帝国兵となってしまった。
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大使館の簡単な仕事も終わり、スキーを楽しんでいると辞令が降りた。たったの1年ぐらいしかいないのにダキア大公国の大使館に転勤だそうで、それに伴い中尉に昇格するらしくダキア大公国の状態を確認せよとのことでどうなってるかを見に行くことにする。
しかし、あの国なにかあるのかなと思えば道中の電車の中で鉄兜団なる謎の政治結社が生まれ、国内では選挙をやり直せとデモをし、政府部隊と衝突しているらしく、魂の大ダキア主義に従い、ルーシーと南側のルメリアに対して歴史的な領土返還を訴え、中立政策に従うアルマン・ルーリネスク首相を弱腰として叩いているようで、日夜抗議集会を開催しており、それを政府が軍で鎮圧し、都市部は政府、農村部などは鉄兜団が支持者を増やしており、鎮圧をしようにも農家が隠すため難しく、それを重く見たダキア政府は都市部の拠点に対して、放火や打ち壊しをして弾圧、都市部の鉄兜団は壊滅し、幹部ら数人が逮捕されたらしい。
なんかあぶなくないか?原作でも描写されないだけでそんな存在はいたんだろうなとか思いつつ、鉄兜団の写真を見る若い男性だらけで幹部らは元軍人で尉官ばかりであり、貴族出身者のみで構成されている軍上層部や議会への抗議と語ったらしく、うち一人は首都における労働闘争中に背中から警官に撃たれ戦死したとされて彼の残した団歌は抗議の意味で歌われているらしい。
多数の新聞ともにそんなことを書いていて、やや鉄兜団に同情的で前時代的封建国家ダキアと書いている。若者の死に社会は憤慨してるんだろうか?駅に降りるとダキアのコーヒーサロンに入るここには情報が集まる。
なんで、俺はそんな危ないところに派遣されて情報を捕まえてこいとか言われなきゃならないんだ?おかしいよなそれって。しかも、なんか革命前夜や内戦になりかけじゃないのか?これってさ。嫌がらせか?こんなところに勤務とか企業戦士ジャパニーズビジネスマンとか言っていた日本のあの時代じゃないんだからこんなバルカンバルカンしてそうな場所に送られるほど悪い事をしてないだろ。えっ?おかしくないか?
「失礼、紅茶を。砂糖はたっぷりでいい。しかし、茶菓子は必要ない。」
カウンターで料金を払うと新聞を取る。そもそも鉄兜団ってなんだよ。更になにかないかと見ていると無料配布の新聞紙が積まれており、そこには古い新聞の棚もある。そこから新聞を引っ張り出す。兜が鉄でできてない時期なんかあるか?その点が矛盾だ。そもそも貴族ではなく彼らは庶民なのにどこにそんな資金があるのだろうか?
「お客様、紅茶です。あぁ、そいつらですか?金持ちですよね。暇なんですよ我々はこうやって日銭を稼がねばならないのに。庶民の金持ちがお遊びでやってるんですよ全く。」
たしかにバリスタが言うように、すぐに現れた割には多岐にわたる装備と統一された服装に統一された旗。そして、独自の軍帽にワッペンと腕章‥‥そして、整いすぎた環境。どれも怪しさが漂う。もしや、協商側の工作?テーブルの上の塩と砂糖などの調味料を紙の上に出して砂絵のように書いた。
「ありがとう。チップだ。」
ダキア紙幣を取り出すと手を振られ帝国紙幣でくれと言われた。なるほど国民からするとダキア紙幣より、ドルのような価値を持つ帝国紙幣のほうがありがたがる。これを見るに本当に内部で分裂が‥‥。多めに帝国紙幣で手渡す。
「ありがとうございます。最近は彼らに対抗するものも現れたとか政府と鉄兜団は談合していると。前隊長が逮捕されてから確かに幹部だったアウレルというやつが隊長になってから何故かアウレルだけは脱出をしている上にバラバラだった服装が整えられたようですよ。ま、そいつらが言うにはね。」
あぁ、ということは内部分派と総括を繰り返し、幹部を売り渡して自分が隊長になって、何らかの資金を受け取っているのではないだろうか?ガス抜きを彼らがして、それにより協商側への参加の布石に思えるが‥‥。
「いや、有益だった。危険地帯とは思いもしなかったよ。生憎と財布を重くすると狙われそうだから君が受け取っておきたまえ。」
ダキア紙幣を束で渡す。帝国紙幣と交換したらこんな束になってしまったから仕方ないよな。
「こんなに‥‥。また来てください。気になるなら新ネタを仕入れておきますから。」
バリスタはほくほく顔で去っていったが、全くその鉄兜団というのを調べて同時に今の組織に反抗しているものの尻尾も捕まえないといけないようだ。明らかに協商側の工作を感じる。
