魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第5章】第二次調査隊の艦内生活、初日の様子。
【第1節】カナタとツバサは悩み多きお年頃。
前書き
この章では、オリジナルのキャラクターがまたさらに何人も登場してしまいますが、男性の(陸曹以外の)陸士は8人とも「本来は」ただのモブキャラですから、必ずしも名前などを覚えていただく必要はありません。
そして、コニィが自分の席に戻ると、あたかもそこを見計らったかのように、談話室にまた六人の男女がやって来ました。
マチュレアとフォデッサの二人組が、「一貫校で同期生だった四人組」のゼルフィとノーラとディナウドとガルーチャスを引っ張って来たような形です。
「どーもー。失礼しまーす」
「仲良し六人組(笑)、参りました~」
「ああ。いらっしゃい、皆さん」
コニィはまた席を立ち、その手招きを受けて、陸士たちは紹介を受けるべく、そのテーブルの前に横一列で並びました。
そこで、コニィはまず、自分やヴィクトーリアと同室の二人組を皆々に紹介しようとしましたが、カナタとツバサにとっては、マチュレアとフォデッサはすでによく見知った仲です。
結果として、その紹介は、もっぱらエドガーとザフィーラに向けたものとなりました。
続けて、その二人が残る四人の同僚をコニィたちに紹介します。
それから、コニィがまた、自分たちのことを順番に、マチュレアたち六人の陸士に紹介していきました。当然ながら、カナタとツバサの紹介は、もっぱらディナウドとガルーチャスに向けたものとなります。
「それから最後に、こちらのお二人は、カナタさんとツバサさん。外見はあまり似ていませんが、双子の姉妹です」
「初めまして~。これから、よろしくお願いしま~す」
「見てのとおりの若輩者ですが、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、どうぞよろしく」
「君たちの話は、さっき、こっちの四人からも聞いたよ。まあ、この際、年齢だの階級だのの違いはあんまり気にせずに行こうや」
12歳の二等陸士らの挨拶に、19歳の一等陸士らもそう応えました。
色白で、よく整った顔立ちをしている方が、ディナウド・ヨーゼリアス。地肌が浅黒く、表情も口調も砕けている方が、ガルーチャス・リブゲネイグです。
しかし、そうした形どおりの挨拶が一段落すると、コニィが陸士たちに席を勧めるよりも早く、ノーラがいささか堅苦しい口調で(しかも、カナタとツバサにとっては「彼女の口からは」初めて聞くような早口で)いきなりこう話を切り出しました。
「あの! ところで、突然ですが、ヴィクトーリア執務官殿! ひとつお訊きしても、よろしいでしょうか?」
「え? それは、構わないけど……私のことは、別に『名前呼び』でいいわよ」
「それでは、失礼して、ヴィクトーリアさん! 執務官というのは、やっぱり、同じ執務官同士で互いに親しかったりするんでしょうか?」
「……は?」
ヴィクトーリアは、質問の意図をつかみかねて、思わず間の抜けた声を上げてしまいます。
そこで、ゼルフィがとっさにこう言葉を足しました。
「すみません。この子、昔から『伝説の機動六課』の大ファンなんですよ。それで、ついさっきも向こうの部屋で『いわゆる「六課メンバー」には、執務官が二人もいて……』みたいな話をしていたんです」
「はい! それで、もし良ければ、フェイト・ハラオウン上級執務官やティアナ・ランスター執務官について……もちろん、特秘事項などには抵触しない範囲内で……実際の人物像とか、こぼれ話とか、担当した事件の話とか、何かしら御存知のことなど、お聞かせいただけたら有り難いなあ、と思いまして!」
「そうねえ……」
ヴィクトーリアはふと小首を傾げるふりをして、カナタとツバサに問うような視線を向けました。すると、双子からはすかさずこんな念話が返って来ます。
《すいません。さっき、話の流れで、ボクらの母親が「高町なのは」だってコトは喋っちゃったんですけど……。》
《執務官の親族関係は、すべて第三級の特秘事項だと聞いていましたから、私たちもフェイト母様については一切、言及していません。アインハルト兄様についても、「お隣のお兄ちゃん」という設定で処理してありますので、口裏合わせの方、よろしくお願いします。》
