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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第10章】カナタとツバサ、帰郷後の一連の流れ。
   【第4節】新暦91年と92年の出来事。



 明けて、新暦91年。この年にも、実にさまざまな出来事がありました。
 まず、3月には、管理局による「南方・第一支局の創設」や「クロノ中将らの南方への異動」や「八神提督の准将昇進」などがあり、また、4月には「ヴァラムディ(エリオの妻)の出産」などといった出来事もありました。

【ちなみに、第一支局の「初代総司令官」となったクロノ・ハラオウン中将(40歳)の異動には、レティ・ロウラン少将(64歳)やセディール・ブロスカン提督(44歳)の他、ガルス・ディグドーラ提督(67歳)やリゼル・ラッカード提督(52歳)やマギエスラ・ペルゼスカ提督(31歳)たちも同行することになりました。
 同時に、カレル・ハラオウンやマウロー・トルガザールたちも「第一支局」に異動となり、ゼオール・バウバロス執務官も当面の間、活動拠点をそちらへ移すことになるのですが……その話も、また第二部の方でやります。】


 また、5月になると、高町家の方で「アインハルトの曾祖父母と両親の20回忌」が営まれた直後に、アインハルト(24歳)はとうとう「クラウスの最晩年の記憶」を明瞭に思い出したのですが……それは、彼女をいささか当惑させるような代物でした。
 内容的には全く想定外のもので、おそらく、「それ」はクラウスの人生においても相当に唐突な出来事だったのでしょう。クラウスは本来「それ」をこそ後世に伝えたかったのであって、実のところ、十代の頃の悲恋の記憶などは、ただのオマケだったのです。
 アインハルトは当面の間、この件に関しては(愛妻や義母たちをも含めて)誰にも何も語らないことにしました。

 そして、翌6月には、アインハルトの大叔母ドーリス(69歳)から、文字どおり「忘れた頃」になって連絡が来ました。あの日、法務院の庁舎で約束してから、すでに七年あまりもの歳月が流れ去っています。

『長らく御無沙汰しておりました。ドーリスです。
 突然ですが、先日、姉が浴室で溺死しました。どうやら、湯船につかってそのまま眠ってしまったようです。享年は74歳でしたが、葬儀はすでに済ませ、墓もこちらに建て、土地家屋なども問題なく私が相続しました。
 今日はようやく家に業者を呼び、今、廊下から順番に片付けてもらっている最中(さいちゅう)です。おそらく、明日には書斎にたどり着けるでしょう。
 三年ほど前に「住所変更の通知」を受け取りましたが、その後、住所に変更はありませんか? 無いなら無いで、必ずその(むね)をご返信ください。それを確認でき次第、お約束どおり、あの書斎の中身をすべてまとめてそちらへお送りします。
 なお、分量はせいぜい「普通の80センチ幅の本棚」5本か6本に収まる程度だろうと思います。
 追伸:10年後には私も79歳になりますが、その時にまだ元気であれば、両親の「祀り上げ」にだけは出席したいと思っております。よろしければ、10年後の春先に、またご連絡ください』

 アインハルトはまず、愛妻と二人の義母に相談し、『アインハルトの私室に収まる量ならば別に構わない』との許可を得ました。その上で、ドーリスに返信し、続けて通販でスチール製の簡素な本棚を6本、注文します。
 翌日には本棚が届いたので、手早く組み立てて壁際に並べ、その二日後にはドーリスからも引っ越し用の荷物箱で十数箱もの荷物が届いたので、すぐに開封して、取りあえず内容などは考慮せずに、ただ機械的に「開封した順で」本棚に詰めて行きました。
 どうせ、急ぐ話ではありません。また後日、ひとつずつ内容を確認しながら整理して行けば良いのです。

【なお、アインハルトは年内にそれらの書物を「すべて」読み終えましたが、実際のところ、その総量は「本棚5本分あまり」といったところでした。
 また、その八割以上は単なる「覇王流の(かた)や個々の(わざ)」に関する解説書であり、それはそれで確かに、歴史的には重要な文書でしたが、アインハルトにとっては、それらの内容はすでに大半が「体に刻み込まれているモノ」です。今の彼女にとって大切なのは、あくまでも残りの二割たらずの方でした。
 その多くは、新暦で言う前10年に生まれたニコラスの個人的な日記の(たぐい)です。彼女はそれら何十年分もの日記を詳細に読み通すことで、『曽祖父ニコラスがどういう人物であり、何を考えていたのか』についても、理解を深めていきました。
 その理解を踏まえて、アインハルトは、翌92年の5月に「ギュスパドル事件」が終わると、ヴィヴィオやなのはたちにも上手く話せずにいた「クラウスの最晩年の記憶」について、八神はやて准将にだけは語り伝えておくことにしたのですが……その(くだり)は、実は、この作品の本題とは全く関係が無いので、また「インタルード 第8章」の方でやります。】