俺は何故か勘は外れたことがない。だとするならば奴らの狙いはわかっている。なら、協商側に協力をさせなければいいだけだろう。給料分の仕事ぐらいはやってやるさ。やらねばいかんよな。除隊するにしても多少は愛着が出てきた帝国を少しだけ有利にするのも悪くはないだろう。それに政府と鉄兜団の癒着を暴いたところで決定的な協商側との国力差は何も変わらないだろう。
「ありがとう。」
そして、席を立つと町中を歩く。首都は栄えていて露店や野外カフェ等がひしめき合っている。そんなに緊張感があるようには思えない。
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しかし、妙な感覚がするこの感じ‥‥これは尾行されているのじゃないか?背中に視線や気配を感じるこれは見えた。3人のスーツを着た男がいる。
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銃は持っているとは思えないがナイフぐらいは持ってるかもしれない。こっちにあるのは‥‥ステッキに仕込んだ仕込みと鉛の煙管ぐらいだ。吸わないがこれは武器になるから持っていた。あとは拳銃ぐらいだがあの距離では詰められて負けだ。なら格闘しかないだろう。奴らがなんとしても俺なら勝てる自信があった。路地に入ると奴らもついてくる。
路地の隙間の上に素早く登ると走ってきた三人に先程の調味料を入れた包を投げつけて、飛びかかり鉛の煙管で徹底的に殴る。
先に立ち上がった男が白刃の鈍い輝きを懐から放ったが、それが俺に届くことはない。ステッキで喉元を突いてめったうちにしたからだ。男の懐からあるものが落ちて、俺は目を丸くした。
三人を捕まえると縛り付けて、引きずる。市民の目は割となれてるようで、また鉄兜団が捕まったかぐらいの反応なのだろう。そのまま、大使館に入ると驚かれたがすぐさま、俺は大使の執務室に呼ばれた。
「着任早々、随分だな中尉。私は疑ったぞ。あれが暴漢に見えたか?あいつらは調べたところ、国民国旗団のメンバーだ。比較的鉄兜団より、帝国寄りの存在だ。あれらはそこそこ、情報をこちらにくれる。彼らの機嫌を損ねるとなかなか不味い。謝ってきたまえ。キミの不手際だ。」
いや、尾行されたら誰でもしばくだろうこんな失敗国家が息してるような3分で失敗国家みたいな場所なんだぞ。選挙が始まると投票の代わりに立候補者が撃たれたりするとかいう第一次世界大戦後の独逸みたいな治安の場所だってわかってるのか?可笑しいよ。
「しかしながらですがこれは大使閣下、大使職員を襲った明らかな国辱ものですから謝る必要はない。それと彼らは単なる若者でしょう。どう見ても新聞配達員などのそれに見える。第二に、彼らのスーツはダブルで高級品、あとあれは上質なウールだそして型式は古い。そして極めつけはこれですよ。」
俺が取り出したのはルーシー人の詩集と革の製品。明らかにこれはあれだろ。
「それは。なるほど、やつらはルーシーに‥‥よくわかった。これは手柄だ。ダキアの退役したアルトネスク将軍に事態を報告しなければなるまい。」
大使は不問にすると続けてタバコをふかしながら俺を部屋から出ていけとやり、素直に従うことにしたが、失敗した!黙っていれば除隊されたかもしれない。よし!わかったぞ。
国民国旗団に接触して不穏な様子を出せば多分行けるだろ。事件が起きたため、半休を渡された俺は3人を尋問してアジトを聞き出すと革製の黒いトレンチコートに革のハンチング帽をかぶり、黒い革手袋を履き、郵便局員風の鞄を揃えて向かった。これでどう見てもルーシー人だ。そして、付け髭をつける。
一時間ばかり、自転車に乗りそれらに向かうと廃棄された地下道があり、封鎖されているように見えて、開け放たれている。こういうときは堂々としていれば意外とバレないものだ。
「何者だ!」
ハンチング帽にワイシャツを着て、角材を構える若者がいたが簡単だ。
「私だ。」
それだけを告げると堂々と進もうと歩くが前に立ちはだかる彼の肩に手をおいて、ゆっくりと耳元で告げた。
「君は責任取れるのかね?モスコーに報告を上げるぞ。我々の支援が切れたらわかるよな?」
凄むと彼はトレンチの下の星を見て震え上がっていた。仕込んでおいた星が沢山ついたワッペンが階級章のように見えたのだろう。冷や汗をかき焦りながらアジトの奥へと消えていった。
カビ臭い木の板が敷き詰められた坑道を見ているとトラックがあり、中から鉄の筒が見えていた。これは‥‥野砲?それにそこの木箱には歩兵銃が見えており、パイナップルもたくさん見えた。地下道らしく掘削機も転がってるもはやゲリラだろこれ。意外とガバのくせに装備はしっかりしている。そして、ダキア大学の学校旗が見えた。学生かよコイツら!
