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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
   【第7節】新暦88年の出来事。

 そして、新暦88年の2月。地球では、令和6年・西暦2024年の2月。
 月村家で、とよねの4歳の誕生日をお祝いした時の出来事です。
 小学5年生の(しずく)が、(なん)()なしに、幼い従妹(いとこ)に問いかけました。
「とよねちゃんは、おおきくなったら、なんになるの?」
「あのねー。とよねはねー。おっきくなったらねー。(少し考えてから)きょーやおじしゃんの、およめしゃんになるのー(ニッコニコ)」
 その場では、一同、爆笑して終わりましたが、その夜、恭也(42歳)は忍(41歳)から、次のように軽く問い詰められてしまいました。(笑)
「念のために訊くけど、あなたは普段から、あの子と何の話をしているのかしら?」
「何も話してないよ!」
 ひどい冤罪(えんざい)でしたが、このささやかな事件(?)を除けば、この年は、地球では全く平穏な一年でした。
【リアルでは、元日から相当な規模の地震があったりもしましたが、取りあえず、ここでは願いを込めて、こう書いておきます。(2024/01/05)】


 また、同88年の3月には、ジョルドヴァング・メルドラージャ(25歳)も二等陸尉に昇進し、それと同時に「古代遺物管理部・機動三課」に転属となりました。
 昨年の春、カルナージでザフィーラから『そちらの方が向いているのではないか』と指摘された後、よくよく考えた上で秋には「転属願」を出していたのですが、その要望がそのままに聞き入れられた形です。
(翌89年には、彼は早速、〈メイラウネ事件〉で小隊長として活躍します。)


 そして、同3月中旬に、ヴィヴィオ(19歳)が博士課程を修了して、大学卒業後には正式に管理局員(無限書庫の上級司書)になることが決まると、アインハルト(21歳)もそこでようやく彼女と結婚し、以下に述べる理由によって、あえて自分の方が高町家に入る形で(せき)を入れました。
 これによって、ヴィヴィオのフルネームは「ヴィヴィオ・ハラオウン・高町」のまま、アインハルトの「戸籍上の」フルネームは、「ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト・ハラオウン・高町」になります。
(ミッドの戸籍法では、各人に個人名も苗字も四つまで許可されているのです。)

【ちなみに、ストラトスは決して「アインハルトの母方の苗字」という訳ではなく、『クラウスの嫡子ハインツがミッドに来て、ベルカ系ミッド人の女性アニィ・ストラトスと結婚して以来、その子孫は代々、戸籍の上では「ストラトス・イングヴァルト」を「一塊(ひとかたまり)の苗字」として受け継いでおり、日常的には「ストラトス」の方だけを使って生活をしている』という設定で行きます。
 要するに、『ハインツは「イングヴァルト」の名前を捨て去ることもできなかったが、日常的に「王家の苗字」で生活を送ることにも抵抗があった』という訳です。】

 アインハルトは、昨年の〈デムロクス事件〉で「事件の黒幕だったボケ老人」からさんざん悪質なセクハラ発言を浴びせかけられてしまい、本当に吐き気を(もよお)すほどに気持ちが悪かったのでしょう。あの事件の直後から、彼女は日常的に「一見して女性と解る外見」を意図的に()け、選んで「性別不明の外見」を(よそお)うようになっていました。
 しかし、それでもなお、おそらくは昨年の何か別の事件で、『これでも、まだ足りない』と感じるような出来事があったのでしょう。
 アインハルトは今までずっと、祖父エーリクが若い頃に建てた一戸建てに一人で住み続けていた訳ですが、ヴィヴィオとの結婚を機に思い切ってその土地と家屋をまとめて売却し、さらには、みずから高町家に「婿(むこ)入り」をして『近所に「以前からの顔見知り」など一人もいない』という新たな環境で、心機一転、「全く日常的に男装を続ける生活」を始めることにしたのです。
(ある程度までは、『クラウスの記憶やヴィヴィオの趣味に合わせた』という側面もあったのかも知れません。また、これ以降、アインハルトはヴィヴィオのことを、全く日常的に「ヴィヴィ」と呼ぶようになりました。)

