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ヒダン×ノ×アリア

作者:くま吉
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第2話 緋弾に出会いました。



 シャーロックと理子から別れたクルトは、ロンドンに来ていた。ロンドンに来ている訳は、シャーロック達から別れた後、一通のメールがシャーロックから送られてきた為だ。


『親愛なるクルト=ゾルディック君へ。
 先の仕事では素晴らしい活躍感謝するよ。それにあたり、君にもう一つ仕事を頼みたいんだ。
 それは僕の孫娘の護衛だ。では、よろしく頼むよ』

 というものだった。
 それを読んだクルトの感想は。

「とりあえず孫娘の名前と住所を教えろよ」

 だった。
 シャーロックは恐らくそれを含めて仕事内容にしているのだろうが、正直に言えば、面倒臭いし、それに暗殺者に対して護衛任務など笑わせるなという話である。
 しかし、クルトはその仕事を受ける事に決めた。
 今までのクルトなら絶対に受けなかった仕事だが、理子との出会いが、クルトの内面を小さく、しかし決定的に変えたのだ。

「さて、ロンドンにあるホームズ家を探すか」

 そう一人呟き、ロンドンの街中を歩く。
 ホームズ家の場所は、ネットで調べたら案外簡単に出てきたので、クルトは驚いたものだ。
 流石武偵界の中でもトップクラスに位置する家系だけあり、探せば情報は落ちているものだなと、クルトは感心した。
 そんな事を考えながらクルトは趣きあるロンドンを歩く。
 その時、クチナシの良い香りがクルトの鼻をつく。
 嗅覚が常人よりも多少は鍛えられているクルトは、良い香りだな、と思いながら歩を進めようとした。

「そこの銀色の髪の奴、ちょっと止まりなさい」

 と、そんな声が聞こえてきて、クルトは思わず歩を止める。銀髪などという特徴的な髪色をしている者は恐らく自分以外にはいないだろうと考えたからだった。
 クルトが振り向くと、そこには金髪の、少々釣り目気味だが、碧眼が綺麗な美少女が腰に両手をあてて仁王立ちしていた。ちなみに着ている服は白いワンピース。
 一目見るだけで面倒臭そうな性格をしていると思ったクルトは、今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られたが、とりあえず話を聞いてみる事にした。

「なんですか?」

 そう言うと、少女は、ずんずんとクルトの方へ向かってきて、こう言った。

「あんた何者?」

 その言葉を聞いた瞬間、クルトの心臓は一瞬だけ高鳴る。
 この少女の言葉のニュアンスから、クルトの事を一般人ではない事は既に分かっている。つまりこの場合聞いているのは、善人か、悪人かということだろう。

(この女どうして気付いた―――ってそうか、暗歩(あんぽ)か)

 暗歩とは、暗殺術の一つで、音を立てずに移動する、つまり無音歩行術の事で、クルトはこれで移動する事がクセになっている。
 そしてこの少女はクルトのその静かすぎる歩き方に違和感を持ったという事だ。その時点で、彼女もそれ相応な力、そして身分という事になる。

(一般人ならまず気付かないしな)

 クルトはどういった返しをするか瞬時に考える。しかし、別に騒ぎ立てられても、自分のような子供を暗殺者だと思う大人はいない。故に正直の答え、騒いだら逃げればいいと考えた。

「俺?―――暗殺者」

 と、少しだけ凄んで言う。

「そ。じゃあ逮捕」

 カチャリ。

「え?」

 右手に手錠がかけられる。
 相手が子供だとなんの警戒もせず、仮に攻撃をしてきても対処出来ると高を括っていた結果、無様に手錠を掛けられてしまった。
 まあ、少女の行動に一切の害意が無かったのも大きいが。

「ちょ、ちょちょちょっと待て!!なんで俺にいきなり手錠かけんだよお前は!?」

「決まってるじゃない。あんたが自分の事を暗殺者って言ったからよ」

「おいおいおい!子供の戯言を信じるのかお前は!?」

 その言葉に、少女は可愛らしく首を傾げた後、さも当然のように。

「だってあんたの言葉は何故かホントっぽい気がしたから」

と、言い放った。
 正に完全なる勘だと、この少女は言い切ったのだ。
 しかし、その勘が当たっている以上、クルトは何も言えずに押し黙る。

「ほら、やっぱり図星なんじゃない」

「……………」

 暗殺者として致命的な程、クルトは表情を作るのが苦手であった。
 今も冷や汗が止まらない。

「ほら、さっさと警察行くわ―――」

「―――動くな」

 少女が言い終わる前に、男が少女の背中に現れ、そう呟いた。クルトの方を少女が向いているので、何をされているか分からないが、恐らく銃口を突きつけられているのだろうとクルトは予想する。

「我々と一緒に来て貰おうか。抵抗すれば、その手錠を掛けられているガキは勿論、一般人も殺すのでそのつもりでな」

 と、人質に取る時の決まり文句を言い放つ男。
 それと同時に、道に一台の車が止まる。白色のバンだ。
 当の少女は、その顔を悔しさで歪ませている。だが、後ろを容易く取られた時点で、この男が少女よりも強いというのは明白だ。
 そして、クルトはというと、男の方へは一切の関心を向けず、別の事を考えていた。

(シャーロックからの仕事の依頼が来たあと、都合よく誘拐が起きた。しかも俺の目の前で)

 シャーロックから頼まれてロンドン来たという時点で、この誘拐をただの偶然と片づける気は今のクルトには無かった。
 そして同時にクルトは確信する。
 目の前にいるこの少女が、アリア=ホームズなのだと。

