魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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XV編
第200話:疑惑の少女
突如姿を現した、ジェネシスの新たな幹部ベルゼバブ。不意を打たれて胸部を剣で突かれたガルドは、自分を心配して寄り添ってくる切歌と調を優しく退かしながら立ち上がり槍を構えて対峙した。
「面白い事を言う奴だ。だがそんなスパイスを使うようじゃ、料理人としては三流も良い所だな?」
ベルゼバブの先程の発言に挑発を返すガルドだったが、その視線は油断なく相手を見据えていた。相手は組織の幹部、メデューサ達と同格の魔法使いだ。先程の魔法も合わせて、甘く見ていい相手ではない。
「切歌、調。2人は逃げた錬金術師を追うんだ」
「でも……!」
「行くんだッ! 俺達の任務は、遺骸を無事に運ぶ事だと言う事を忘れるなッ!」
ベルゼバブの相手をガルド1人に押し付けて、自分達が錬金術師を追う事に渋る調を彼が叱責する。厳しい言葉に思わず押し黙る調に、ガルドは頭を優しく撫で穏やかな声で諭した。
「大丈夫だ。こんな三流料理人被れに負ける程俺も柔じゃない。2人を信じて送り出すんだ。だから2人も俺の事を信じてくれ」
「ガルド……」
「調、行くデスよ」
「切ちゃん……うんッ!」
ガルドと切歌、2人に促され調も意を決して錬金術師の後を追い甲板に出来た亀裂の中へと飛び込もうとする。
当然それを黙って見過ごすベルゼバブではなく、奴は先程ガルドを不意打ちした時の様に空間に穴を開け2人を妨害しようとその穴の中に剣を突き入れようとした。
「させるかッ!」
「くっ!?」
二度も同じ事をさせてなるものかと、ガルドが先んじてベルゼバブを攻撃。意識を散らされたベルゼバブは、調達への攻撃を中断して振り下ろされた槍を受け止める為空間の穴に向けていた剣を咄嗟に持ち上げて攻撃を防いだ。
その間に2人は無事に亀裂へと飛び込み、それを見届けたガルドは仮面の奥で満足そうに息を吐くと一旦ベルゼバブから距離を取った。
「ふぅ……」
「チッ……まぁいい。あの小娘が聖骸を回収してくれれば全て丸く収まる。私は私の仕事を終わらせるとしよう」
2人を逃がしてしまった事に僅かに苛立ちを見せるベルゼバブだったが、直ぐに落ち着きを取り戻すと手にした剣の切っ先をガルドへと向けた。対するガルドも、気合を入れ直す様にマイティガンランスを構え直す。
「お前達……今度は何を企んでいる? あんなミイラを手に入れて、どうするつもりだ?」
「それはお前も、私達も知る必要のない事さ。全てはワイズマン様の意のままに……」
「フン……幹部と言っても所詮はその程度か。ワイズマンに都合のいい操り人形め」
「何とでも言うがいい。どの道貴様は、ここで死ねッ!」
飛び掛かってきたベルゼバブを、ガルドが槍を突き刺す様にして迎え撃つ。放たれた刺突を相手は身を捻る様にして回避し、攻撃を放った直後で隙だらけの彼に対し掬い上げる様に斬撃を放った。
「チィッ!」
至近距離からの切り上げをガルドは槍の柄を使って防ぎ、その攻撃の勢いを利用して距離を取った。そしてそこから、砲撃モードにしたガンランスによる砲撃を相手にお見舞いする。二つに割れて開いた穂先から覗く砲口が火を噴き、強烈な砲撃がベルゼバブに襲い掛かる。
「フッ……」
だが砲撃を放たれた直後、ベルゼバブは仮面の奥でほくそ笑んだ。その事に気付かぬガルドはこのまま砲撃の直撃を相手が喰らうものと信じて疑わなかったが、次の瞬間信じられない光景を目にする事になる。
何と何の前触れもなくベルゼバブの眼前に穴が空いたかと思うと、ガルドの放った砲撃がその穴の中へと吸い込まれて消えてしまったのだ。
「何ッ!? 何処へ、がっ!?」
