ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第三十八話 妖精郷での出会い
宴会(?)が終わりをつげ各々帰宅していき、後片付けは明日に回し、現在の時刻は十時ちょっとすぎたところである。焔と恋人である瑞希は仲良く焔の部屋。桜火は自分にあてがわれた部屋でナーヴギアを見つめていた。かつては自分を苦しめたものであり、自分の命をつないでくれたもの。そして、大切な出会いをもたらしてくれたものであった。
「また、よろしく頼むぜ」
一声かけ頭にかぶるとベッドに横になる。そして―――
「リンク・スタート」
SAOの中で剣の頂に立つと称されたものは妖精の住まう世界へと旅立った。
◆
セットアップステージが終わり、虹色のリングをくぐると暗闇に到達した。そんな桜火を出迎えたのは合成音声だった。
【ようこそ。アルヴヘイム・オンラインへ】
アカウント情報登録ステージに到着した桜火は合成音声の案内に従い、アカウントおよびキャラクターの作成を開始した。パッケージ購入特典で一ヶ月は無料プレイが可能らしいが今の桜火にはどうでもよかった。
「キャラクターネームは・・・ソレイユでいいか」
少しだけ悩んだ末導き出した答えは、二年という時間を過ごしてきたもう一人の自分の名前だった。
「種族はインプで、と」
ソードアート・オンラインのとき見たく細かくキャラクターを作成できるのではなく、自動で決まるらしい。
「(ぶっちゃけ、そっちの方がありがたいんだよね)」
後々後悔するとも知らずにそんなんことを思っていると、アカウント情報登録ステージが終了した。
【それでは幸運を祈ります】
その言葉に見送られ、桜火は落下していった。
◆
徐々に異世界の姿が姿を現す。落下地点をよく見ると無数の穴が空いた岩山が見える。スタート地点は自身の選んだ種族の領地からということらしいのであれがインプ領なのだろう、と勝手に結論付けるソレイユ。
そんなこんなでインプ領にあるスタート地点に到着したソレイユの第一声は
「さて、と・・・ここがインプ領か・・・なんつーか・・・暗いな・・・」
だった。まぁ、闇妖精というのだから暗闇に住んでいてもおかしくないよな、と再び勝手に結論づけると右手を振ろうとしたところで一際立派な建物から女性のものと思われる絶叫が響き渡った。
『あんの、馬鹿領主はいったいどこに行きやがったぁぁぁぁ!!!!!』
いきなりの絶叫についついポカンとしてしまうソレイユだが、自分には関係ないと思い直し、改めて右手を振った。しかし、思い通りのことが起きなかったので今度は左手を振ってみると目的のものが出現した。
「・・・紛らわしい」
ぼやきつつもメニューウインドウを操作し、ステータスウインドウを開くと目を瞠ったHPやMPと言ったものは初期値と思われるが、所持金とスキル熟練度が異常だった。
「えっと・・・一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億・・・ん?」
眼をゴシゴシこすり、続いて眉間に指をやり、目を閉じて軽くもみほぐす。その姿はまるで仕事に疲れたサラリーマンのようであった。そして、もう一度ウインドウに眼をやると、先ほどと何も変わらない数字が目に飛び込んできた。
「・・・・・・五十六億六千二百三十二万七千八百九十一・・・ユルド?やべぇ、億万長者にも等しいじゃん、おれ」
あまりの桁違いの数字を聞いて思考がバグってしまうソレイユ。スキル熟練度を見てもあり得ない数字が並んでいる。武器スキルなんかほとんどマスター済みである。アイテム欄をのぞくとそこはひどい文字化けを起こしていた。初期設定でこの現象はいったい・・・と考えてるとき、そのステータスに見覚えがあった。
「これ、SAOのときのセーブデータか?・・・・・・可能性の一つとしては基盤は一緒か?確か、カーディナルっつたっけ・・・」
それならこの数値は納得のいくものだったが、なぜSAO時のセーブデータがここにあるのかという疑問が頭の中に浮かんだが、すぐに解消された。
「(これである程度確証は得られたか)まっ、ありがたく使わせてもらうとしよう・・・とりあえず、これだけあるなら先に装備でも揃えますか」