 ちなみに、IMCS関連では、この91年の8月に、『新暦84年と85年にミッド中央の都市本戦で連続優勝を達成したテッサーラ・マカレニア元選手(22歳)が、薬物中毒で暴行傷害事件を起こした挙句に、逃亡先のパドマーレで自殺(?)する』などという事件もありました。
【なお、この「テッサーラ・マカレニア事件」には、いささか「裏」があったのですが……先にも述べたとおり、その話はまた「インタルード 第7章」の方でやります。】


 また、この年の10月には、「キャロ(26歳)の出産」や、さらには「リエラ(19歳)の無限書庫への異動」などといった出来事もありました。


 さて、リエラ・ハラオウンは91年度になると、ヴィヴィオからの勧誘もあって〈無限書庫〉への異動を希望し、秋にはそのままに受理されたのですが、それから大急ぎで司書の資格を取ると、年末には何故か(非公式ながらも)ユーノ司書長から「付き人」と言うか、「秘書」のような立場に抜擢(ばってき)されてしまいました。

 そして、翌92年の1月。
 リエラ(20歳)は、ユーノ(36歳)やヴェロッサ(41歳)とともに、聖王教会本部へと赴き、ヴェロッサから、カリムやシャッハ(45歳)を紹介されました。
 その上で、ユーノ司書長が奥の()でカリム総長と「内密の話」をしている間、リエラはヴェロッサとともに控えの()に退き、そこでオットーやディードともいろいろと話をします。
やがて、不意にカレルの話題が出ました。中等科の頃の話は「双子の妹として」本当に赤面ものでしたが、現在の話となると、空士として挫折なく「本来の人生」を歩み続けているカレルのことが、リエラには何やら(うらや)ましくもあります。
 リエラは、もうしばらくの間、自分の人生に自信が持てず、悩み続けたのでした。

 一方、奥の()では、ユーノがカリムに対して、次のような内容の話をしていました。
『いきなり失礼な話題になってしまいますが、あなたの曾祖母「エルネスタ・フランカルディ」の出自は、実際には、戸籍の記載とは異なっているのではありませんか? もし御実家に何か当時の資料などが残っていれば、一度よく調べてみてほしいのです。
 これは、フランカルディ家にとっても、グラシア家にとっても、随分と不利益になる話かも知れませんが、自分はただ「真実」を明らかにしたいだけなので、できれば御協力いただきたいと思います。
 また、それとは別の話になりますが、「グランド・マスター」という名前に聞き覚えはありませんか? 私の推測が正しければ、エルネスタにとっては「ごく身近な親族」だったはずなのですが』

 それを聞いて、カリムも以下のような内容の話を返します。
『私の知る限りでは、エルネスタはグラシア本家の先々代の当主との間に3男をもうけた後、旧暦の最後の年には三十代の若さで亡くなりました。その長男が、グラシア本家の先代当主。次男が、バルベリオ(もと)総長の実父。そして、三男が、私が四歳の時に亡くなった、私の父方祖父です。
 確か……私の両親や祖父母の「10回忌」の時のことですが……私の大伯父に当たる、その長男と次男との会話に、「グランド・マスター」の名前が出て来たことがあったように思います。この二人はすでに故人ですが、本家の現当主は何かを聞き及んでいるかも知れません。忙しい人ですから、すぐには(つか)まらないと思いますが、私の方から一度よく訊いてみましょう』

 こうして、二人の「内密の話」は終わりました。
【こうした「グランド・マスター」にまつわる話に、一定の結論が出るまでには、ここからさらに丸一年余の時間を要します。】


 また、それ以外にも、新暦92年には、やはりいろいろな出来事がありました。
 地球の高町家では、旧正月に桃子が還暦を迎えたり、3月には、キャロの産休明けに際してカルナージでまた久々の「合同訓練」があったり、同じ頃には、前年にバールシュタイン博士らがベルカ第五地区で発掘した「雷帝の離宮の隠し書庫」が丸ごと無限書庫の一郭に転送されたり、翌4月には、ユーノが早速、そこから古代ベルカの〈神域〉に関する幾つかの興味深い情報を入手したり……。
 5月には、アインハルトの担当した〈ギュスパドル事件〉がようやく終了したり、6月になると、ユーノが過労でまた二か月ほど倒れたり、7月には、エルドーク提督の愛妻が六十代で早々と病没したり、アンナが23歳で「秘密裡に」父親の病院で女児を出産したり……。

