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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第98話:お引っ越し


秋も徐々に深くなり、めっきり涼しくなってきたこの日、
俺となのはは引っ越しのために2人そろって休暇を取得した。
前もって3人で暮らしていくために必要な最低限の家具などは購入して、
今日俺のマンションに届くように手配してある。

俺は朝起きるとまずはなのはを伴ってクラナガン市内にあるアイナさんの
自宅に向かうべく車を走らせる。

「ねえゲオルグくん。家具とかは大丈夫だよね?」

助手席に座るなのはが心配そうな表情で俺のほうを見る。

「大丈夫だよ。なのはも確認したろ?」

前方から目をはずさずにそういったが、なのははなおも心配そうな
表情をしている。

「うん・・・。でも、もしなんかの手違いがあったら、今夜寝るベッドも
 ないんだよ?」

「そりゃそうだけど、いまさら心配してもしょうがないだろ。
 最悪、なんかあったらアイナさんにもう1日だけヴィヴィオを
 預かってもらって、俺たちは俺のベッドで寝られるって」

俺が心配症ななのはの言葉に内心でため息をつきながらそう言うと、
なのはは顔を真っ赤にする。

「ゲオルグくんと一緒のベッド・・・」

「なのは?」

俺が声をかけると、真っ赤な顔で俺を睨みつけてきた。

「・・・ゲオルグくんのえっち」

「は!? 何言ってんだ?」

「だって・・・同じベッドで寝るって・・・」

「はぁ? 別に初めてでもないだろ。何を今さら・・・」

「もうっ!ゲオルグくんのばか!」

その後は特に会話もなくアイナさんのマンションの前に到着した。
俺となのはは車から降りると、マンションの中へと入っていく。
どうもなのはは怒っているのか、肩を怒らせてすたすたと先を行く。
俺はなのはに追いつくと、その肩をつかんだ。

振りむいたなのはは不機嫌そうな表情で俺を見る。

「何?」

「悪かったよ」

「何が?」

「車の中までの話。デリカシーがなかったよな。悪い」

俺がそう言うとなのはは口をとがらせて黙りこんでいる。

「仲直りしよう」

「・・・いいよ」

なのはは小さくそう言って、右手を差し出してきた。
俺はその手をつかんでなのはを引き寄せるとなのはを抱きしめて
その耳に自分の口を寄せる。

「ごめんな、なのは」

「ううん」

なのはは俺の胸に顔をうずめて首を振った。
その後は2人並んで通路をあるいてアイナさんの部屋に向かった。
アイナさんの部屋の前で立ち止まり、一度なのはと目を合わせて頷きあうと
呼び鈴をならした。
ドアの向こうからぱたぱたという音が聞こえたかと思うと、
ドアが開いてその向こうからアイナさんが顔を出した。

「お2人ともようこそいらっしゃいました。どうぞ上がってください」

「はい、ありがとうございます」

俺たち2人はアイナさんの部屋に足を踏み入れる。
こじんまりとした部屋ではあるがよく整理されていて、
アイナさんっぽいなあと思いながらリビングルームに入ると、
床にぺたんと座り込んで絵本を読んでいるヴィヴィオがいた。

「ヴィヴィオ」

なのはが呼ぶとヴィヴィオはぱっと顔を上げる。

「ママ!」

次の瞬間、ヴィヴィオは立ち上がってなのはの方にかけ出すと、
かがんでヴィヴィオを抱きとめようとするなのはの腕の中に飛び込んだ。

「待たせちゃってごめんね、ヴィヴィオ」

なのはは飛び込んできたヴィヴィオを強く抱きしめる。
ヴィヴィオのほうもなのはの胸に顔を押し付けている。
俺はその光景を見ながら心の中に暖かいものがわきあがってくるのを感じた。

「やっぱりヴィヴィオはなのはさんが大好きなんですね」

後ろから聞こえてきた声に振り返ると抱き合うなのはと
ヴィヴィオのほうを見て柔らかな笑顔を浮かべているアイナさんが立っていた。

「ありがとうございました。長いこと預かってもらって」

そういってアイナさんに向かって頭を下げると、アイナさんは俺に向かって
にっこりと笑いながら小さく首を横に振った。

「いえいえ。私もヴィヴィオと一緒で楽しかったですから。
 むしろちょっとさびしいかなって思ってるんですよ」
 
アイナさんはそういってなのはとヴィヴィオのほうに顔を向ける。
その表情はにこやかではあるが、言葉のとおり少し寂しげに見えた。
その横顔に向かって俺は声をかける。

「アイナさん」

「はい?」

「実はこれからも昼間はアイナさんにヴィヴィオを預かって
 もらえないかと思ってるんです」

「え?」

俺の言葉に目を丸くしたアイナさんが俺の顔を見つめる。

「俺もなのはも昼間は仕事がありますし、一人で留守番をさせるには
 まだ早いですから。
 その点、アイナさんなら安心して預けられるので、
 できればお願いしたいんですが・・・」

