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星々の世界に生まれて~銀河英雄伝説異伝~

作者:椎根津彦
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激闘編
  第八十六話 国境会戦(前)

宇宙暦795年9月28日16:00
アムリッツァ星系、カイタル、自由惑星同盟、自由惑星同盟軍、第九艦隊旗艦グラディウス、
ヤマト・ウィンチェスター

 まさかミュッケンベルガー自身が出て来るとはね…しかも五個艦隊で七万二千隻、バグダッシュの情報が正しければもう一個艦隊居る事になるから、全部で八万五千隻くらいだろう…ちょっと想像してたよりヤバいなこりゃ…。
「参謀長、フォルゲンに移動だ。急がないとヤン提督が危ない」
「はい…カイタルの司令部も七万隻と聞いて六個艦隊と早とちりしたみたいですね」
「俺だって話を聞くまではそう思っていたよ。帝国艦隊、一個艦隊あたり一万二千くらいと考えれば、六個艦隊で七万隻弱は大体辻褄が合うからね…事前の情報から考えても、グリーンヒル閣下の言う通り、残りの一個艦隊は此方の牽制の為にフォルゲンに回す筈だ」
「一昨年の戦いの再現ですね」
「そうだね、しかも規模は大きくなっている」
間に合うだろうか…ヤンさんの兵力は七千五百隻、半個艦隊に過ぎない。もしラインハルトでも現れたら厄介だぞ…。



9月28日16:30
ボーデン星系、銀河帝国軍総旗艦ヴィルヘルミナ、
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー

 「どうだ、グライフス」
「はっ。叛乱軍艦隊は四個艦隊六万隻、対する我が方は前衛四個艦隊五万二千隻と数の上では劣勢ですが、叛乱軍艦隊は防御に徹しておりますので、現在のところ互角であります」
「互角か…だが卿の言う通り正面の艦艇数そのものは叛乱軍の方が多い。再度全軍に徹底せよ。無理はするなと」
「はっ」
概略図を二人の少将が見つめている。ミューゼルの部下だった、ケスラーとメックリンガーだ。有能な男達なので、側で試しに使ってみていただきたい、とミューゼルが推薦した者達だ。ラインハルト・フォン・ミューゼル…儂の地位を狙っているというのは本当なのだろう。まさか宇宙艦隊司令部に自らの子飼いを送り込んで来るとはな…だが、儂の地位を狙うのであればそれくらいの気概はあって欲しいものだ。他にも何人か同じ様な者達がいる。いずれも若く、そして有能だ。この様な者達がいたとはな。人事局は何を見ていたのか…。



9月28日16:45
自由惑星同盟軍、アムリッツァ方面軍総旗艦ペルクーナス、
ドワイド・D・グリーンヒル

 「あの後方に控えているミュッケンベルガー艦隊が厄介だな」
「はい。前線に展開する兵力は我々の方が上ですが、ミュッケンベルガー艦隊が控えている為に迂闊に飛び込めません。まさか敵の宇宙艦隊司令長官自らが予備兵力とは思いたくありませんが、現状では何とも言えません」
「そうだな…第九、第十艦隊はどうなっている?」
「第九艦隊はフォルゲンに向けて移動を開始しています。第十艦隊の此方への到着は十月一日の予定です」
「第十艦隊は遅れているな。故障艦の影響か」
「その様です」
少数の故障艦など後から寄越せばいいものを…。
「イゼルローン駐留艦隊はどうか」
「要請はしましたが、駐留艦隊の移動開始には時間がかかりそうです。あそこは今、新兵の訓練施設と変わりありませんから」
そうだった。前線がアムリッツァに移動したので、イゼルローン要塞は中継基地と化していた。シトレ閣下の行った四百万人削減の影響で、イゼルローン要塞の福利厚生はすべて民間に委ねられている事もあり、要塞宇宙港や要塞内部施設のおよそ半分が民間に解放されている。今ではイゼルローン要塞の観光ツアーが組まれる様になっている有り様だった。そして新兵や下士官の中級教育はイゼルローン要塞で行われる様になっていた。当然駐留艦隊は教育の一環として彼等を真っ先に受け入れる訳だが、そうなると練度の低下は当然の帰結だった。
「そうだったな、すっかり忘れていたよ。当然、新兵達も乗組んでいるのだな?」
「おそらくは」
「仕方ない。彼等にはアムリッツァで待機してもらおう。ウランフ提督にはその旨伝えてくれたまえ」
…戦いはまだ始まったばかりだ。第十艦隊が到着すれば状況は好転するだろう…。