砲撃が何処へ消えたのかは次の瞬間自身の身で理解する事になる。出し抜けに背中を強かに撃ち抜かれる感触。それは先程彼が放った筈の砲撃によるものだった。
「い、今のはッ!?」
「フフフッ……」
突然の事に困惑した様子のガルドを嘲るように笑うベルゼバブ。何が何だか分からないが、このままではいけないとガルドはガンランスを槍に変形させ再度斬りかかった。砲撃がダメなら直接攻撃と言う訳だ。
縦横無尽に振るわれる槍による斬撃。しかし相手は流石の幹部と言うべきか、巧みな剣捌きでガルドの攻撃を往なし、隙を作り出しては鋭い斬撃で彼の体を切り刻んでくる。
「ぐっ!? くっ、ぐぁっ!?」
「ほらほら、どうしたどうしたどうした? まだ下拵えの段階だぞッ!」
「くっ、舐めるなッ!」
〈ファイヤーエンチャント、プリーズ〉
ガルドは相手の攻撃の中にある僅かな間隙に、炎属性の魔力をエンチャントし炎を纏った穂先でベルゼバブの攻撃を切り払った。ベルゼバブも近付けばそれだけで焼き払われる攻撃を前に、堪らず距離を取って炎の熱から逃れた。
「くっ、大した火加減だ」
「火の扱いは料理人の基本だ。そんな事も知らないのか?」
「フンッ、戯言をッ!」
態勢を立て直したベルゼバブは再び攻撃を再開した。弓を引く様に剣を持つ手を引き、刺突の構えを取る。その動きにガルドは僅かに違和感を覚えた。あの位置で既に刺突の構えを取るのは、些か早すぎると言わざるを得ない。自分が次に何をするかを宣言しては、攻撃の成功率もたかが知れている。それとも相手はそれを理解して尚、自分の攻撃を成功させるだけの自信があると言う事だろうか。
どちらにせよ、相手の攻撃を先に許す訳にはいかない。リーチで言えば自分の方に分があるのだからと、ガルドは脳裏に浮かんだ違和感を振り払って自身も刺突を放った。
剣と違い、大きく伸びる様に相手に迫る槍による一撃。しかしそれはベルゼバブの体ではなく、攻撃を放ったガルド自身の体を穿った。
「ぐぁっ!? な、何ッ!?」
またしても、魔法を使った形跡がないにもかかわらずコネクトと同様の魔法で自身の攻撃が無力化どころか返された。コネクトの魔法にはこういう使い方もあると言う事を、彼自身理解していたので警戒はしていた筈。さっきは魔法を使う瞬間を見逃したのだと思っていたが、どうやらそれは間違いであった事を彼は漸く理解した。
「それが……お前の固有の魔法か。トオルと同じように……」
「分かった所で何が出来る? それこそ未来でも予知できなければ、何処に空間が繋げられるかなど予想も出来ないだろうッ!」
ベルゼバブがその場で刺突を行うと、奴の眼前の空間に穴が空く。そこに奴が刃を捩じ込めば、ガルドの眼前に開いた穴から奴の刃が飛び出し彼の体を穿とうとした。今度は来ることが予想出来た為、彼もギリギリのところで回避する。
「くッ!」
危うい所を逃れる事に成功したガルドではあったが、ベルゼバブの攻撃は尚も続き何処から来るかも分からない攻撃に晒され続ける。死角を狙って放たれた攻撃が、彼の纏う鎧を傷付けその姿は見る見るうちにボロボロになっていった。
「ぐぅっ!? くっ、くそ……」
「ふふふ……さて、そろそろ仕上げのトッピングと行きますか」
ベルゼバブは敢えてもったいぶる様に剣の切っ先でガルドの顎を持ち上げた。度重なる攻撃でダメージを蓄積され体力を奪われた彼に、それに抗うだけの力はない。
「死と言うスパイスで、あなたの敗北、私の勝利と言う名の料理を完成させましょう……!」
動けないガルドの首を一撃で刺し貫くべく、ベルゼバブが剣を引き刺突を放った。
その瞬間、ガルドが動いた。
「そこだッ!」
〈コネクト、プリーズ〉
刺突が放たれた瞬間ガルドはコネクトの魔法を使用し、自身の眼前に魔法陣を作り出した。ベルゼバブの放た刺突はその魔法陣の中へと消えていき、直後奴は背後からの刺突にもんどりうって倒れた。
「ぐぉぁっ!? な、何ッ!?」
