ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第125話 ガツガツカレーを完成させろ!祐斗VSウォータイガー!!後編
前書き
2023年最後の投稿です。今年一年ありがとうございました。
side:祐斗
「はぁぁぁっ!」
「ガァァァッ!」
僕の太刀とウォータイガーの爪が激突して衝撃が走る、ウォータイガーはそのまま力任せに腕を振りぬいた。
僕は空中で一回転するように力をいなして攻撃を受け流して奴の懐に入り込んだ。
「牙突!」
そして奴の腹に和道一文字を突き刺したんだけど……
「なんだ、この感触は……?」
刺した際の感触が明らかに生物のものじゃないことに僕は違和感を感じる。この感触は水を刺したような……
「ガァァァッ!」
「飛飯綱!」
ウォータイガーが前足を上げて僕を踏み潰そうとしていたので後方に回避する。そして立て続けに放たれた水鉄砲を横にサイドステップで回避して飛ぶ斬撃を放った。
「ッ!?」
だが放たれた斬撃はウォータイガーの体に切り傷を与えたが、その傷がまるで水に石を落としたかのように波紋が広がると何事もなかったかのように元に戻ったんだ。
「攻撃が効いていないです……!」
「奴は体を水のように液状化して攻撃を無効化するのか、厄介だな」
小猫ちゃんが驚きの声を上げてイッセー君が解析してくれた、普通に攻撃しても効果はないのか。
「それならこれはどうだ!」
僕は雷を纏った魔剣を出して電撃をウォータイガーに浴びせた。
「ギャオォォォッ!?」
よし、奴は苦しそうに悶えているぞ!やっぱり水属性には電気が効くよね!
「このまま押し切ってやる!」
僕は電撃の威力を上げて更にウォータイガーに攻撃を仕掛けていく。
「やったやった!祐斗君が押してるわ!頑張れー!」
「祐斗君最高にカッコイイし!」
「相性が良かったですね、このままなら本当に祐斗さんが捕獲レベル70のウォータイガーを倒すという快挙を成し遂げてしまうんじゃないですか?」
「……」
ティナさんとリンさんが僕を応援してくれている、これは負けられないな!
そしてその横でルフェイさんが僕が勝つんじゃないかと期待のこもった目でイッセー君にそう言うが彼は真剣な表情で僕を見ていた。
「グゥゥ……」
ウォータイガーは苦しみのあまり地面にへたりこんでしまった。僕はこれを好機と思い雷の魔剣でとどめを刺そうと接近した。
「がっ……!?」
だがウォータイガーの前足から音もなく放たれた水のレーザーが僕を襲い掛かった。直前に何か嫌な感じを直感的に感じた僕は身をひねっていたが脇腹を掠めてしまう。
「ぐぅぅ……電気で弱っていたはずじゃないのか?」
ウォータイガーは元気そうに体を震わせて水をばら撒いてきた、僕は其れに飲み込まれて水の塊ごと木に激突する。
「ガハッ!?」
背中に強烈な痛みが走るが僕は歯を食いしばって意識を失うのを耐えた、そしてウォータイガーの水のレーザー攻撃を横に転がりながら避けたんだ。
「喰らえ!」
僕はまた雷の魔剣で電撃を放つがウォータイガーは余裕そうにそれを受けていた。効いていないのか!?
