魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第2章】第一次調査隊の帰還と水面下の駆け引き。
【第5節】敵をあざむくには、まず味方から。
そこで、カナタとツバサは大急ぎで長旅の準備を済ませました。
ほどなく、セインが三人のシスターたちやイクスヴェリアの分身とともに部屋を訪れ、シグナムたちが間もなく到着することを高町家の三人に報せます。
その上で、セインはひとつ、双子に確認を取りました。
「ところで……二人とも今、デバイスは何も持ってないんだよね?」
「あ!」
カナタは『今、気づいた』という表情です。
一方、ツバサは冷静にこう答えました。
「私たちは今回、長期休暇という扱いですから、支給品のデバイスも制服などと一緒に部隊の方に置いて来たままになっています」
「そんなことじゃないかと思ったんだ。そういうことなら……まあ、大したモノじゃないんだけど、二人には今回、コレを貸しておくよ」
セインはそう言って、二人に一つずつ小さなペンダントを手渡しました。教会のシスターたちが普通に身につけているような、何の変哲もない(小指ほどの大きさの)銀色の円筒がぶら下がっているだけのシンプルなペンダントです。
実際に首に掛けてみてから、ツバサは尋ねました。
「これは……簡易デバイスですか?」
「うん。だから、まあ、マスター認証も何も無いんだけどね。その筒を軽く握って、バリアを張ってごらん。君たちほどの魔力があれば、形や大きさも、思念ひとつで自由に変えられると思うよ」
「おおっ! ホントだ!」
カナタは早速、いろいろと変な形を試し始めました。ミッド式の魔法では、バリアはほぼ球形と相場が決まっているので、形が自由になること自体が面白いようです。
「本来は、巡礼者の身を不慮の事故から守ったりするための装備なんだけどね。それと、そいつには棍も仕込んでおいたから。試しに、今度は右手の指先でその筒をポンと叩いてごらん」
セインの言葉どおりにすると、各々の目の前に棒術用の棍が現れました。二人はとっさにその棍を握って互いに向き合い、息もぴったりに棒術同士の対戦の構えを取ります。
「おおっ! これは、いかにもデバイスっぽい!」
「左手の指先で同じように叩けば、棍はまた収納されるよ」
二人はまた、セインの言葉どおりにしました。
「なるほど。わざわざ声に出さなくても良い、というのは便利ですね」
「まあ、機能はそれで全部なんだけどね。何も無いよりはマシだろうと思ってさ」
「いえ。わざわざありがとうございました。助かります」
「向こうで存分に使わせてもらいますヨ」
カナタとツバサはセインに一言、そう礼を言ってから、くるりとヴィヴィオの側に向き直り、それぞれにヴィヴィオの右手と左手を取りました。
「それじゃ、姉様。ボクらは行って来るヨ。安心して吉報を待っててネ」
「二人とも……本当に無理はしないでね」
「はい。どうぞ御安心ください」
「大丈夫だから! 大船に乗ったつもりでいてヨ!」
そこで、双子はまた、シスターたちの方に向き直りました。
「それでは、イクスさん。セインさん。ファラミィさん。ユミナさん。ヴァスラさん。ウチの姉様を、よろしくお願いします」
「お願いします!」
双子が頭を下げると、四人のシスターは次々にこう応えます。
「ああ。こっちのことは任せときな」
「が……頑張ります!」
「ええ。どうぞ、お任せ下さい」
「ヴィヴィオさんの身柄は、自分が責任を持ってお護りします」
そして、イクスヴェリアの分身も精一杯に胸を張り、右の拳でその胸をポンポンと叩きました。
『任せておけ!』のポーズです。(笑)
こうして、カナタとツバサは15時すぎに教会側が用意した送迎車に乗り込みました。シグナムも(アインハルトと同様に自分の車を駐車場に置いて)アギトとともに「本職は衛兵と思しき男性」が運転するそちらの車に乗り替えます。
車は中央幹線道を南下し、やがて中心都市トスフェトカの郊外にある管理局の施設に到着しました。四人はそこで車を降り、転送ポートで〈本局〉へ飛びます。
そこからシグナムは別行動を取り、カナタとツバサはまずアギトに「局員専用の居住区画」へと案内されました。そのまま局員用の宿舎に二人部屋を割り当てられます。
双子は続けて、「第二次調査隊の隊員名簿への登録」や「無限書庫のユーノ司書長への挨拶」などを済ませた後、今度はアギトに加えてリインやミカゲも一緒に、局員用の食堂で楽しく夕食を取りました。
(この時点では、カナタもツバサもまだ『リインたち三人が、実は人間では無い』という特秘事項を知らされていません。)