(さて、この場でこいつをぶっ飛ばしても良いんだが、恐らく俺は最終的な局面までこいつの人質として使われる筈。ならギリギリまで待って、その後に犯人全員倒した方がいいな)

 そう考え、大人しく状況を静観する事にした。

「さて、車に乗って貰おう。もし反抗すればこのガキの命はないからな?」

 どの言葉に、少女は従うしかなく、大人しく車に乗り込む。

「おいガキ!お前もだよ!!」

 男は、クルトの髪を掴み引っ張り、そして車の中に蹴り飛ばす。
 その衝撃にクルトはバランスを崩し、先に乗り込もうとしていたアリアに覆いかぶさる。しかも、乗る時に手錠を両手に掛けられた為、バランスを取る事も出来ず、少女の胸に顔を埋めてしまう。

「~~~~~~~~ッッ!!??」

 少女は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れる。

「お、おい暴れるな!直ぐどくから待て!」

 しかしそんな言葉も届いてないのか、少女は暴れるのを止めない。
 その結果、少女の足がクルトの股間に直撃する。

「ぐごぉッッ!!」

 低い呻き声を上げ、クルトはその場で、動きを完全に止める。
 あまりの痛みにあらゆるものがストップするのだった。



* * *



 その後、少女の上からどいたクルトは、今は少女の横に座っている。
 少女を誘拐した犯人たちも、クルト達が子供だと油断しているので、特に気にはしていないみたいだ。

「…さっきは悪かったな」

 だから二人は、犯人に聞こえないレベルで話をしていた。

「…別にいいわよ。アタシもそ、その…蹴っちゃったし…」

 と、未だクルトのアレを蹴った事が恥ずかしいのか、頬を赤らめる少女。

「まあ、痛かったけど気にすんな。それよりお前名前なんて言うんだ?俺はクルト」

「アタシはアリアよ。神崎=H=アリア」

 クルトは、あえて自分の名字を言わなかった。
 ゾルディック家の名前をアリアのような子供が知っている訳がないとは思いながら、何故かクルトは言う気にはなれなかった。


 その後、車は人気のない港に止まった。そしてその港にあった巨大な倉庫に連れて行かれる。そこには数十人単位の、アサルトライフルや、マシンガン、ハンドガンで武装した男達がいた。
 その男達を見ながら、クルトはその者達の戦闘能力を正確に分析していく。
 そして、「大したことない」という結論に至る。
 そして二人は、椅子に手錠で繋がれる。クルトは先程まで繋がれていた手錠に合わせて更にもう一つ手錠を付けられた。

「ボス、アリア=ホームズを連れてきました」

 アリアに銃を向けていた男がそう言うと、奥から一人の男が出てきた。
 190cmはあろうかという大男で、身体は鍛え上げられた筋肉に包まれている。

(こいつがこの中じゃ一番強いな。しかも格が違うって表現出来る程。ま、俺の敵じゃないけど)

「よく連れてきたな」

「あんた!!アタシに一体なんの用なのよ!!」

 アリアはまるで猛犬の様に、ボスと呼ばれた男に大きい声でそう叫ぶ。

「用?決まってんだろ。金だよ、金。世の中金が全てだろ?だからお金持ちな貴族様にたんまりと金を頂こうと思ってな」

 余りにも普通な理由に、クルトは思わず笑ってしまいそうになる。それを何とか抑え込み、肝心な事を聞くために口を開く。

「なあ、この誘拐ってあんたらが仕組んだのか?」

「うるせえぞクソガキ」

 男の一人が、クルトの顔面を殴る。
 しかし、念でガードしているので、ダメージは一切ない。

「いいじゃん。どうせ俺は殺されるんだろ?なら教えろよ」

 その言葉を聞いたボスは、楽しそうに笑う。

「中々肝っ玉の据わったガキじゃねえか。言う通り教えてやるよ。これは俺が計画したもんだ。俺だけの計画だ」

 そう自慢げに言った後、男は部下の一人に目で合図する。「このガキを殺せ」と。
 その合図を正確に悟ったアリアは、ここに来て初めて焦った表情を見せた。

「待ちなさいっ!!こいつは関係ないわ!だから解放しなさい!!」

 しかし、そんな言葉で止まるならば彼らは誘拐などというリスキーな犯罪を犯してはいない。
 支持された男はゆっくりと銃口をクルトの頭に持っていく。
 その時、クルトは小さく笑った。

「そうか。ならもう―――お前らに用は無いな」

「あ?何か言ったかガ―――」

 言い終わる前に男の意識が暗転する。
 そして、椅子には既にクルトの姿はない。
 その事に、アリアを含めたこの場にいる全員が驚愕する。クルトに銃口が向けられてから消えるまで、この倉庫内にいる全ての人間の視線が全てクルトに集まっていたのだ。にも係わらずその全員が完全に見失う。
 そんな事は出来る筈がない。しかし、彼らは知らない。それが糸も容易く出来てしまう存在がいる事を。

「バカなっ!!ガキはどこいった!!?」

「わ、わかりま―――」

 部下の一人が答えようとした瞬間、言い終わる前に意識を失い崩れ落ちる。
 その後も、次々と部下が糸が切れた人形のように倒れはじめる。
そして、ものの一分で、倉庫内にいる者はアリアと、誘拐を企てたボスと、クルト=ゾルディックだけになっていた。

「アリアを人質に取るかと思ったが、それすらしないとはな。ま、しても意味ないけどな」

 それがボスが意識を手放す前に聞いた最後の言葉だった。

 
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