英雄伝説~西風の絶剣~
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第91話 霧のロレント
side:フィー
夢を見ていた。見た事もない大きな都市の一角、そこにあるお店に3人の女性が集まっていた。
一人は緑の髪の凛とした女性、一人は黒と白が混じった長い髪のおっとりとした女性、そして最後の一人が青い髪を束ねた可愛らしい女性だった。
「あー、ここのお菓子はやっぱり美味しい!久しぶりにオルガちゃんとサライちゃんと集まれて嬉しいよ!」
「お前は相変わらず騒がしいな……」
「ふふっ、そこがダーナさんの良い所じゃない」
青い髪の女性……ダーナはお菓子を砲張りながら嬉しそうに笑う。それを見ていた緑の髪の女性……オルガは溜息を吐きながら紅茶を飲み、おっとりとした女性……サライは微笑ましい層に笑った。
「だって最近は空の巫女のお仕事が多くてこうしてゆっくりも出来なかったんだもん!」
「確かにここ最近は戦も増えてきたな。豊かな我が国を手中に収めたいと思う国が多いのだろうが……」
「そうですね、最近は母も私も忙しくてこうして外に出たのさえ久々ですから……」
3人はそれぞれ思う事があるのか暗い顔を見せた。
「オルガちゃんは軍の将軍、サライちゃんは女王としての仕事、私は空の巫女……お互い立場が変わっちゃったねー。学校に通っていたころはもっと気楽だったんだけどなぁ」
「お前はわんぱくだったからな、付き合わされた私達の身にもなってほしいものだ」
「あー!オルガちゃんそういう事言うんだ!なんだかんだ楽しんでいたくせに!」
「お前は目が離せなかったから付き合っただけだ!学校近くの大樹に昇ろうと向かった時は立ち眩みをしたくらいなんだぞ!」
「うふふ、あの頃は楽しかったですね」
ダーナとオルガが言い争いをするがどちらも本気ではなく楽しそうだった。そんな二人を見てサライも和やかに笑みを浮かべる。
「でも私も時々あの頃が懐かしくなります。最近は過激派の方々を抑えるのに苦労していて……お母様も王女として彼らの気持ちは理解できるのですがやはり輝く環を戦争に持ち込むのは良くないと思っている故に溝が深まっていくばかりで……」
「軍でもそう言った声は上がってきているな」
「私も信者の人たちの中にそう言った声が上がってきてるのを聞いてるよ。確かに輝く環を使えば世界の支配も出来るとは思うけど……絶対にロクな事にならないよ」
「私もそう思います。空の女神から授かった強大な力は人間の欲の為に使うべきではないと思うのです」
「ああ、それを管理して守っていくのが我らの使命のはず……嘆かわしいものだな」
輝く環……確かおとぎ話に出てくる空の女神が授けた7つの至宝のことだっけ?昔マリアナが聞かせてくれたおとぎ話に出てたのを覚えてる。
「……二人とも大丈夫だよ!今は分かってくれなくても私達が頑張れば絶対に良い結果にしていけるって!だから頑張ろうよ!」
「……ふふっ、そうだな。お前の言う通りだ」
「はい、私もそうなることを信じています」
暗くなっていた雰囲気がダーナの声で一気に変わった。なんていうかエステルみたいな子だね、ダーナって。
「ダーナさんは本当に変わりませんね。昔から前向きでそこにいるだけで人を笑顔にしてくれる……そんな貴方だからこそ輝く環に選ばれたのかもしれませんね」
「えへへ、そんなに褒められたら照れちゃうよ……」
「サライ、あまりダーナを甘やかさない方が良い。すぐに調子に乗るからな」
「オルガちゃん酷いよ!」
3人のやり取りを見ていると本当に仲が良いんだなって思う。
「もう怒った!今日はオルガちゃんのおごりね!すみませーん、一番高いケーキくださーい!」
「おい!まだ食べるつもりか!?」
「うふふ……」
すると私の意識がだんだんと薄れていくのを感じた。夢が冷めるのかな……?
