魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
【第5節】新暦87年の出来事。(前編)
さて、ここでまた話は少しだけ遡って……。
新暦87年の1月29日。地球の暦では、令和5年(西暦2023年)の1月22日、日曜日。月齢の関係で例年より少し早めになった「旧正月」には、リンディが高町家で「還暦」をお祝いされてしまいました。(笑)
ちょうどフェイトの「先月からの仕事」が予想外に早く終わったところだったので、なのはも「ミッドの暦で」月末の三日間(28日~30日)は有休を取って、ヴィヴィオも連れて、一家三人で地球の高町家に顔を出し、家族と一緒にリンディの還暦を祝ったり、今年で四歳になるカナタやツバサと遊んだりして来ました。
【そして、フェイトはミッドに戻ると、またすぐに仕事で辺境の某管理世界へと出かけたのですが、その仕事を終えてミッドに戻って来られたのは、4月も末のことでした。
(その仕事の解決は、下手をすれば、5月までかかってしまうところでした。)】
そして、3月26日。スバルたちがカルナージで合同訓練をしている間に、はやては自宅に二人の「お友だち」を迎えて「内緒の話」をしていました。
クロノ提督(36歳)が「イストラ・ペルゼスカ上級大将の10回忌」の際の約束を守って、マギエスラ艦長(27歳)をはやて(31歳)に正式に紹介しに来たのです。
そこで、マギエスラは改めて、はやてに「12年前の祖父の葬儀における自分の態度」について謝罪し、続けてこう語りました。
「あれから、私は『自分の祖父には何の落ち度も無かったこと』を証明しようとして、自分なりにいろいろと祖父について調べました。父からは『今さらそんなことをして何になる。やめておけ』と言われましたが……私は父に対する反感もあって、半ばムキになって調べ続けました。
でも、それで解ったのは『イストラは総代としては大変に問題のある人物だった』ということでした。あの祖父は、家庭では善人の振りをしていただけの、小悪党だったのです。私はそんなことにも気つかずに、何年間もあちらこちらに『理不尽な敵意』を向け続けていました。本当に申し訳ありませんでした」
「そんな昔のこと、もう気にせんでもええがな。お祖父ちゃんに可愛がられて育った孫娘が、大人になってもお祖父ちゃんを身贔屓するのは、人間として当たり前の感情や」
はやてからはそう言ってもらえましたが、それでも、マギエスラはまだいろいろなことに納得がいかない様子です。
話を続けるうちに、彼女はとうとうこんなことまで言い始めました。
「そもそも、全体として見れば、イストラ総代の行動には一貫性というものがありません。時として、意味不明の行動も多く……特に、〈ゆりかご〉が飛び立った際に、クロノ提督が艦隊を編成するのを止めようとしたことは、全く筋が通りません。あの祖父は一体何を考えていたのでしょうか?」
そこで、クロノとはやても覚悟を決め、マギエスラにも真実を伝えることにしました。
「これを聞いたら、もう後戻りはできなくなるが、それでも、真実を知りたいか?」
クロノにそう念を押されると、マギエスラはやや訝りながらも、決然とうなずきます。
そこで、はやてはミゼットから託された「遺言」とも言うべき映像資料をマギエスラにも見せました。マギエスラは(新暦78年の10月下旬にこれを見た、なのはやフェイトと同じように)ここで初めて「三脳髄」のことを知り、愕然となります。
「それでは……ほんの12年前まで、管理局は……その怪物どもに支配されていたのですか?」
「まあ、怪物という表現が妥当かどうかは、ちょぉ微妙なところやけどな。そんな訳で、イストラさんも脳にチップを埋め込まれたりして、いろいろと大変だったんよ。
私は、生前お目にかかる機会も無かったし、赤の他人がこんな言い方をするのも何やけど……マギエスラさんも、お祖父ちゃんのこと、あんまり悪う思わんといたげてや」
