仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第9話
前書き
◆今話の登場ライダーと登場人物
◆カイン・アッシュ/仮面ライダーSPR-18スザクスパルタン
「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。一見明るくフレンドリーな好青年のようだが、自身が認めた仲間達以外に対しては非常に冷酷。彼が装着するスザクスパルタンは、背部に装備している羽根型の武装「ブリューナク」による高速機動を実現している機体であり、専用ライフル型変形武装「クラウソラス」が特徴となっている。当時の年齢は23歳。
※原案は八坂志貴先生。
◆武田禍継
北欧某国陸軍の外人部隊に所属していた2等兵。明智天峯や上杉蛮児と同じく不条理な差別に遭い、上官からの無謀な抗戦命令によりエンデバーランド市内に留まっていた。当時の年齢は18歳。
瞬く間にエンデバーランドを火の海に変えたシェードの猛攻は、多くの人々に避難する暇すら与えなかった。そのため現在も、都市の各地では逃げ遅れた人々が身を寄せ合っている。
市内の総合病院が抱えていた患者達も例外ではない。侵攻が起こる前から入院していた彼らは、避難はおろか事態の把握すら間に合わず、戦火の中に取り残されてしまったのだ。
そんな無力な人々にさえ、シェードの上級戦闘員は容赦なく牙を剥く。その非道に怒りを燃やす若き少年兵は、大勢の仲間達を惨殺されながらも決して怯むことなく、小銃を構え続けていた。
「……シェードの外道共がッ! ここは病院なんだぞ……! 貴様達は人間の身体はおろか、心まで捨てたというのかッ!」
少年兵こと武田禍継の怒号が天を衝く。病院の入り口を背にして銃を構える彼は、ここから先は一歩も通さぬと言わんばかりの気迫を放っていた。そんな彼を冷たく睨むグールベレー隊員は、事切れた兵士の死体を投げ捨てながら静かに口を開く。
「物事の正邪は常に強者が決めるものだ。貴様達が『外道』と呼ぶ我々シェードがこの地球の覇者となれば、それこそが『王道』となる。無駄な足掻きなど止め、地獄の果てでその行く末を見届けるが良い」
翼型の飛行ユニットを背部に装備している、暗赤色のベレー帽を被った屈強な戦闘員。彼は手にした専用のライフルを禍継の眉間に向け、容赦なく引き金を引く。乾いた銃声が、この一帯に響き渡った。
「……ッ!?」
だが、グールベレー隊員の凶弾が少年兵に届くことはない。その瞬間に飛び込んで来たスパルタンの戦士が、己の身を盾にして禍継を守り抜いたのだ。
2枚の翼のようにはためいている、思念操作式武装「ブリューナク」。その飛行ユニットを背部に装備しているスパルタンシリーズ第18号機――「SPR-18スザクスパルタン」は、すでに満身創痍となっている。だが、その仮面の下に隠された鋭い双眸は今もなお、倒すべき「敵」に対する殺意に満ちている。
黒と白を基調とするそのボディは「仮面ライダーデルタ」を想起させるカラーリングだが、全体のシルエットは「仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム」に近しい。さらに頭部の装甲は、「仮面ライダーカリバー」を彷彿させる形状だ。その手に握られた専用ライフル型変形武装「クラウソラス」は、戦火に照らされ妖しい輝きを放っている。
「……地球の覇者ぁ? 今時そんなセリフ、アクション映画の悪役でもなかなか口にしないってのに。シェードの脳改造ってのは、現実とフィクションの区別も付かなくなるらしいな」
その外骨格――スザクスパルタンを纏う美男子ことカイン・アッシュ少尉は、傷だらけの身を引き摺りながらもグールベレー隊員を冷たく嘲笑する。すでに一度、目の前の改造人間に叩きのめされている彼だが、その眼光には恐れなど微塵も無い。
まだ勝負は終わっていない。第2ラウンドはこれからだ。そう言わんばかりに立ちはだかるスザクスパルタンを前に、グールベレー隊員は忌々しげに口元を歪めている。そんな彼の表情を目にしたカインも、仮面の下でにやりと口角を吊り上げていた。
「……まだくたばっていなかったか、羽根付きの鉄屑。ならば今度こそ、地獄の底に叩き落としてくれるッ!」
「病院ではお静かに……って注意書きが読めないのか? ハッ、学の無い野郎だッ!」
背部のブリューナクを展開したスザクスパルタンがクラウソラスを構えた瞬間、グールベレー隊員は両翼を広げて彼の頭上を飛び越し、病院内に滑り込む。そんな彼を追い、スザクスパルタンもブリューナクの推力を全開にしていた。
