保生樹
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第三章
天将は槍を下ろした、そして笑ってだった。
それまで地味な色だった鎧兜とその下の衣を全て真っ白なものに変えてだ、劉に対して笑って言った。
「見事、ならよい」
「?何が見事でしょうか」
「そなたの心意気がだ」
まさにそれがというのだ。
「何よりもな」
「見事ですか」
「うむ、わしは実は西海龍王様にお仕えしておる」
こう言うのだった。
「実はな」
「共江様ではなく」
「あの様な乱暴者でなくな」
「四海龍王様の中の」
「その方にな、それで龍王様はずっと見てな」
劉をというのだ。
「そなたがどうするかと思っておられたが」
「全ては俺がです」
劉はまた言った。
「咎を受けますので」
「何を言っておる、そなたは村を救った」
天将は畏まる劉に笑って話した。
「このことは事実であるからな」
「それで、ですか」
「何を咎める必要がある」
「ですがあの水を」
「あの水は龍王様の水である、龍王様は人が救われるならな」
それならというのだ。
「よいとされる方、だからな」
「それで、ですか」
「檜の下から溢れ出る水で村の者達が助かるならな」
それならというのだ。
「もうな」
「問題はないですか」
「そうだ」
劉に笑顔で答えた。
「だからな」
「このことはですか」
「龍王様は咎められぬ、むしろよくやったとな」
逆にというのだ。
「喜ばれておられる」
「そうなのですか」
「だからな」
天将はさらに話した。
「水はこれまで以上に多く出て村を潤し」
そうなりというのだ。
「しかも尽きることがない」
「そうなるのですか」
「龍王様がそうして頂く」
「それは何よりです」
「無論そなたに咎なぞない」
「そうですか」
「これからも両親それに村の者達の為に働く様にな」
「わかりました」
劉は天将に誓った、そうしてだった。
天将は笑顔のまま竜王の宮殿に戻った、水は彼の言った通りにこれまで以上に多くの水が出て尽きることがなかった。もう村は日照りとなっても水に困ることはなくなった。
劉はそれからも両親と共に真面目に働き村や村人が困ると常に助けた。やがて妻を迎え多くの子をもうけ幸せに暮らし。
彼が亡くなってからも水は流れ続けたが村の者達は水源の傍の檜は何時しか彼の名を取って保生樹と呼ばれる様になった、苗族に伝わる古い話の異伝である。本来は悲しい話であるが異伝はこうしたものでありここに紹介させてもらった、一人でも多くの人が読んで頂けるなら幸いである。
保生樹 完
2023・6・12
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