文字化けしたアイテムをすべて削除し、そういって武器屋などを探しに歩き出すソレイユ。インプ領は岩山の中にあるせいで太陽や月の光があまり入ってこない。そのため、領全体が暗い闇を纏っているが暗視がデフォでついているインプにとって領の暗さというのは苦になるものではなかった。数分歩くとある武器屋が目に留まったので、その武器屋に足を運んでいく。
「こんばんわ~」
「おっ、いらっしゃい。これはまた別嬪さんが来たものんッスね!」
プレイヤーの店主らしき人に挨拶をしたところ、何か不穏な単語が聞こえたソレイユは固まった表情で店主に聞き返した。
「えっと・・・別嬪、さん・・・?」
「ん?あんさん、自分の顔見てないんッスか?・・・ほら・・・」
そういってわたされたのは手鏡であった。その鏡を覗き込むとアメジスト色の瞳に紫がかった黒の髪が見える。それはいい。そこまではいい。だが、この容姿を見て男だとわかるやつがはたしてこの世界にどれだけいるのだろうか。もういっそ、このままネカマでもしてやろうか、などと思い始めるソレイユ。
実際のソレイユの容姿は、アメジスト色の瞳にハネッ毛で腰までのびているダークパープルの髪をポニテにまとめている。顔は女顔、声はハスキーボイスと言った感じである。なぜ男性プレイヤーの容姿にこんな姿があるんだ、とGMに訴えたくなったソレイユ。まさか、ランダムに容姿が決まるゲームのなかまでこんな容姿になるとは思わなかったのだろう。
「あのー、その、えっと、もしかして男性プレイヤーの方ッスか・・・?」
カウンターに突っ伏すソレイユは涙目の上目使いで武器屋の店主の言葉に頷く。男であるとわかったがその姿に顔を赤くする店主。さらにそれを見たソレイユは落ち込み度を上げてしまう。時たま女装して相手の反応を見て楽しむ癖はあるが、よもやそれが常時付きまとうとなるとさすがにいやになってくる。
「とりあえず、刀、あるか?できれば結構できのいい奴」
これ以上落ち込んでいても話が進まないので、気を取り直して目的を告げると店主はこんなのはどうでしょう、と店の奥から取り出してきた。
「銘は【エクリシス】。今ウチにある中で一番の刀ッス」
店主から受け取り、黒塗りの鞘から引き抜いてみると黒い刀身が紅く淡い輝きを絶えずやどしている。見る者をすべてを魅了するであろうその刀をしばしの間見つめていると、徐に店主に向きなおり聞いた。
「素振りしてもいい?」
「もちろんOKッスよ」
店主の了解を得たソレイユは少し距離を取ると居合いの構えを取る。一息つき体全体の力を抜き、柄に手をかけた瞬間―――
「・・・ヘ?」
そう呟いたのは武器屋の店主。何が起こったのか理解できないような素っ頓狂な顔でソレイユを見ていた。その理由は、あまりにも早すぎる抜刀のため、影を追うのがやっとだったためである。その後も淡い紅色の残光を残しながらヒュンヒュンと何度か振るった後、納刀し呆けている武器屋の店主に向きなおった。
「いい刀だな。これにする、いくら?」
「はえ・・・え、えっとッスね・・・少しばかりお値段が高くなるんすけど・・・」
おずおずとした様子で値段を提示する店主だったが、それを聞いたソレイユは何のためらいもなくその提示した額を差し出した。それに再び呆けてしまう店主は今度は遠慮がちに聞いてきた。
「あの・・・新人の方、ッスよね・・・?」
「わけありなんだよ・・・ああ、あともう一本刀が欲しいんだけど・・・この刀と同等以上のものある?」
その言葉に店主は申し訳なさそうに答えた。
「すみませんッス・・・今その刀と同等以上のものはないんッスよ・・・」
「そうか・・・わかった・・・ンじゃ、仕方ないか」
ぺこぺこと頭を下げす店主にソレイユは服屋がどこにあるのか尋ねた後、武器屋を後にした。だが、その後の服屋でも女性プレイヤーと間違われ危うく女性物を着ることになりそうだったソレイユは本気でネカマでもやってやろうか、などと考え始めていた。
◆
「装備をそろえたから次は戦闘、か。とりあえず、近場で狩ってみるか」
インプ領とは岩山の中に穴を掘った形で出来ているため、必然的に領地周辺のフィールドは山岳地帯ということになる。そんな中をソレイユは左手をコントローラーの形にしてそれを操作しながらふわふわのろのろとあてもなく飛んでいく。