 アインハルトは、あれほど長かった髪をもバッサリと切って、「肩に軽くかかる程度」の長さに整えました。さらには、変身魔法の応用で(彼女は元々お尻の小さな体形だったので、あとは胸の膨らみと腰のくびれを隠して)家庭でも仕事先でも朝から晩まで当然のごとく男装を続けるようになります。
 彼女は背も高いので、知らない人が見たら、もうどこから見ても普通に「美男子」にしか見えません。実際に、高町家の「ご近所さんたち」も、全員が彼女のことを男性だと信じて疑ってはいなかったようです。
 なのはとフェイトも、地元ではアインハルトのことを、普通に「ウチの婿殿(むこどの)」と呼ぶことにしました。(笑)

【また、アインハルトは3月のうちに、大叔母ドーリスに「住所と連絡先の変更」を通知しましたが、あれから四年経っても、あちらの状況はまだ全く進展が無いようでした。】


 なお、式場の都合もあって、二人の結婚式と披露宴は4月に入ってからのこととなりました。
アインハルトの親族は一人も出席せず、そもそも招待もしていませんでしたが、それでも、なかなか(にぎ)やかな式となります。
 ただ、アインハルトが最初から一貫して男装をしていたので、同じ同性婚でも「なのはとフェイトの時」とは随分と(おもむ)きが異なっており、まるで普通の男女の結婚式のようで、出席者の大半はこれを、アインハルトの『自分は以後、あくまでも「夫」としてふるまう』という意思表示であるものと受け取りました。
(髪までバッサリと切ってしまったのですから、そう思われても仕方が無いでしょう。)

 その出席者一同とは、以下のとおりです。
 まず、ヴィヴィオの親族として、なのはとフェイトは当然に出席しました。ユーノとシャーリーも当然のごとく、その二人に付き添うようにして出席します。
 次に、アインハルトの同業者としては……ファトラとウェルザが長期の仕事中で来られなかったのは残念でしたが……ティアナとウェンディ、ヴィクトーリアとエドガーとコニィの他、去る2月に自分たちの結婚式を「家族だけで」ひっそりと済ませたばかりのメルドゥナとロムグリスも夫婦で仲良く出席してくれました。
 さらに、八神家からは八人全員が出席し、聖王教会からは、オットーとディードとセインとシャンテに加えて、シャッハとカリム総長までもが(お忍びで)出席します。
 また、今では「友人」として対等の立場で接してくれているエリオとキャロが、アルピーノ家からはルーテシアとファビアが、ナカジマ家からはスバルたち戦闘機人姉妹の他にも昨年に結婚したばかりのトーマとメグミが、それぞれ出席しました。
 さらに、ナカジマジムからはリグロマ会長の他にも、ミウラ、コロナ、アンナ、プラスニィとクラスティが出席し、コロナの夫ジョルドヴァングも転属したばかりで忙しい中ではありましたが、何とか時間を作って出席してくれました。
 また、ユミナやファラミィを始めとする二人の魔法学院時代の友人たちも、何人かが招待されて出席しました。

 ちなみに、アインハルト(21歳)とヴィヴィオ(19歳)は、当局への申請だけは先に済ませたものの、実際には、まだ何年かは子供を作らないつもりでいました。執務官も上級司書も、優秀な人材であればあるほど多忙になる職業で、そうなると、なかなか「産休のような長期間の休暇」を取っている余裕は無いからです。
 ところが、アンナは二人の披露宴の席上でそれを知ると、『お二人とも若いうちに、まとまった数の「元気な卵子」を()って保存しておいた方が絶対に「お得」ですよ。今なら特例法で特別の価格が適用されますから、是非、ウチの父の病院を利用してください』と、ヴィヴィオとアインハルトに強くアピールしました。
 確かに、卵子融合で子供を産むためには(どちらが産むにしても)事前に双方の卵子を一定数、採取しておくことが必要不可欠です。そこで、二人はアンナの「おすすめ」をそのまま受け入れることにしました。
 また、ルーテシア(23歳)とファビア(22歳)も、昨年の11月に母メガーヌから孫をせがまれて以来、いろいろと考えていたのでしょう。この二人も、ヴィヴィオたちのすぐ隣でアンナの言葉を聞くと、まだ相手もいないのに、その話に乗って来ます。
 こうして、この四人はしばらく排卵抑制剤の使用を中断し、その年の夏にはそれぞれにアンナの父親の病院で相当数の卵子を()って、それを凍結保存したのでした。