9月30日01:45
フォルゲン星系、銀河帝国軍、ミューゼル艦隊旗艦ブリュンヒルト、
ジークフリード・キルヒアイス

 「閣下、艦隊はフォルゲン星系に入りました。メルカッツ艦隊もまもなく星系外縁に到着です」
「了解した。キルヒ…参謀長、この宙域にも既に叛乱軍艦隊が展開していた筈だが」
私を呼ぶのに参謀長と言い直すラインハルト様を見ると、つい吹き出しそうになってしまう。面白くないのだろう、ラインハルト様の顔は少し膨れていた。
「申し訳ありません…はい。叛乱軍、第十三艦隊が存在する筈です」
「またあの艦隊か…」
「第十三艦隊には違いありませんが、どうやら司令官の交替があった様です。艦隊司令官はヤン・ウェンリー少将…という事ですが」
「ヤン・ウェンリーか…イゼルローン要塞で会った。『エル・ファシルの英雄』だな」
「はい。昨年の戦いにも第十三艦隊の参謀長として参加していた様です」
「となるとあのヤマト・ウィンチェスターの後継という事だろう…参謀および各分艦隊司令を集めよ。一時間後だ」

ミューゼル艦隊:一万三千隻
艦隊司令官:ミューゼル中将
艦隊参謀長(副官兼務):キルヒアイス准将
同参謀:ミュラー大佐
同参謀:ビッテンフェルト大佐
分艦隊司令:ミッターマイヤー少将
同司令:ロイエンタール少将
同司令:ワーレン准将

 私がこの艦隊の参謀長となった後、今は少将となられた前任のケスラー少将、同じく少将となったメックリンガー少将はラインハルト様の推薦で宇宙艦隊司令部入りを果たしていた。二人の能力もさることながら、ラインハルト様の今後を見据えての事だった。確かにラインハルト様は中将、艦隊司令官だが、実戦部隊の中枢…宇宙艦隊司令部といち艦隊司令官とでは見えるものが違ってくる。確かに今のラインハルト様はミュッケンベルガー元帥の信頼を得ているが、先の事を考えるとそれだけでは足りないのも事実だった。そこで将来のラインハルト閥とも言うべき物を担う俊秀の更なる発掘と、実戦指揮官としても優秀であるが、どちらかというと戦略家的発想の多い二人に、更に戦局全体を見渡す経験を積んで貰う…この二つを実践する為に異動して貰ったのだ。当然ながら、宇宙艦隊司令部入りというのは二人の経歴には大きなプラスとなる。

『宜しいのですか、本当に』
『ああ。経歴上、卿等の今後の為にもなる。まあ、私の目となって欲しい、というのが本音ではあるがな。それに、将来を考えると戦局全体を見渡す事の出来る者の存在は不可欠だ。卿等は指揮官としても優秀だが、参謀としても稀有な能力を持っている。それに磨きをかけて欲しいのだ』

 ミュッケンベルガー元帥はおそらくラインハルト様の意図を見抜いているだろう。だがその意図を嫌悪する事はないだろうと思うのだ。元帥とていつまでも宇宙艦隊を率いる事は出来ない。彼が自分の後継を、と考えた時、脳裏にラインハルト様の名前が無いのでは話にならない。その為に今からその布石を打っておくのは重要だった。

 「どうやら叛乱軍の第十三艦隊とやらは我々の反対側の…星系第七軌道を周回する小惑星帯に潜んでいる様ですな。規模は我々のおよそ半分、急進してこれを撃破すれば、アムリッツァに進撃する事も可能だ。戦局全体に与える影響は大きいと愚考する」
新しく参謀に抜擢されたビッテンフェルト大佐の意見だった。
「叛乱軍とて半個艦隊に過ぎない第十三艦隊のみにこの宙域を任せはすまい。必ず増援があるだろう。それに彼等を撃破したとしても、アムリッツァに進攻する半ばでその敵増援に出くわすだろう。むやみやたらに矛を交えるのではなく、増援の規模を見極めてからでも遅くはないと思うが」
これはミュラー大佐の意見だ。
「ボーデンでは既に戦端は開かれているのだ。ここフォルゲンで第十三艦隊を撃ち破れば、敵の士気に与える影響は大だろう。敵との戦力差を縮める為にも早急に対処すべきだと思うが」
「敵十三艦隊は星系第七軌道の小惑星帯に潜んでいる。何か策を講じているに違いない。メルカッツ艦隊と共にこの宙域を任されておればこそ、短慮や軽挙妄動は慎むべきと考える」
ビッテンフェルト大佐の意見は正しい。敵が増援部隊と合流する前に叩く。そうすれば叛乱軍の目はフォルゲンに向けられる。結果として叛乱軍の、元の増援の規模以上の戦力を此方に誘引出来るかもしれない。それは主攻であるボーデン方面の味方にとって大きな援けとなるだろう。だが反論するミュラー大佐の言もまた正しいものだった。両者の意見を静かに聞いていたラインハルト様だったが、断を下した。
「両者の意見はそれぞれに理に叶っている…まずは第十三艦隊の撃破に専念するとしよう。参謀長、メルカッツ艦隊に連絡だ。我々が前進して敵の第十三艦隊に対処する、貴艦隊はまもなく現れるであろう敵の増援に対処されたし…以上だ」
「了解致しました」
ラインハルト様は折衷案を採るおつもりの様だ。