「いいですよ」

即答したアイナさんを俺は驚きながらまじまじと見つめる。

「本当にいいんですか?」

確認するようにもう一度たずねた俺に向かって、
アイナさんは微笑を浮かべた表情でうなずく。

「さっきも言いましたけど、ヴィヴィオといるのは私にとっても
 楽しいことですから」

「ありがとうございます」

俺はアイナさんに向かって深く頭を垂れた。



しばらくしてアイナさんの部屋を後にした俺たち3人は、
俺のマンションに向かった。
アイナさんの自宅から俺のマンションまでは意外と近く、
車で10分ぐらいの距離である。
車を駐車場に停めると、荷物を肩に担いでマンションの中へと向かう。
肩越しに後を振り返ると、俺よりも少し小さなバッグを担いだなのはが、
満面の笑みを浮かべたヴィヴィオと手をつないで俺のあとについて
歩いているのが見えた。俺は立ち止まってなのはたちを待つ。

「どうしたの?」

なのはは俺が立ち止まったのを不思議に思ったらしく、
小首をかしげて俺のほうを見る。

「いや、別に・・・。それより荷物持とうか?」

「ううん、大丈夫。ありがとね、ゲオルグくん」

そういってにっこりと笑うなのはに見惚れていると、
袖を引かれる感じがした。
そちらに目を向けるとヴィヴィオがいぶかしげな表情で俺を見上げていた。

「いかないの?パパ?」

「ごめんごめん。行こうか」

そういいながらヴィヴィオの手を握ると、ヴィヴィオはにぱっと笑う。

「うんっ!」

エレベーターで俺の部屋のあるフロアまで上がり、廊下を進んで部屋に入ると、
少しがらんとした俺の部屋が目に入る。
特に今回の引越しにあわせて整理したわけではないのだが、
リビング以外の2部屋のうち1部屋はまったく使っていなかったので、
その空き部屋をなのはとヴィヴィオの寝室にすることにして
そのためのベッドなんかはなのはと家具屋に出かけて事前に購入してある。

「へぇ・・・ここがゲオルグくんの家かぁ・・・。なんか殺風景だね」

俺の後に続いて部屋に入ってきたなのはがきょろきょろしながら
俺のほうに向かってくる。

「しょうがないだろ。ほとんど住んでないんだから」

なのはに向かってそう言ったところで呼び鈴が鳴る。

「たぶん家具が届いたんだな。俺が出るよ」



それから夕方までかかって荷物の整理なんかを済ませた俺たち3人は、
マンションの近くにあるレストランに向かって並んで歩いていた。

「ほんとによかったの?簡単なものなら作れたのに・・・」

部屋を出てから何度目かのなのはの同じセリフに俺はさすがにため息をつく。

「なのはもしつこいな・・・。お前だって今日は疲れてるんだから、
 おとなしく外食で納得しとけって」

そういうのだがなのはは不服そうな表情で俺を見る。

「でも・・・」

「なのはの手料理はこれから毎日でも食べさせてもらうからさ。
 今日くらいはゆっくりしろよ」

俺がそう言うとようやくなのはも納得したのか、黙ってうなずいてみせた。

「ねえ、パパ」

俺の手をくいっと引っ張りながらヴィヴィオが声をかけてくる。

「どうした?」

「これから何を食べに行くの?」

「だいたい何でも食べられるよ。今向かってるのはファミレスだからな」

「ふぁみれす?」

ヴィヴィオはこくんと首をかしげる。

「ファミレスっていうのはね、家族みんなでお食事するためのお店なの」

なのはがヴィヴィオに向かってそう言うと、ヴィヴィオは反対側に首を傾ける。

「みんなで・・・って、ヴィヴィオたちみたいに?」

「うん、そうだよ。楽しみだね」

「うんっ!」

なのはの言葉にヴィヴィオが大きくうなずきにこっと笑った。
店に入って席につきテーブルの上にメニューを広げると、
ヴィヴィオが興味津々とばかりにメニューを覗き込む。
メニューのページをめくっていくと、デザートのページに入ったところで
ヴィヴィオの表情がぱあっと輝く。