―――――――――
――――――
―――
「……ん、ここは何処だっけ?」
「フィー、起きたか?」
「リィン?」
目を覚まして頭の中を再起動する、すると隣から大好きな声が聞こえてそっちを向くとリィンがいた。
「もうすぐボースに到着するぞ。良いタイミングで起きたな」
「ボース?……あっ、そっか。ここ飛行船の中だったね……」
わたしは今自分が飛行船に乗っていたことを思い出した。
わたし達は現在グランセルからボースに向かう飛行船に乗っている。そこで寝ちゃったんだ。
「なんか不思議な夢を見ていた気がする……ダーナって人知ってる?」
「まだ夢を見てるのか?ダーナって人は知らないぞ」
「ん、ごめん。まだ寝ぼけてる……」
何故かダーナという言葉が頭に浮かんだので呟いてしまった。いけないいけない、しっかりしないと……
「それにしてもロレントで濃霧の発生に赤い星座がカプア一家の飛行船を奪取……色んなことが起きてるな」
「ん、ケビンの話だと結社の目的が輝く環の可能性があるみたいだし話が一気に大きくなってきたね」
「ああ、結構な事に巻き込まれてきたつもりだけどまさかおとぎ話に出てきた伝説の至宝まで絡んでくるとはな」
グランセルを旅立つ前に挨拶に来たケビンと情報を交換したり、ドロシーから貰った写真に飛行船を奪う赤い星座が写っていたりと多くの情報を得たけど……なんかこんがらがりそう。
因みにわたし達の記憶を戻すには準備が必要なためすぐには出来ないらしい、待ってる時間もなかったので次に出会った時に改めてしてもらうことにしたの。
「まずはボースに降りて情報を収集、その後可能ならロレントに向かうんだよね?」
「ああ、霧で視界が悪いせいでロレント行きの飛行船は今運航停止してるからな」
ロレントで発生した濃霧のせいで飛行船は飛ばせなくなってしまったの、厄介だね。
「そういえばそろそろコリン君がクロスベルに着いたくらいじゃない?」
「そうだな、無事に両親に会えればいんだけど」
わたし達と一緒にいた時のコリン君はレンの変装した偽物だったけど、リィンが助けたのは本物のコリン君だった。
怪我もなくいたって健康だったみたいで安心した。コリン君はレンに面倒を見てもらっていたようで彼女にとても懐いていたの。
帰り際でもレンお姉ちゃんに会いたいって言っていたし相当懐いていたね。レンは子供好きなのかな?
そしてコリン君は護衛のサラと一緒にクロスベルに帰っていった。また会えると良いね。
「でもなんでレンはコリン君を誘拐して変装したんだろうな?」
「ん、そこが謎だよね」
ギルドに来ていた情報ではクロスベルでヘイワーズ夫妻の姿を確認されていた。でも息子のコリン君が行方不明になっていて捜索願が出されていたらしい。
わたしとラウラを巻き込んで自爆したのはヘイワーズ夫妻に良く似せた機械人形だったみたい。
「なんでレンはヘイワーズ夫妻に似せた人形まで使ってコリン君に変装したんだ?別に誰に変装してもいいはずなのに」
「嫌がらせがしたかったとか?もしレンがヘイワーズ夫妻の子供で彼らに捨てられていたら……」
「確かにレンは俺にアイツらと一緒で自分を捨てたと言ったな。もしそれが本当なら夫妻を悲しませる為にコリン君を誘拐したのか……」
あくまで想像だけどそう考えれば態々そんな手間がかかることをした理由にはなるね。
「ヘイワーズ夫妻に会ったことは無いがダンナさんの方は良い噂ばかりで悪い話は聞かない。でもそういった人に限って人に言えない過去もあるかもしれないのか……この件が終わったら一度ヘイワーズ夫妻を訪ねてみてもいいかもな」
「そうだね、ここまではあくまで想像でしかないしね」
わたしとリィンは一旦この話を止めることにした。真実は分からないし想像で好き勝手言うのは失礼だからね。
「そういえばアネラスが一旦このチームから離れる事になったんだよね?」