「カイン少尉ッ!」
「武田2等兵、今までよく頑張った! 患者達のことは俺に任せなッ!」
禍継の叫びに突き動かされ、瀕死の身でありながらも立ち上がったスザクスパルタン。彼は自分の意識を呼び覚ました勇敢な少年兵に笑いかけながら、ブリューナクの翼を広げてその場から飛び去って行く。病院内の狭い廊下を高速で翔ぶ彼を目にしたグールベレー隊員も、飛行ユニットの速度を上げ始めていた。
「任せろ、だと? 随分と威勢の良いことを言っているようだが……何度戦っても同じだ。先ほど貴様を叩きのめした時と、何ら変わらん状況ではないか。考え無しの蛮勇は無能にも劣る大罪と知れ」
病院内を翔びながら自分を追って来るスザクスパルタンに対し、グールベレー隊員がほくそ笑む。実はこの状況は、先ほどスザクスパルタンが叩きのめされた時と全く変わらないシチュエーションなのだ。
先刻、グールベレー隊員にこの病院内まで逃げ込まれたスザクスパルタンは、患者達を巻き込みかねないことから撃ち返すことが出来ず、一方的に叩きのめされてしまっていた。その時を「再現」してやろうと嗤うグールベレー隊員は飛行しながら振り返り、専用ライフルを構えようとする。
「……好きなだけ吠えてな。ただし、心優しい俺から一つ忠告しておいてやる。これがさっきと同じシチュエーションだと思ってると、痛い目に遭うぜ?」
「……ふん、減らず口だけは一丁前だな。道化め」
だが、敢えて同じ状況に飛び込んだスザクスパルタンはグールベレー隊員を睨み、冷たく笑っていた。その得体の知れない「余裕」に眉を顰めつつも、グールベレー隊員は静かに照準を覗き込む。何度も急速にカーブしながら、2人は病院内の廊下を縦横無尽に翔び続けていた。
(……いくら大口を叩こうが、高火力の飛び道具が持ち味の奴では手も足も出せまい。こんなところで「本気」を出せば、すでに半死半生の患者達は確実に流れ弾で死ぬ。俺がこの病院から離れない限り、奴には万に一つも勝ち目は無い)
入院している患者達はほとんど自力では身動きが取れない。無論、そんな状態の人間がこの戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。つまりグールベレー隊員がこの病院を戦場にしている限り、スザクスパルタンは患者達全員を人質に取られているも同然なのだ。
強化されたグールベレー隊員の肉体すら貫通し得るクラウソラスの火力は、確かに脅威だ。しかしその火力も、発揮出来なければ意味はない。そしてスザクスパルタンに、この状況で発砲する覚悟などあるはずがないと、グールベレー隊員は見誤る。
(いくら俺の肉体を穿てるほどの火力であろうと、撃てなければ宝の持ち腐れ。さぁ、撃てるものなら撃ってみろ。俺を脅すためのつまらん挑発行為で、守るべき民間人を犠牲に出来るのならな。どうせ貴様はどれだけ大口を叩こうと――)
「――撃って来れない、とでも思ったか?」
グールベレー隊員が引き金に指を掛けた瞬間。スザクスパルタンもクラウソラスの銃口を彼に向ける。その銃身は、より多くの「手数」で相手を攻め立てる「ガトリングモード」に変形していた。
「……なにィッ!?」
よりにもよって、周囲への被害を最も度外視している形態。その銃身の形状にグールベレー隊員が驚愕した瞬間――クラウソラスの銃口が容赦なく火を噴き始めていた。
(馬鹿な、撃って来ただと!? この狭い病院内で! 奴め、ついになりふり構わなくなったか! 患者達のことは任せろ、などと部下に言っておきながら結局はこんなもの……! やはり奴も惰弱な人間よッ!)
豪雨の如き弾丸の嵐。その猛攻に晒されたグールベレー隊員は平静を乱されながらも、不規則に飛び回り紙一重で弾丸をかわし続ける。しかし完全に避け切ることは出来ておらず、被弾した飛行ユニットからは黒煙が漏れ始めていた。
「うぐぅうぅッ……!?」
「撃てちゃうんだよなぁ、これがぁあッ!」
狭い廊下の中では、ガトリングの掃射を避け切ることなど不可能。だが、患者達の安全を顧みるならそんな乱暴な手段など取れるはずがない。その目論見が破綻したグールベレー隊員を嘲笑いながら、スザクスパルタンは敵の背中目掛けて矢継ぎ早に銃弾の雨を叩き込んで行く。
(……どういうことだ。奴がこれほど苛烈な弾幕を張っているというのに、患者達の悲鳴も断末魔も聞こえて来ない……! まさか、この男……!?)