「ねえママ!パパ!ヴィヴィオこれぜんぶ食べたい!!」

瞳をらんらんと輝かせて俺となのはを見る。

「うーん、気持ちはわかるけど全部は無理じゃないかな」

なのはは苦笑しながらそう言ってヴィヴィオをなだめようとする。
だが、ヴィヴィオは不服そうに頬を膨らませる。

「やだー!ぜんぶ食べるのー」

そう言ってデザートの写真を食い入るように見つめているヴィヴィオから
なのはに目線を移すと、困ったような顔でヴィヴィオのほうを見ていた。

「ヴィヴィオ」

俺が声をかけるとヴィヴィオはメニューから目を上げて俺の顔を見た。
俺と目が合うと不思議そうに首をかしげていた。

「デザートはどれかひとつにしような」

「やだ」

ヴィヴィオは俺の言葉に即答する。
俺は心の中で大きなため息をひとつつくと、ヴィヴィオの目を見つめる。

「そっか。じゃあヴィヴィオはふつうのごはんは食べなくていいんだな?」

俺がそう言うと、ヴィヴィオはきょとんとした顔で俺のほうを見る。

「じゃあ、俺となのはママはふつうのごはんを選ぶからちょっと
 メニューを貸してくれ」

そう言ってヴィヴィオからメニューを取り上げると、
向かい側に座ったなのはとの間に広げる。

「どれにすっかなー、どれもうまそうで迷うよなー。なあ、なのは」

「へ?」

訳がわからないという表情で俺を見つめるなのはに向かって念話を飛ばす。
俺が呼びかけるとなのはは俺の方を見つめながら目をしばたたかせた後、
返事を返してきた。

[どうしたの?]

[俺に話を合わせてくれないか?]

[はい!?なんで?]

[いいから!]

[・・・うん]

少し強めに言うとなのはは不承不承といった感じでわずかに頷くと、
メニューを覗き込むように身を乗り出してくる。

「ほんとに。どれもおいしそうだね。あ、これなんかどう?」

そう言いながらなのははメニューの肉汁滴るハンバーグの写真を指さす。
俺はうまく乗ってくれたなのはに満足しつつメニューのエビフライを
指差しながら返事を返す。

「いいなあ。でもこれなんかもいいんじゃないか?」

そのような会話を俺となのはがしばらく続けていると、
ヴィヴィオの表情が徐々に曇ってきた。
やがて我慢が限界に達したのか、ヴィヴィオは机の上に身を乗り出してきた。

「ヴィヴィオも見るの!」

「ヴィヴィオはデザートを全部食べるんだろ?
 じゃあこんなのは食べなくていいんじゃないか?」

俺がそう言うとヴィヴィオが泣きそうな顔で俺を見上げる。

「ヴィヴィオも食べたいよぅ・・・」

「なら、デザートはどれか一つにしような」

そう言うとヴィヴィオはしばらく悩んだ末に俺に向かって小さく頷いた。

「じゃあ、ママと一緒に食べるものを選ぼっか」

なのはは柔らかな笑顔を浮かべてそう言うと、ヴィヴィオに
向かって自分の膝の上にくるよう促す。
ヴィヴィオは満面の笑みでなのはの膝の上に座ると、
メニューを見てなのはと話しながら自分の
食べるものを選び始める。
俺はその光景を見ながら自分の心が満たされていくのを感じた。



ファミレスでの夕食を終えた俺たち3人はマンションへと帰った。
帰ってすぐ眠そうにしていたヴィヴィオをなのはが寝かしつける間、
俺は自室で酒を飲むことにした。
キッチンでグラスにウィスキーを注ぐと、ボトルを持って自分の部屋に向かう。
部屋にあるデスクにつくと、窓の外の景色に目をやる。
俺の部屋からはクラナガン市街地の夜景が見え、陳腐な言い方ではあるが、
宝石をちりばめたような光景が広がっていた。
その景色を眺めながらウィスキーをちびちびと飲んでいると、
後ろから足音が近づいてきた。