ちなみに今のソレイユの格好はというと、髪型などは基本変えることはしなかったが結び目に鈴のついた簪を差した(もう女性に見え様が見えまいが自棄になっている)。服装は黒のTシャツにカゴパン、その上から漆黒色の長羽織を着て、首にシンプルクロスに黒色のマフラーを巻いている。
「だれかいないかな~・・・・・・・・・、ん?」
プレイヤーだろうとMobだろうとなんでもいいから出てきてくれ、と言いたげに飛んでいるソレイユだったが南の方面で爆発音らしきものが聞こえたため、そちらに飛んでいくことにした。
◆
「ったく、いい加減しつこいぞ・・・」
「なに余裕かましてんだよっ!?今の状況がわかってんのか、ああっ!!」
黒色のローブを羽織ったインプの男性プレイヤーがめんどくさげに悪態を吐くと、赤い重厚な鎧を着たサラマンダーの三人のうち一人がランスを構えインプの男に猛スピードで突っ込んでいく。
「わかったうえでの余裕なんだがな・・・」
だが、その男はそんなことお構いなしに溜息を吐いてひらりとその突撃を避ける。続いて第二撃、第三撃と突進していくが、その男にあたることはなかった。それどころか、突っ込んできたサラマンダーにカウンターで魔法攻撃を食らわすほどであった。
「くぅっ・・・お、おい、あんたも見てないで手伝ってくれ!!」
なすすべなく魔法攻撃を喰らったサラマンダーは上空にいる赤い短髪に黒いコートを羽織り、背中に野太刀を背負うもう一人の男性サラマンダーに声を張り上げたが、そのサラマンダーは特に何をすることはなかった。
「断る。俺はただの付き添いで来ただけなんだ。そこまでする意味がない」
「なっ!?りょ、領主の命令なんだろ!?いくらあんたといえど、逆らえばレネゲイトされるんだぞ!!」
その男の言葉に重装備なサラマンダーたちに動揺が走る。さすがに聞き捨てならなかったのか、さらに声を張り上げるがそれさえも意味はなく、さらには驚くべきことまで口にした。
「いっそレネゲイトされた方がいいんだがな・・・」
「そいつは無理だろ、フォルテ。あのモーティマーがそんな馬鹿なことするはずがねぇからな」
軽装備のサラマンダー、フォルテにインプの男性、ルシフェルは現サラマンダー領主の性格を考えたうえでそう言ったが、その領主の性格はルシフェル以上にフォルテの方が熟知している。故に―――
「だから苦労が絶えないんだ・・・ハァ・・・」
―――溜息しか出ない状況なのである。
「お疲れさん」
「他人事だと思っているだろ」
「まぁ、実際に他人事だしな」
労いの言葉をかけるルシフェルだが、残念ながらフォルテはお気に召さなかったらしい。そんな風に呑気に会話をしている二人だがその間にも重装備のサラマンダーたちがルシフェルに襲い掛かっていくが、悉く躱されている。
「さすがに腕は衰えているわけではない、か・・・」
「だからって成長したともいえないんだよな・・・領主の立場が忙しいってのは言い訳にならんだろ・・・つか、それを思うと“あの人たち”はどんだけ外れた存在だったか改めて思い知らされるな」
そのルシフェルの言葉にフォルテは確かに、と頷く。
「今頃何してんのかね、あの方々は?」
「さぁな。連絡は取れないのか?」
フォルテの言葉にルシフェルは首を横に振る。
「残念ながらz「呑気におしゃべりなんかしてんじゃねェよっ!?」・・・っと、あぶねぇあぶねぇ」
危うくランスでぶっさされるところだったルシフェルは、フォルテとの会話を後回しにし重装備のサラマンダーに向きなおった。
「さすがに、これ以上グダグダと遊ぶ気はないんでな。早々に決めさせてもらうとしよう」
「テ、テメェ・・・・・・あん?」
ルシフェルの傲慢とも取れる物言いに重装備プレイヤーAは腹を立て突撃しようとしたが、何かに気が付き足下にある山岳地帯へと目を向けた。そこにはいつの間にか一人の女性プレイヤーと思わしきインプがいた。岩場に座り込みこちらの様子をじっと見ているそのプレイヤーを重装備プレイヤーAは下劣な笑みを浮かべ仲間に指示を出した。
「おい、下見てみろ」
「ああ?なんだっていうんだよ、ったく・・・おっ!」
文句を言いながらもAの言うとおりにするBとCは同じくインプのプレイヤーを認識した。それだけでAの考えることはわかったらしく、同じ下劣に満ちた表情へと変わる。その表情を見たルシフェルは怪訝な表情でそのサラマンダーたちが見ている方向へと目をやると、サラマンダーたちの狙いに気が付いた。
「くそっ!」