「ああ、遊撃士で集まって結社の根城を探すチームを作る事になったらしい」
「ん、ちょっと寂しいね……」
結社がリベールに拠点を持ってるのは明らかでいつも先手を打たれていた。サラなどの増援も来たので今度はこちらから奴らの拠点を探し出そうという計画があるみたいなの。
そのチームにアネラスが選ばれて彼女は去っていった。
「姉弟子がいないと寂しいけど奴らにこれ以上好き勝手させるわけにはいかないし拠点の発見は優先すべきことだ」
「ん、わたし達も行きたかったけどリィンは銀に狙われているからね」
「ああ、もし銀が結社に雇われているのなら俺が一緒だとかえって迷惑だろうから仕方ない。フィーだけとも思ったけど……」
「駄目。そろそろロランス……いやレオンハルトが出てくるかもしれない。リィンを一人には出来ないよ」
「そうだな、アイツは必ずリベールにいるはずだ」
かつて戦ったロランス少尉の正体……レオンハルトは未だ姿を見せない。でもそろそろ出てくる可能性は高いはずだ。
「レンの話にヨシュアと一緒に出てきたし多分関係があるよね」
「ああ、もしかしたらヨシュアはレン達と一緒なのかもしれない。ヨシュアやレンを追うためにも奴との対決は避けられない」
「ん、今度は負けない。ラウラもいるし皆でリベンジだね」
「頼りにしてるぞ、フィー」
「任せて」
わたしはそういってリィンと拳をこつんとぶつけて笑みを浮かべた。
―――――――――
――――――
―――
ボースに着いたわたし達はまずギルドに向かいルグランから情報を貰うことにした。
「こんにちは、ルグランさん!」
「おおエステル!久しぶりじゃな!元気そうでなによりじゃ」
エステルが挨拶をかわし早速情報を貰うことにした。
「ボースでは今のところ何か事件や異変が起きたなどの話はないぞ。ロレントでは相も変わらず濃霧が立ち込めているらしい」
「そうなんだ……」
ルグランの話ではボースでは異常なことは起きていないらしい。でもロレントでは変わらず濃霧が起こっているらしくエステルが不安そうにそう呟いた。
「しかもその濃霧は導力通信を妨害するのか連絡が取れん。更に魔獣も凶暴化していて派遣した遊撃士が傷を負って逃げかえってきたくらいじゃ」
「じゃあロレントは陸の孤島となってるのね。猶更急いだほうが良いわ」
視界も悪く魔獣まで凶暴化してるならロレントも危ない状態になってるはず、早く向かわないと。
わたし達は準備を済ませると街道を渡って関所にまで来た。ここまでは何事もなかったけど……
「な、なによアレ!?」
エステルが指を刺しながら驚く、関所の門の先はまるで世界が変わってしまったかのように真っ白な濃霧が空まで覆い隠していた。
「想像以上の濃霧ね。ロレントは霧が発生することはあるけどこんな大規模なものは初めて見たわ」
「まるで壁のように分厚い霧だね」
「ああ、ボースには流れてこずにロレント周辺のみを覆い隠す霧か……明らかに異常事態だな」
シェラザードはこんな凄い霧は見た事が無いと話しオリビエはまるで壁みたいな霧だと感想を言う。ジンはこの現象は明らかに異常事態だと呟いた。
わたし達は関所の責任者に話を聞いてみることにした。そこの隊長の話だと霧は一週間前に起き始めてあっという間にロレント地方を飲み込んでしまったらしい。
本来なら今は関所は通れないが遊撃士協会から話が行っていたのですんなりと通してくれた。ロレント側に出るともう何も見えなくなってしまった。
「こりゃやべえな、少し先すら見えねぇじゃねえか」
「魔獣の気配も感じないな。この霧のせいか?」
「……だ、駄目です。念のために持ってきたセンサーなども使えません!」
アガットは予想以上の視界の悪さに眉を歪めラウラは魔獣の気配が読めないと警戒を強めた。ティータは持ってきていた装置を確認するがどうやら使えないみたいだ。