9月30日04:50
フォルゲン星系第七軌道、自由惑星同盟軍、第十三艦隊旗艦ヒューベリオン、
ヤン・ウェンリー

 「閣下、我が方に近付く艦隊ですが、どうやら新規編成の艦隊の様です。識別コードのない旗艦級戦艦が存在します」
ボーデンの敵と合わせてこれで帝国軍は六個艦隊が勢揃いした事になるが…。
「了解した参謀長。他に敵はいないか索敵を行ってくれないか?」
「…これで敵は六個艦隊が現れた事になりますが、ご懸念がおありですか?」
「うん。ボーデンが主戦場だとして、帝国軍がここに艦隊を派遣するのは理解出来るんだが、だとすればこちらに派遣された敵艦隊の任務はこの宙域の監視か、我々の牽制だろう。だがあの敵艦隊はどんどんこちらに近付いてくる」
「…我々は少数です。敵は少しでも戦いを有利にするために我々の撃破を狙っている、のではないでしょうか」
「まあ、それもあるだろう。だがもし敵が我々に負けたら?敵艦隊は元の任務を果たせない。他にも敵艦隊が居るんじゃないかな、だとすれば、近付いてくるあの艦隊が破れても、元の任務は残った艦隊で継続出来るからね」
「…了解しました。強行偵察の戦闘艇を出します」
敵はおそらく六個艦隊ではないだろう。でなければあの艦隊の動きは理解出来ない。彼等の立場からすれば、こちらが半個艦隊…我々だけでこの宙域を守るとは考えにくいだろう。増援があるのではないか、と危惧している筈だ。だとすれば、あの艦隊が動く事によってこちらがどう動くか、敢えて戦闘に参加せずに状況を見ている敵がいる筈だ。
「……強行偵察の戦闘艇より入電、接近する艦隊の後方、星系外縁部に新たな敵艦隊、熱量から推定して一万隻以上、約四百光秒!」
オペレータが報告の金切り声を上げた。
「閣下、このままでは我が方が著しく不利です。後退し、此方に向かっている第九艦隊と合流すべきではないですか」
「大丈夫だよムライ中佐、接近する敵艦隊はまだ機雷原にすら到達していない。戦い様はあるさ」
撤退を進言したムライ中佐をラップが抑えている。そう、我々だって手をこまねいてただボーっとしていた訳じゃない。前面には合計六百万個の機雷を敷設してある…時間稼ぎにしかならないが…。



9月30日05:30
フォルゲン星系第六軌道、銀河帝国軍、ミューゼル艦隊旗艦ブリュンヒルト、
ラインハルト・フォン・ミューゼル

 「機雷原だと」
「はい、ラインハルト様。叛乱軍十三艦隊が潜む小惑星帯と我々の間には広範囲に渡って機雷が敷設されています。戦闘艇を偵察に出したのが正解でした」
迂回するか…いや、敵は時間稼ぎの為に機雷を敷設したのだろう、迂回は敵の目論見通りという事になる。それに時間稼ぎをするという事は敵に増援があるのは確定的という事になる。となれば尚更時間をかける訳にはいかないな…。
「使ってみるか」
「使ってみる…指向性ゼッフル粒子ですね」
やはりお前は最高だ、キルヒアイス…やっと開発の終わった指向性ゼッフル粒子、こいつがあれば機雷原に通路を穿つ事が出来る。
「キルヒアイス、各分艦隊に連絡だ。作戦を説明する」
キルヒアイスがビッテンフェルトに目配せすると、ミュラー、ビッテンフェルトそれぞれが動きだした。