「モスコーからいらっしゃったようで。」
胡散臭い笑みを浮かべた銀行員のような若者がいた。そして、その手には銀色に光る平和を作るもの‥‥ピースメーカーが握られていた。ルーシーを支持しながら合衆国を象徴する銃を持つのがとても印象的な矛盾男だなと思い、更に胸を張り懐からシガーケースを取り出すとタバコをくれてやる。
ニビル・フィッシャーがおいていった合州国の植民地で出来た葉巻だ。それに気がつき目を輝かせて葉巻に飛びつく彼らを見て、学生運動はこんなものなのだから、お遊びの間に家に返して親に叱ってもらったらいいんじゃないかと思っていた。
何だまだ単なる子供じゃないかと、背伸びしたいからこういうのをするんだろうなと思い、葉巻を吸う彼らの中で間違って吸い込みむせ返った一人を笑ってる彼らを見たときに思った。
そこからある程度話をすると彼らは上流階級の庶民だがそれでも貴族たちが社会を牛耳る今を憂いているらしい。
「つまり、議会は庶民に開かれていないと。」
庶民に参政権を与え、都市部の富を農村部の貧困層にも届けたいと言ってるが無理じゃないのか?まず、この国はもう工業化に遅れ、人々は今のままでそこそこ良いと考え、列強が送るそこそこの物資で満足している。それにこの国はガスと石炭、石油も出れば岩塩もある。自活もまぁまぁできていて不満度はあまり高くはない。がないわけでもないというそんな普通の国家だ。
故に帝国のように軍事力拡大にはいかなかったのだろう。石油や石炭を帝国に売ればなんとかなる立地だからな。
「そのとおり、このままでは金持ちと貴族たちが国家を支配し、国民は奴隷のままです。こんな理不尽があってよいわけが‥‥。」
などとリーダーのコレクリウスが言ったところで走ってきたあの角材の若者がいた。何だ慌てて。
「大変です!ダキア軍の鎮圧部隊が来ました!あいつらはアルトネスクの精兵だ。もう終わりだ!」
そう言うと彼は歩兵銃を手にとって箱の上に座り、口に突っ込み、引き金を引こうとする。
「よ、よせ!マリウス!」
マリウスと呼ばれる彼が震えながら引き金を引こうとするができなく、口の中から銃口を引き抜き唾液でぬちゃあと糸を引きながら銃が転がり、ボルトアクション式だった為に暴発する。
タンと発砲音が響くと外から大声が聞こえた。
「大隊長殿!貴様ら!素直に解散しないばかりか大隊長殿を!本部に連絡しろ!大砲を用意しろ奴らに正規軍と一般人の違いを叩き込んでやる!」
なぜそうなる!その暴発がたまたま大隊長とやらを撃ち抜いたようで投降も何もできない。
じゃあ、俺はどうすればいいんだ?
唖然とする学生たちは俺に目を向けてきた。彼らにとってはこの中で軍の訓練をしっかり受けてるのは俺だと思って見てるのだろう。
「その階級章、大佐ですよね?なら、オレ達がどうしたらいいか教えて下さい。」
リーダーのコレクリウスが縋り付いてきた。
中には親にバレるとか学費がとか奨学金がとか叫ぶ情けない奴がいる。いや、学費とかそういう次元の話じゃないだろ。あいつら、大砲を‥‥いや、大砲ならここにもある。それにここは地下道でトロッコが牽かれているもしや、これは彼でも‥‥いや、もうこうなったらやるしかないか!
しかし、帝国人だとバレるわけにはいかない。なにか無いのか壁を俺は見るのだった。
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