魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第182話:不安の予兆
カリオストロ、そしてプレラーティの2人と連絡が取れなくなった。その情報は程なくして祭壇設置の為の準備に取り掛かっていたサンジェルマンの元に届けられた。儀式の為の生命エネルギーの不足をどうするか、颯人を贄にすればいいと言うアダムの言葉に反発しつつも次なる一手で足踏みしていた彼女にとって、それは焦りと不安を煽るのに十分な意味を持っていた。
「あの2人が……まさか……」
もし2人が死んだのであれば、アダムかティキが遠慮なくそう告げてくる。そう言う連中だと言う事は十分わかっていた。それが言ってこない上に、連絡が無いとすれば考えられるのは1つしかない。
即ち、2人は何者かによって捕らえられたと言う事。そしてその相手も、彼女は何となくだが想像がついた。
「そうか……2人は、君の元に……」
その事に対し、サンジェルマンは場違いかもしれないが安堵した。これまでの邂逅で、颯人が2人の事を粗末に扱う様な事はしないだろう事は想像がつく。それに、このまま組織に2人が居ては最悪あの2人のどちらかが生贄にされる危険も無くはなかった。颯人の身柄を確保できない今、アダムであれば躊躇なく2人のどちらかを生贄にしようとする。
それならば、いっそ…………
「決まったのかい、覚悟が?」
「……はい」
佇むサンジェルマンの後ろに、何時の間にかアダムが立っていた。隣に侍るティキは、雰囲気に似合わぬ爛漫とした笑みを浮かべている。
「私自身を贄とし、儀式を行います」
***
翼と調により倒されたプレラーティは颯人により回収され、怪我の治療を受けた後カリオストロの隣の独房へと収容された。
颯人はその事で早速弦十郎から問い詰められていた。
「それで? 何だってまた、危険を冒してまで敵の幹部を連れ帰ったんだ?」
前回カリオストロを回収した時は、響と切歌により無力化された所を回収するだけで何とかなった。だが今回の場合は少し話が違う。颯人は翼と調の攻撃の余波を受ける危険を冒してまで、プレラーティを捕えて連れ帰って来たのだ。一歩間違えれば彼自身がどうにかなっていたかもしれない事態に、流石の弦十郎も成果だけを見て、はいお終い……とはいかなかった。
弦十郎の隣にはウィズや慎次の姿もあり、三つの視線に晒された颯人は居心地が悪そうに呻き声を上げ思わず頬を掻いた。
「えっと~……その……」
「まさか考えなしに連れ帰った訳ではあるまいな?」
「いや、そうじゃないんだけどさ」
言い淀む颯人にウィズが険しい声色で問い掛ける。颯人はそれを即座に否定したが、では何故だと問われれば再び意味の無い呻き声を上げるのみ。
これでは埒が明かないと弦十郎が溜め息を吐くと、颯人は観念したように話し始めた。
「まぁ……端的に言うと、サンジェルマンさんを説得する為……なんだよ」
「何だと?」
「ほら、あの人って何だかんだで情に篤そうじゃん? 2人を倒した相手の言葉よりは、2人を捕まえただけの相手からの言葉の方に耳を傾けてくれそうだからさ」
そんな事の為に危険を冒したのかと、弦十郎とウィズは揃って溜め息を吐いた。何より問題なのは、先頭に関してはGOサインを出しはしたが捕縛に関しては何も言っていなかった事である。規律に関してはどちらかと言えば緩い方のS.O.N.G.ではあるが、それでも個人にあまり好き勝手動かれては他の者に対して示しがつかない。特に颯人はどちらかと言うと年長者の部類なのだ。子供達の規範となるべく人間が、好き勝手動くようでは困る。
「そう言う事は事前に相談してほしかったものだな」
「正直申し訳ないとは思ってるよ。でも、屁理屈を述べさせてもらうなら俺厳密には協力者って位置づけだから」
ほぼほぼS.O.N.G.の一員として行動している颯人ではあるが、細かく見ていくと彼は弦十郎に協力しているウィズの配下と言う立ち位置になる。なので厳密には彼にS.O.N.G.の命令に従う義務はないし、ある程度の自由な行動を縛る道理も無い。とは言えそれは彼自身が言う様に屁理屈の類だ。例え命令権がなくとも、仲間であるならば一言相談なりするのが礼儀と言うもの。それを無視されては困る。
とは言え、まぁ彼の言う事も的を射てはいる。それに敵の幹部を2人も捕らえられたのは情報面でも大きい。何事もなぁなぁで済ますのは宜しくないが、かと言って何でもかんでも咎めていては無意味に相手を縛り付けるだけになってしまう。それを良しとしない弦十郎は、これ以上彼を詰問する事を止め今後の事に話を切り替えることにした。
