| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

八十一 決壊

 
前書き
若干、痛い表現があります。ご注意ください!


 

 
突如、木ノ葉の里に現れた巨大な獣の数々。

何れも特殊な能力を持ち、且つ、巨体を活かして建築物を圧し潰す口寄せ動物の猛攻に、木ノ葉の忍び達は防戦一方だった。
しかし、巨大な獣と言えど巨体の口寄せ動物と言えど──。


「足場を失えば問題なかろう…!!」

ガハハハッ、と四尾の人柱力の老紫は赤い髭の下で豪快に哄笑する。


血継限界【熔遁忍術】の使い手である老人は、様々な口寄せ動物を使役するペイン六道のひとり──畜生道を相手にまったく引けを取らない。
むしろ、まるで赤子の手をひねるように力量差を見せる老紫に、防戦一方だった木ノ葉の忍び達は口をあんぐりさせていた。

「な、何者だ…あの爺さん」


万物をも融かし尽くす溶岩の奔流。
それを操ることによって、口寄せ動物の足場を無くす。

老紫のおかげで危ない所を助かった木ノ葉の忍び達は加勢しようとするものの、逆に足手纏いにしかならないと早々に理解した。
何故なら──。


「ふむ。おまえは戦闘向きではないな。どちらかと言えば諜報と口封じ。違うか?」
「………」

鉤爪と緑色の花が付いた棍棒で敵の攻撃を軽くあしらいながら、ペイン人間道と渡り合う三尾の人柱力である橘やぐら。
無言で頭を掴もうとするその手を避け、やぐらは棍棒で斜めに斬り込む。
見事な棒術で相手の動きを抑え込むその動きは無駄がなく、木ノ葉の忍びは介入する余地などなかった。


「おい、小僧!水だ!ぶちかませ…!」
「誰が小僧だ!」

こちとら元・水影だぞ、とブツブツ文句を呟きながら、やぐらは印を結ぶ。
ペイン人間道を棍棒であしらいながら老紫の意図を正しく汲み取って術を発動させるその様は、元・水影と言い張るのも納得の、ただの忍びにはできない芸当だった。


「【水遁・大瀑布の術】!」

舞い上がった大量の水が一気に滝の如く注がれる。それは老紫が操る溶岩流へ一気に落下した。
立ち上る凄まじい水蒸気。
もはや霧と言っても過言ではない水蒸気が晴れた頃には──。

「これで動けまい。【口寄せの術】も使えまい」



【口寄せの術】とは基本的に、噛むなどして指から出血させ、印を結び、その血を地面や壁に押し付けることで術式が展開されて術が発動する。
前以て術式が刻まれていれば話は別だが、畜生道を見る限り、その場その場で地面に手を置いて術を発動している様子。

だからこそ、手を置けないように血継限界【熔遁忍術】で地表を溶岩で満たした。
更に【水遁・大瀑布の術】でやぐらが大量の水を降り注げば、召喚主を始め、厄介な口寄せ動物達の両足が石像と化す。

急速に冷却された溶岩は火山岩になる。
大量の水で急激に冷えたことにより、両足が火山岩で固まったのだ。
もっとも普通はマグマで足がグズグズに溶けるのが先だが、そこは【熔遁忍術】の使い手である老紫が上手く調整した。

どれだけ巨大であろうと巨体であろうと、動きを封じられた口寄せ動物など恐るるに足らず。
ましてや地表がマグマである為に【口寄せの術】を発動できない召喚主であるペイン畜生道も、もはや成すすべもない。
撤退しようにも足が固まっているので動くことも敵わない。

「詰みだのう」


血継限界【熔遁忍術】の使い手である老紫は、【口寄せの術】の使い手である畜生道に対して、赤い顎髭を撫で摩りながら呵々と哄笑する。

視界の端でもうひとりのペインである人間道のほうを確認すれば、こちらはやぐらが対処していた。






花のついた棍棒を使い、巧みな棒術で人間道の手を警戒する。
対象者の頭に手を当てることで記憶や情報を読み取る能力の特性上、戦闘には向かない人間道は防戦一方だ。
だが手で触れてしまえば、魂を抜き取って即死させられる故、接近してしまえば人間道の勝ちである。