「あ、ゲオルグくん。お酒飲んでたんだ」

声のした方を見るとなのはが壁にもたれかかって立っていた。

「ヴィヴィオは寝たのか?」

「うん、ぐっすりとね」

そう言ってなのはは俺のベッドに腰掛ける。

「なのはも飲むか?」

「私、未成年だよ」

「は?なのはって19歳だろ?」

「そうだよ。だから次の誕生日まではお酒はだめなの」

「何言ってんだ?酒は18からOKだろ」

「え?」

なのはは首をこくんと傾げ、目を丸くして俺を見る。

「どういうこと?」

「いや。どういうことって・・・さっき言った通りだよ」

「じゃあ、私も飲んでいいってこと?」

俺がなのはの言葉に頷くと、なのはは少し考えるそぶりをしてから口を開いた。

「ちょっとだけもらおうかな」

「何を飲む?」

「ゲオルグくんと同じのでいいよ」

なのははこともなげにそう言うが、俺は少し不安を覚える。

「大丈夫か?これ、ストレートのウィスキーだぞ」

「どういうこと?」

「アルコールの度数がキツいからさ・・・」

「そうなの? うーん・・・でも、ゲオルグくんが好きなのなら
 ちょっと飲んでみたいかな」

上目づかいに俺の方を見ながら控え目に言うなのは。
・・・不覚にもドキッとしてしまう。

「なら、試しに飲んでみるか?」

そう言って俺はなのはにグラスを手渡す。

「ただ、本当になめる程度にした方がいい・・・」

俺はなのはに向かって注意しようとするが、最後まで言い終わる前になのはは
ぐいっとグラスをあおる。

「おい!最初からそんなに一気に飲んだら・・・」

危ない。と言おうとした瞬間、なのははむせてしまう。
しばらくせき込んだ後、なのはは俺の方にグラスを差し出した。

「ケホッ・・・。何これ、全然おいしくないしのどが焼けそう。ケホッ・・・」

「だからそんなに一気に飲むなって言おうとしたんだよ。ちょっと待ってろよ」

俺はグラスをデスクの上に置くと、キッチンへと走る。
グラスに水を注ぐと俺の部屋に戻り、なのはへ差し出した。

「ほら」

「うん、ありがと・・・」

そう言ってなのははグラスの水を一気に飲み干す。

「ふぅ~。ちょっと落ち着いたかな」

「そりゃよかった。大丈夫か?」

「うん、平気。それより、ゲオルグくんはよくあんなの飲むね」

「ストレートのウィスキーをガブ飲みする奴が悪いな。
 あれはちびちび飲むもんなの」

「最初に言ってよ・・・」

「言おうとした時にはもう飲んでたからな。それより、大丈夫か?」

そう尋ねるとなのはは不思議そうに首を傾げる。

「大丈夫って・・・どういうこと?」

「えーっとな、頭がクラクラするとか妙にポカポカするとかさ」

「別にないよ」

「ならよかった。で、どうする? ウィスキーはもう懲りたかもしれないけど、
 ほかの酒でも飲んでみるか?」

「うーん、飲んでみたいけど、わたしどんなお酒があるのか知らないし・・・」

「そっか・・・。じゃあどんな味の酒が飲みたい?」

「そうだなぁ・・・、甘いのとかある?」

「甘いのだな、了解。ちょっと待ってろ」

おれはそう言うと、キッチンへと向かう。
新しいグラスを出すと、カシスリキュールをオレンジジュースで薄め、
マドラーでかき混ぜると、自分の部屋に戻った。

「ほれ、甘い酒持ってきたぞ」

「あ、うん。ありがと」

なのはは俺が差し出したグラスを受け取ると、少し口をつける。
すると、なのはは笑顔になって俺の方を見た。

「これは甘酸っぱくておいしいね」

「高町1尉のお口に合いますか?」

「ふふっ・・・なにそれ。まあそれは置いといて、おいしいよ。ありがとうね」

なのははそう言って再びグラスに口をつけた。
俺はデスクの上にあるウィスキーが入ったグラスを手に取ると、
椅子に腰を下ろした。

「そりゃよかった。しかし、今日はさすがに疲れたな」

「そうだね。でも、もとあった荷物が少なかったからまだましじゃないかな」

「ま、そうだな。ほとんど使ってなくて幸いだったってとこか・・・」

俺はそう言うと、椅子の背もたれに体重を預けて軽く背伸びをする。
それからしばらくは、俺もなのはも黙ったままそれぞれの酒を
ちびちびと飲む時間が続いた。
やがて、なのはがグラスを持ってベッドから立ち上がり窓の方に向かう。
なのはは窓の外の景色にじっと見入っているようだった。
俺は椅子から立ち上がると、なのはの横に立ち腰に手をまわして抱き寄せる。
なのはは小さく声をあげて一瞬身を離そうとするが、
すぐに力を抜いて、俺に身を預けるようにする。