 また、8月になると、ルーフェンでレイ・タンドラ老師が88歳で死去したり、後に「ティアナとヴィクトーリアの三度目の合同捜査」となる、悪夢のような〈グヴェラズム事件〉が始まったり、9月には、あの〈カラバス動乱〉が起きてしまったり、ダールヴの調査で、ルミエ・トゥパールとジィド・クラーレについても「今までの話とは随分と異なる事実」が判明したり……。
 さらに、10月になると、フェイトが「上級執務官」になったり、クイントの祀り上げが一年「前倒し」で行なわれたり、翌11月には、ウェンディが〈グヴェラズム事件〉の最終戦で大破して、七年前のノーヴェと同じように「基礎フレーム」を交換されたり……といった感じで、なかなかに忙しい一年となりました。

【ウェンディも「体の半分以上」を一度に取り替えられると、やはり(ノーヴェと同じように)何かしら心境の変化があったようで、リハビリを終えて退院してから、彼女は自分の独特な「言葉づかい」を少しずつ改めていくようになりました。】

【しかし、91年から93年までのさまざまな出来事については、(第一部の内容とは、直接には関係しない話が多いので)インタルードと第二部で、また必要に応じて触れてゆくことにします。
(93年の春には、いよいよ「グランド・マスターの正体」や「プレシアとの関係」が解ったりもするのですが……その話も、また第二部と第三部でやる予定です。)
 また、93年の、ギンガとチンクが捜査を進め、ルーテシアらも少しばかり関与し、最終的には、メルドゥナとフェイトに「現地出身」のクラムザウガとゼイドリクサをも加えた四人もの執務官が合同で担当した〈ヌミコス事件〉についても、「インタルード 第9章」でやります。】


 さて、古代ベルカでは、1、1+2、1+2+3、1+2+3+4(以下、略)といった「1からNまでの総和となる自然数」が文化的に重視されていました。
 そのため、個人の人生においても、1歳、3歳、6歳、10歳(以下、略)といった年齢を「重要な節目」と考えていたのです。
 実際、リンカーコアが顕現するかしないかは、大半の場合、6歳までには決まります。その後、魔力の有無や特質や強弱などを踏まえて(あるいは、本人の身分や身体的な能力などに応じて)小児(こども)も10歳までには将来の職業を決めてしまうのが、古代ベルカでは普通のことでした。
 同様に、男女の婚約も10歳から、実際の結婚は男女とも15歳からであり、遅くとも21歳までには子を成すことが、社会的に期待されていました。
 また、昔の日本には「人生五十年」という決まり文句があったのと同じように、古代ベルカでは一般に「人生55年」と言われていました。
(55は、1から10までの総和です。)
 もちろん、28歳や36歳も人生の大きな節目でしたが、『およそ45歳で社会的には一線を退き、55歳以降はただの余生と割り切り、遅くとも66歳までにはこの世を去る』というのが、古代ベルカ人にとっての「理想の人生」だったのです。
(古代ベルカでは、長寿それ自体は必ずしも「良いコト」ではありませんでした。)

【ちなみに、120は、1から15までの総和です。古代ベルカ人が120年を「大きな単位」と考えていたのも、ひとつには、そのためだったのかも知れません。】

 古代ベルカにおける「三歳(みつ)の祝い」と「六歳(むつ)の祝い」は、日本で言う「七五三」のようなものであり、同様に「十歳(とお)の祝い」は、(随分と気の早い話ではありますが)日本で言う「就職祝い」のようなものでした。そうした古い伝統は、現代の諸世界にも形を変えて受け継がれており、例えば『管理局に(はい)れるのは10歳から』という規定も、この伝統に(のっと)ったものなのです。
 今では「本当に10歳で管理局に就職してしまう魔導師」はごく(まれ)な存在ですが、それでも、『将来が有望な子供に、親が「十歳(とお)の祝い」として特製のデバイスをプレゼントする』というのは、それなりによくある話でした。
(実際、ギンガの親友であるデュマウザ・シェンドリールも、10歳の時に祖母から特製のデバイス〈クラッシュフィスト〉をプレゼントされています。)

 また、思い起こせば、なのはも新暦79年、ヴィヴィオが10歳の時に、彼女に〈セイクリッド・ハート〉(愛称、クリス)を与えています。
 そこで、カナタとツバサが『93年の春に一貫校を卒業したら、10歳ですぐに管理局員になる』という話が決まると、なのはは『その時に、カナタとツバサにも「就職祝い」として、何か専用のデバイスを贈ろうか』と考えていたのですが……。
 新暦92年の末、「余り日」の休暇にその話を聞くと、カナタとツバサ(まだ9歳)は、あえてそれを辞退しました。

