
「あの……昨日演奏した『グランキング』の事で……本当は全員でお叱りを受けるのが筋なのですが……集まれなかったので、私たちが3人代表と言う事で……申し訳ございません!」
何時もとは寸分も変わらない社長の口調だが、それが余計に申し訳なり、アイリーンが頭を下げて陳謝……私たちもそれに続く。
「ちょ……な、何だよ!? 良いから……良いから今すぐ頭を上げなさい!」
何だかよく分からないが頭を下げた事に叱られる。
勿論言われるがまま私たちは頭を上げ正対する。
「何を勘違いしてるのか何となく解ってきたけど、昨日演奏した『グランキング』の事だったら別に怒ってないし……そもそも怒る様な物事じゃないよ。正直に言っちゃえば楽曲としてはレベルも低いし歌詞の内容が僕を煽ててる感じで嫌だけど、怒る様な事では無い! 寧ろポップスミュージックに触れてからまだ日が浅いのに、あそこまで完成させちゃうんだから叱るどころか褒めるべき事柄だよ。自信を持ってこれからもポップスミュージックを学んでいってよ」
如何やら端っから説教などは無く、本当に別件でアイリーンは呼び出されて多様だ。
「はい、そこの重い扉を少しだけ開けて中を覗いてる事務員のオバサン! 別に説教とか始まったりしないから、君は仕事に戻りなさい!」
陛下が部屋の出入り口に向かって突然声を発す。
言われて我々も視線を移したら、そこには奥様が顔半分だけ扉から出して覗いていた。
「あらあら……またどこぞの王様がか弱き女の子を泣かすのかと思いまして……じゃぁお節介なオバサンは事務仕事に戻りますわよ! あぁ忙しぃ!」
そんな捨て台詞で扉が閉まり、奥様は1階へと戻っていく。
「あ……あの……では何故私は今日呼び出されたのでしょうか?」
「あれぇ? 全然気付いてないの!?」
「気付くも何も……」
「今日は日曜日で、サンタローズでは教会がミサを行ってるんだよね……だから、」
「……はっ!! きょ、今日はそれのお手伝いを……って事でしたか?」
「お手伝いってか、ちゃんとバイト代は出るよ」
「いえ、バイト代なんて不要ですわ。寧ろ毎回お手伝いしたいくらいなのですから」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど……勘違いして来ちゃったヴァネッサちゃんとアーノちゃんは如何する? 一緒に行っても素人のお婆ちゃん達に音楽を教えるだけだけども?」
「因みに社長……ワザワザ私を手伝いに駆り出すって事は、あの聖歌隊に新曲を提供するって事ですか?」
「うん。そろそろ曲目を増やさないとお客に飽きられるからねぇ。レパートリーは多いに越した事はない」
なるほど……確かに多数の曲を演奏出来るのは強みだ。
「二人とも! 今日はラッキーよ。是非とも一緒に行って聖歌隊のお手伝いをするべきね」
如何やらアイリーンには聖歌隊のお手伝いに多大な価値を見いだしてるらしく、鼻息荒く私たちにもそれを伝えようとする。
「あ、私でお役に立てるのなら……是非お手伝いをしたいです」
「私もぉアーノと同じでぇお役に立てるのなら是非ともぉ」
私もヴァネッサ先輩も共に了承。
「そ、それで社長。新曲の譜面とかは既に用意して有ったりしちゃいますかぁ?」
私たちの了承を確認すると、先ほどまで落ち込んでいた目とは完全に別物の瞳を光らせて社長へと躙り寄るアイリーン。な、何があの娘をそうさせるのだ!?
「はいはい、ちゃんとありますよぅ。コレね。二人の分もどうぞ」
そう言われて3人分の譜面を受け取るアイリーンは、私たちの事は見もせずに追加で渡された譜面を渡してくる。ちょっとはこっちを見ながら手渡しなさいよ……無礼ね!
「じゃぁ僕はピアノで披露するから、適当な場所に座ってよ」
そう言いながら社長は先ほどまで行っていた作曲を中止し、作曲中であろう譜面等をファイルにしまい、それをご自身のショルダーバッグにしまい込んだ。あっちも気にはなる。
そしてピアノに座り直し演奏の準備を整える。
私も手近なソファーに腰を下ろし、アイリーンからノールックで渡された楽譜に目を移す。
そこには『Let It Be』と曲名が書いてる
ふむ……
楽譜の歌詞を見る限り、同じ言葉“Let It Be”を繰り返している印象が強いが……
社長の曲だ……そんな単純ではないのだろう。
・
・
・
泣く!
今日は説教だと思っていたから、心を強く絶対に泣かないと誓ってきたのに、別の意味で社長に泣かされた!!
何だこの素晴らしい曲は!?
「良いなぁ~……羨ましいなぁ~……この曲プリ・ピーでも披露したいですぅ!」
「我が儘を言っちゃダメだよアイリーンちゃん(笑) まだまだ別にも名曲は沢山あるから、それを待ちなさい」
アイリーンに同感である。名曲過ぎるわ!
「で、さぁ。数週間くらい前から、サンタローズの聖歌隊に新メンバーが加入しててさ……その娘は元々は別の街の教会で聖歌隊に参加してたらしいんだけど、学ぶためにも有名になってるサンタローズの聖歌隊で修行するという意味を込めて参加してるんだって。努力する事は良い事だし、僕も協力しようと思ったワケね」
「なるほど……何処かの歌姫とは正反対ですわね」
「あはははっ……言うなよ(泣)」
誰の事だ? 社長とアイリーンの間では会話が成立しているみたいだわ。
「んでね、歌う事も重要なんだけど、ここの聖歌隊ってさ平均年齢が高すぎじゃん」
「そうですわね……一番の年下がフレイちゃんですからね」
如何やらかなりの年下が居るらしい。
「でさぁ……丁度良いって言うのもヴァネッサちゃんに失礼かもしれないんだけど、今日からその娘にピアノも教えようかなぁって思ってます。だからヴァネッサちゃん……数時間だけども、この曲を練習して行く? 今日来るとは思ってなかったから、アイリーンちゃんに任せるつもりだったんだけどね」
「あ……よ、よろしいですかぁ? 是非とも私もお手伝いしたいので……流石に私も一度も練習しないで他人ぉ様には教えられませんですからぁ」
「私ならもう完璧に出来ますわ!(ドヤァ!)」
嘘だろアイリーン! 楽譜を一瞥して演奏を一回聴いただけだぞ!
「アンタのぉそういう所がぁムカつくのよぅ!」
アーノSIDE END
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