《なるほどね。解ったわ。》
そんな念話を素早く済ませると、ヴィクトーリアはこう言って、話題を「特定の方向」へと誘導しました。
「私は、フェイトさんとは、公私ともに不思議なほど御縁が無いのだけど……ティアナさんとは逆に不思議と縁が深くて、お仕事だけでも、もう三回ほど御一緒させていただいたことがあるわ」
「合同捜査ってヤツですよね? そういうのって、やっぱり、最初からチームを組んでコトに当たったりするんですか?」
いつもの「間延びした口調」は一体どこへ行ったのか。ノーラは、もう完全に「オタク特有の早口」になっています。
「まあ、そういう状況も、全くあり得ないとまでは言わないけど、執務官は基本的に単独行動が原則だから、『最初は互いに別の事件を担当していたけれど、捜査の過程で双方の犯人が同一人物、もしくは同一組織だと解って、そこからは協力して捜査を進める』という状況の方が、むしろ普通よ。実際、私とティアナさんの合同捜査は、三回ともそういう流れだったわ」
「それは、それぞれ、どういう事件だったんでしょうか?」
「そうね。まず、85年には、デヴォルザムでの〈ゲドルザン事件〉でしょ。それから……いや、88年の〈ペレクス事件〉と92年の〈グヴェラズム事件〉は、特秘事項が多すぎて迂闊には話せないわねえ……。
自慢にはならないけど、私はちょっと口の軽いところがあって、うっかり喋ってしまうかも知れないから……悪いんだけど、やっぱり、〈ゲドルザン事件〉についても、具体的な話は、こちらの執事から聞いてくれるかしら?」
ヴィクトーリアはそんな「もっともらしいコト」を言って、面倒な説明を再びエドガーに丸投げしました。
「エドガーさんは、お話、上手なんですヨ」
「私たちも、今、いろいろと説明してもらっていたところなんです」
カナタとツバサも、すかさずそう言葉を添えます。
「それでは、エドガーさん。よろしくお願いします!」
ノーラは嬉々とした表情で、深々と頭を下げました。
「解りました。しかし、まずは、皆さんを向こうの陸曹三人組に御紹介しておきましょう。先程から、何やら視線を感じますので」
「では、それが終わった頃を見計らって、皆さんにもお茶をお出ししますね。皆さんは、どういうお茶がよろしいですか?」
コニィにそう訊かれて、マチュレアはふとテーブルの上に視線を落としてから、無難にこう答えます。
「えーっと。じゃあ、カナタやツバサと同じのを六つ、お願いします」
「解りました」
「え? いいんですか?」
ゼルフィはとっさに訊き返しました。両腕の肘から先を前へ伸ばし、指を少し拡げて掌を上に向けているのは、『何か手伝わなくても良いんですか?』というジェスチャーです。
「ええ。私は元々こちらが本職ですから。皆さんは、どうぞ、あちらで御歓談ください」
そして、コニィがミニキッチンの側へと移動し、エドガーも席を立つと、今度は、ディナウドが不意に、ザフィーラに向かって何やら申し訳なさそうな口調でこんな言葉をかけました。
「あの、すみません。……じきに他の六人も来ると思うのですが、どうも椅子の数が足りないような……」
どうやら、割と細かいところにまで気が回る若者のようです。
「そうだな。……取りあえず、あと三脚あれば、いいのか」
ザフィーラはそう言って席を立ち、カナタの後ろを通って壁際に歩み寄ると、壁のくぼみに指をかけて、その壁の奥からガラガラと収納庫を引っ張り出しました。車輪つきの大きな引き出しの中に、今すでに出ているのと同じ型の椅子がずらりと並んでいます。
「それぞれのテーブルの横側に、一脚ずつ足しておけば良いだろう」
ザフィーラはそんな指示を出しながら、男性陣(エドガーとディナウドとガルーチャスの三人)に椅子を一脚ずつ手渡しました。三人は速やかにその指示に従い、ザフィーラも収納庫を元に戻して、また自分の席に着きます。
そして、エドガーは陸士らとともに左側のテーブルへ歩み寄ると、まずは手にした予備の椅子をそこに置き、自分と同室の陸曹たち三人を陸士らに紹介した上で、今度はその陸士ら六人を陸曹たちに順番に紹介していきました。
まず、マチュレアとフォデッサの紹介が済むと、バラムがすかさず二人にこう言葉をかけます。
「そう言えば、君たち二人には、昨年、カルナージで会っているな」