「なんでさっきまで効いていた電気が今は効かないの!?」
「奴は体の水を純水に変えて電気抵抗率を上げたんだ」
「えっ、イッセー君どういうこと?」
「水が電気を通すのはそこに含まれているイオンを通るからだ。だが純水にはイオンが少ない、だから電気が流れにくくなるんだよ」
「へぇ~、勉強になりますねぇ」
リアス部長は先程まで効いていた電気の攻撃が効かなくなったことに驚くとイッセー君がウォータイガーは体を純粋に変えたと話す。
それを聞いていたイリナさんが首を傾げたけどイッセー君が説明してくれた。それを聞いていたギャスパー君は感心した様子で頷く。
「ちょっとイッセー!それが分かっていたならなんで祐斗君に教えないのよ!そのせいで祐斗君が怪我しちゃったじゃない!」
「祐斗が自分で戦うと言ったからな、それくらいは自力で見抜いてもらわないと困る。じゃないと俺の指示が無ければ祐斗は戦えなくなってしまうぞ」
「それはそうだけど……」
ティナさんが抗議の声をイッセー君にかけるが彼にそう言われて黙ってしまった。
ティナさんが心配してくれるのは嬉しいけどイッセー君の方が正しい、自分で戦うと言った以上見抜けなかった僕が悪い。
「ティナさん、大丈夫ですよ。僕は負けませんから」
「祐斗君……」
僕はティナさんにそう言うと雷の魔剣をウォータイガーに投げつけた。奴はそれを回避したがその隙に新しい魔剣を出す。
「電気が駄目なら氷で攻める!」
僕は氷の魔剣を振るい奴を斬り付けた、すると斬られた箇所が凍ってウォータイガーの前足が動きを封じられる。
「このまま動けなくしてやる!」
僕は氷の魔剣を更にもう一本出して小太刀の大きさに変える、そして流水の動きで奴を惑わせる。
「ガァァァ!」
奴は再び体中から水の大砲を放つが今度は喰らわないと僕は意気込みそれを全て避けた。
「回転剣舞・六連!!」
そして怒涛の連続攻撃で奴の体を完全に氷漬けにした。
「おおっ!決まったな!」
「祐斗君もやるね」
ゼノヴィアがガッツポーズをして黒歌さんが僕を褒めてくれた。だが彼女の目は鋭くウォータイガーを見ていた。
(もちろん油断なんてしない、さっきはそれで足をすくわれたんだ。確実に命を奪うまで決して奴から視線を離さないぞ……!)
僕はさっきの不意打ちをまた貰わないように凍ったウォータイガーを警戒しながらどうトドメを刺すか考える。
「ん?なんだか蒸し暑さを感じる……」
すると夏の暑さとは違うまるでサウナの中にいるような蒸し暑さを感じた。すると地面から何か煙のような物が吹きあがったんだ。
「これはまさか……!」
僕は直ぐに大量の魔剣で全身を隠して防御の体勢に入る、イッセー君もフォ―クシールドで皆を防御した。そして次の瞬間……
ドガァァァァァァァッ!!
辺りの地面が爆発したかのようにはじけたんだ。まさか水蒸気爆発をさせるなんて……島うまは大丈夫なのか?
一瞬そんな事を考えてしまったが僕はなんとか耐えることが出来た。イッセー君達の方も島うまも無事みたいだ。
「グルル……」
そしてウォータイガーも氷を溶かして僕に唸り声を放つ。
よく見ると奴の前足が地面に溶けるように入り込んでいたんだ、恐らく奴は完全に凍らされる前に前足を地面に入れてそこから地面に水を放ってそれを沸騰させて疑似的な水蒸気爆発をさせたんだろうね、恐ろしい奴だ。
でも何故かさっきより弱弱しく感じる、流石に凍った事で疲れたのか?
だがもうあんな大量の魔剣を出す事は出来ない、僕はウォータイガーにまた水蒸気爆発を使われないように氷の魔剣を捨てて和道一文字を構えた。
「ガァァァッ!」
ウォータイガーは自身を奮い立たせて襲い掛かってきた。僕は大量の魔剣を出してしまった事で体力と精神を大きく消耗してしまい劣勢に陥ってしまう。
「ぐっ、まずい……!」
「祐斗君!」
ティナさんの叫び声と共に和道一文字を弾かれて僕は追い詰められてしまった。このままじゃ……
だがその時だった、曇っていた空から太陽の光が差し込んだんだ。どうやら晴れたみたいだね。
「グオッ!?」
するとウォータイガーは僕にトドメを刺さずに大きく後退した。どういうつもりだ?
(もしかして……)
僕は和道一文字を拾うと奴の放つ水鉄砲を回避しながら刀身で光を反射して奴に浴びせた。でもウォータイガーに変化はない。
「効いていない……光が弱点って訳じゃないみたいだ」
僕はてっきり光に弱いのかと思ったが違うようだ、でも太陽に関係していることに弱いのは間違いないはずだ。
(太陽について考えてみよう……太陽は悪魔の弱点、眩しい、紫外線がある、植物を成長させる、暖かい……暖かい?)