一方、早々に相手の手が危険だと看破したやぐらは、人間道の手には触れないよう、あえて棒術を使って追い込んでいる。
だが人間道は突き出された棍棒に臆することなく、逆にその根元を掴んだ。引き合うようにして力を入れ、邪魔な棍棒を奪い取る。

得物を奪われたやぐらを見兼ねて、助力に向かおうとした老紫は、やぐら本人から助太刀無用の声を掛けられた。

「舐めるなよ、俺を誰だと思っている?」


無表情で魂を抜こうとやぐらの頭目掛けて手を伸ばす人間道。
得物を奪われたにもかからわず、やぐらは妙に不敵な笑みを見せた。

その瞬間、奪った棍棒の穂先に咲く大きな花の飾りから、ぶわり、と水の泡沫が咲き乱れる。

「生け捕りにするのもわけないさ──【水遁・水牢の術】!」



奪った得物の飾りかと思っていた花から発動した【水牢の術】。
それを至近距離で受けた人間道は、瞬く間に水の牢屋に閉じ込められた。
カラン、と水牢の外で落ちた棍棒がやぐらの足元へ転がってゆく。

「ただの飾りかと思ったか?残念。花には棘があるものだぜ」


やぐらは棒術で斬り結ぶようにして、その実、棒を媒介にしてチャクラを花に送っていたのだ。
つまり奪われる前提で棍棒を振り翳し、わざと隙を見せて得物をあえて人間道に奪わせたのである。

頃合いを見計らって花から術を発動させ、見事、ペイン人間道を囚われの身にした元水影は、奪い返した棍棒を拾い上げると前髪を掻き上げる。


そうして一見子どもの容貌である三尾の人柱力──橘やぐらは、外見に似合わない台詞を自信満々に言ってのけた。



「亀の甲より年の劫ってな。思い知ったか、若造」






















「あのふたりの忍びは何者だ!?」


火影邸の屋根上から空を仰ぐ。

木ノ葉の里の上空。
そこではペインの他に、見知らぬ人間がふたり、空中戦を繰り広げていた。

木ノ葉の里を襲撃した『暁』のペイン。
僅かの対話を試みたものの、結局相手の意を汲むことはできなかった。

やはり所詮テロリストなのだ、と決めつけたところで、綱手の脳裏に白フードの人物の姿が過ぎる。
“己だけが正しいと思い上がるな”という謎の存在からの忠告が綱手の耳朶を打ち、思考を鈍らせた。

だが今考えるべきはそこじゃない。
とにかく今まさにペインと戦闘している忍びの正体を突き止めねばならない。

思考を切り替えて、五代目火影は鋭く「ペインと戦っている忍び達は誰だ?」と改めて周囲に問い質した。


「わ、わかりません」
「ですが“暁”を名乗る集団だと」

戸惑い気味の暗部達の曖昧な返答に、綱手は「…なに?」と眉を顰める。


襲撃してきた『暁』がペインなのは間違いない。それならば、内部分裂でもしたのか、それとも同じ名を騙る輩か。
けれど、未だ生死がハッキリしないものの、あの自来也を瀕死に追い込んだペインと互角にやりあえるほどの実力があるのは不自然だ。


再び空を仰ぐ。
木ノ葉の里の上空。
そこで戦闘を繰り広げるのはペインを含め、三人。

明確にはわからないが、緑髪の少女と、水色の着物を身に着けた男。
いずれもペインを相手に引けを取らない実力の持ち主だが、里では見覚えのない人物だ。


じりじりと中天にかかる日輪が、綱手の逸る気持ちを更に掻き立てる。
蒼穹の空で繰り広げられる空中戦を、五代目火影は険しい表情で睨んだ。



「いったい何者なんだ…」
















(六尾と七尾の人柱力…)

一方、綱手と違って、自分と対峙する水色の着物の男と緑髪の少女の正体を把握しているペイン天道は宙に浮きながら、無表情の裏で思案していた。

(双方とも遠距離タイプだ。引き寄せて接近戦に持ち込めばイケるか)


だが、そう考えあぐねている間に自身を取り巻く存在に気づいてペイン天道は反射的に術で弾く。
シャボン玉。
六尾の人柱力であるウタカタが操るソレを悉く弾いてみせたが、それは悪手だった。

シャボン玉を弾いた傍からブワリ、と中から粉のようなモノが舞い上がる。
何事かと身構えるも特に何も起こらないことを訝しく思った直後、身体全体が痺れたように動きがぎこちなくなる。


(毒…!?こんなもの…いや、コレは、)

死人であるペインに毒など効かない。だが急速に身体が痺れを訴えている。
神経細胞に作用する毒、つまりは神経毒がシャボン玉に含まれていたということだ。
ならば怪しいのはシャボン玉を弾いた時に舞った粉のようなモノ。

(…七尾の鱗粉か…!)


