保生樹
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第二章
「貴様ここの水を近くの村にまで引くつもりか」
「さもないと村は皆餓え死にします」
劉はその男に平伏する様にして答えた。
「水がないと作物も他の者も育たないので」
「それで水を引きたいか」
「左様です。そもそも貴方はどなた様でしょうか」
「わしは共江様にお仕えしている天将の一人だ」
「では天界の」
「そうだ、そのわしが言うのだ」
天界から来た者がというのだ。
「この檜は霊木でだ」
「神聖なものですか」
「ここで月の女神の御祓も行う」
そうしたことも行うというのだ。
「人が何かしてはならぬ場所だ」
「だからですか」
「ここの水を着様の村まで引くことどころかだ」
それすらというのだ。
「誰かに言うこともだ」
「なりませんか」
「絶対にな、だからな」
それでというのだ。
「立ち去れ、そうすればだ」
「どうなるのでしょうか」
「情けだ、貴様と家族位は楽に暮らせる恵みをやる」
「神様の」
「そうする、しかし誰かに言ったりな」
「村まで水を引くと」
「貴様に天罰を下す」
そうするというのだ。
「容赦なくな」
「だからですか」
「誰にも言うな」
絶対にというのだ。
「そして間違ってもな」
「村にまで水を引くことはですか」
「するな、よいな」
こう強く言ってだった。
天将は姿を消した、劉は天将が姿を消してから天将の言葉と村の餓えのことを考えた。そうしつつだった。
村まで帰った、それでだった。
村を見ると誰もが日照りによる餓えと渇きに苦しみ続けていた、それを見て彼は最早こうするしかないと思った。
それでだ、村に水のことを話してだった。
皆で檜の根本から村まで水を引くことにした、村人全員で餓えと渇きに苦しんでいる中で用水路を作ってだった。
何とか村まで引いた、すると。
村は忽ちのうちに水で満たされた、村の誰もがこれで助かったと思った。だが。
村が水で満ちたその時にその天将が劉のところに恐ろしい剣幕でやって来てそのうえで彼に槍を突き立てて言った。
「よくもやってくれたな」
「はい、ですがどうしてもです」
「村を救わずにいられなかったか」
「困っているのを見て」
「このままでは皆餓え死にするからか」
「そうしました、例え俺の家だけが恵みを得られても」
そうなってもというのだ。
「村の人が皆餓え死にすればです」
「意味がないか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「そうしました」
「そうなのだな」
「言ってやろうと言ったのは俺です」
劉は天将に毅然として言った。
「ですから天罰はです」
「貴様一人で受けるか」
「そうします」
劉がこう言うとだった。
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