そういえば奴はさっきみたいに接近してこないし日陰を中心に行動している。もし僕の考えがあっているのなら……
「こっちだ!」
僕は奴の顔に泥を投げつけて森の中に入っていった。その行為がムカついたのかウォータイガーは雄たけびを上げて僕を追いかけてくる。
「祐斗!何処に行くの!?」
「何か考えがあるんだろう、追いかけよう」
そしてリアス部長やイッセー君達も僕を追いかけていく。
「はぁはぁ……確かこの先に……」
僕は先程サフラさんがコンソメナトロスを追い詰めたすり鉢状に穴の開いた地形を目指して走っていく。途中でウォータイガーが激しい水鉄砲で攻撃してくるがなんとか回避して逃げ続けた。
「つ、着いた……」
僕は目的の場所にたどり着くと後ろを振り返る、そこにはウォータイガーが追い付いていて僕にゆっくりと近づいてきていた。
「ガァァァァッ!」
そして追い詰めた獲物を狩ろうと飛び掛かってきたんだ。
「追い詰めたと思ったかい?残念、僕は飛べるんだ!」
僕は悪魔の羽を生やして奴から逃げた、まさか飛べるとは思っていなかったのかウォータイガーが驚いて一瞬動きを止めた。
「今だ!飛飯綱・乱れ撃ち!!」
僕は連続で飛飯綱を放ちウォータイガーの足元の地面を崩した。すると奴は転がりながら穴の中に落ちていく。
「光を増幅する魔剣よ!太陽の光を強めて熱を上げろ!」
僕は最後に残っていた精神力で大きな魔剣を生み出してソレを空に投げつけた、その魔剣は太陽の光の熱を増幅させて辺りの気温を一気に上げていく。
「ガァァァァッ……!?」
するとウォータイガーの体に異変が起こる、体から水が抜けていき実態が現れたんだ。
「思ったとおりだ、お前は高熱に弱い。その体じゃもう攻撃を受け流せないな!」
僕は奴が日差しが強くなってから日陰に入りつづけたこと、そして奴が水蒸気爆発をした際に酷く弱っていたことを思い出した。
(奴は熱に弱い、体の水を沸騰させるあの水蒸気爆発は文字通り諸刃の剣だったんだ!)
もしもっと早く気が付けていたらもっと上手く戦えていたんだろうが今はもうそんな事を考えている余裕はない。
「僕にとっても光は弱点……ここからはどちらかが死ぬまでのデスマッチだ!」
僕はそう言ってウォータイガーの前足を攻撃した。さっきまでと違い赤い血が噴き出した。
「よし、効いた!」
だがウォータイガーも負けていない、弱っているとはいえ前足を振るい僕の腹に切り傷を付けた。
「はああァァァァァッ!!」
「ガァァァァァァァッ!!」
そこからはもう泥臭い斬り合いだった。お互いの攻撃で地面に血が飛び散り赤く染め上げていく、暫く切り合うとお互い体から大量の血を流していた。
「一気に決める!」
僕は最後の力を火り絞ってウォータイガーの胴体を斬り付けた。だが奴は攻撃を受けながらも僕の右足を噛みついてくる。
「しまっ……っ!?」
そしてそのまま地面に叩きつけてきた、凄まじい衝撃に脳が揺れる。そして奴は休む間もなく
もう一度僕を地面に叩きつけようとした。
「ぐっ……うおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
僕は自分で自身の右足を斬って強制的に脱出した。
「龍鎚閃・惨!」
僕は空中から太刀の切っ先をウォータイガーの脳天に突き刺した。奴は痛みで暴れるが僕は決して太刀を話さなかった。
「僕だって強くなるんだァァァァァァァァっ!!」
そしてトドメに更に深く差し込んだ。するとウォータイガーはフラフラと体を揺らして遂に地面に倒れてしまった。
「ぐぅ……」
そして僕も同じように横たわる、このままじゃ死ぬ……でももう動けないや……
僕はそのまま意識を闇の中に溶け込ませていった。
―――――――――
――――――
―――
「ん……ここは……」
「祐斗、目が覚めたか!?」
「イッセー君?」
意識が戻った僕が最初に見たのはイッセー君の顔だった。周りには僕を心配する皆がいた。
「祐斗君、良かった!」
「心配したし!」
「ティナさん、リンさん……」
僕は抱き着いてきた恋人二人を優しく撫でた。足も元に戻ってる、アーシアさんが治してくれたんだね。
「イッセー君、僕は……」
「安心しろ、あの勝負はお前の勝ちだ。まあ実際は引き分けたみたいなもんだが……」
「そっか……」
イッセー君の言葉に僕は自分の未熟さを思い知らされた、コレが一人だったら僕は確実に死んでいただろう。情けないな……
「でもな祐斗、お前は自分で考えて行動してウォータイガーを追い詰めたんだ。大したもんだよ」