“閣下もお人が悪いですな”

「作戦の主旨は以上だ。人が悪い、か……ロイエンタール、半個艦隊規模とはいえ、あの艦隊は精鋭だ。でなければ単独でこの宙域を任される筈がない…それに、先年の様な醜態を晒す訳にはいかないのでな……ワーレン、卿には別任務を与える。卿の分艦隊は五百隻と規模が小さい。だがそれ故に敵の目を引きにくい。ミッターマイヤー、ロイエンタールが機雷原に道を作れば、敵の目はそちらに向くだろう。卿は機雷原を迂回して小惑星帯に潜り込むのだ」

“成程。敵の第十三艦隊に側面から奇襲を行えという事ですね”

「そうだ。敵はもともと少数、五百隻とはいえ効果は大きいだろう。攻撃開始のタイミングは卿に任せる」



9月30日06:00
フォルゲン星系第七軌道、自由惑星同盟軍、第十三艦隊旗艦ヒューベリオン、
ヤン・ウェンリー

 「ヤン…司令官、どうやら帝国は指向性のあるゼッフル粒子を開発した様ですな。でなければあれ程綺麗に啓開路を作れる訳がありません」
ラップの言葉を肯定するかの様に、機雷原にぽっかり空いた二つの穴から帝国軍の艦艇が続々と吐き出されて来る。
「そうみたいだね…十時方向の穴から出て来る敵はアッテンボローに対処させよう。二時方向はフィッシャー提督に」


“了解しました。目に物を言わせてやりますよ”


「アッテンボロー、無理はするなよ」


“分かってます”

アッテンボローも分艦隊司令としては初陣、私も艦隊司令官としては初陣…初陣ってやつはもっとオーソドックスな、勝てそうな戦いで望みたいものだが…。
「敵の通信を傍受した結果、どうやら敵はミューゼル艦隊の様です」
ムライ中佐が敵はミューゼル艦隊と告げてきた。ミューゼル…イゼルローンで一度見た事がある。有能そうな若者だった、ウィンチェスターが最も危険視している帝国の若き指揮官。機雷原にも躊躇する事なく攻めて来る…。
「今の所は対処出来ていますが…あのウィンチェスター提督が危険視する程だ、このままでは済まないのではないですか」
ラップの危惧は尤もだ。このままでは済まないだろう。
「そうだね。フィッシャー、アッテンボローの二人には重ねて注意する様に連絡してくれ」




9月30日06:05
フォルゲン宙域、フォルゲン星系近傍(アムリッツァ方向)、第九艦隊旗艦グラディウス、
ヤマト・ウィンチェスター

 どうやらフォルゲン星系には帝国軍の二個艦隊が居るらしい。しかもそのうちの一つはラインハルトの艦隊で、既にヤン艦隊とやり合っているという。アニメでなくとも是非とも観たいもんだが、そうも言っていられない。急いで駆け付けたいけどこれ以上急ぐと脱落艦艇が出そうだし、今の速度が精一杯だ…。
「第十三艦隊は大丈夫でしょうか。フォルゲン星系には敵二個艦隊が存在するとの事ですが」
ワイドボーンの問いは当然過ぎるものだった。参謀達もそれに深く頷いている。参謀長としてのヤンさんは見ていても、艦隊司令官としてのヤンさんは未知数…そう言いたげな頷き方だった。しかも初陣、その上ヤンさんの兵力は七千五百隻ぽっちなのだ。
「大丈夫だ。ヤン提督は受け身の戦いには無類の強さを発揮するからね。参謀長もそれはよく知っているだろう?」
「まあ…それはそうですが」
「それに戦闘を始めたのはミューゼル艦隊だけらしい。もう一つの艦隊がどんな艦隊か分からないが、そいつは敵の増援、つまり我々に対処する為に後方に居るんだろう。という事はヤン提督は今のところ前面のミューゼル艦隊に専念出来るという訳だ」
「では我々と第十三艦隊は個別に敵に対処するという事ですか?」
「そうだね。出来れば艦隊全兵力でヤン提督の救援に向かいたいが、そうすると後方待機している敵のもう一つの艦隊も駆け付けるだろう。ヤン艦隊は小惑星帯で戦っている様だし、そこで両軍が大兵力を集結するとなると、酷い混戦状態にならないとも限らない。ヤン艦隊には我々の兵力の一部を派出、本隊は後方の敵艦隊の足止めをする」

