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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
姿なき陰謀
  如法暗夜 その2

 
前書き
 ミラさん出番回。 

 
 場面は変わって、米国の首都ワシントン。
官衙の中にある連邦準備制度理事会(FRB)の本部ビルでは、白熱した議論が行われていた。
「何、カナダ国内の金の相場が下がっているだと」
「はい、なんでもすでに市場関係者の間では、多量の純金が出回っているとのうわさが……」
「由々しき事態だ」
「早急に対処します」
 マサキが、カナダ国内に200トンの無刻印の純金を持ち込んだことは、北米の金市場に大きな影響を与えた。
その事は、米国の金融政策を取り仕切る連邦準備制度理事会(FRB)に大きな懸念を抱かせた。
 金の保有量が増えれば、ドル建て資産を長期保有する利点は薄れるのではないか。
カナダにおける、米国の影響力の低下を懸念する動きも出てきた。
「何者かが、金融市場に対して、金の供給量を増やしているのは間違いない。
これは、連邦準備制度、ひいては合衆国政府への宣戦布告ともいえよう」
「BETAの侵略に合わせて、金本位制を復活させる案を潰しに来るとは、いったい何者が……」 

 ここで、金本位制という物に関して簡単な説明を許されたい。
金本位制とは、1816年(文化13年)に、英国で始まった金貨を通貨の価値基準とする制度である。
 その後、19世紀末に国際金本位制が成立したが、第一次世界大戦前後に停止した。
第一次世界大戦の際、各国が武器購入の代金として金塊を取引し、国庫から流出したためである。
 大戦後、世界各国は、米国を皮切りとして、再び金本位制に戻す。
だが、1929年以降の世界恐慌下での深刻な金融不安の為に、金本位制は廃れることとなった。
 第二次世界大戦後、米国は経済不安からの世界大戦を避ける目的で、世界銀行を創設し、米ドルを基軸としたブレトン・ウッズ体制を作り上げる。
その際、日本円は、1ドル=360円と固定された。
これは、日本にとっての円安の効果を生み、輸出が増大し、戦後復興の大きな要因であった。
 なお、世界銀行を作った露系ユダヤ人、ハリー・デクスター・ホワイトは、ソ連の秘密スパイであったが、それに関する話は改めて機会を設けたいと思う。
 
 連邦準備制度理事会(FRB)での混乱は、各国の大蔵関係者(今日でいうところの財務・金融関係者)にまで波及した。
事態を重く見た、主要7か国の首脳は、早急に電話会談を行い、蔵相会合を行うことを決定した。
そして、日本の第二の都市、東京で開かれることとなったのだ。

 
 さて、マサキに視点を戻してみよう。
彼は、金融市場の動きを注視はしなかった。
マサキの本当の狙いは金融市場そのものではなく、その混乱により表に出てくる影の存在を探ることであった。
この宇宙怪獣が闊歩する世界において、日本を支配する存在を探ることであったのだ。
 彼は、京都市内の待合(まちあい)に、恩田技研の社長を招いて、密議を凝らしていた。
恩田技研では、社長室という物がなく、重役と社長が同じフロアを使っていた。
なので、こういった話し合いのたびに、マサキは身銭を切って、待合などに呼んでいたのだ。
 待合とは、人との待ち合わせや会合のために席を貸すことを主とした飲食店である。
今日でいうところの料亭の事であり、今でも京都で茶屋といえば、待合茶屋の事を指す。
 ただし、京都以外の場所で、茶屋という言葉は、出会い茶屋や色茶屋であった。
今でいうところの、連れ込み宿――俗に言うラブホテル――や、風俗店の類を指す言葉である。
なので、使用にはくれぐれも注意が必要である。

「恩田、お前の方で政財界の資金源を調べてほしい」
「はい」
「五摂家の連中の資金源となっている銀行の一つを見つけて、頭取(とうどり)と会う算段をしてくれ」
 五摂家とは、日本帝国を事実上支配している、元枢府(げんすいふ)を運営する五大武家の名称である。
煌武院(こうぶいん)斑鳩(いかるが)斉御司(さいおんじ)九條(くじょう)崇宰(たかつかさ)
 この異世界では、元枢府(げんすいふ)とは別に、帝国政府が存在した。
近代的な帝国議会、内閣、大審院(だいしんいん)(今日の最高裁判所)があった。 
現実世界に当てはめれば、イランイスラム共和国を構成する革命評議会とイラン政府の関係に例えられよう。
斯衛(このえ)軍と帝国陸海軍の関係も、さながら革命防衛隊とイラン共和国軍の関係に近似していると言えよう。
「それは、まさか!」
「たとえば、崇宰(たかつかさ)や、斉御司(さいおんじ)でもいい。
奴らの政治資金の源泉となっている銀行の一つを調べるのよ」