 また、その4月の末には、ミッド地上本部の「広報部次長」と聖王教会本部の「広報担当官」が二人して高町家を訪れ、アインハルトとヴィヴィオに映画の企画の話を持ちかけて来ました。
「クラウスとオリヴィエの物語」を映画にして公開しようと言うのです。
 表向きはまだ内緒の話ですが、スポンサーには「サラサール家」の名前もありました。おそらくは、裏でスラディオが一枚かんでいるのでしょう。
 アインハルトとヴィヴィオは「自分たちの名前が決して表には出ないこと」を条件に、これを承諾しました。すでに脚本は第一稿が完成しており、二人はそれを読んで、ひとつひとつ細かな注文をつけていきます。
【なお、映画の完成と公開は、これから5年あまり後の、新暦93年の夏のこととなりました。】


 また、5月になると、スプールスでは、エリオとキャロ(23歳)が初めて「ジョスカーラ姉弟」と出逢いました。
(この時点で、姉のヴァラムディは20歳、弟のフェルガンは16歳です。)
 一方、なのはとフェイトは、6月には家族四人でまた地球の高町家を訪れ、今年で五歳になるカナタやツバサと遊んだり、士郎の60歳の誕生日を祝って来たりしました。
 そして、同月の末、フェイトはミッドに戻って自宅でくつろいでいる時に、エリオとキャロからジョスカーラ姉弟に関して法律上の相談を受けたのでした。
【この姉弟に関しては、「キャラ設定8」および「キャラ設定10」を御参照ください。】


 ところで、ティアナとウェンディは、アインハルトとヴィヴィオの結婚式に出席した後、すぐに仕事で〈管17イラクリオン〉へ飛び、「聖地」ラブラウンダにまつわる事件で、7月の末まで三か月半も現地に(くぎ)づけにされていました。
 一方、ヴィクトーリアたちも同様に、4月のうちに〈管18ラシティ〉での仕事を引き受けていたのですが、6月には舞台を「すぐ隣」のイラクリオンに移し……やがて、またティアナたちと合流します。
(結果として、この事件は、三年前のゲドルザン事件に続く「合同捜査・第二弾」となりましたが、メルドゥナはもうこの場にはいません。)
 最終的には、またもや「力ずく」での解決となってしまい、その際には、こんな会話もなされました。

 コニィ「さすがは、ティアナさん! 『破壊王』の二つ名は伊達(だて)ではありませんね!」
 ティアナ「アンタ……それ、ケンカ、売ってるの?(怒)」
 コニィ「いえいえ。とんでもない!(吃驚)」
 エドガー「すいません。彼女はそれで、本当に()めているつもりなんです。(苦笑)」

 この事件は、後に「ペレクス事件」と呼ばれることになります。
 しかし、黒幕が「管理局イラクリオン地上本部」の一等陸佐だったため、事件の内容はほとんどすべてが「第二級の特秘事項」にされてしまいました。
【管理局の「隠蔽(いんぺい)体質」には定評があります!(笑)】


 また、6月の上旬、ティアナとウェンディだけではなく、ギンガとチンクも別件でミッドを離れていた時のことです。
 スバル(28歳)は非番の日にふと車で下町へ出かけた折り、小雨の降りしきる中、一人の少年が路地で力なく地べたにうずくまっているのを見つけました。もちろん、戦闘機人の眼でなければ、見逃(みのが)していたことでしょう。
 スバルはとっさに「救護対象」と判断して車を戻し、路地に入ってその少年を抱き起こしましたが、どうやらただ単に無一文で腹が減って倒れていただけのようです。しかし、これほどずぶ濡れのままでは、普通の飲食店へ連れて行くこともできません。
 スバルはやむなく、普段から車内に備品として積み込んでいた毛布で少年の全身を(くる)んで車に乗せ、そのまま少年を「その種のホテル」へと連れ込みました。
「とにかく、まずバスルームで体を温めて来なさい。それから、食事にしましょう」
 そう言って、少年を風呂に入らせている間に、少年の下着と服と靴、および毛布を急ぎのクリーニングに出し、部屋にほとんど四人分もの食事を持って来させます。
 少年は「全裸にバスローブひとつ」という姿のまま、スバルと一緒に相当な勢いで食事を取りました。その食事を二人で食べ切ってから、ようやく事情聴取が始まります。