「はぁ、はぁ……どうだ? 自分が今までやってきた事をやり返される気持ちはッ!」
意識外からの一撃に、ベルゼバブは完全に態勢を崩された。ガルドはこの好機を逃す事無く、残された力を振り絞って立ち上がると怒涛の連続攻撃で今度はベルゼバブを追い詰めていく。
「オォォォッ!」
「ぐっ!? この、がぁっ!? くそ、調子にッ! ぐぁっ!?」
火事場の馬鹿力よろしく全力で槍を振り回すガルドの攻撃に、ベルゼバブも防戦一方となる。時折空間を繋げて彼の攻撃を空振りさせようとするが、武器があらぬ場所へと繋げられると彼はその勢いを逆に利用して回し蹴りなどを放ち兎に角攻撃を途切れさせる事無く叩き込んだ。
ガルドの怒涛の攻撃を前に、ベルゼバブも堪らずその場に膝をついてしまう。
「ぐ、がはッ……!?」
「調子に乗り過ぎたな。お前の心に隙が出来る瞬間、しっかり見極めさせてもらった」
「何ぃ……!」
「料理ってのは、時には待つ事も重要だ。分かったか? 三流料理人被れ」
「き、さま……!?」
ガルドからの挑発に、ベルゼバブが激昂しながら立ち上がった。
時を少し遡り、艦内へと飛び込んだ切歌と調の2人。普段とは勝手が違い、行動を大きく制限される狭い艦内での戦いに2人は思わぬ苦戦を強いられていた。
「鬼ごっこなら、シュルシャガナでッ!」
艦内を逃げ回る錬金術師を追う調だったが、相手は逃げながら戦う術をよく理解していた。
角を曲がった調の前に佇む錬金術師の少女。だがそれは囮であり、彼女は調の背後になる位置に既にアルカノイズを配置していたのだ。
「掛ったでありますッ!」
「え? あ――」
調が気付いた時には時すでに遅し。アルカノイズからの攻撃により、調は大きく体勢を崩されてしまった。
「きゃぁぁッ!?」
体勢が崩れた調に、錬金術師は追い打ちをかける。手元のトランクからコードが伸びると、それが少女の腰の後ろにあるコネクターに接続。トランクから出てきた巨大な爪を持つ手が、調を押し潰す勢いで叩きつけられた。
「アタッチメントッ! ネイルッ! ぶち抜くでありますッ!」
「かはッ……」
押し潰され、肺から強制的に空気を押し出され倒れる調。
「――調ッ!?」
響く轟音から調の身に異変が起こった事を察した切歌がそちらへ向かおうとするが、その時彼女の横の壁が崩れそこから無数のアルカノイズが雪崩れ込んだ。
「デデッ!? 今更アルカノイズが何体来たところで――」
アルカノイズの出現に素早くアームドギアを振るおうとした切歌だったが、彼女はここが狭い艦内の通路であると言う事を失念していた。
「うあッ!?」
振り下ろそうとしていた大鎌が何かに引っ張られるように動かなくなる。どうしたのかとそちらを見れば、何と天井の配管に鎌が引っ掛かり動かせなくなってしまっていたのだ。
そんな彼女にアルカノイズは容赦なく襲い掛かろうと迫る。
「デェェェッ!」
響いてくる切歌の悲鳴と、目の前で伸びる調に錬金術師の少女は失望したような溜め息を吐いた。
「この程度でありますか。少しは、期待しようかとも思っていたのでありますが、所詮シンフォギアではこの程度――」
ひどく残念そうに呟いていた少女だったが、彼女は気付いていなかった。
足元にピンク色のヨーヨーが転がっている事に…………
「……ッ!」
「え?」
突如、傍にいたアルカノイズが切り裂かれて赤い塵となって消えた。その事に目を見開いた少女は、息を飲みながら倒れた筈の調に目を向ける。
「まさかッ!?」
そこでは、巨大な丸鋸が回転して少女の腰とコードで繋がった爪を押し返している光景があった。
「私を変えてくれた人達がいる……、強くしてくれた人達がいる……簡単には負けられないッ!」
調は少女を引き離すと、ツインテールのギアから小さな丸鋸を飛ばして攻撃。少女はそれを爪で防ぎ、動きを止めた彼女に調は足のローラーを回転させて一気に接近した。