それから、双子は割り当てられた部屋に戻り、そのままそこで一泊したのですが……実のところ、二人とも気分はもう「ワクワク」です。
そして、翌7日の朝、双子は身支度を整えると、まずは朝食を取るべく、昨晩と同様に「セルフサービス式」の局員用の食堂へと赴きました。7時前というのはまだ少し時間が早いのか、席はかなり空いていて奥半分は完全に無人となっています。
双子は特に知り合いも居ないので、わざと二人だけで奥の方に席を取ったのですが、しばらくすると、入口の方で何やら少しざわめきが起こりました。
何かと思って顔を上げて見ると、何と八神提督がみずから自分のトレイを手に、独りこちらへと歩いて来ます。
カナタとツバサは慌てて席を立ちました。
ツバサ「(頭を下げて)おはようございます、提督」
カナタ「お、お先にいただいております。(モグモグ)」
はやて「ああ。そんなに身構えんでもええよ。どうせ、これからしばらくは同じ船で暮らすんやから。もっと打ち解けた感じで行こう。……さあ。二人とも、座って、座って」
提督が向かいの席に着いてから、双子も改めて着席しました。
はやて「(手を合わせて)いただきます、と。……あれ? どないしたんや? 二人とも、そんな驚いたような顔して」
ツバサ「いえ。その……将軍というのは、もっと、こう……」
カナタ「VIPルームに泊まって、食事ももっと豪勢なヤツを部屋まで持って来させるとか……そういう感じなんだろうと思ってました」
はやて「私は、そんな無駄な贅沢、せぇへんよ。まあ、確かに、偉くなるとそういうコトをしたがる人も中にはおるみたいやけどな。……ああ。それはそうと、二人とも。今さっき、ヴィータには会わんかったか?」
カナタ「?」
ツバサ「いえ。今朝はまだ……」
すると、ちょうどそこへ、ヴィータが、自分のトレイを手にやって来ます。
ヴィータ「なんだ。二人とも部屋にいねえと思ったら、やっぱりもうメシにしてやがったのか。せっかく、あたしが起こしに行ってやったのに」
カナタ「それは……申し訳ありませんでした」
ツバサ「御足労をおかけして、恐縮です」
ヴィータ「構わねえよ。はやてがお前らにも早目に話をしておきたいと言うから、呼びに行っただけだ」
ヴィータは笑ってそう言うと、当然のごとく「はやての隣の席」に着き、取り急ぎ自分の朝食を食べ始めました。
カナタ「えっと……。その、お話、というのは?」
はやて「そうそう。急な話なんやけど、実は出航の予定時間がちょぉ早まってな。11時には出航してまうから、10時半には艦内で簡単な挨拶や説明を始めるとして……また、10時すぎにはアギトをそちらの部屋まで迎えに行かせるよ。そやから、二人とも、10時までにはまた手荷物とか、まとめといてな」
カナタ「了解しました!」
ツバサ「……ところで、提督。少し先走ったことを訊くようで申し訳ありませんが、現地に到着するのは、いつ頃の予定なのでしょうか?」
はやて「う~ん。ローゼンはちょぉ遠いからなあ。しかも、今回は、あんまり足の速い艦が空いとらんかったんよ」
カナタ「例の、艦船不足、ってヤツですか?」
はやて「うん。それで、結局は、出来たばかりの実験艦で行くことになったんやけどな。あの艦も速度は普通やから、艦内で3泊してもらうことになるわ。まあ、正味81時間ぐらいになると思うんやけどなあ」
ツバサ「ということは……ベルカからローゼンまでは、ここからベルカまでのほぼ二倍の距離、ということでしょうか?」
はやて「そうやな。27時間と54時間やから、ちょうどそれぐらいや。ところで、二人とも、地球とミッドとカルナージ以外の世界は初めてやったかな?」
ツバサ「はい」
カナタ「て言うか、ボクら、〈本局〉も無限書庫以外の場所に来たのは、今回が初めてなんですけど」
ヴィータ「なんだ。お前ら、無限書庫には、前にもヴィヴィオか誰かに連れて来てもらったことがあるのか?」
ツバサ「はい。その際に、姉様の方からユーノ司書長にも御紹介いただきまして」
はやて「ああ。それで、昨日は挨拶に行っとったんか」
ツバサ「はい。何やら急ぎの調べ物とかで、随分とお忙しそうでしたから、本当に御挨拶だけになってしまいましたが」
カナタ「偶然、リエラ姉さんと出くわしたのには、ちょっと驚きましたけどネ」
はやて「ああ。私も先日、ユーノ君から聞いたんやけど。なんや、リエラちゃんも今では随分と有能な助手になっとるらしいなあ」
そんな会話の後、はやてとヴィータは軽めの朝食を手早く切り上げて、その食堂を後にしたのですが……。
実は、「この食堂での四人の会話」を別室で盗聴していた人物がいました。