「そうだな、大蔵省の破綻金融機関リストに載っていて、今は経営が回復した銀行の一つや二つを探って来い。
公的資金の注入がなされた銀行のリストが欲しい」
 この時代では、民間銀行の監督管理は、大蔵省が行っていた。
金融行政が大蔵省から分離されたのは、1998年(平成10年)の行政改革以降である。
「五摂家の、金の出どころさえわかれば、日本の政界を牛耳るのは簡単だからな」
「では、いよいよ乗っ取る算段を……」

「金の流れさえ止めれば、俺の本当の敵が出てくるはずだ」

 俺が動きさえすれば、必ず奴らは阻止しようと動いてくるはずだ。
この世界を牛耳る何者かが、牙をむいてくる。 
 その時の武器は、情報と金、そして天のゼオライマー。
銀行の一つや二つを乗っ取って、闇金の個人名簿さえ手に入れば、俺は権力と真っ向から戦える。

 夕刻。
マサキは再び篁亭に来ていた。
理由は、個人用の大型コンピュータが、屋敷の別棟にあったためである。
 この時代のコンピューターは、非常に高価なものであった。
IBMのIBM 5100ポータブル・コンピューターなどの卓上型コンピュータが、日本国内でも発売されていた。
だが一台当たり最低価格が8000ドル以上と大変高価であり、1983年の段階でも300万円ほどした。
車よりも高かったので、基本的には、大企業などの限られた部門が購入できたに過ぎなかった。
 しかも処理能力は、今日の携帯電話やスマートフォンに劣るほど。
その為、ある程度の計算はIBMのSystem/370の様な大型コンピュータに頼らざるを得なかった。
 篁は、戦術機の設計をする都合上、System/360、System/370を個人的に購入していた。
IBMの日本法人から市価の半値ほどで、購入し、特別の電算室(コンピュータールーム)を自宅に備えていたのだ。