わたしは気配を読む力に長けているけどなにも感じなくなってしまった。明らかに普通の霧じゃないね。
「エステルさん、このまま進むのはあまりにも危険すぎます」
「そうね、土地勘のあるあたしさえまったく分からないし一旦戻るしか……」
「皆さん、私に考えがあります」
クローゼとエステルが一旦引き返すべきかと話してるとエマが考えがあると言った。
「エマ、一体どうしたの?」
「実はボースに入った時、微かに魔力を感じたので念のためにあるものを用意しておいたんです」
エステルの質問にエマが答えた何かを取り出した。
「これは眼鏡ですか?」
「はい、伊達眼鏡です。この眼鏡に術式を施しておきました、これをかければ少しは視界が良好になると思います」
クローゼは眼鏡を見て首を傾げてエマが説明をする。
わたしは言われたとおりに眼鏡をかけてみる。するとさっきまで隣の人すら見えなかった視界が広がったんだ。
「わっ!凄い!さっきより明らかに視界が良くなったわ!」
「これなら注意して進めば魔獣の不意打ちなどにも対処できそうね。やるじゃない、エマ」
「本当なら完全に視界をよくしたかったのですが急遽作ったのでそれくらいしかできませんでした。申し訳ありません」
「いや十分だ。これでロレントに向かうことが出来るな」
エステルは眼鏡をかけて嬉しそうに当たりを見渡しシェラザードは感心していた。エマは完全に視界をよく出来なかったことを謝罪するがジンが十分だと答えた。
「それにしても……あはは!アガット、アンタ眼鏡をかけても頭良さそうには見えないわね~!」
「あぁっ!?てめぇだって似たようなもんだろうが!」
エステルがアガットをからかうがお互い様だと思う。二人とも直感で動くタイプだから知的って感じじゃないよね。
「アガットさん、私は眼鏡似合ってますか?」
「お前はもともと賢いだろうが」
「あう、そうじゃなくて……」
ティータがアガットに眼鏡が似合ってるかと聞くがアガットは知的に見えるかと聞かれたと勘違いしたようでティータが苦い顔をする。
「アガット君、ティータ君は眼鏡をかけた自分を知的に見えるかじゃなくて似合ってるか聞いてるんだよ」
「そうなのか?まあ似合ってるぞ」
「ッ!……えへへ」
オリビエのフォローでアガットがティータにそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
「リィン、わたしは眼鏡似合ってる?」
「ああ、大人のレディみたいな雰囲気を感じるな。似合ってるよ」
「ありがとう。リィンもかっこいいよ」
リィンはすんなりとわたしを褒めてくれた。これが付き合う前ならアガットみたいな勘違いをしていたかもね。
「でも皆さん気を付けてください。この霧から魔力を感じます」
「つまりエマみたいに魔法に精通してる奴が霧を生み出してるって事?」
「少なくとも魔術に詳しいのは確かだと思います。魔獣が暴走してるのも霧に中に含まれる魔力に刺激されているからだと思いますので」
エマは霧から魔力を感じるので気を付けてと話す。エステルはこの霧を発生させたのは魔法が使える人かと聞くとエマは可能性はあると答えた。
もしこれが自然発生じゃなくて結社の仕業なら今度の相手は魔法を使える相手なのかもしれない、用心していこう。
そう思いながらわたし達は霧に包まれた街道を進んでいくのだった。
―――――――――
――――――
―――
襲ってくる魔獣を撃退しながら慎重に霧の中を進んでいきわたし達は無事にロレントにたどり着くことが出来た。
「は~、やっと着いたわね。見慣れた道も霧のせいで迷いそうになるし疲れたわ」
「ほらしっかりしなさい。まずはアイナに話を聞きに行くわよ」
エステルが溜息を吐いて疲れたというとシェラザードは手を叩きながらギルドに向かうと話す。
