帝国兵となってしまった。
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俺は色々な経緯があって、あの動乱が起きているイスパニア共同体へまた向かう。
名目上はこの派兵されるダキアの近代化連隊の教導を帝国がダキアから依頼された。そして、ダキア事変で有名になったので、キャロル王からの直々の指名を受けてお雇い隊長として俺が選ばれたという体だ。このダキア近代化部隊というのは、新聞の話の上や各種書類上の公称ではダキア精兵隊と言われている。
が、内実というと様々なダキア国内の軍事勢力やダキア軍や貴族の私兵から、抽出されて結成されたが各武装団体の中でもいなくなっても惜しくはないとされた不良人材で構成されている。
正しく寄せ集めも寄せ集めのスクラップ帳や夢の島のブロックみたいな部隊だ。そもそも期待はされていない。ダキアも帝国もバークマンが半年ぐらい指導をしたが、程度の知れた大した訓練もしていない部隊が活躍するわけがないと帝国もダキアも高をくくっており、見栄えや新兵器の実験や新たな戦術を使った実験をするために補給には力を入れてる。
それらの戦訓と外征による兵站の維持の実践とそれにはどれ程負担がかかるのかの基礎データを取るための部隊であり、活躍よりもこのイスパニア動乱で死ぬようなことを多々することで役割を果たすアグレッサーと言われてるが内実はカナリアなのだ。
しかし、他人事ではいられない。そのとても危ない連隊の隊長は俺で、他にも各中隊長と大隊長も雇われた帝国軍人。参謀も帝国軍人。故に帝国の力を見るために観戦武官が各国から来てるかと言うと、内訳は帝国とダキアと秋津島皇国だけと期待はされていない。
要は帝国軍人とそのお仲間だけなのだが旗はダキア。フライング・タイガースか何かか?ダイナミック帝国軍だろもうコレ。むしろ植民地軍といったほうがいいような?やる気ないしな彼ら。ダキア人たちは帝国が最近開発し、試験的にダキア連隊に支給している粉ジュースを飲んでいる。
他にも代用チョコレートや代用ハーブティー、代用コーヒー、新型自走式フィールドキッチンの他にもカーデンロイド的な豆戦車を改良した牽引車や自走砲などがあり、他にはビタミン製剤と粉末じゃがいもや無水カフェインとビタミンとハーブに香辛料などを混ぜた謎の飲料などもあった。機械化や食料については一番進んでいるかもしれない。試験的に木箱の他にも木箱に入れなくても大丈夫なものは財閥化しつつあるあのオーデンハウデンなどが作った会社、国民生活戦線が出すダンボール箱に入っており、受信機能だけのラジオなどがある。
先進的な装備には60キロぐらいあるのに10分しか持たない暗視スコープやら13mm対戦車ライフルに携帯用投擲ピストルやグレネードランチャーに単発式試作20×105mm拳銃を名乗るほぼ形状がライフル的ななにかの不審な形容しがたい兵器などなど、癖がある帝国工廠や民間企業の発案兵器の実験品の山だ。
そしてそんなガラクタを押し付けられたことに対する温情として、焼け石に水としての再編期間が与えれた。その期間はわずか1ヶ月である。どうにもこうにもうまくは行かない。両側を縛られた小豆のお手玉状態の俺はやるしかない。それに俺も死にたくない。そして、理想としては誰も死なせたくないので、すべて訓練に費やすことにした。
「アルベルト参謀長、どう思う?」
粉ジュースの後にビタミン剤と粉ミルク、豆の粉末などを摂ったので、ダキア兵たちは訓練に入った。俺の隣には、ダキア内戦で唯一の負傷として、書類整理の補給要請で倒れてから少し笑っているように見えるアルベルト参謀が居たので聞いてるが、彼は鼻で笑ってから俺に話しかけた。
「幼年学校のほうがまだやる気があるでしょう。ダキアの好景気を考えたらこうもなるのでしょうが。」
訓練兵たちは、まだ穴を掘る行為に疑問を覚えている。軍人の給与が安いからこうもなるか。命をかけるには安すぎる賃金だ。何より命をかけるなら石炭や石油を掘ったほうが儲かるのだ。
「予備予算から動きがいい部隊の下士官に特別金を出して、訓練でいい成績のやつは一般兵でも下士官にすればどうだろうか?どうせ出すのは帝国の財布とキャロル公の懐だ。本当に死なれるよりかは訓練で死なれた方が実際は死ななくていい。アルベルト参謀長。頼んだ。」