 少年の名は、ラディスリィ・パモレスカと言いました。
 この3月に義務教育課程を修了して、故郷のメブレムザ地方から「口減らし」も同然に上京して来たばかりの15歳だそうです。
 しかし、スバルにとっては、その年齢はやや意外なものでした。体格や表情から判断して、もう少し年下だろうかと思っていたのです。
 確かに、15歳の男子にしては、やや小柄で貧相な体つきのようにも見えましたが、よくよく見ると、骨格そのものは意外としっかりしていました。どうやら、ごく最近の栄養不足で少しやつれていただけだったようです。背丈も、今はまだスバルより少し低いぐらいでしたが、きっとこれからまだ多少は伸びるのでしょう。
 訊けば、『地元は今、大変な就職難で、自分は親族の紹介で運よくクラナガンの下町の小企業に雇ってもらい、この4月から働いていたが、先日、その会社がいきなり倒産し、社員寮からも追い出されてしまった。実家は貧しく、自分からの仕送りが無くても「かろうじて」何とかなるだろうが、逆に実家から金を送ってもらうことなど絶対にできない。いろいろあって田舎(いなか)の実家に戻る訳にも行かないが、自分は口が下手なので、知り合いの一人もいないこの土地では、要領よく再就職先を見つけることも難しい』とのことでした。

 要するに、この少年はもう完全に行き場を失ってしまっているのです。
 そこで、スバルは極めて個人的にラディスリィをしばらく自宅で保護することにしました。幸いにも、彼はすでに義務教育課程を修了しています。
 とは言え、「法律上は」まだ成人していないので、スバルも一応は、田舎の実家にいる彼の両親に連絡して事情を説明し、了承を取り付けました。どうやら、本当にギリギリの生活をしている家庭のようです。
 結果として、以後1年と9か月あまりの間、スバルはこのラディスリィ少年と「同棲」を続けることとなったのでした。
【エロ描写は、この作品の主旨ではないので、省略します!(笑)】


 そして、7月には、フェイト(32歳)は「古代遺物管理部・捜査課」から協力の依頼を受けて、初めて〈管15デヴォルザム〉の第三大陸カロエスマールを訪れました。場所は、西部高原の鉱山都市ラスモルガです。
 実際にやってみると、さほど難しい案件でも無く、翌月には早々と(かた)が付いてしまったのですが、それでも、「八伯家」のひとつロンディスカ家の当主で、現地における「事実上の領主」でもあるベザムリオ卿(78歳)からは随分と感謝をされました。
 今も「若い頃の美男子ぶり」が目に浮かぶような、美形の老紳士です。

【なお、上記の「(きょう)」は、地球の英語圏で言う「Lord(卿)」とは用法が大きく異なっています。ここでは、「次元世界ではごく一般的な、かつての貴族階級の『本家当主の個人名』につけられる敬称の訳語」であるものとお考えください。
(もちろん、現代では身分制そのものはすでに廃止されているのですが、この種の敬称は今も伝統的に、デヴォルザムを始めとする多くの世界で存続しているのです。)】


 また、8月には、ユーノの母親アディ・モナスの「30回忌・祀り上げ」がありました。
 通知を受けて、ユーノ(32歳)は、久々に〈無81ナバルジェス〉へと足を運び、まずは、マルギス夫妻に挨拶をしました。技師のザール(65歳)は、一昨年から支族長を務めています。
 なお、その席で、ユーノは医師のミーナ(64歳)から、こんな話を聞かされました。

「今だから言える話だけどね。お前は赤子の頃、何度も死にかけたんだよ。私には、お前が生きて大人になれるとは思えなかったから、アディさんにも正直にそう伝えた。でも、彼女はね。
『自分は故郷で一回、クレモナでもう一回、結婚しましたが、二回とも、夫とその息子には早くに先立たれてしまいました。だから、三人目のこの子だけは何としても無事に育て上げたいんです』
 そう言って、自分の命を削るようにして、お前の世話を続けたんだ。お前は(おぼ)えてはいないだろうけれど、彼女は本当にお前のことを愛していたんだよ」