「あー、良かったー。忘れられてなかったー」
「うむ。あの宴席での見事な食べっぷりは、なかなか忘れられるものではないよ」
「なんだー! そっちかー!」
マチュレアは思わず舌を打ち、悔しげな声を上げました。『それより、模擬戦での活躍ぶりの方を覚えていてくれれば良かったのに!』と言わんばかりの口調です。
そして、次に、ゼルフィとノーラの紹介が済むと、ジョスカナルザードがまた例によって何やらチャラいコトを言いました。
ゼルフィとノーラは笑ってそれを受け流しましたが、ガルーチャスがすかさず、それに便乗する形で軽いセクハラ発言をすると、ゼルフィは無言のまま、右隣に立つガルーチャスの胸板に強烈なツッコミ(物理)を入れます。
これに対し、ガルーチャスは両手で胸を押さえ、必要以上に大げさな反応をしました。
「ちょっ! てめ! いきなり裏拳はやめろよ! マジで痛えだろう!」
「アンタの暴言で私の胸がその程度には痛んでいないとでも?」
「けっ! よく言うぜ。お前がそんなタマかよ!」
言葉は乱暴ですが、よく見ると、お互いに目が笑っています。おそらく、一貫校にいた頃から、この程度のやり取りは日常茶飯事だったのでしょう。
カナタとツバサは、その様子を肩越しに見ながら、ふと寂しげな微笑を浮かべました。
その表情が気になって、ヴィクトーリアもふと小さく声をかけます。
「どうしたの? 二人とも」
「いやあ、何て言うか……。実を言うと、ああいうのって、ボクらはちょっと羨ましいんですヨ」
「私たちには、軽口を叩き合えるような同年代の友人なんて、一人もいませんからねえ」
二人は少し恥ずかし気な口調でそう答え……一拍おいてから、ツバサは慌ててこう言葉を付け加えました。
「いえ! 私もカナタも、もちろん、頭では解っているんですよ。私たちは、大変に恵まれた環境で生まれ育ちました」
「うん。それは、もちろん、解ってるサ。……て言うか、そもそも、あの母様たちの娘としてこの世に生まれて来ることができたという時点で、『ただそれだけで、もう一生分の運をすべて使い切っていたとしても、不思議じゃない』というほどの幸運なんだよネ」
「おかげで、一般の12歳児だったら知り合うことすらできないような方々とも、こうして普通にお話などできている訳ですし……」
「ただ、姉様や母様たちの知り合いは、みんな立派すぎて、齢も離れていて……とても『対等の友人』になんてなれないんですヨ」
「皆さんが私たちに気を使って、努めて気さくに語りかけてくださっているのは、解るんですけどね」
二人ともそう言ったまま、軽くうつむき、押し黙ってしまいます。
「そう言えば、二人とも、地球に幼馴染みとかはいないの? なのはさんや八神提督みたいに」
その沈黙がどうにも気まずくて、ヴィクトーリアはつい「要らぬコト」を言ってしまいました。
すると、双子はまた溜め息まじりにこう語ります。
「ボクらは、6歳の時にはもうミッドに戻って来ちゃいましたからネ」
「地球には、学校に上がる前の幼児が集まる『幼稚園』という施設もあるんですが……正直な話、私たちは、当時の知り合いなど、もう顔も名前も覚えてはいません。……と言うより、彼等の方がすでに私たちのことなど覚えてはいないでしょう」
「一貫校に入学した時も、7歳児は明らかにボクら二人だけで、他の生徒は、みんな、初等科学校を卒業して来た12歳の人たちばっかりでしたからネ」
「大人になってしまえば、四歳や五歳の齢の差など、大した問題ではないのかも知れませんが……7歳児と12歳児では、さすがに『対等の関係』を築くという訳には……」
双子の言葉は、そこでまたプツリと途切れてしまいました。
おそらく、魔法一貫校ではそうした年齢差ゆえの苦労もたくさんあったのでしょう。あからさまなイジメは無かったにせよ、二人の『特別あつかい』に対する妬みや中傷なども少なからずあったはずです。
ヴィクトーリアも、これには一体どう返せば良いのか解らず、とっさには言葉が出て来ませんでした。
それでも、ザフィーラは両腕を左右に伸ばし、二人の背中を軽くポンポンと叩きながら、あえて明るい口調で双子にこう語りかけました。