「……では、父が私に繰り返し『やめておけ』と言っていたのも、もしかして……」
「うむ。実は、ザドヴァン卿も、この話は知っている」
マギエスラの無言の問いにうなずいて、クロノはさらに、三脳髄の存在に関しては〈三元老〉が全力でそれを隠蔽したことや、彼等がそうするに至った理由や、彼等の「未来に対する想い」などについても、マギエスラに語って聞かせました。
そして、マギエスラはすべてを聞き終えると、クロノとはやてに対して自分もまた〈三元老〉の遺志に従うことを誓いました。
こうして、彼女もまた、はやてたちの「同志」となったのです。
【また、クロノはこの翌日に、正式に辞令を受け取り、中将に昇進しました。中将とは、戦時中であれば「方面軍」を任されるべき階級です。
ちなみに、各管理世界の「地上本部」は本来「方面軍」という扱いなので、その司令官の階級も当然に、原則としては中将なのですが、制度的には「一時的な状況であれば」少将でも構わないものとされています。】
なお、スバル(27歳)とミウラ(20歳)は同時に三尉に昇進しており、二人はカルナージから戻った翌日(3月28日)の朝には、各々の隊舎に出頭して早速その辞令を受け取りました。
また、ミウラは同日、はやてから「首都郊外の一戸建て」を一軒、無償で貸し与えられることになり、29日(五曜日)の午後には、スバルによくよく礼を言ってから、またザフィーラに手伝ってもらって、慌ただしく引っ越し作業を済ませました。
しかし、他には、適当な物件が見つからなかったのでしょうか。
その一戸建ては、明らかに単身者向けのものでは無く、家族が四~五人いても楽に生活ができてしまうほどの物件でした。家賃も払わずに住まわせてもらうことが、ミウラにもさすがに心苦しく思えて来るほどです。
実際、末日にまた十日ぶりでナカジマジムの方へ顔を出した時には、リグロマ会長(30歳)との会話の流れで、『実は、一人で住むにはちょっと広すぎて困っているんですよ』などと、いささかこぼしたりもしました。
すると、そんなミウラの言葉を聞いていたのでしょうか。4月になると、「双子のファルガリムザ姉妹」プラスニィとクラスティ(15歳)がその家へと転がり込んで来ます。この二人は、いささか深刻な「家庭の事情」があって実家を飛び出し、「昔の先輩」を頼って来たのでした。
おそらくは、『家族と法的に絶縁までしたミウラ先輩ならば、きっと自分たちの気持ちも解ってくれるはずだ』とでも思ったのでしょう。
(どうやら、まだ現役の選手であるアンナ先輩や「新人の育成で手一杯」のリグロマ会長たちには迷惑をかけたくないようです。)
ミウラはやむなく彼女らの両親に連絡を入れ、その了承を取り付けた上で二人を保護しました。こういう時、身分が「管理局の士官」だと、とても容易に「社会的な信用」が得られるようです。
(以後、この双子は高等科に通うことを止めて通信教育に切り替え、あたかもそれが職業であるかのように「IMCSの試合」や「ジムの広報活動」などにのめり込んで行くことになります。)
こうして、ちょっと奇妙な三人での同居生活(同棲?)が始まりました。
【以後、ミウラは丸4年の間、この「ちょっと小悪魔的なところのある一卵性双生児」にガンガン振り回され続けることになるのですが……これも、また別のお話です。】
一方、八神はやて提督は、ミウラの生活が安定したのを見ていろいろと安心したのか、この年の4月には、再び「長期の出張任務」に就きました。
新たに中将となったクロノからの正式な要請に基づいて、〈次元世界〉の西方で再び活発化した一連の「武器密売事件」をまた追いかけることになったのです。
こうして、はやては、今回はシャマルとザフィーラとリインを連れて〈ヴォルフラム〉に乗り込み、また何か月かの間、西方の諸世界を飛び回ることになった訳ですが……今回は戦闘艦が一隻だけでは微妙に手が足りない状況だったので、専属の輸送船の他にも、もう一隻、八神はやて提督の指揮下に入る戦闘艦が必要でした。