悪態を吐きながらも動こうとした矢先、それを牽制するようにBとCが立ちふさがる。そして、Aは全速力でそのプレイヤーめがけて突進していく。
「おい、そこにいる奴!さっさと逃げろ!!」
BとCの相手をしながら下にいるプレイヤーにめがけて怒鳴るが、聞こえてないのか全く動こうとしない。そんなことをしているうちに重装備Aが下劣な笑いと共に急接近するも、全く動こうともしない。
「オンナをヤるなんて久しぶりだからなっ!精々いい声で鳴いてくれよォ!?」
その下劣な言葉と共に突撃槍が牙をむいた。
◆
「オンナをヤるなんて久しぶりだからなっ!!精々いい声で鳴いてくれよォ!?」
「どこにでもいるんだな、こういう奴って・・・」
嫌悪感で肌が粟立つ様な言葉を述べながら突撃槍を構えながら突っ込んでくる重装備サラマンダーAに突っ込みを入れるだけで、ソレイユはそこから動こうとはしない。先ほど、重装備サラマンダー三人を相手に立ちまわっていたインプ(生憎ソレイユはまだ彼の名前を知らない)がこちらに警告をしてくれたが、素直に従うソレイユではなかった。
「まぁ、これくらいなら余裕か」
突っ込んでくる突撃槍の側面に手の甲を当て、できるだけ最小限の力で軌道を変え、払い除ける。なすすべなく払われたサラマンダーは勢い余って山岳地帯の岩山へと突撃していった。土煙が上がる中、出てくる様子がないのを確認したソレイユは改めて上にいた連中へと目をやると、インプのプレイヤーが近くまで飛んできていた。
「大丈夫・・・そうだな・・・」
近くの岩場へと着地しながらこちらを見て安堵するその男性、ルシフェルにソレイユは笑顔で言った。
「さっきの戦闘見てたぜ。なかなかの腕前だな、あんた」
「そりゃどうも。つか、おれのことを知らないとなると、おまえ、新人か?」
「そうだけど・・・あんたは・・・?」
自分のことをあっさり見抜いたルシフェルにソレイユは驚いた表情をするが、次の言葉でその意味を理解した。
「俺はルシフェル。インプの領主をしている」
「おおう、まさか領主様とは、ね・・・初めまして、ソレイユだ。こんな容姿をしてるが男だ」
「あら、そうなの。それは残念」
とても残念そうには見えないルシフェル。場違いな自己紹介が終えたところで先ほど岩山に突撃していったサラマンダーAが復活してきた。BやCも降りてきて二人を挟み撃ちにする形をとった。
「な、なめやがって・・・っ!!」
「ずいぶんお怒りだが、どうしたんだ?」
「さぁな。きっとかまって貰えなくて拗ねてんだろ」
白々しく言うソレイユと同じように言うルシフェル。それにとうとう沸点が限界突破したのか憤怒の表情で重装備Aは突進しようとしたが、ルシフェルの魔法が炸裂し呆気なくHPをゼロにした。
「へぇ、それが魔法か・・・どう使うんだ?」
「それは、あいつら倒し終わったら教えてやるよ」
そういって後方を指すと、そこには呆気にとられる重装備サラマンダーBとCがいた。それを見たソレイユは仄かに笑うと余裕の表情で言った。
「そうか・・・なら、さっさと片付けよう」
「「な、なめんのも大概にしろっ!?」」
その言葉を聞いた今まで呆けていたサラマンダーたちは先ほどやられたA同様に憤怒の表情でソレイユに向かってランスを構え突っ込んでいく。それに対して、ソレイユは瞳を閉じ居合いの構えを取る。一息つき間合いを整える。そして、その整えた間合いの中にサラマンダーの二人が踏み入れた瞬間、鯉口を切った。
ピュッ・・・ピュッ・・・
風を切る音が二回鳴った後、ソレイユとサラマンダーたちの立ち位置は逆転し、お互いが背を向けながら立っている。いつの間にか抜かれていた刀をソレイユは二度三度払うようにふるった後、ゆっくりとした動作で鞘へと納刀していく。
「まっ・・・こんなもんだろ・・・」
その呟きと共に刀を鞘に納め終わると、サラマンダーたちがエンドフレイムに包まれ、体がポリゴン片となり消滅した。あとに残ったのはリメインライトのみだった。桁違いに速いその抜刀術にシステムの認識が追い付かなかったためにおこらないはずのラグが起きた。それを知った時、誰かが呟いた。
「とんでも、ねぇな・・・」
果たして、それはルシフェルだったのか、フォルテだったのか、将又その両方かは定かではない。ただ、一つだけわかることはソレイユというプレイヤーはただの新人ではないということであった。
ページ上へ戻る