「……」
「リィン?どうかした?」
「いやなんでもないよ」
リィンが一瞬考え事をしていたような気がしたので声をかけたけどなんでもないと言われた。わたしはなんか変だなと思ったけど今は流すことにした。
「ん?おお、エステルじゃないか!」
「レトラさん、ただいま!」
すると近くを通りかかった町の住民がエステルを見て声をかけてきた。
「帰ってきていたのか!立派になったなぁ」
「やめてよ、恥ずかしいじゃない!」
「いやいやすまんな。お前やヨシュアの事はカシウスさんから聞いていたから町の皆全員が心配していたんだ。元気な姿を見て安心したよ」
「そっか、皆心配してくれたんだ……嬉しいな」
エステルはそう言われて笑みを浮かべた。町の皆に愛されているんだね。
「ん?君は確か以前ギルドで保護されていた……」
「リートです。お久しぶりですね」
「……」
リィンは偽名を使って挨拶をした。わたし達の正体を知ってるのは一部の人間だけだからね。
でも町の住民はリィンとわたし、そしてラウラを見て怪訝そうな顔をしていた。
「確かそっちの銀髪の女の子もロレントのギルドで保護されていたな。青い髪のお嬢さんは初めて見たが……」
「ねえレトラさん、リィ……リート君になにかあるの?」
何か言いにくそうにわたし達を見るこの人にエステルが理由を尋ねた。
「なあエステル、リート君達とは一緒に行動してるのか?」
「うん、今ボースから一緒に来たばかりよ」
「そうか。じゃあやはりあれは別人だったのか……」
「一体何の事?」
なんかわたしたちを警戒してるように見えるね、エステルは怪訝そうに首を傾げた。
「実はな、この霧が発生して一週間が過ぎたが3日ほど前から窃盗の被害が出たんだ」
「せ、窃盗!?またぁ!?」
窃盗という言葉にエステルがまたと言って驚いた。そういえば以前聞いたけどエステルが準遊撃士の時にロレントで空賊が盗みを働いてそれを捕まえたって聞いた覚えがある。
「被害にあったのは4件でな、この霧のせいで顔ははっきり見えなかったが微かに黒髪と銀髪、そして青髪の3人組が逃げていくのを何人も目撃しているんだ。銀髪の奴は小柄だったな」
「黒髪と銀髪、それに青髪って……」
「俺達の事だな」
「ああ、丁度お前さん達のような恰好をしておったよ。ただ青髪のお嬢さんは恰好が違ったな」
このメンバーの中で黒髪と青髪はリィンとラウラだけ、銀髪はわたしとシェラザードだけど小柄って言ってたからわたしの事だと思う。
「犯人は黒いジャケットを着ていて黒、銀、青の髪の人物なんですね?」
「ああ、目撃情報ではそう言われているよ」
「ふむ、ただ全員がそんな恰好をしていたのか。つまり私の格好とは似ていないという事か?」
「ああ、あんたみたいな白い服じゃなかったな」
リィンとラウラの質問に住民の人は丁寧に答えてくれた。
わたしとリィンは西風の旅団のジャケットを着ているがラウラは旅装束で白と青を基調にした服を着ている。でもその3人組は全員黒いジャケットを着ていたらしいね。
「間違いなく俺達に変装して盗みをしているな。とんだ迷惑だ」
「うん、間違いなくそうだね。ただラウラの事も西風の旅団のメンバーだと思ってるみたい」
「なるほど、だからそなた達と同じ格好をしていると思ったのか」
リィンは溜息を吐きわたしはラウラが仲間だから同じ格好をしていると推理する。ラウラも頷いた。
「結社の仕業かしら?」
「結社にしてはお粗末すぎると思うが……」
「じゃあ空賊の仕業じゃない?あいつら飛行船を奪って逃げたって聞いたし以前もやってるから怪しいわ」
シェラザードは結社の仕業かというがジンがお粗末すぎないかと答える。するとエステルが空賊の仕業じゃないかと言った。
「赤い星座はリィン君を狙った、つまり銀と同じで結社に雇われている可能性があるという事だ。もし空賊も結社と手を組んだのなら可能性はあるかもしれないね」