そして、クロノ中将からそうした事情を聞くと、マギエスラ艦長は命令されるまでも無く、みずからその役を買って出ます。
そうして、任務が完了するまでの四か月あまりの間に、はやてとマギエスラは公私ともに大変に親しい間柄となっていったのでした。
さて、執務官も最初の一年は試験運用期間のようなもので、『当面は補佐官を置かずに単独で、本局の「運用部・差配課」の方から回されて来る「比較的単純な案件」を処理してゆく』というのが管理局の慣例なのですが……時には、差配課も個々の案件の難易度を見誤ることがあります。
10年前にティアナが最初に担当した〈グランヴェル事件〉もそうでしたが、この年の4月に、アインハルトが初めて担当した案件も、まさにその典型でした。
最初は「ごく単純な薬物密売事件」のように見えたその案件は、〈管9ドナリム〉の首都ブラゲルドに舞台を移したところで思わぬ超展開を遂げます。
アインハルトは、現地での情報提供者があからさまな「不審死」を遂げた後、朧げながら事件の全貌が見えて来たところで、賢明にも『これは、自分だけで何とかできる案件では無い』と察して、まずは素直に「師匠」であるフェイトの手を借りることにしました。
そして、この事件は、最終的に「伝説の機動六課」の前線メンバーのうち、八神家の二人を除いた六名(なのは、フェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ)が再び集結して、アインハルトとともに『今や脳髄と脊髄だけの姿となった、ドナリム経済の「影の支配者」を排除する』という「とんでもない大事件」に発展してしまったのです。
時は、新暦87年の7月上旬。
場所は、ドナリムの首都ブラゲルドの東部郊外にある、小高い丘の上。
そこにある一群の施設は、ドナリムを代表する大企業のひとつ「デムロクス製薬」の研究施設であり、『旧暦の末、この企業が創立された頃からこの丘の上にあった』という、この企業にとってはほとんど「聖地」のような特別な施設です。
しかし、実のところ、悪事の証拠は揃ったものの、アインハルトたちはまだ「首謀者の正体」を特定できていませんでした。おそらくは、この企業の創立者の、孫か曽孫といった「直系の子孫」なのでしょうが……。
その人物が、この施設の広大な敷地の中央部に建つ「塔」の最上階に、長年に亘って引き籠り続けていることは確かなのですが、その広大な敷地全体に「産業スパイ対策」の名目で必要以上に厳重な警備が敷かれているため、その首謀者に逃亡する隙を与えず、確実にその身柄を確保しようと思うと、空から侵入して、過剰戦力でいきなりその「塔」全体を制圧するのが最も確実な方法です。
充分に離れた場所で、キャロはまずフリードを「本来の姿」に戻し、フリードは空戦の苦手な三人(スバル、エリオ、キャロ)を背中に乗せて静かに飛び立ちました。もちろん、なのはと三人の執務官も、自力で飛んでそれに続きます。
この時点で、なのはとフェイトはすでに「嫌な予感」に駆られていました。率先してその施設の対空防壁を貫き、そのまま塔の外壁をもブチ抜いた上で、この案件の担当執務官であるアインハルトを先に行かせます。
一方、スバルはフリードの背中から飛び降り、ウイングロードで地表に降下。エリオもその後に続き、フリードは続けざまに小型の火球を吐き散らかして、地上の警備兵たちの二人への攻撃を牽制しました。
キャロだけはフリードの背中に残り、想定外の状況に備えて、上空から周囲の状況を広く俯瞰します。
(結果としては、「塔の外では」想定外の状況など何ひとつ起きなかったのですが、それはあくまでも「結果」でしかありません。)
ティアナも地表に降りて、スバルと合流し、執務官の身分を明かして、警備兵たちの塔への突入を実力で阻止しました。その間に、エリオは独り地上一階から塔の中へ突入。まずはエレベーターホールを破壊し、塔内の警備兵たちを薙ぎ倒しながら階段を駆け登って最上階を目指します。