その人物とは、ライガン・ゴウラン独立捜査官です。彼は一部始終のデータをすぐに何処か別の場所へと送信したのでした。
その一方で、はやてとヴィータは前後に並んで廊下を歩きながら、他人に聞かれないように念話で会話を続けていました。
《なんや、悪かったなあ、ヴィータ。予定した「台本」とは随分と違う展開になってもうて。》
《いいよ。あたしもアドリブは苦手じゃねえ。……と言うか、あたしの一番面倒なセリフは、ツバサが代わりに言ってくれたからな。まあ、楽な芝居だったよ。……小児を騙すのは、ちょっと気が引けたけど……。》
《その件に関しては、後であの二人にも謝っとこうか。……ところで、リイン、あちらさんの様子はどうや?》
すると、別の場所から、すかさずリインの思念が届きます。
《やっぱり、例の捜査官に盗聴されてました。データはすぐに何処かへ送られたみたいですが、具体的に何処へ送られたのかまでは、ちょっと……。》
《まあ、それはええよ。取りあえず、これで「仕込み」は上々や。……こんな小細工はむしろ無駄に終わる展開になってくれた方が、ホンマはええんやろうけどなあ……。ほな、私は、ちょぉユーノ君と内緒話、してくるわ。リイン、出航準備の方は頼んだで。》
《はい。お任せです!》
《そっちの話も何か進展があったら、ちゃんとあたしらにも聞かせてくれよ。》
《ああ、もちろんや。……とは言うても、今日はまだ進展があるかどうか。さしものユーノ君も、今回ばかりはキビしいやろうなあ……。》
一方、カナタとツバサは、先の会話で少しばかり騙されていたことにも気がつかぬまま、はやてとヴィータよりも少しだけ遅れて食事を終えました。
しかし、食堂を出る際には、二人とも背後から相当に嫌な視線を浴びせかけられてしまいます。
カナタもツバサもその種の感覚はかなり鋭い方でした。食堂から少し離れると、カナタはもう耐え切れずに小さく舌を打ってボヤき始めます。
「何だか、今もボクらの背中にミョーな視線が突き刺さってたよネ。ああ~。もう、イヤ~な感じ~!」
「正直に言って、魔法一貫校の一般参観日に、母様たちが二人そろって私たちの訓練の様子を見に来てしまった時のような気まずさでしたね」
「あ~、あの時もヒドかったネ。母様たちの姿に気づいた途端、教官までガチガチに緊張しちゃって。(苦笑)」
「あの訓練法も本来、なのは母様が教導隊の方で空士用に作ったプログラムを、陸士向けに調整し直したモノだったと言いますからね。まあ、無理もありませんよ」
【後に、その一連の訓練法は「高町メソッド」と名づけられて、一般の訓練校にも普及してゆくことになります。】
そこで、カナタはふと軽い不平を漏らしました。
「母様たちも有名人なんだから、ああいう時は少しぐらい変装とかして来ればいいのにサ」
「いえ。あの時は、母様たちもそれなりに変装して来ていたのに、カナタが喜んで手を振ったりしたから、気づかれてしまったんですよ?」
「あれっ? そうだったっけ?」
二人は顔を見合わせ、軽く笑い合います。
「まあ、私たちは昔から『家族ぐるみの付き合い』をしてしまっているので、今ひとつピンと来ないのですが……よく考えてみれば、八神提督はあの母様たち以上の有名人な訳ですからねえ」
「ボクらみたいな無名の新人は、普通の局員たちから『何かのコネを使った』とか思われても仕方が無いのか……」
「まあ、或る意味、『縁故採用』であること自体は否定できませんが」
「いくらコネがあっても、実力が無ければ、ハネられてるっつーの! ……これでもし提督が男性だったら、ボクら、絶対に『枕営業してる』とか思われてるよネ」
「いや。私たちの年齢でそれをやると、明らかに違法行為なんですが。(苦笑)」
「ああ。相手が14歳以下だと、提督の方がタイホされちゃうのか。(笑)……ところで、ツバサ。(ひそひそ声で)八神提督が昔、『セクハラ大魔王』と呼ばれてたって、ホント?」
「いや。そのアダ名は、今、初めて聞きました。しかし、一部で『乳もみ魔』と呼ばれていたのは本当のことだそうです。もっとも、『抱きつき魔』のミカゲさんが養女として八神家に来てからは、もうあまり揉まなくなったという話ですが」
「うん。まあ……乳もみなら、大丈夫だな。ボクらには、まだ無いし!」
カナタは平らな胸を張って、そう開き直りました。(笑)
そんなおバカな会話をしているうちに嫌な気分もすっかり収まったようです。二人は部屋に戻ると、一休みしてからまた手早く荷物をまとめたのでした。
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