「で、でもそんな事をする理由って何なんでしょうか?」
「さあな。結社の奴らが何を考えているか分からねえしもしかしたらあのレンってガキがクラウゼルに嫌がらせするためにさせてるんじゃねえか?」
「うーん……結社の目的が明確でないから関与してるのかすら分からないですね。空賊以外にも火事場泥棒をしようとする人がいないわけではないでしょうし……」
オリビエは今までの情報から赤い星座は結社に雇われていて空賊も引き込んだんじゃないかと話す。それを聞いたティータは何故そんな事をするのか理由を考えていた。
でもアガットの言う通り唯の嫌がらせの可能性もある。そもそもクローゼの言う通り結社が関与していない第三者の犯行もあり得るね。
「ここで考えていてもしょうがないわね。まずはギルドに行って話を聞きましょう」
シェラザードの言葉に全員が頷いた。今は情報収集が大事だよね。
「えっと……やっぱりあんた達が犯人じゃないんだよな?」
「あたしが保証するわ」
「そうか……失礼な事を言って済まなかった。リート君とフィルちゃんは少しとはいえロレントで生活していて交流もあったのだが疑ってしまった。申し訳ない」
「気にしないでください。悪いのは盗みをした連中ですよ」
わたし達は町の人に礼を言うとギルドに向かった。
「アイラさん、ただいま!」
「エステル、お帰りなさい。シェラザードもお疲れ様」
「ただいま、アイラ」
エステルとシェラザードは顔なじみの愛らに挨拶をした。
「アイラ、久しぶり。元気にしてた?」
「久しぶりね、フィル」
「あれ?情報いっていないの?」
「冗談よ。貴方がフィークラウゼルなのは知ってるわ」
「そっか。騙しちゃってごめんね」
わたしは以前お世話になったアイラに何も言わずに帰っちゃったから少し気にしていたけどこうして謝れてよかった。
「そういえばリィ……リート君はいないのかしら?」
アイラは意地悪な笑みを浮かべてわざとリィンの偽名を言った。そういえばリィンが静かだって思って振り返るとリィンは気まずそうに掲示板の後ろに隠れていた。
「リィン、なにやってるの?」
「あ、いや……」
「アイラが呼んでるよ。早く出なよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」
わたしはリィンの手を引っ張ってアイナの前に連れ出した。
「えっと……お久しぶりです、アイナさん」
「久しぶりね、リート君。何も言わずに帰っちゃったから寂しかったわ」
「あの……俺の名前は……」
「なにかしら?はっきり言ってくれないと分からないわよ?」
なんでか声が小さいリィンにアイナは楽しそうに笑みを浮かべて偽名を言い続ける。そういえばリィンは世話になったアイナに何も言わずの帰ったことを気にしていたんだっけ。
でも騙していたようなものだから気まずいんだね。
相変わらず変に気にしすぎだよね、リィンは。アイナは気にしてなさそうなのに。
「アイナさん、俺……貴方に嘘をついてて……謝りもせずに帰ってしまって……すみませんでした」
「……違うでしょ?」
「えっ?」
アイナはカウンターから出てくるとリィンの前に立って彼を抱きしめた。
「お帰りなさい、リィン君」
「あっ……ただいま、アイナさん」
リィンはそう言うとアイナの背中に手を回して抱擁を交わした。わたし達はそれを見てそれぞれが色んな反応をしていた。
わたし?わたしは良かったって思ってるよ。リィンほどじゃないけどアイナにはお世話になったしリィンも気にしていたからね。
まあ後でべろちゅーはしてもらうけど。
それからリィンはアイナと5分くらいは抱擁を続けていた。
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