もちろん、それは「首謀者の逃走を想定し、その一団を迎え撃つための措置」だったのですが、やがて、エリオの許にはフェイトから念話で『もう逃走の心配は無いから、それほど急がなくても良い』との連絡が入りました。
(ティアナとスバルの方でも、警備兵たちはもうあらかた投降したようです。)
アインハルトが突入して見ると、その塔の最上階は広大なワンルームになっていました。部屋の中央には、巨大な透明の円筒が高くそびえ、その中には一組の脳髄と脊髄が浮かんでいます。
また、その円筒の基底部からは何十本もの機械的な触手が伸び、周囲の壁にはぐるりとモニターや操作パネルの類が並んでいました。
アインハルトは一瞬おいて、その脳髄が今回の事件の首謀者「本人」であることに気がつき、その脳髄に向かっていろいろと尋問を始めたのですが、すでに老人性の痴呆が始まってしまっているのか、なかなか要領を得ません。
なのは《ねえ、フェイトちゃん。これって、多分、例の〈三脳髄〉の実験体だよね?》
フェイト《ええ。でも、私たちには誰かに〈三脳髄〉の話をする「権限」が無いわ。はやても、今は遠方に出かけてしまっているし……。多分、この企業の創立者の「子孫」ではなく、「本人」なんだろうと思うんだけど……。》
なのは《でも……この人、もうボケてるんじゃないの?》
フェイト《困ったことに、どうやら、そのようね。》
なのはとフェイトの予想どおり、その脳髄は〈三脳髄〉の実験体であり、同時に、この企業の創立者「本人」でした。
いや。そもそも、彼は旧暦の時代に、最高評議会の三人組の口車に乗り、みずから実験体として志願したからこそ(そして、他の志願者たちが次々に死亡してゆく中で、彼だけが「運よく」生き残ったからこそ)これだけの施設と莫大な成功報酬を与えられ、「デムロクス製薬」の創立者となることができたのです。
しかし、当然ながら、新暦75年以降は、ミッドの〈三脳髄〉と連絡がつかなくなっていたため、メンテナンス用のプログラムのアップデートが全くできておらず、それから十年余を経て、その脳髄はすでに瀕死の状態に陥っていました。
今回の事件の発端となった一連の情報漏洩も、裏切り者(アインハルトの側から見れば、情報提供者)の逃亡も、この脳髄が「死の恐怖」に怯えて、いろいろと「やらかして」しまったことが、そもそもの原因だったのです。
(それにもかかわらず、この時点で、この脳髄はすでに『自分が何をしたのか』をキレイに忘れ去っていました。)
この頃のアインハルトは、まだ「一見して女性と解る服装」をしていたのですが……事件の首謀者であるその脳髄は、相手が若い女性と見るや、触手でその足腰を撫で回しながら、執拗に「悪質なセクハラ発言」ばかりを繰り出して来ます。
そして、アインハルトが何とかして、そんなボケ老人に対して「マトモな尋問」をしようと無駄に努力を重ねているうちに、エリオが早くも最上階に到着してしまいました。
すると、その脳髄がいきなり『男は要らぬと言うておろうがあ~!』などと叫びながら触手で攻撃を仕掛けて来たため、エリオは訳も分からぬまま、正当防衛の範囲内で反撃します。
しかし、エリオが電気変換資質を使った魔法で、勢い余って壁際の機器を幾つか破壊してしまうと、その電撃でその脳髄の(旧式の)生命維持装置までいきなり停止してしまいました。
結果としては、『瀕死のボケ老人に、エリオが止めを刺した』という形です。
当然ながら、本人からの「マトモな供述」は全く得られないままで、アインハルトにとっては、さんざんな初仕事となってしまいました。
【後に、この一件は「管理局から直ちに業務停止命令と全面査察を受けた製薬会社」の名前を取って〈デムロクス事件〉と名付けられ、その具体的な内容や「首謀者の正体」などに関しては、丸ごと「第一級の特秘事項」にされてしまいました。
この事件については、また「インタルード 第4章」で詳しくやります。】
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