追加の書類仕事にアルベルトは少し不満そうに微笑むと彼らに伝えに行く。一応、この部隊は最新鋭の戦車や野砲などの様々な戦闘部隊を連隊規模にまとめた小さな軍であり、6個大隊で構成されて6個の兵科で別れていた。すべて機械化されている。
そして、何よりもその部隊の活躍にお熱なのが秋津島皇国であった。理由は簡単でダキア、イスパニアと皇軍が何もしてない扱いをされて、国民に何回も公園や大学が焼き討ちにあったとのことで、佐官や尉官が大量に来ており、国内のガス抜きに精強な帝国軍と友好を組む我らが国家は強いと溜飲を下げさせるつもりだろう。彼らの代表が板柿誠一大佐とその参謀の井原寛二中佐、その下が津甚中佐らしい。
それ以外にも倉林少佐や男爵である西徳少佐、ほかにもよくわからないが色々と総勢120名あまりが来ており、津甚中佐に関しては「我が秋津島皇国軍に御用とあれば、この旧大陸中の秋津島臣民を集めて師団による突撃を敢行してみせましょう。」と言っていたり、井原中佐も「世界大戦が起きるやもしれません。あなたの著書は読ませてもらいましたがまだ足りない。」などと電波と闘争精神あふれる発言の数々にアルベルトと二人で何こいつらと首を傾げた。
秋津島皇国軍もこちらに惜しみなく、戦車や歩兵銃、野砲などを援助してくれたが規格が違うのでダキア本土に送り、バークマンに近代化用として渡しておいた。
肝心のダキア精鋭を名乗るこの連隊の基本装備の方はというと、イスパニア行きの輸送艦に積み込まれる物資の中身を確認したが、今のところは歩兵は一般的な帝国のボルトアクションライフルと銃剣とピッケルハウべの帝国軍丸出しの帝国ファッション。
では他の兵器はというと帝国軍の試験兵器で占めており、中には小銃弾に耐えうる正面装甲を持つアルミとベニアとタイルと絹を組み合わせた陸上を歩く魔導師用重装甲装備である。対歩兵用決戦兵器甲冑のあだ名を持つ、コードネーム暴徒鎮圧用煙幕なども多数送られてきており、中でも驚くべきものは煙幕発射装置という名で送られてきた多段ロケット砲だった。
「たしかに俺の論文に書いたが‥‥。」
そんなことは良しとしても護衛に来るダキア海軍とは言うものの帝国海軍の中古払い下げで、巡洋戦艦4隻、前弩級戦艦3隻、装甲巡洋艦4隻、旧式駆逐艦18隻からなる艦隊は圧巻で、帝国の南端の半島の付け根からダキアが買った帝国汽船の客船に乗り、これらがイスパニアを目指すのだ。
少し積荷を積んでいる間に新聞記事を読むとこの費用の大体がダキアが算出する石油などで賄われていて、ルーシーなどに輸出していた分は国情不安という理由で取り引きを取りやめた。
違約金は帝国が肩代わりをしているようで、更に言えば帝国の建築会社などが帝国の紐付きODAで急速にダキアへの近代化の水力発電や道路などのインフラ整備に加えて、帝国紙幣の借款により、ダキア自身もインフラ整備を進めており、ダキアは空前絶後の好景気に湧いていて、ダキア内では帝国企業の進出と帝国企業の合弁会社ができていた。
帝国らしからぬスローガンのダキアと帝国は兄弟(王族が同じ王家に連なるため。)という名の元にダキア貴族と帝国貴族も婚約も進んでいて、非常にあんなことがあった割にはダキア人は友好的で帝国中央銀行総裁のヤーマン・サハトもダキア国債を積極的に買って、ダキアを支える姿勢を見せていた。
なんだか、俺が怪文書に書いた謎の展開に似ているがまぁ歴史を元に書いてるから似たようなことをする人がいるんだろうなと新聞で絶賛する帝国の恩恵を書いた記事を読みながら思っていた。そして、巷でハーブティーやノンカフェインの代用コーヒーが流行っているらしくハーブによる治療が見直されているとも書いてあってまるで東洋医学の見直しみたいだなと思ってハーブティーを飲むのだった。
ダキア兵には2週間穴を掘って埋めて、最後の時間に掘った穴で眠り、朝は空砲の野砲の音で起こして頭を出しても当たらない程度の角度で機銃掃射をする。
そして、その2週間が過ぎた後には着衣水泳として騎馬隊で追いかけながら、川に叩き込んだり、航空魔導歩兵に関してはガーデルマン魔導大尉やステン魔導少佐にベッカー魔導大尉、フィッケル魔導中尉が正しい敵地攻撃の仕方と対空陣地に眉一つ動かさずに急降下などを教えていた。あちらの方が地獄のようで、足や腕が吹き飛んでも即座にガーデルマンが腕や足をくっつけて飛ばしていた。頭がおかしいのかな?