一方。完全に意表を突かれたグールベレー隊員は、被弾箇所が増えて行く状況に焦燥を覚えながらも、しきりに辺りを見渡していた。巻き添えも厭わぬ凶行だというのに、周囲からはそれを感じさせる悲鳴が全く聞こえて来ないのだ。
それが意味するものにグールベレー隊員が気付いた瞬間、スザクスパルタンことカインが仮面の下でふっと笑う。彼はクラウソラスを構えながら、指先で自身の頭をコンコンと叩いていた。
「……『仲間』のことを覚えておくのは得意でね。この病院内のどこに患者が何人居るか……そしてどの位置と角度なら、派手にブッ放しても射線に一切巻き込まないか。もう全部、頭に叩き込んであるのさ」
「なん、だと……!?」
病院の構造。患者達の位置。座標。その全てを先ほどの「第1ラウンド」の中で記憶していた彼は、クラウソラスの火力が及ぶ範囲を理解した上で発砲していたのだ。自身の武器の威力も、周囲の状況も熟知したからこその「凶行」だったのである。
(……奴は今まで、「撃てなかった」のではない……! 敢えて「撃たなかった」のだ……! 何も出来ずにただ翔んでいるだけであるかのように見せ掛けながら、施設内の全域を脳内に完全記憶するために……!)
患者達の度外視など、とんでもない。むしろ患者達を守りながら確実にグールベレー隊員を仕留めるために、スザクスパルタンはこの瞬間を待っていたのだ。
「ふふっ、なるほど……! やるではないか、人間の分際でぇッ!」
1発の火力に秀でた「マグナムモード」に変形したクラウソラスが、さらに勢いよく火を噴く。その一閃を辛うじてかわしたグールベレー隊員は、不敵な笑みを浮かべて体勢を切り返し、自身の専用ライフルを刀剣型に変形させていた。
そして、飛行ユニットの推力を使い尽くす勢いで、スザクスパルタン目掛けて一気に突進し始める。スザクスパルタンことカインを、命を賭けて斃すに値する好敵手と認めた彼は、人質作戦という小細工を捨てて真っ向勝負に打って出たのだ。
「ハッ、いつまで上から目線でモノ言ってやがんだ? 病院まるごと人質にしなきゃあ、俺を半殺しにも出来なかったようなクズがよぉおぉッ!」
無論、スザクスパルタンとしてもこの一騎打ちに応えないわけには行かない。彼はクラウソラスを刀剣型の「大剣モード」に変形させ、ブリューナクの推力を全開にする。互いに飛行ユニットの翼を広げた戦士達は、最高速度に達しながらすれ違いざまに刃を振るった。
「ぐぅッ、おあぁあッ……!」
「……考え無しの蛮勇は無能にも劣る大罪、だったか? それじゃあ、その『罪』に相応しい『罰』をくれてやらなきゃな」
この一閃を制したのは、スザクスパルタンだった。大剣モードのクラウソラスに斬り裂かれたグールベレー隊員の身体が力無く墜落し、廊下の床を削りながら減速して行く。
ガトリングモードの連射を浴び続けたことで、飛行ユニットを損傷していたグールベレー隊員の方が、僅かに安定性を欠いていた。その紙一重の差が、明暗を分けたのだ。
「……ぬぅああぁああッ!」
無論、このままでは終わらない。グールベレー隊員は血みどろになりながらも立ち上がり、刀剣型の専用ライフルを構えて猛進して来る。
そんな彼に「とどめ」を刺すべく、スザクスパルタンは両脚にエネルギーを集中させて行く。地を蹴って飛び上がった彼の両脚は、白い電光を帯びていた。
「はぁあぁあぁああッ!」
「うぐぉおあ、あぁああーッ!」
空中で身体を捻り、何度も回転しながら繰り出す必殺のキック「サガ・スピノル」。突き出されたその両脚を胸に受けたグールベレー隊員は、断末魔の雄叫びを上げて吹き飛ばされてしまうのだった。事切れた彼の骸は病院の壁を突き破り、敷地の外へと墜落して行く。
「か、勝った……! カイン少尉が、勝ったんだ……!」
その光景を病院の外から目撃していた禍継は、両手を震わせて歓喜する。仲間達の骸を抱く彼の頬に、感涙の雫が伝っていた。無謀な任務に身を投じて来た自分達の戦いは、「無駄な足掻き」などではなかったのだと、ようやく実感出来たのだ。