「……まぁいい。一応、敵の幹部を新たに捕らえる事が出来たのは大きな意味を持つ。その事に免じて、これ以上君を責めるのは止めておこう」
「ありがと。悪いね、毎度迷惑かけて」
「そう思うなら少しは自重してくれ。それで? これからどうする? また何か情報を引き出すのか?」
とは言え敵の思惑がほぼほぼ読めてしまった今、もう引き出すべき情報があるとは思えなかった。そう思って弦十郎が問えば、颯人は顎に手を当て自身の考えを述べた。
「翼ちゃんからの報告、聞いた?」
「勿論」
「じゃあその中で、プレラーティって人が気になる事言ってたのには気付いた?」
翼から話を聞いて、颯人はある事が気になっていた。プレラーティは戦闘の最中、こう言っていたのだ。
アダムは危険だ…………と。
「アダムは危険……か。確かに俺達からすれば奴は危険な錬金術師である事は間違いない。が……」
「それを同じ組織の幹部が、同僚の幹部に伝えようとするのは違和感がある……そう言う事ですか?」
慎次の言葉に颯人が頷く。確かに、同じ組織の人間であれば、長が危険な人物であればその事は承知の上の筈。それが敢えて伝えるような事をするとなれば、それは彼女らも知らなかったアダムの一面をプレラーティは知ってしまったと言う事に他ならない。
しかも状況をよくよく考えれば、なりふり構わず道路を疾走してまで伝えに行こうとする事にも違和感があった。何か重要な連絡事項があるのであれば、通信手段を用いて伝えればいいだけの話なのだ。アルドによれば、錬金術師は念話の様な手段で離れた相手に言葉を伝える事も出来るとの事。それが相手の元へ態々赴こうとする、それも何かから逃げるようにしているとすれば、それは別の意味を持つ。
即ち、パヴァリア光明結社の内部分裂だ。幹部達とアダムの間で、決定的な亀裂が生じた事を意味する。
「確かに、報告を加味すれば妙な状況と言うのは頷ける話だな」
「でしょ? つー訳で、早速行くとしますかね」
「何処へ行く気だ颯人?」
「決まってんでしょ? ネゴシエーションに、だよ」
「――――で? これはどういう状況なワケダ?」
不覚にも装者2人に後れを取り、捕虜となったプレラーティ。彼女は怪我の治療を受けた後、カリオストロの隣の独房に入れられていた。カリオストロ同様魔力を封じられ、スペルキャスターも没収された状況では迂闊な行動に出る訳にもいかず、情報交換も兼ねてカリオストロとあれこれ話し合っていた。
そんな中でやって来たのが颯人だった。彼は弦十郎とウィズを伴ってやってくると、徐に2人を独房から出しそのまま何と食堂へとやってきていた。そこには他の装者達も居て、響の誕生日がどうとかで駄弁っていた彼女達は手に枷を嵌められたカリオストロとプレラーティの登場に思わず目を丸くした。
「え、あれって……!?」
「カリオストロにプレラーティ? 明星 颯人の奴、何であの2人をここに……?」
困惑する響達を他所に、颯人はトレーを三つ用意すると自分とカリオストロ、そしてプレラーティの分の料理をガルドに用意させた。
「頼むぜ、あの2人には適当なのをな」
「それは良いが……大丈夫なんだろうな?」
ガルドはあの2人がここで暴れ出さないかと言う事を警戒していた。勿論そんな事をすれば自分も黙っていないが、仮にここで戦う事になった場合食堂が被害を受ける。そうなれば当然、セレナにも危険が及ぶかもしれないと言う事で、ガルドは険しい表情を捕虜の2人に向けていた。
「そこは安心しろって。今あの2人はウィズに魔力を封じられて、錬金術を使えない筈だからさ」
「筈って、お前な……」
「まぁまぁ、ガルド君。はい、颯人さん」
「お、サンキュ」
颯人は3人分の食事を受け取ると、カリオストロとプレラーティの前にトレーを置き対面の席に座って手を付け始めた。揚げたてのトンカツに舌鼓を打つ彼の姿に、プレラーティは手元の料理と彼の顔を交互に見て先程のセリフを述べた。
「何って、見ての通りだよ。仲良くなるには同じ卓を囲んで飯を食うのが一番だろ? なぁ、響ちゃん?」
「うぇっ!? あ、あぁ、はい。そ、そうですよ! 一緒にご飯食べれば、仲良くなれますって!」
いきなり颯人に話を振られて慌てる響だったが、彼がカリオストロ達と仲良くしようとしていると見ると顔に笑みを浮かべて彼の隣に座った。元より他者との争いを好まぬ彼女からすれば、こうして敵対した間柄とは言え共に同じ卓で食事を共にすると言うのは嬉しい状況である。
とは言えそれは響だから抱ける感想であり、他の者からすればこの状況は少々混沌としていると言わざるを得ない。暢気に食事している颯人に対し、カリオストロ達はバリバリに警戒心を向けているのだから。
「どういうつもりかしら? まさか、こんなのであーし達を懐柔出来るとでも?」