 そして、墓標と遺骨を撤去する際、アディの遺骨の脇からは「完全密閉式の小さなバッグ」が出土し、ユーノは改めてそれを遺品として相続しました。
 (ふた)()けてみると、その中には、長期保存用のコーティングを(ほどこ)された「某女性と某男性のツーショット写真」が一枚だけ入っています。
 二人とも、実に良い笑顔をしていました。まあまあ「美男美女の(たぐい)」だと言って良いでしょう。
「ほら。こちらの女性が、お前の母親、アディさんだよ」
 ミーナはそう教えてくれましたが、男性の方には全く心当たりが無いそうです。
(ということは……もしかして、この男性が、僕の父親なのか?)
確証はありませんでしたが、母親がわざわざこれを遺品として(のこ)した理由は、それぐらいしか思いつきませんでした。
 どうやら、写真の場所は居酒屋か何かの「お店」の中のようですが、この二人以外の人物は全く写り込んでいません。
 また、その男性はアディとおおよそ同じ年代のように見えましたが、それ以上のことは、今はまだ何も解りませんでした。

 こうして、ユーノはまた〈本局〉に戻りました。
 そして、9月になると、ユーノはダールヴを呼んで、その写真の画像データを手渡し、この二人について(ユーノ自身の名前が決して表には出ないような形で)調べてもらうことにします。
 もちろん、ユーノは『これが自分の両親かも知れない』などとは一言も告げずに、ダールヴには『この二人は、一昨年の依頼と同様の、単なる「時効成立事件」における重要参考人である』とだけ伝えました。
 ダールヴは早速、クレモナへ飛び、現地では探偵なども雇いながら(時には「広域捜査官の外部協力者」という肩書きも利用して)調査を進めていきます。
 しかし、『三十年以上も前の写真が一枚あるだけ』では、さすがに情報不足で、ユーノが『特に急ぐ話ではない』と明言したこともあり、また、ダールヴはこの春に父親になったばかりだったということも手伝って、単なる「中間報告」までにも、それから丸2年もの歳月を要してしまったのでした。


 さて、ここでまた話は少しだけ(さかのぼ)って、7月のことです。
 ルーテシアとファビアはまた二人で三か月ぶりにミッドを訪れると、まずは八神提督の自宅で、はやてにジークリンデとその娘(満1歳)の様子について報告し、自分たちの「真摯(しんし)な要望」をも伝えてから、アンナの父親が経営する病院で相当数の卵子を採取し、当局に卵子融合での出産を希望する(むね)を申請しました。
 また、しばらく時機を見計(みはか)らってから、8月には秘密裡に〈外35号天〉へと渡航し、皇帝軍の目を巧みにかいくぐって「白天王」と直接の対面を果たします。
 実のところ、ルーテシアとファビアは85年の9月にヴォルテールと面会して以来、ほぼ3年もの間、ずっとこの機会を(うかが)っていたのでした。
 二人は、白天王にヴォルテールの意思を伝えたり、その返事を受け取ったり、白天王の『自分も「あの巫女」のように、もうこの世界から引っ越したい』などという愚痴(?)を聞いたりしてから、一旦、ミッドに戻りました。
 二人して、引き続き八神家の客間に長期滞在させてもらうことになります。

 二人は『もっと時間がかかるだろう』と思っていたのですが、意外にも9月の末には早々と当局からの認可が()りました。
 それはそれとして、10月の上旬には、ルーテシアが将来を見越して「広域捜査官」の資格試験を受けます。
 それから、同月の中旬に、ルーテシアとファビアはまた二人で、アンナの父親の病院に三日ほど入院した後、疑似受精卵が各々無事に着床したことを確認してから、丁重に八神家を()し、カルナージへと戻ったのでした。
【結果として、ルーテシアは広域捜査官の資格試験に合格したので、本来ならば、翌春からその職務に就くべきところではありましたが、彼女はファビアとともに新暦89年の3月から丸一年間の産休を取り、そのまま自宅に(こも)り続けました。】