対する少女も、腰から伸びるコードの先の爪を自在に操り、狭い艦内を飛び回って調の攻撃に対抗した。調もヨーヨーを使って少女を切り刻もうとするが、機動力ではあちらの方に僅かながら分があるのか調の攻撃が当たらない。
ならばと調は攻撃方法を変え、ヨーヨーを繋ぐ光の糸により少女の動きを封じる手段に出た。狭い通路の中を縦横無尽に走るピンクに光る糸が、蜘蛛の巣の様に張り巡らされ少女の動きを妨害する。
[β式 獄糸乱舞]
調の活躍により少女が動きを封じられた瞬間、今度は切歌が両手に持てるサイズの小さな鎌2本を振るってアルカノイズを切り裂き合流してきた。
「ダウンサイズしてしまえば、狭くたって問題は無いのデスッ!」
切歌がアルカノイズの群れをやり過ごしている間に、少女は調による糸の囲みを何とか抜け出し逃亡を図った。だが少女は切歌と調の2人により前後から挟まれ、逃げ場を失ってしまった。
「調ッ!」
追い詰めた少女を前に、切歌が調の名を呼ぶ。それだけで互いにすべきことを理解した調は、二つのヨーヨーを合体させると円盤が二つ重なった独楽の様な刃を少女に向け投擲した。チェーンソーが回転する様な音を立て、通路の内部を削りながら少女に迫る重なったヨーヨー。
だが少女はそれを巨大な爪で受け流してしまった。
「そんな大雑把な攻撃が、当たる訳が――」
いともあっさりと調の攻撃をやり過ごしてしまった少女だが、2人もそれは織り込み済みだった。
少女の背後では、切歌が次の攻撃に向けた準備を整えていた。鎌の付いていない柄をフルスイングすると、小気味いい音を立ててヨーヨーと柄が合体。切歌の手には、2枚の丸鋸を付けた物騒な武器が握られる事となった。
「デェスッ!」
「嘘でありますッ!?」
まさかの展開に焦る少女。これは不味いと逃げる姿勢を見せる少女だったが、そうはさせじと調が無数の小さな丸鋸を飛ばして少女をその場に釘付けにしつつ切歌の柄と合体した丸鋸に繋がる糸を引いた。すると切歌の手に持つ柄の先端には、シュルシャガナとイガリマ、二つのアームドギアの特徴を併せ持った刃が展開される。回転鋸と鎌の刃を合わせたその見た目は、意地でも相手を切り刻むと言う意思を感じさせる見た目となっていた。
切歌はその形状になったアームドギアを構えると、まるでベイブレードの様に二つのギアが合体した部分の根元にある取っ手を引き抜いた。取っ手が引き抜かれると二つのギアの刃が高速回転しながら射出され、錬金術師の少女を切り刻もうと迫る。
「くッ!?」
ギリギリのところでそれを回避する少女だったが、少女が回避すると射出された刃は二つに分離。緑とピンクの刃を光らせる二つのヨーヨーとなって、調の操作で少女の周囲を飛び回りながら追い詰めていく。逃げ場を奪われた少女は、二つの刃が自分に襲い掛かるのを見ているしか出来ない。
「ああッ!?」
二つのヨーヨーがぶつかり合い、艦内に大きな爆発が起こる。その爆発の威力は、船の壁面を吹き飛ばすほどの威力となった。
2人で協力し、錬金術師の少女を倒した。そう確信した2人は互いに笑みを浮かべ合う。
「やったね切ちゃんッ!」
「今夜はガルドに頼んでハンバーグなのデースッ!」
勝利を確信した2人だったが、直後瓦礫の下から先程の少女が飛び出してきた。
「やってないッ! 任務遂行を優先して、こちらが加減してたのでありますッ!」
負け惜しみにも近い発言だったが、実際必要以上に暴れれば最悪船は沈み、苦労して南極から回収した遺骸も海の藻屑となってしまうので的外れな言葉でも無かった。
尤もその条件は切歌と調にとっても同様であり、2人も必ずしも全力を出し切ったとは言い難いので結局敗北と言う事実は変わらないのだが。
そんな少女を宥める様に、少女の脳内に声が響く。
『そうよ、エルザちゃん。やりすぎて、船ごと聖骸を沈める訳にはいかないわ。撤退しましょう』