「この程度なら前に進めば当たらない。当たろうが痛いと思わなければ問題ない。行くぞガーデルマン。」という声も響いていたが誰だあいつ。明らかに一人だけおかしい動きをしてバレルロールしながら宙返りをして、降下し続けるやつを見たが怖いので見なかったことにした。
あとからの報告によると観戦武官としていた井原が対空陣地におり、砂埃が舞う中で砂が入るのを無視して握り飯と味噌汁を飲みながら、一緒に無理やり連れて来ていたとされる陸村、長田、藍沢などを置き去りに「早く来い!」などと言って一人で塹壕から乗り出して、爆撃や対地射撃の嵐の中でさらなる強大な攻撃を待って立っていたらしい。その行動で井原に対して帝国軍人からもダキア軍人からも畏怖を集めて、恐ろしき井原と呼ばれていた。頭がどうにかしてるだけだと思う。
個人的に親善と言い張って一人で秋津島観戦武官たちのところに行って、米と味噌汁と漬物を食べたが米は精米や保管が悪いのか臭いがそれでも懐かしさを感じ、卵や鶏肉、サケやマス、帝国でも取れるそば粉などを差し入れをするととても喜ばれた。
「ジシュカ中佐が我々、秋津島の食を知っているとは思いもしなかった。これで皇軍は一年は戦えます。」
などと津甚中佐などからも言われた。引き続き、秋津島観戦武官たちと食事を共にしながら話す。彼らはよく秋津島語で秘密会議をしていた。日本語と変わらないためよく内容を理解できたが、これでダキアの英雄と呼ばれてる俺と付き合いが出来たためイスパニアでも活躍してくれればそれなりに面子が立つと安堵しているようだ。
秋津島では、俺がよく秋津島食を食べているために新聞各社から人気になっており、何を食べたかまで記事にしてるらしい。暇なのか?秋津島。
友好の証として彼らから秋津島刀を貰ったのを井原が趣味のカメラで撮っていたらしく、それを秋津島陸軍が広報活動で使い倒した結果、秋津島を大好きな帝国男児が異例の出世を繰り返し、共産主義者と反乱軍が蔓延する悪のイスパニアを征伐するという壮大なストーリーが出来上がり、大変な流行をしてるというのだ。
日に日に「こりゃあ、これで負けたら切腹ものだ。」「貴族階級でも話題になっとる。」「負けそうなら我々が支えよとお達しが来た。」「お上も注目なされてるようだ。」などとげっそりしていく観戦武官たちの秋津島語の会話で聞き取れた。
いや、勝手に期待して、勝手に覚悟を決めないでほしいんだが。とも言えず、俺は秋津島語が分からない体で無視をしていた。だって関係ないから。
最後の三日間はビアホールを借りて、壮行会の宴会を開き、費用はすべてバークマンに押し付けると全員で客船に乗り、向かうのだが実はダキア兵だけは客船で、観戦武官や帝国軍人は軍艦に乗る予定だったようで、すし詰めの客船の中で士官室もなくダキア兵と寝食をともにしていた。
「ジシュカ中佐。なぜここに?」
名目上で貴族からきたカンタクジノやシェルバネスクは不思議そうに俺を見てる。彼らも単なるお付き合い参戦だと理解してるのだ。軍学校を出たならわかるがこの戦いは合州国、連合王国、帝国の地中海の入り口を巡る代理戦争であり、斜め上に欠席した卒業アルバムのようにフランソワ共和国が別撮りで乗っかってるのも理解してるだろう。当然、イルドアもルーシーも噛みたがってるのは理解するところだろう。
シーパワーという要所の制圧的にイスパニアは重要なのだが、土地が重要であってそこに住まう人などは大国にとっては霞にも等しく、だからこそ朝露のような存在になるのだ。ここにいるダキア人たちも、名目上はある程度保護するとは謳っているがそれは社交辞令であり、イスパニア人は無視されることも理解してることだろう。もう無茶苦茶だ。ダキア人もイスパニア人も皆等しく、大国のグレート・ゲームに巻き込まれたお客様なのだ。
「私はお客様だから客船にしか乗れないらしいのだな。」と冗談を言うと周りにいたダキア兵たちも笑い出した。
そんな航海はイスパニア海軍にも、反乱軍にも会わずに無事上陸できた。旧式の解体前の艦隊の払い下げの中古艦隊にしても、これらは列強目線であり、半列強準列強クラスのイスパニア艦隊、それも分裂した彼らにとっては冗談ではないクラスの戦力だ。
景気付けに全砲門から空砲が火を吹けば各地の勢力から白旗が上がり、それらに降伏を許し、こちらが乗っていた客船に詰めて、捕虜として貸し出してる扱いの帝国領へと運ばれるらしい。
そしてダキアに派遣された法学者の帝国の教授などが裁判をするらしく明らかに代理戦争だが誰もそれを指摘はしない。そもそも、こういうもので時代らしい。
一番被害が出る上陸作戦は凌いだが大丈夫かな?
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