「あっ……」
イッセー君はそう言って僕の頭を撫でた。その優しさに僕は泣いてしまいそうになる。
「反省点はあるだろうがお前は間違いなく強くなった、よくやったよ」
「……うん、ありがとう。イッセー君」
僕はイッセー君にお礼を言った。まだまだ未熟だけど僕はもっと強くなりたい、これからもイッセー君の背中を追いかけようと強く誓うのだった。
「祐斗先輩、コレを食べてください。この島で取れた食材で作ったスープです」
「わあ、美味しそう……!」
小猫ちゃんが渡してくれた器には美味しそうなスープが注がれていた。一口飲んでみると濃厚なコンソメの味が口いっぱいに広がっていく。
「美味しい……野菜もシャキシャキしてるしこのお肉、水のようにサラッと溶けてしまう。もしかしてこれって……」
「カレーに使う材料よ」
「やっぱり……ごめんなさい、僕なんかにカレーの材料を使わせてしまって」
「何言ってるのよ、祐斗君のお蔭でウォータイガーをゲットできたのよ。まだまだ材料はいっぱいあるし気にしないの」
「あはは……分かりました」
僕はサフラさんにお礼を言ってスープを飲み干した。
「うん、もう大丈夫だ」
スープのお蔭で僕は完全に回復出来た。
「ははっ、祐斗も元気になったし早く帰ってカレーを作ってもらうとしようぜ」
『応っ!』
そして僕達は島うまに別れを告げてグルメビーチに戻るのだった。
―――――――――
――――――
―――
「サフラ~!無事で良かったっす!」
「兄貴……ごめんね、心配かけちゃって」
無事にサフラさんを連れて帰ってきた僕達は再会を喜ぶクミンさんを見て嬉しく思った。
「さあクミン、俺達はやることをやったぜ。次はお前の番だ」
「……はい!皆さんの為にも美味しいカレーを作って見せるっす!」
クミンさんはそう言って気合を入れる、いよいよガツガツカレーの調理に入るんだね。
「あの、良かったら私も手伝いましょうか?」
「いやお気持ちは嬉しいっすけど俺もサフラを見習って一人でやってみたいっす」
「そうですか……しゃしゃり出て申し訳ありません」
「いえいえ、こっちこそ申し訳ないっす」
小猫ちゃんも手伝おうかと彼に提案すると断られた。今回ばかりはクミンさんだけで完成させたいんだね、小猫ちゃんもそれを感じ取ってすんなりと引いた。
そして調理が始まった、ポテキャロニオン鳥の肉を丁寧に切り分けてコンソメナトロスの皮を薄く切ってカレーに入れていく。この時点でもう美味しそうな匂いが漂って来てるね。
「ああ、カレーの匂いたまらないわ……」
「ああ、早く食べたいな……」
イリナさんとゼノヴィアさんは涎を垂らしてカレーの完成を待っていた。僕達も待ちきれないよ。
「うおっ!?このタピオカイ、身がずっしり入っていて大きいっす!こんな良いタピオカイ初めて見たっすよ!」
「えへへ……」
自分で取ったタピオカイをクミンさんに褒められたサフラさんが照れ臭そうに笑っていた。その気持ち僕も分かるよ、イッセー君に褒められると嬉しいからね。
他にもブロッコーモリ、クロヅチヘビ、ロボスター、ヤシモドキなどもカレーの材料として入れていく。
ロボスターとヤシモドキは何故か空から降ってきたみたいなんだ、何でだろうね?
「……」
そしてクミンさんがカレーの味見をしてみるがその表情は険しかった。
「どう、兄貴?」
「……これじゃ駄目っす!」
サフラさんの質問にクミンさんは顔を苦ませてそう叫んだ。
「これだけの具材を入れてもカレーの味が強すぎて素材の良さが完全に殺されてしまってるっす!これじゃ全然駄目なんすよ!」
「ちょっと私も味見していいですか?」
「えっ、ああ良いっすよ」
小猫ちゃんもカレーの味見をしてみるみたいだね。
「それでは……なるほど、確かに味がまとまっていませんね。でもあと何かを足したら完成すると思いますよ」
「本当っすか!?」
「はい、完成まであと一歩だと思います」
「なら他にも試してみるっす!」
小猫ちゃんの言葉に希望を見いだしたクミンさんはその後も色んな食材を入れていく。さらに多くの野菜を煮込んでみたりシュモークサーモンの身をソテーして入れたりもしたけどカレーは完成しなかった。
「駄目っす!何を入れてもカレーが完成しないっす!」
「う~ん、本当にあと一つで完成しそうなんですけどね……」
クミンさんはそう言って頭を抱えてしまう、小猫ちゃんの言葉通りなら後一つの食材で完成しそうなんだけどその食材は何なんだろう?