光の波長による、分光に由来する発色現象から、光が干渉するシャボン玉。
表面に凹凸があり、光が当たると乱反射して虹色に輝く鱗粉。

どちらもそれ自体には色がついていないが、構造色によって色づいて見え、虹色に輝く。
よって鱗粉入りシャボン玉かどうか判断がつかないのだ。



シャボン玉を弾けば、中に入っていた鱗粉が舞い上がり、身体を麻痺させる。
【神羅天征】は物理攻撃も忍術も弾き返すが、空中に散布された粉までは弾けない。つまりシャボン玉を弾けば弾くだけ己の首を絞める結果になる。

ならばシャボン玉を弾かなければいいと思うだろうが、ウタカタの合図で勝手に弾けるソレをそのまま放置しては相手の手のひらで泳がされるのがオチだ。
更にシャボン玉の中に入っているのは鱗粉だけではない。

鱗粉入りシャボン玉を弾いた途端、ジュッ、と音がしたと思ったら、皮膚が爛れていた。
酸が含まれているシャボン玉が紛れているのである。


まったくもって厄介だ。
しかしそう時間をかけてはいられない。
早く里を壊滅させ、波風ナルを焙りだし、九尾を手に入れた後にしなければならないことがある。

あまり気は進まないが、ナルトへ事の真偽を確かめなければならない。
ならば多少強引にでも終わらせなければ。

鱗粉入りシャボン玉。時には酸入りのシャボン玉もあるので、弾いた瞬間に酸が飛び散り、ペインの皮膚を溶かす。


無表情で痺れを切らしたペイン天道は前を向く。
六尾の人柱力──ウタカタと七尾の人柱力―フウ、そして背後に広がる木ノ葉の里を視界におさめ、天道は冷徹に双眸の輪廻眼を細めた。



木ノ葉の里ごと消えるがいい。
仮にも尾獣の人柱力だ。この技を喰らっても絶命することはない。

そう踏んでペインは宣言する。
もっともそこに木ノ葉の里に住まう人々や忍びに対する配慮は微塵もなかったが。


「ここより世界に痛みを」























「…つまらんのう」

足を石にされ、マグマの海で囲まれ、それでも猶、平然としているペイン畜生道。
【水牢の術】の水の牢屋に囚われても、依然として無表情のままのペイン人間道。

一向に焦る様子を微塵も見せない双方に、釈然としない。
そう思いつつも、功労者である三尾の人柱力のやぐらも四尾の人柱力の老紫も警戒を怠っていなかった。

そう、微塵も油断していなかった。
それなのに。


「──“口寄せの術”」

突如、何もない空間に手をついて術を発動させたペイン畜生道。
眼を見張った老紫が気づいた時には、畜生道の傍には寸前までいなかった口寄せ動物がいた。

「…ッ、前以て口寄せしていた動物か…!?」


カメレオン。空気に溶けるようにして姿を消していたソレが畜生道の傍で姿を現したのだ。
自在に姿を透明化できるその口寄せ動物の背中に、畜生道が手を伸ばす。

いつの間にか畜生道の傍まで近づいていたカメレオンの接近を許してしまった。
姿を消せるが為にカメレオンに全く気づけなかったことは業腹だが、それ以上に。

「よさんか…っ!無理に抜け出そうとすれば…」


完全に火山岩で埋もれている両足を無理に引っこ抜けば、足が千切れる。
にもかかわらず、カメレオンの背中を地面に見立て、畜生道は“口寄せの術”を発動させた。


途端、やぐらの“水牢の術”の牢屋内に囚われていたペイン人間道の姿も水球から姿を消す。
”口寄せの術”で回収されたのだろうとすぐ思い当った老紫は、予めナルトからペイン六道が遺体だと聞いていた故に、嘆息した。