少女……エルザは脳内に響く念話に思わず反論した。
「撤退でありますかッ!? そんな簡単にッ! そんな事をすれば、連中だって黙っては……」
『連中には上手い事言っておくから。可愛いエルザちゃんがボロボロになる方がお姉ちゃんは辛いわ』
そうまで言われては仕方ない。後々の事を考えると気が重いが、ここで無意味に散るよりは百倍マシだと自身に言い聞かせた。
「うう……ガンス。……帰投であります」
エルザはテレポートジェムを足元に投げつけ、転移してその場から姿を消した。
突然その場から消えたエルザに、残された2人は何処か納得がいかないと言うか困惑したように互いに顔を見合わせた。
「とりあえず、勝てた?」
「少なくとも、あの気味の悪いミイラは守れたのデス……」
「ふぅ……あッ! そうだ、ガルド……!」
「デスッ! ガルドがまだ戦ってるのデスッ!」
エルザを退けた2人は、まだ甲板上で戦っている筈のガルドを援護するべくそのまま壁に開いた穴から外に出て壁伝いに甲板へと向かっていった。
その頃、ガルドと対峙しているベルゼバブにもエルザ同様念話による通信が行われていた。話しているのはやはりエルザに撤退を言い渡した女性である。
『申し訳ありません。装者の抵抗が激しく、このままでは船が沈没する恐れがあります。このままでは危険と判断し、こちらの指示でエルザちゃんは退かせました』
「何? 勝手な真似を……」
『ですが、そちらもあまり芳しくない状況である事に変わりはないのでは?』
念話相手からの指摘に、ベルゼバブも言葉に詰まる。確かに、ガルド相手に予想以上の傷を負ってしまった。このまま戦っても負ける気は無かったが、エルザが相手をしていた装者2人も纏めて相手をするとなると面倒になる。
”こちらの活動はまだ序盤も良い所”。そんな所で、必要以上に無理をするのは得策ではない。ベルゼバブもそう判断し、ここは大人しく退く事を選んだ。
「フンッ、命拾いしたな。だが次に会った時は、貴様を確実に始末するから覚えておけ……!」
〈テレポート、ナーウ〉
転移魔法により姿を消したベルゼバブ。正直これ以上は立っているのがやっとだったガルドは、敵がいなくなった事で安堵しその場に腰を下ろすとそのまま変身を解除した。
「ふぅ……終わったか」
「「ガルドッ!」」
その場で腰を下ろし一息つくガルドに、甲板に上がった切歌と調が彼を心配して近付いていく。
本部では弦十郎達がその光景を見つつ、戦いの終わりに後始末の為の行動を開始した。
「ただちに救護班を向かわせろッ!」
弦十郎の指示に本部潜水艦が米軍艦隊へと接近し、救護の為の人員が次々と空母に乗り込んでいく。
それを横目で見つつ、アリスは先程の切歌と調から送られてきた映像を何度も見返していた。
「これは……この、少女は……」
映像には腰にコードを繋ぎ、巨大な爪を持つ手を自在に操る犬耳の様なものを頭に持つエルザの姿。映像を巻き戻しては再生するを繰り返すアリスは、意図せずして震える手を口元に持って行っていた。
「まさか…………」
僅かに声を震わせるアリスの声は、誰の耳にも届かなかった。
後書き
と言う訳で第200話でした。
ベルゼバブの空間を繋げる魔法は、本作では透がデュラハンの力を振るう様に自在に扱える感じになりました。最初はコネクトの魔法を連続使用する感じにしようかと思ったのですが、あまり特別感が無かったので指輪なしでの魔法と言う感じで落ち着きました。
終盤には思わせぶりな事をアリスが述べてましたが、先に言うと本作のノブレと錬金術師アリスはちょっとした接点があったりします。それに関してはまた何れ明らかとなる予定です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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