 そう俺がしゃべり終わると、フォークが手を挙げた。
「何だい、中佐」
「閣下の方針は理解出来るのですが、それでは戦線の維持にしかならないのではないでしょうか」
他の艦隊でこんな質問をしたらぶっ飛ばされるだろう。俺は部下…参謀達の積極的な意見具申を許している。俺の方針とは異なる意見でも、それを聞いて改めて気付く事もあるし、参謀達に意見を言わせないのでは参謀のいる意味も無くなる。司令官の意見を肯定するだけでは彼等の成長にはならないし、普段からきちんと意見具申する癖をつけないと本当に必要な時に物を言えなくなってしまうのだ。
「そうだね。中佐はどう考える?」
「敵兵力の撃破を狙います。星系到着後、第十三艦隊と共同でミューゼル艦隊を撃破、その後来援したもう一つの敵艦隊を撃破します」
うん、理想的だ…敵がラインハルトでなければね…ラインハルトでなければ俺もそうしただろう。それに、時期的にはミッターマイヤーやらロイエンタール辺りがラインハルトの下にいる頃だ。ラインハルトと双璧の相手なんて真っ平御免だぜ…ヤンさんには悪いがアイツらの相手が出来るのなんてヤンさんだけだからな…。
「フォーク中佐の意見は理想的だが、戦闘が理想通りに行くとは限らない。かねてより私は敵のミューゼル艦隊…ラインハルト・フォン・ミューゼルを高く評価している。それはこの宙域を彼…まあ、もう一個艦隊存在するが、この宙域での采配を任されている事からも明らかだ。以前に直接戦ったが、あの時はミューゼルには戦力が足りなかった。また艦隊司令官でもなかった。上手く罠に嵌めたからこそ勝てたものの、今回も勝てるとは限らない」
「ですがそのミューゼルは現在は艦隊司令官で、兵力も第十三艦隊を凌駕しています。閣下が勝てるとは思わないと仰る程の人物です……ヤン提督は苦戦なさるのではありませんか」
「うん、苦戦するだろう…だからこそ我々はもう一つの艦隊に向かうのさ。そうすればミューゼル艦隊も、いつまでもヤン提督に構ってはいられないだろう?味方を助けるか、眼前の十三艦隊の撃破にこだわるか…ミューゼルは選択を迫られる事になる」



9月30日08:45
フォルゲン星系第七軌道、銀河帝国軍、ミューゼル艦隊旗艦ブリュンヒルト、
ラインハルト・フォン・ミューゼル

 “首尾よく一進一退を継続しております。各艦艇の艦長や戦隊司令達からは、意見具申に形を変えた非難の大合唱ではありますが”

「はは、もう暫くの辛抱だ。そろそろ敵も此方の攻め手に慣れた頃だろう」

“はい。目を逸らす為にこれより五回次の攻撃にかかります。ロイエンタールには小官から伝えます”

「了解した。宜しく頼む」

“はっ”


 通信が終わると、キルヒアイスが深く頷いた。
「了解ですラインハルト様……各艦、指向性ゼッフル粒子、放出用意!」



10:00
自由惑星同盟軍、第十三艦隊旗艦ヒューベリオン、
ヤン・ウェンリー

 敵は五度目の攻撃を仕掛けて来た。敵が機雷原に開けた穴…啓開路はそれぞれ二時方向、十時方向に合わせて二本。穴の大きさはそれほど大きくない、おそらく百から二百隻が通れる程の大きさだった。フィッシャー、アッテンボローの両名が率いる兵力はそれぞれ千五百隻、対処するには充分な兵力だ。啓開路の出口に火線を集中させ、敵の前進を防いでいる。だが何か腑に落ちない、何かを狙っている筈なのだが…。
「十二時方向、機雷原に大規模な爆発光!……これは…十二時方向に帝国軍艦艇多数!」
オペレータが再び金切り声を上げた。そうか、これが狙いだったのか…アッテンボロー達の向かった穴は陽動で、正面の啓開路が本命…。此方の少ない兵力を更に分散させる為にわざと細い通路を作ったのか。そして本隊が正面から…。
「これは…正念場ですね」
「そうだね、ラップ参謀長…本隊各艦、全艦砲撃戦用意…敵は散開出来ない、一点集中砲火だ」
「了解した……全艦砲撃戦用意、初弾は斉射、照準目標は当艦の指示座標に従え。このまま攻撃開始に備えよ!」








 
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