 ブラウン管とにらめっこするマサキに、後ろから声をかける人物がいた。
屋敷の主である篁であった。
「どうだ、ソフトウエアの解読は出来そうか」
 マサキは、火のついていない煙草をくわえながら、操作卓(キーボード)を連打する。
鍵盤を打つカタカタという音が、部屋中に響き渡る。
「パスワードは説いた」
「そうか、それなら」
 マサキは、焦ることなく、ブラウン管の出力画面を注視していた。
「慌てるな。
ただその建物の入り口に入ったにしかすぎん。
こいつにはRSA暗号という特殊な仕掛けがしてあって、鍵の長さが100桁以上を超えた難物さ」
「分かるように説明してくれ」
「暗号とは、元のデータや通信内容を第三者や外部から解読できない状態にする処理のことだ。
RSA暗号とは、2つの素数を使って暗号化と復号を行う仕組みで、素因数分解を使う。
こいつを解こうとしたら、その規則性を探すだけで何年もかかるのさ」
 RSA暗号とは、素数を掛けあわせた数字の素因数分解の仕組みを利用した暗号技術の一つである。
1977年に三人の米国人によって開発された。
「高速演算処理能力のあるスーパーコンピュータが必要だが、そんなもんはこの世界にはそうそうあるまいよ。
おそらく、米国のIBMか、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ペンタゴン(国防総省本部)……
そのどこかに、1,2台あるぐらいさ」
 その時、ミラが部屋に入ってきた。
彼女は、マサキと篁のために、焼いたばかりのクッキー、――厳密に言えば南部風のスコーン――と、熱いコーヒーを持って来たのであった。
「私は学生時代に、MITの電算室に行ったことがあるけど、そんなものを計算できる代物はなかったわ。
せいぜいIBMのSystem/370が、ずらっと並べてあったぐらいだわ」
 一瞬、マサキの表情がほころんだ。
ミラが食いついてきたことに気を良くしたマサキは、思わせぶりに、
「この情報さえ、分析できれば、無敵の武器を持つことになる」
「無敵の武器?」
 これは誘い文句だった。
案の定、興奮していたマサキは、引っかかった。
「フフフフ、今からの時代、情報というのが一番の武器さ」
「えっ」
 わざと意味ありげな表情をして、問いただした。
マサキが食いついてきて、説明してくれると踏んだからである。
「この世界を揺るがす、極秘情報さ。
そもそも、ユングとかいうマタ・ハリに目を付けたのは、この情報があったからさ」
 ミラは、マサキのペースに乗っていると思っていた。
この美人妻は、俺の協力者。
そう確信したマサキは、さりげなくユングの持ち込んだ秘密の解析計画に関することを話した。
「この管制ユニットに組み込まれた機密情報は、戦術機開発メーカーの裏にいる銀行家や国際金融資本の利益の源泉や、陰謀の一部に繋がっている。
マライからその話を聞いた俺は、秘密の一端を暴く武器になる。
そう見立てて、この情報の解析を急いだ。
この機密は、いわば、敵を壊滅させるミサイルだ。
それを発射するための砲台が、必要になってくる」
「分析するにも、肝心のスーパーコンピュータは?」
「ただし、俺たちには、自由にできるスーパーコンピュータがある」
 その時、ミラの手は、マサキの背中に置かれていた。
そして、肩に向かって撫でさすりながら移動していた。
「ゼオライマーに搭載された、スーパーコンピュータかしら」
 その言葉を聞いたマサキは、途端に振り返る。
いつにない、驚愕の色を見せ、ミラをねめつけた。
「何故、それを!!」
 思いがけない言葉であったのであろう。
マサキは、唖然(あぜん)とした表情で、ミラを見た。
「私は、F‐14の設計技師の一人よ。
飛行制御用デジタルコンピュータの開発や設計経緯は、詳しくハイネマンから聞いているわ。
セントラル・エア・データ・コンピュータの事を考えれば、それくらいは判りますもの」
 ミラは、露骨な言い方をし、それとなくマサキの動揺ぶりを盗み見た。
驚愕しているのが、手に取るようにわかる。
「……」
 淡々とミラが推論を話しているときに、マサキの気はそぞろだった。
余りにも、実際と同じをミラが言ったからである。
 先ごろ生まれたばかりの、子息・祐弥(ユウヤ)の件で仲間に引き込んでいなかったら……
彼女に渡した、八卦ロボの資料の秘密をぶちまけられていたかもしれない。
そう思うと、率直にミラを計画に引き込んで良かったと、胸をなでおろしていた。
 そして今回の件は、ミラを油断のならない女技術者と思いはじめたきっかけでもあった。
 
 現実世界のF-14でも、最新鋭のマイクロプロセッサーが搭載されていた。
 F‐14には、専用の外気情報処理機(エア・データ・コンピュータ)が標準装備されていた。
それは、高高度を高速で飛行する為に、必要とする、気圧高度・対気速度・外気温度などを出力する装置である。
 そして、そのほかに専用のフェニックスミサイルを誘導するレーダー用に、強力な火器管制装置も同時に搭載していた。
 ミラは、ゼオライマーの電子光学装置について、うすうす感づいていた。
 1秒間に浮動小数点演算が、百穣(ひゃくじょう)回以上できる、スーパーコンピュータ。
一度に、500発以上のミサイルを、正確無比に制御可能な、イージスシステム搭載駆逐艦並みの火器管制装置。
(1(じょう)とは、1,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000.である。
それ以上の単位で、ぎりぎり使われているのが、(こう)(かん)(せい)(さい)(ごく)、である。
なお、それ以上大きい数の単位である、恒河沙(ごうがしゃ)阿僧祇(あそうぎ)那由他(なゆた)不可思議(ふかしぎ)無量大数(むりょうたいすう)
以上は、仏典に由来する数の単位である)

 ミラは、F‐14を設計に携わった経験から、グレートゼオライマーの事を、マサキが驚くほどに理解していた。
それらの物が、ゼオライマーには搭載されていると、見抜いていたのだ。 
 

 
後書き
 ユウヤ・ブリッジスの漢字名、祐弥は公式表記です。
この世界線だと、最初から篁祐弥ですけどね……
 
 個人的な意見ですが……
 この数話ほど、他の二次創作者を模倣して、原作重視の話を書いてきました。
ですが、非常に肩が凝ってきたので、近いうちに、また好き勝手な政治の話に戻ろうかと思います。
 書いていて楽しくない話は、ダメですね。
段々と18禁原作のエロゲーの二次創作というより、架空戦記、仮想歴史小説になってますね。

 読者の皆様、ご意見、ご感想お待ちしております。 
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