「ねえ小猫ちゃん、いつもの食材の声を聴く力でなんとかできないの?」
「ガツガツカレーはクミンさんとサフラさんに声をかけています。今回ばかりは流石に私では……」
イリナさんが食材の声を聴く力で何とかできないかと小猫ちゃんに言うが彼女は首を横に振った。どうやらカレーは小猫ちゃんには声をかけていないみたいだね。
やはりカレーを完成させられるのはクミンさんだけなのかもしれないね。あれ、でもサフラさんにも声をかけているんだよね?それは何でだろう。
「やっぱり俺なんかじゃ親父のカレーを再現なんて出来ないんすよ……」
「兄貴、泣くな!泣くなら玉ねぎ切った時だけに泣きなさいよ!私は兄貴じゃなきゃカレーは作れないって信じてるんだから……」
「サフラ……」
泣き出したクミンさんをサフラさんが叱責しながら激励する。僕も協力したいけど流石に何もできそうにないな……
「ところでゼノヴィアさん、さっきからチラチラと何を見ているんですか?」
「ああ、こんな時になんだとは思うんだがあの器具が気になってな……」
するとルフェイさんとゼノヴィアさんがそんな会話をしていたんだ。ゼノヴィアさんは壁にかけられた枝を切る際に使うハサミのような器具が気になるらしい。
「それは高い枝を切る包丁よ。店の裏にある『ボンボンウッド』の木の実を取るのに使うの。お父さんが良く取ってくれたんだよね……」
「そうだったっすね……」
サフラさんとクミンさんは懐かしそうにその包丁を見ていた。
「……ねえ皆、良かったらボンボンウッドの実を食べてみない?」
「いいっすね、ちょっと休憩にするっす」
僕達は二人の提案でボンボンウッドの実を食べさせてもらうことにした。
「ん~♡美味しい!チョコレートの果肉にほろ苦いウイスキーの風味が合わさって最高ね!」
「ああ、コイツは美味いな。これでワインでも飲みたいもんだ」
リアス部長やアザゼル先生も大絶賛だね。僕も大人の味って感じがして好きだな。
「親父さんが生きていた去年、偶然俺ももらったことがあるんだ、久しぶりに食べたけどやっぱり美味いなコレ!」
「あはは、あの時イッセーったら食べ過ぎてお父さんに怒られていたわよね」
「親父の好物でもあったから滅茶苦茶怒られていたっすよね、イッセー涙目だったはずっす」
「は、恥ずかしいから止めろって……」
昔の思い出話をするイッセー君達に僕達も顔をほっこりさせてしまう。
「クミンさん、一つ思ったんですけどお父さんのカレーを追うのは一旦やめませんか?」
「えっ、どういうことっすか?」
突然小猫ちゃんがそう言ったのでクミンさんは驚いてしまう。
「話を聞いてるとクミンさんやサフラさんがどれだけお父さんを慕っていたのか分かります。私もお父様が大好きでしたから……」
「小猫ちゃんももしかして?」
「はい、父も母も失っています。姉様はいますので私達って何だか似ていますね」
「ふふっそうだね」
小猫ちゃんと黒歌さんの境遇もクミンさんとサフラさんに似ているんだね。小猫ちゃんの話に黒歌さんも頷いていた。
「私達のお父様も料理が上手でいつも美味しいご飯を作ってくださいました。私もお父様みたいな料理を作りたいって言ったらお父様はこういったんです。『白音は白音らしい料理をしなさい』って……白音っていうのは私ももう一つの名です。まあそれは置いておいて……」
小猫ちゃんは包丁を取り出して話を続けた。
「小さい頃はその言葉の意味が分からなかったけど今なら分かります。お父様は私の料理で誰かに喜んでもらいなさいって言いたかったんですよ」
「喜んでもらう?」
「はい、料理人にとって一番大事なのはやっぱり食べてくれる人が笑顔になってくれることだって思うんです。尊敬する人を目指したいという気持ちもわかりますがお客さんを蔑ろにしたら意味は無いと思います」
「……」
「私はクミンさんのお父さんのカレーは知りません、だからクミンさんらしいカレーが食べたいです」
「俺らしいカレー……」
小猫ちゃんの話を聞いてクミンさんは何かを考えるように空を見上げていた。
「ねえ兄貴、私も小猫ちゃんの案に賛成したいんだけどいいかな?」
「えっ……サフラ、お前はあれだけ親父のカレーを完成させたいって言ってたじゃないっすか」