「なぁに、お前たちは、まだこれからだよ。アインハルトだって、12歳になってヴィヴィオたちに出逢うまでは、友人など一人もいなかったんだし、ティアナだって、13歳で陸士訓練校に入り直してスバルに出逢うまでは、完全に一人ぼっちだったんだ。何も、幼馴染みばかりが生涯の友人という訳でもないだろう」
「それは……まあ、そうなんですが……」
「それに、普通の境遇の人間でも、早ければ13歳で陸士になる。今、お前たちがいる部隊にも、そろそろ同年代の新人が入って来ている頃合いなんじゃないのか?」
確かに、ギンガやスバルのように五年制の初等科学校と一年制の訓練校だけを卒業してすぐに陸士になれば、普通はその時点で13歳のはずです。
それでも、カナタとツバサの反応は、今ひとつ鈍いものでした。
「だと良いんですけどネ~」
「その場合、問題はむしろ『私たちの方が、いつまであの部隊に在籍していられるのか?』ということですねえ……」
それを聞くと、ヴィクトーリアがまた、ふとこんな言葉を差しはさみます。
「やっぱり、いずれは空士に転向する予定なの?」
「いえ。決して『今すでに具体的な予定がある』という訳ではないのですが……」
「一応、ウチの部隊長たちは、そのつもりでいるみたいですヨ」
「そうなの?」
「ええ。実は、去年の暮れに、二人でちょっと立ち聞きしちゃったコトがあって……。その時は、部隊長が副官に『あの子たちは「あのお二人」の娘なんだから、いつまでもウチなんかで預かっていて良い子たちじゃないんだぞ』みたいな言い方をしてましたヨ」
「私たちの進路に関する『お気づかい』そのものは、確かに有り難いのですが……」
「最初から『お客様あつかい』ってのも、何だか寂しい話だよネ~。これでも、ボクらは陸士隊の中で一生懸命やってるのにサ~」
すると、ザフィーラは不意に、小さな笑い声を漏らしました。
「それは、また随分と贅沢な悩みだなあ」
「いや! ここで笑わないでくださいよ!」
「ボクらにとっては、真剣な悩みなんですから!」
ツバサとカナタは大真面目な口調で返しましたが、それでも、ザフィーラにとっては、それは実に微笑ましいレベルの悩みでしかありません。
「悩め、悩め。そうやって一つ一つの事柄に時間をかけて悩んでいられるのも、小児の特権だ。大人になってしまったら、もうそんな暇は無いぞ」
「うわ~。それを言われちゃうと、もう返す言葉が無いな~」
「では、お言葉に甘えて、もう何年かはアレコレ悩んでみるとしましょうか」
カナタもツバサも、これにはもう弱り顔で苦笑を浮かべる以外には、どうしようもありませんでした。
一方、向こうのテーブルでは、ディナウドとガルーチャスの紹介が済むと、今度はフェルノッドがひとつ、ガルーチャスにこう問いかけていました。
「リブゲネイグとは、また珍しい苗字だけど……ひょっとして、キルバリス系かな?」
「うわ、よく御存知で! ええ。オレ自身は首都圏地方の生まれなんですけど、オヤジとオフクロは元々、キルバラから出て来た人なんですよ」
「実は、私たちと同じ部屋にもう一人、キルバラ地方から来た人がいるのですが、その先輩の話によると、EIGというのはキルバリスの古い言葉で、元々は出身地の地名から苗字を作る時に使う『接尾辞』なのだそうです」
ディナウドが相方の雑な言葉に一言そう説明を加えると、今度はゼルフィが、今さらながら、ガルーチャスにこう問いかけます。
「じゃあ、何? キルバリスには『リブゲン』って地名がある訳?」
「あの世界の地名なんざ、オレが知るかよ!」
ガルーチャスは、本当に嫌そうな口調でそう吐き捨てました。
「と言うか、キルバリスは今、『局の方針として渡航禁止になっている』ということなのでしょうか?」
ディナウドが、今度はエドガーにそう問いかけました。
「ええ、そうです。キルバリスの中央政府は〈九世界連合〉の時代から、もう二百年以上も鎖国政策を続けており、『他の世界から来た艦船は、すべて無条件で打ち払う』と公言していますからね。管理局としても、安全確保のため、渡航禁止の措置はやむを得ないところでしょう」
「うっわ~。ホンットに迷惑な世界なんだな~」
「だから、オレの顔を見てそれを言うのはヤメロ!」
どうやら、ガルーチャスは「自分のルーツ」である世界のことがあまり好きではないようです。
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