「死人に鞭打ちすぎじゃないかのう」
「全くだ。もう休めばいいものを」


いくら遺体で痛覚がないからと言って、足を引き千切って離脱するとは。

老紫に同意しながら、やぐらが“水牢の術”を解除する。囚人無き水の珠が飛沫をあげて地面に滴下した。



透明化しているカメレオンの背中に手をついて“口寄せの術”を発動させたペイン畜生道。 
同じく“水牢の術”に囚われていた人間道も口寄せの術で回収したということは、一見、撤退に見えるが、腑に落ちない。

ナルトの指示を仰ごうと思った矢先に、老紫とやぐらはハッ、と木ノ葉の里の上空を仰いだ。


畜生道の巨大な口寄せ動物やマグマでもはや廃墟と化した建物。
半壊した屋根の隙間から射し込む太陽の光に照らされてシャボン玉が虹色に輝く。



同時に脳裏に響いた合図に彼らは──新生“暁”の面々は従った。



























『──戦況は?』

【念華微笑の術】。それは、伝えたい事柄を音にせず念じる事で相手に伝えられる術だ。
この術を使うには術を編み出したナルトの許可が必要。ナルト自身が媒介となっているため、万が一秘密裏に術で会話しようとしてもその内容は間にいる彼に筒抜けとなる。

つまりは山中一族の秘伝忍術を聊か改良したものだが、要するに声に出さずとも相手へ意思疎通を図れる代物だ。

『主』
『ナ…主ちゃん!』

ペイン天道と空中戦を繰り広げていたウタカタとフウは、それぞれ脳裏で聞こえてくるナルトの声に応じた。

『なんだその呼び名は』
『えっ、じゃあこの術使ってる間はナーちゃんでいいってことッスね!』
『いやだから、その呼び方もよせって何度も・・・もういい』

聞き慣れない呼び名に、ナルトは眉を顰めた。
大蛇丸と自来也を足止めしている最中、隙を見て“念華微笑の術”で木ノ葉の里にいる彼らに連絡をとったのだが、いつの間にか“主”という名前に定着されていた事実が発覚して困惑する。
今度は前々から何度やめろと言っても聞かないフウにナーちゃん呼びをされて、一瞬反論したものの、諦めて話の続きを促した。
そうでないといつまで経っても平行線のままで、本題に入らないからだ。

『早急に簡潔に現状報告を』
『ペインが里全体に何か仕掛けるつもりだ』

ナルトの声に応じ、ウタカタが要望通り簡潔に答える。

『…そうか』

(大掛かりな術となればあの術に他ならない)
“神羅天征”。ペイン天道はその術を木ノ葉の里を全壊させ、波風ナルを炙り出すつもりだ。

予想通り、火急の事態に陥っている。
もっともこうなることを見越して、彼らに助力を頼んだのだが、ナルトは一瞬、躊躇いを見せた。


本音を言えば、こんな里滅んでしまえばいい。
かつて里人にされてきた仕打ち、忘れたわけではない。
暴力を振るわれ、罵声を浴びせられ、罵られ、幾度も殺されかけてきた。

加害者はいつだって自分が加害者だという自覚はなく、自分こそが正しく正義だと信じて疑わない。
むしろ今では昔自分達がしてきた行いをすっかり忘れ、ペインが襲撃するまではのうのうと平和に生きていただろう。


それでもナルが──波風ナルが望むのならば。








『ユギト、やぐら、老紫、ハン、ウタカタ、フウ』
(又旅、磯撫、孫悟空斉天大聖、穆王、犀犬、重明)



“念華微笑の術”で里内部にいる全員の名を呼ぶ。
己の憎しみも恨みも怨嗟も全てを呑み込んで、ナルトは決断を下す。



決して里人を許したわけではない。
かつて木ノ葉の里に残してしまった彼女への負い目と罪悪感から。


ナルトは前以て彼らに禁じておいた事柄を解禁した。





それは折しも、ペイン天道が術を発動するのとほぼ同時だった。







「────“神羅天征”」
『──尾獣化を許可する』 
 

 
後書き

マグマと火山岩に関しては熔遁で上手く調整しているということで…ご容赦ください(土下座)
やぐらの棍棒に関しては捏造ですが、あの花、何か意味があると思うんだ…とりあえずチャクラを込めれば花から術が発動するということで…(汗)

捏造ばかりですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします!!

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