 そして、同10月、ミッドではIMCS第36回大会の都市本戦が開催されました。
 アンナは19歳で、今年が最後の出場でしたが、微妙にコンディションを崩してしまっており、一応、都市本戦には出場できたものの、今ひとつ成績を伸ばせませんでした。
 その代わりに、プラスニィとクラスティ(16歳)が、揃ってベスト8に進出します。
 なお、今年は、アンナの妹ジュゼル(12歳)も初めて出場しましたが、都市本戦には届きませんでした。
(また、先に述べたとおり、当年14歳のディアルディアも8月の地区予選の準決勝で敗退し、そのまま当初の予定どおりに引退していました。)
【以下、IMCSの話題は基本的に省略します。】


 なお、この秋には、適性検査と筆記試験と実務研修を終えて、ブラウロニア・エレクテイオンは22歳の若さで正式に艦長資格を取得しました。
 82年の夏に、コリンティアからミッドチルダに帰化して以来、わずか6年で三佐にまでなったのですから、その苦労は並大抵のものでは無かったはずです。
 彼女は、まず八神提督の御座艦(ござぶね)〈ヴォルフラム〉で副艦長となって、さらに研鑽(けんさん)を積み、翌89年の秋には改めて新造艦を任されることになったのでした。


 また、11月になると、はやては何故か〈上層部〉の将軍たちから呼び出され、〈本局〉に出頭させられました。
 内心では『一体どの件でクレームがついたんやろか?』などと考えながらも、案内されるがままに部屋に入り、席に着いてみると、隣の席にはすでにクロノが座っています。
 そこで、上層部の将軍たちといろいろ話し合った結果、昨年から度々(たびたび)世間を騒がせている一連の〈モンストルム案件〉は、クロノ中将および八神提督の管轄ということにされてしまったのでした。


 そして、同じ頃、パルドネアのアルザス地方では、ヴォルテールの産んだ卵が、人知れず孵化(ふか)していました。
 この時点で、その体格はすでに普通の人間よりも一回り大柄なものとなっています。
【なお、この幼竜が人前(ひとまえ)にその姿を現すまでには、まだ軽く20年余の歳月を要したのですが……それはすでに「この作品の守備範囲」ではありません。】


 また、12月には、戦技教導隊で毎年恒例の「士官学校・空士コース2年生(16歳)の最終実技試験」が実施されました。
 今年は、なのはとヴィータも試験官としてこれに参加します。
(なお、この頃には、ヴィータは常に「大人の姿」でいるようになっています。)
「今年は豊作だな。有望株が四人もいるぜ。例年は一人か、せいぜい二人なのに」
 ヴィータの言うとおり、以下の四人は、将来的には「空戦Sランク」を目指せるほどの、有望な人材でした。

 まず、「ブラコンの妹」が二人もいる、ゼオール・バウバロス。
 次に、「驚くほど()け顔」の、ドストラム・ジェグーリオ。
 そして、「言動がチャラい」と(ちまた)で評判の、カレル・ハラオウン。
 最後は、「外見に似ず」可愛い性格の、マウロー・トルガザールです。

 さて、マウローは、珍しい「凍結変換資質」の持ち主で、この中では紅一点。実は、なのはの大ファンでした。
 しかし、彼女は後に、ヴィータの感想(叱咤激励)を中途半端な形で伝え聞き、『あれ? 私、もうちょっと頑張らないと、なのはさんの直属の部下には成れないのかな?』などと、全く「見当はずれ」の悩みを(かか)えてしまうことになります。


 一方、シェンドリール家では、この年の暮れに、ラゼルミア(メルドゥナたちの父方祖母、享年72歳)の10回忌がありました。
 末子ルディエルモ(14歳)は、まだ陸士2年目でしたが、実は、この頃からすでに次姉メルドゥナの「現場担当補佐官」になることを考え始めていたようです。
【実際、彼は翌89年の秋に、その試験に合格しました。そして、同じく「事務担当補佐官」の試験に合格した末姉フラウミィとともに、90年の4月からは、産休明けの次姉メルドゥナの補佐官となります。】



 
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