「私も小猫ちゃんの話を聞いてお父さんのカレーを再現することばかりで兄貴を蔑ろにしていたんだって思ったの。コンビなのに兄貴のこと見てなかった」
「サフラ……」
「もうお父さんはいない、レシピも分からない……だったら二人でゼロから始めようよ!私も協力するからさ!」
「……俺に出来るっすかね」
「出来るよ!だって私は兄貴はお父さんに負けないくらいのカレーを作れるって信じてるから!」
サフラさんにもそう言われたクミンさんは何かを決心したように立ち上がった。
「俺、決めたっす!親父のカレーを追うのは止める!自分のカレーで勝負していくっす!」
「兄貴……!」
「いいじゃねえか、クミンらしいガツガツカレー……俺も楽しみだぜ!」
クミンさんの決意にサフラさんは笑みを浮かべてイッセー君もいいじゃないかと喜んだ。
「じゃあさ兄貴、折角だからこのボンボンウッドの実をカレーに入れてみない?私達の思い出の味をお客さんにも食べてもらいたいんだ!」
「良いっすね、俺も賛成っす」
サフラさんの提案にクミンさんも笑みを浮かべて頷いた。そして僕達はお店に戻ってクミンさんのカレー作りを再び見守りだしたんだ。
「ボンボンウッドの実を切って溶かしてカレーに混ぜる……後はかき混ぜるだけっすね」
ボンボンウッドの実を入れて丁寧に鍋をかき混ぜていくクミンさん、すると……
「こ、これは……!?」
なんとカレーが輝きだしたんだ。クミンさんは味見をしてみるが……
「う、美味い!さっきまでと違って食材が完全に調和してカレーの味を引き立ててるっす!でもどうして……」
「ボンボンウッドの実ですよ、アレが最後のピースだったんです」
「あれが……うぅ……親父ぃ……」
カレーを完成させた食材がお父さんとの思い出であるボンボンウッドの実だと分かってクミンさんは泣き出してしまった。
「泣くなって!泣くなら玉ねぎ切って泣きなさいよ!」
「ク、クミンだって鳴いてるじゃないっすか……」
「これは嬉し涙だからいいの!」
サフラさんがいつも通り叱るが今回は彼女の目にも涙が流れていた。
「さあ兄貴、お客さんを待たせてるわよ」
「そうっすね……皆さん、お待たせいたしました!ガツガツカレーの完成っす!」
その言葉に僕達は歓声を上げた。遂にガツガツカレーが完成したんだね。
「うっひゃ~山盛りの具材にウォータイガーのカツ!そこに沢山の食材が溶け込んだカレールーの匂い……たまんねぇな!」
目の前に置かれた大きな皿に盛られたガツガツカレーを見てイッセー君が大量の涎を出していた。僕ももう我慢できないよ!
「イッセー君!早く食べようよ!」
「応っ、祐斗も待ちきれないみたいだな。それじゃいつものやるぜ」
僕達は席に着いて手を合わせる。
「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます!」
『いただきます!』
感謝の合唱をして僕達はカレーを食べていく……うわぁァァっ!?美味すぎるよ!何十という食材の溶け込んだカレーのルー!そこにウォータイガーのジューシィなカツの脂が混ざって味をさらに深めている!
「美味い!これこそガツガツカレーだ!」
「うん、とっても美味しい!ハリセンカのフライも良い感じにマッチしてるわ!」
イッセー君とリアス部長もカレーにがっついている、手が止まらないんだよね。
「おかわりぃ!」
「私も!」
「はやっ!?もうちょっと味わってだな……」
あまりにも早くおかわりを要求するゼノヴィアさんとイリナさんにアザゼル先生が何か言いたそうな顔をしていた。
「ガツガツカレー美味しいね!カレーって人のこだわりが出るけどこの味私好きにゃん!」
「はい!お客さんに対して喜んでもらいたいという思いもたくさん入ってますね!」
黒歌さんと小猫ちゃんも美味しそうにカレーを食べていた。特に小猫ちゃんは自身もアドバイスしたからかよりおいしそうに食べていたよ。
「個人的には親父さんのカレーより美味く感じるな!」
「あたしはどっちも好きだし!」
十夢さんは先代のカレーよりクミンさんのカレーの方が好きだと言ってリンさんはどっちのカレーも好きだと言っていた。
僕も先代さんのカレーを食べてみたかったよ。あっ、そうだ!
