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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第三節 決断 第三話(通算93話)

 
前書き
脱出を急ぐエマとカミーユ。
モビルスーツハンガーの機体の場所が問題だった。
幸運にもさほど離れていなかった二人の機体に、四人で取り付く。
脱出に容赦は要らない。
その時、ビームライフルの光弾がハッチを貫く。
君は刻の涙を見る――。 

 
 MSデッキのエアロックが自動で閉まっていった。警報が鳴り響き、艦内の警戒レベルが上がることは確実だ。これで混乱に乗じることはできなくなってしまった。

「ちっ!」

 エマは軽く舌打ちした。

 予定にないカミーユの行動に唖然としていたが、ふつふつと怒りが沸いてきた。そこに自分がティターンズであるという意識はなく、人命尊重という観点にたった市民を守るための軍人であるという意識があった。だからこそ、カミーユの行動に舌打ちしたのである。軍人になるというのは、殺人者になるのとは違う、といいたかった。例え相手が敵だとしても、戦闘の結果としての死ではなく、虐殺に繋がる行為は慎むべきだ――それは軍人としてではなく、人として最低限のモラルであるという認識だ。

 予定が台無し――といいたいところだが、デッキに穴が開いたことで追撃隊の発進が少しは遅くなる可能性もある。今、楽観は許されないが、蜂蜜漬けの未来予想でなければ問題はないともいえなくはない。気持ちを切り替えて、状況をどう利用できるか考え直せばいいということにしておくしかなさそうだ。

 全周天モニターに、吸い出され行くさまざまな物がぶつかる様子が写っていた。センサーは防護されているし、MS同士の格闘戦の衝撃にも耐えられるように出来てはいるが、壊れない訳ではない。センサーを庇うようにハンガーから機体を出さないようにしていたが、空気がなくなり、最初の勢いは失せてきた。

――カミーユ!なんてことを……

 ヒルダの懸念も尤もだ。

 もしノーマルスーツを着用していない者がいたとしたら、即死とは言わないまでも、死ぬ可能性は高い。ノーマルスーツを着ていたとしても艦外に吸い出されてしまえば、見つかる可能性は低く、運良く短時間で発見されない限り、死の世界に投げ込まれたに等しい。酸素欠乏症に掛かれば、一命は取りとめたとしても、真っ当な生活は望むべくもなくなってしまう。

「母さん、心配要らないよ。デッキクルーはノーマルスーツを全員着用していたから」

ヒルダの懸念はそういう問題ではないのだが、エマは叱るよりも驚いた。この状況でそこまでの現状把握をカミーユがしてのけたことは、ずば抜けたセンスと言わざるを得ないからだ。そしてカミーユの言葉通り、剥き身の人間が漂ったりしていない。

――大した『眼』ね。

 皮肉ですか?というカミーユの返事が聞こえた気がした。が、それは空耳だろう。実際にカミーユは唇を動かしていなかった。

 映像通信である。既に無線封鎖は意味がないのだ。逆に《アーガマ》に報せるためにも、全周波数帯で通信した方が発見してもらいやすくなる。故に《アレキサンドリア》がミノフスキー粒子を戦闘濃度撒布するのは時間の問題だった。

――信号弾を! 青・青・黄で!
「了解」

 カミーユは機体を前進させて、ビームサーベルを使い、自分が開けた穴を拡げに掛かかった。流出は既に止まっており、様々なものが宙に漂っている。それを見てエマも穴を拡げるのを手伝い始めた。

 瞬く間にMS一機が辛うじて通れる穴になったところで、カミーユから先に外に出た。《ガンダム》の手にはビームライフルが握られている。
二機が外に出ると、対宙砲火が上がり始めた。
降り掛かる火の粉を振り払うかのように《ガンダム》が虚空に舞い上がった。テールノズルの噴射光が尾を曳いて、残像を結ぶ。

 刹那、カミーユの《03》から信号弾が放たれた。

 青、青、黄。

 三つの信号弾が残照を目に残して消える。そして、漆黒の闇の帳が降りた。カミーユはエマ機に追従する形で航路をトレースする。エマは現時刻と《アーガマ》の予定位置から方角を算出していた。

 基本的に宇宙では絶対座標が使えない。

 というのは、相対物が自転している限り、相対することで、0運動状態を作り出さなければならないからだ。しかし、相対物が近くにない場合、相対座標は意味をなさないために、ラグランジュ・ポイントを起点とする座標を使うことが多い。

「カ、カミーユ……」

 座席の後ろからか細い声が聞こえた。フランクリンである。今のいままで、カミーユは存在を忘れていた。実のところ、フランクリンはカミーユがビームライフルを放った後の光景に動転して気絶していたのだ。

「何だい?」

 自分の疎ましさを隠さずに棘のある口調でいい放つ。事実、エマもカミーユも民間人でないとはいえ、非戦闘員を連れていることで思いきった機動ができない。だからと言って随意にすれば、気絶どころの騒ぎではない。下手をすれば、半身不随になる。パイロットに掛かるGとはそれほど過酷なものなのだ。「振りきれたのか?」

「……スペアシートを出して、フックで体を固定した上で、シートベルトして」

 そんな訳ないだろっ、と怒鳴りたくなる気持ちを抑えて、マニュアル通りの指示をする。リニアシートは機体の向きに応じてGを減殺し、メインカメラの向きに応じて回転するため、衝撃緩衝装置が付いているが、スペアシートには備わっていない。シートベルトと固定フックが命綱である。

「あ、ああ……」

 フランクリンは不服そうにしながらも、息子の指示に従った。 
 

 
後書き
宇宙空間に出ている宇宙艦艇のハンガーやデッキでは通常ノーマルスーツ着用です。着てないほうが変。 
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