一方、キックを終えて着地したスザクスパルタン――カインは仮面を外し、見目麗しい素顔を露わにする。壁に開けた穴から病院の外へと降り立ち、1本の葉巻を取り出した彼は一息つくように煙を立ち昇らせていた。
「……貴様らシェードが何を抜かそうが、何を為そうが。『外道』はどこまで行っても……『王道』になんてなれはしねぇさ」
大の字に倒れ伏しているグールベレー隊員。その骸を冷たく見下ろしながら葉巻を燻らせるカインの眼は、どこまでも冷たい。
人の身も心も捨てた怪物には、その死を悼む者さえ居ない。そんな冷酷な事実を突き付けるかのように、彼は骸に背を向ける。まだ、この戦いは続いているのだから――。
◆
――同時刻、シェード強襲部隊の前線指揮所。その「本拠地」に独り残っている指揮官の男は、指揮所のテント内で戦局の推移を「観察」していた。
椅子に腰掛け長い脚を組み、紅茶を嗜みながらレーダーの動きを見つめている黒スーツの男。彼は直属の配下であるグールベレーの動向を神妙に静観している。
鋭く眼を細める彼の目前では、レーダー内の光点が次々と消失していた。それはグールベレー隊員達の「戦死」を意味する現象であった。指揮官の男はその光景を前に、深々とため息を吐く。
「……デルタマンめ。圧倒的な優位に立っていながら、格下相手に翻弄された挙句……この始末か。あの木偶の坊をグールベレーに招いたのは失敗だったようだな」
スザクスパルタンに倒された隊員――「デルタマン」の死を悟った指揮官の男は、低くくぐもった声で部下の失態を嘆いている。マルコシアン隊との戦いで戦死したグールベレー隊員は、これで4人目。本来ならば、万に一つもあり得ない数字だ。
(いや……デルタマンだけの問題ではない。高周波双刃刀のアルファマン、超加速スラスターのベータマン、高出力マイクロウェーブガンのガンママン。いずれもグールベレーの中では、下から数えた方が早い雑魚ばかりではあったが……それでも、陸軍の産物にここまでしてやられるとはな)
部隊の中では最下層に位置する弱卒とはいえ、敗れた隊員達も並の幹部怪人を遥かに凌ぐ実力者だったのだ。その隊員達がこうも次々と、短時間のうちに倒されている。
人間を超えた「兵器」そのものである改造人間。その中でも「精鋭」とされているはずのグールベレー隊員が、鎧を着ただけの生身の人間に過ぎない未熟な鉄屑に連敗しているのだ。これは、改造人間という概念の存在意義にすら関わる由々しき事態であった。
(グールベレーの中でも上位に位置する「真の精鋭達」は、まだ何人も残っている。だが万一、これ以上の被害が出るようなことになれば……今回の侵攻作戦を完遂出来たとしても、「あの方々」の怒りを買う事態にもなりかねんな)
このままでは、戦果を期待している上司達――シェードの創設メンバーだという「あの方々」の不興を買ってしまう。いや、間違いなくそれどころでは済まされないだろう。最悪、責任者に対する「極刑」もあり得る。
表情こそ平静を保ってはいるが、その内面にはグールベレーの不甲斐なさに対する憤怒の色が滲み始めていた。特に、元マルコシアン隊でもあるランバルツァーに対する不信感は、より根強くなっている。
(……隊長。まさかとは思うが、あの「切り札」を……「ブリアレオス」を発動するようなことにはなるまいな……?)
紅茶を飲み終えた直後。空になったティーカップを握り砕いた指揮官の男は、デスクに置かれていたボルサリーノハットを被りながら立ち上がり、テントの外へと歩み出す。
追い詰められたグールベレーが「切り札」を解禁する可能性だけではない。彼らが敗北し、指揮官である自らが直々に動かねばならない事態も想定せねばならなくなったのだ。
「……楽しませてくれるではないか、人間共め」
人ならざる面妖な顔を持つ指揮官の男は、剣呑な面持ちで暗雲の空を睨む。そんな彼の背後では、再びレーダー内の光点が消失しようとしていた――。
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