「どうしたの? ゲオルグくん」

「ん? やっと2人きりになれたな、と思ってさ」

「ふふっ、そうだね・・・」

なのはは俺の顔を見上げて微笑む。

「きれいな景色だね。こんなにいい景色なのにほとんど住んでないなんて、
 もったいないよ」

「そうかもしれないけど、仕事上の都合だからな・・・仕方ないだろ」

「そうだけどさ、やっぱりもったいないよ。こんなにきれいな夜景なのに」

そう言ってなのははまた窓の外の景色に目を向ける。
そんななのはの横顔を見ていると愛おしさがわきあがってきた。

「ねえ、ゲオルグくん」

「ん?なんだ?」

「ありがとね。ヴィヴィオのためにここまでしてくれて」

「何言ってんだ。ヴィヴィオは俺にとっても大事な子だよ。
 俺自身がヴィヴィオと一緒にいたいからこうしたんだ」

「うん、わかってるよ。でも、わたしにとってはありがたいことだもん。
 やっぱり、ありがとうって言いたいな」

「そりゃどうも」

俺が肩をすくめながらそう言うと、なのはは小さく笑った。

(俺の人生でこんなに暖かい時間って子供の時以来だよな・・・)

思い起こせば、管理局の魔導師になって以来、
常在戦場を地で行く人生だった気がする。
まさか、自分の思い人とこんなにゆったりとした時間を過ごせる日がくるとは
夢にも思っていなかった。
こんな日がずっと続けばいい・・・。そんな気持ちになれたのはやはり
俺の傍らに居る女性のおかげだと思うのだ。

(今、渡すか・・・)

俺はなのはから離れると、デスクの引き出しを開けその中にある
小箱を取り出した。

「ゲオルグくん?」

訝しげに俺を見るなのはの方に振り返ると、
俺はなのはに向かって小箱を差し出した。

「これ、受け取ってくれないか?」

「え?」

なのはは俺が差し出した小箱を恐る恐る受けとると、
少し見開いた目で俺の顔を見つめる。

「これって・・・」

「開けてみてくれよ」

「うん」

なのははそっと箱を開けた。

「ゲオルグくん、これって・・・」

なのはは箱に入っていた指輪をつまみあげると、俺の方をじっと見つめた。

「うん。結婚してくれ、なのは」

俺がそう言うと、なのはは小さく頷くと俺の胸に顔を押し付けた。
しばらくして、俺から身を離したなのはの目は少し赤くなっていた。

「ね、ゲオルグくん。つけて」

なのははそう言って指輪を俺に手渡してきた。
俺はなのはの左手をとり、床にひざまづくと薬指に指輪を通した。
最後に左手の甲にキスをして、なのはの顔を見上げると
なのはと目が合った。
しばらく見つめあっていると、何が可笑しいのか俺もなのはも
笑いだしてしまった。
ひとしきり笑った後、俺は立ち上がるとなのはの両肩をつかんで、
なのはの顔を見つめる。

「なのは、愛してる」

「わたしも。ゲオルグくんのこと、愛してる」

「ずっと一緒にいような」

「うん。ずっと一緒だよ」

そのときなのはが、あっ、と声を上げる。

「そういえば、お互いの家族にあいさつしに行かないとね」

「ああ、そうだな。それは行かないとまずいだろうな」

そう言って俺は少し考えを巡らせる。

「俺のところはいつでも行けるけど、なのはのところはほいほい行けないだろ」

俺がそう言うと、なのははにっこりと微笑んで首を横に振る。

「もうすぐ年末でしょ。わたしは年末は実家に帰るつもりだから、
 そのときに行かない?ヴィヴィオも一緒に」

「そりゃいいな。うん、そうしようか」

「ゲオルグくんのところはどうする?」

「そうだな・・・、姉ちゃんが年内には退院できるらしいから、
 それに合わせるか」

「え、いいの? お姉さんが退院して落ち着いてからの方がいいんじゃない?」

「うーん。それもそうだな・・・。よし、じゃあ家が落ちついてからにするか」

「うん! そうしよ!」

そう言ってなのはは満面の笑みを浮かべてうなずいた。

 
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