 カナタ「いや。(ほか)でもない、なのは母様(かあさま)にそう言ってもらえるのは、ボクらとしても、ホント、嬉しいんだけどサ」
 ツバサ「母様たちは、お二人とも局では有名人ですから、私たちも何かの拍子に『親の七光り』などと言われがちです」
 カナタ「そんな訳で、実を言うと、もう少し実力の方が追いつくまでは、あんまり特別あつかいとか、されたくないんだよネ」
 ツバサ「ですから、わがままを言うようで本当に申し訳ありませんが、4月からも一般の局員と同じように、当分は支給品のデバイスで頑張ってみたいんです。また、本当に必要な時が来たら、その時には、是非ともよろしくお願いします」

 これは、なのはも納得の正論です。こうして、二人の専用デバイスという話は、しばらく先送りにされることになりました。
 あるいは、もし後々(のちのち)、空士に転向する機会があれば、その時に改めて贈った方が良いのかも知れません。


 さて、ここで、カナタとツバサについても、少しまとめておきましょう。
 なのはが産んだカナタは、考えるよりも先に体が動くタイプです。
 顔立ちはむしろフェイトの方に似ているのですが、髪色はむしろなのはに似た栗色で、もう少しだけ(フェイトからの遺伝で?)明るい色合いになっています。性格も軽く明るく、イタズラ好きで、いつも俗語や終助詞を多用する「砕けた口調」で喋ります。
 一人称は「ボク」で、魔法も基本的にはフェイトに似た「高機動型」ですが、魔力光は金色と言うよりも、むしろ(ティアナによく似た)オレンジ色です。
 どちらかと言えば「情緒タイプ」で、細かな数字などに関しては割とルーズですが、人間観察に関しては意外と鋭いところもあります。

 一方、フェイトが産んだツバサは、よく考えてから動くタイプです。
 顔立ちはむしろなのはの方に似ており、髪色も基本的には栗色なのですが、なのはよりもだいぶ(士郎からの隔世遺伝で?)暗い色合いになっています。口調は常に「ですます調」で、精神年齢が妙に高い反面、心理的には意外と打たれ弱い一面もあります。
 一人称は「私」で、魔法も基本的にはなのはに似た「高火力型」ですが、魔力光は桃色と言うよりも、むしろ(ルーテシアによく似た)紫色です。
 どちらかと言えば「論理タイプ」で、時間や人数などの細かな数字にもよく気を配る方ですが、人間観察に関してはちょっと抜けたところもあります。
(ちなみに、カナタの方が2時間ほど先に生まれているので、「お姉さん」です。)

 また、この二人の「魔法戦スタイル」は、中距離射撃と近距離格闘とバインドを巧みに組み合わせた「典型的なミッドスタイル」で、双子だけに連携(れんけい)も抜群です。
 しかし、残念ながら、彼女らは、なのはの「魔力収束(ブレイカー)資質」も、フェイトの「電気変換資質」も、全く受け継いではいません。
 魔力量それ自体は相当なモノですが、それでも、はやてやヴィクトーリアのように『普通のデバイスなど、すぐに壊してしまう』というほどのモノではありません。
 結果として、カナタとツバサは、その母親たちに比べると、魔法戦のヴィジュアルに関しては、(少なくとも、今のところは)かなり地味なキャラに仕上がっています。

【なお、「リリカルなのはStrikerS サウンドステージ04」における「なのはとシャマルの会話」を聴いていると、まるで『魔力運用さえ上手になれば、ブレイカーは誰にでも使えるようになる』と述べている「かのように」も聞こえてしまうのですが……。
 それだと、シリーズが先へ進むにつれて、いわゆる「パワーインフレ」が起きてしまうので、この作品では、あえて『ブレイカーは先天的な資質を必要とするタイプの(資質の無い者が後天的に修得することが極めて困難なタイプの)魔法である』という設定にしてみました。
 また、大変に個人的な意見で恐縮ですが、私は一部の少年マンガに見られるような『親が苦労して修得した能力を、子供は「何故か」最初から使うことができる』といったノリがあまり好きではありません。
(そもそも、子供だからと言って、親とよく似た人生を(あゆ)まなければならない理由など、どこにも無いはずです。)
 そんな訳で、この作品で新たに登場する「ブレイカー使い」は、(歴史上の人物を別にすれば)「炎熱変換資質」の持ち主でもある「炎の英雄」ラウ・ルガラート執務官ただ一人です。しかも、この作品の中には、彼の活躍が語られる場面はあっても、彼が実際に登場して活躍する場面は一切ありません。どうぞ、悪しからず御了承ください。】



 
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