「あのクミンさん、もしよかったらウォータイガーのカツ、僕のフルコースの肉料理に入れても良いですか?」
「勿論いいっすよ!祐斗君のフルコースに入れてもらえて光栄っす!」
「ありがとう!」
僕はクミンさんにウォータイガーのカツを肉料理に入れていいかとお願いしたらOKが貰えたよ!やったぁ!肉料理が埋まったよ!
「やったな、祐斗!フルコースが一つ埋まったな!」
「うん!」
「じゃあカレーで乾杯しましょう!」
『カンパーイ!』
イッセー君やリアス部長、他の皆も喜んでくれて嬉しいよ。
「皆、本当にありがとうっす。皆のお蔭でカレーが完成しました」
「何言ってるんだ、お前とサフラの努力の結果だよ」
クミンさんのお礼にイッセー君はそう答えた。このカレーはこの兄妹がいなければ完成しなかったから僕も同感だよ。
「そんなことないっす、サフラや皆がいなければカレーは完成しなかった。特に小猫ちゃんの話は俺に新しい道を教えてくれたんすよ」
クミンさんはそう言って小猫ちゃんに頭を下げた。
「親父が俺にレシピを教えてくれなかったのはきっとレシピを教えたら俺はその通りにしかカレーを作らないと思ったからだと今なら思うんす、俺は甘え奴っすから……」
「クミンさん……」
「でももう大丈夫っす!俺は俺のカレーを作っていきますから!大切な事を教えてくれて本当にありがとうっす!」
「お役に立てたなら良かったです。私もあるスープを完成させようとしていますのでもし出来たら必ず食べに来てください」
「必ず行くっす!」
「うん、楽しみにしてるからね」
クミンさんとサフラさんはそう言って小猫ちゃんと握手を交わした。
「ねえイッセー、イッセーは小猫ちゃんの事が一番好きなの?」
「ああ、彼女以外に一番はあり得ないってくらいに好きだな」
「……そっか、ならまた来年もカレーを食べに来なさいよね。小猫ちゃんや皆も一緒にね」
「ああ、絶対来るぜ」
サフラさんは少し寂しそうにイッセー君にそう話した。サフラさん……貴方にいい出会いがありますように……
「このガツガツカレーは俺とサフラで更に美味しくさせて見せるっす!これからは俺がこの店の亭主っす!」
「よっ!カッコイイぜ!クミンよく言った!男衆、皆でクミンを胴上げだ!」
『応っ!』
「わわっ!?」
イッセー君の言葉に僕とアザゼル先生、ギャスパー君もスタンドを使ってクミンさんを胴上げした。
『わーっしょい!わーっしょい!』
「わははっ!」
「ふふっ、ああいうのも良いわね……」
「男の子が夏にするバカ騒ぎですわね、少しだけ羨ましいですわ」
「そうね」
胴上げする僕達を見てリアス部長、朱乃先輩、サフラさんが暖かい眼差しで見ていた。
その後お客さんが集まってきて節乃さんや次郎さん、更にはゼブラさんも来てクミンさんはガチガチに震えていたけどゼブラさんがカレーを気に入ってくれたみたいでホッとしていたよ。
その後僕達は皆で心行くまでカレーを楽しんだんだ。色々あったけど最高の夏休みだったよ、二学期も頑張っていかないとね。
後書き
イッセーだ、色々あったけどなんだかんだ言って楽しい夏休みだったな。さあ二学期も頑張ろう……と思ったがリアスさんの実家から連絡が来たんだ。
初代グレモリーさんが起きたからリアスさんに会いたいらしいぞ、あとついでに俺にも会いたいらしい。
リアスさんの謎の力についてわかるかもしれないな、早速行ってみようぜ。
次回第126話『ご先祖様現る!ルネアス・グレモリーの語るその血の秘密!』で会おうな。
次回も美味しくいただきます!
ページ上へ戻る