「こんなのとは酷い言い様だな。ガルドの作る飯は絶品だぜ?」
「そうじゃない。私達はお前の目的が聞きたいワケダ。言いたい事があるならさっさと話せ」
一向に料理に手を付けず、射抜くような視線を向けてくる2人に颯人は食事の手を止め両手を上げた。
「やれやれ……一緒に飯食って仲良くなろう作戦は失敗か。……んじゃ、こっちの手で行かせてもらうかね」
颯人はトレーを脇に退けると、テーブルの上に両肘をついて組んだ手の上に顎を乗せて本題を切り出した。
「それじゃ単刀直入に言おう。共同戦線を張らないか?」
「何?」
「プレラーティ、アンタの言動から多分だけどアダムって奴はアンタらを切り捨てる方向で動き出したんじゃないか? それを受け入れられなくてアンタらは勝手な行動を起こした。違うかい?」
颯人の言葉にカリオストロがプレラーティを睨んだ。同僚からの視線に、プレラーティもバツが悪そうに視線を逸らした。非常時だったとは言え、迂闊な事を口走ってしまった。その事を彼女なりに悔いているのだ。
「……仮にそうだとして、私達がお前達と共闘するメリットは?」
「残る幹部はサンジェルマンさんただ1人。危険なアダムが残った幹部を、さて放っておくかね?」
凡その状況が読まれている事に、2人は思わず歯噛みした。こちらの状況を分かっている中で、こんな交渉を仕掛けてくるあたりこの男もなかなかに腹黒いとか思っているのだろう。実際その通りだった。会話の端々から読み取れる関係性から、この2人がサンジェルマンを殊更に大事に思っている事は予想が付く。颯人はそれを分かった上で、この2人が飛びつかずにはいられない条件を口にしたのだ。これを強かと言わずして何と言うのか。
「この、ガキ…………!」
「落ち着け、カリオストロ。小僧、お前の言う通り、私達はサンジェルマンをあの男の手から助けたい。だがお前達に背中を預けられるほど、私達はお人好しでも無いワケダ。分かるか?」
「こっちが油断したところを背中から撃つかも……って言いたい訳でしょ?」
「理解が早くて助かるワケダ。で? お前はそんな私達を信用して共闘できるのか?」
食堂に緊張した空気が漂う。プレラーティの言う通り、この2人が目的を達成した瞬間颯人達を後ろから刺さないと言う保証はどこにもない。そもそも彼女らと颯人達の間には信頼関係のしの字すらないのだ。そんな中での共闘は、互いに不協和を生み出し足の引っ張りさえ起り得る。それを理解しての提案なのかと問えば、颯人はおどけたような感じで口を開いた。
「やっても良いけど、それやった場合助かったサンジェルマンさんが何を言うかね?」
「チッ……このガキ、ホント可愛くないわね。全部分かってて言ってるでしょ? 大した性格してるわ」
吐き捨てる様なカリオストロの言葉を、颯人は口笛を吹きながら受け流す。その飄々とした態度に一周回って感心すら覚えた2人は、互いに顔を見合わせると観念したように椅子の背凭れに体重を掛けて大きく息を吐くと枷を嵌められた手を上げた。
「なら、共闘の証としてまずはこの枷を外してほしいワケダ」
「これがあると、あーし達戦えない訳だしね」
2人の提案にウィズは何を馬鹿なと鼻を鳴らした。大体にして、別にこの2人が居なくたって今後の戦いに支障はない。だからこの提案を飲むつもりは毛頭なかった。今回ばかりは颯人が何と言おうが、ウィズは2人に嵌めた枷と掛けた魔力制御を外すつもりは無い。
そう思っていたのだが、颯人はここで予想外の行動に出た。ウィズに対して何も言う事無く、2人に嵌められた枷に手を伸ばすと、あろうことかそれをそのまま握り潰す様にして壊したのだ。
この光景には枷を外された本人達だけでなく、傍から見ていた奏達、そして何よりウィズが黙ってはいなかった。
「なっ!? お、おい颯人ッ!? お前今何をしたッ!?」
「何って? あぁ、これもしかして壊しちゃマズかった? でもウィズは絶対外してくれないだろうし、俺は外し方分かんねえからさ」
「そうではないッ! これはそんな簡単に壊せる代物じゃない筈だぞッ!」
「そうなの? でも、な~んか行ける気がしてさ」
実は颯人自身、こんな事が出来ると最初は思っていなかった。枷を外せと言われた時、どうやってウィズを説得しようかとすら考えていたのだ。
が、徐にその不安は消え気が付けば2人の枷を壊して外していた。そしてそれに関して、彼自身は何の疑問も抱いていない。
それが信じられなくて、ウィズは開いた口が塞がらなくなっていた。
「な、ぁ……」
「あんた……一体……」
「まぁ、何だっていいじゃんよ。ともかくこれで、契約成立って事で。よろしく頼むぜ、お2人さん?」
状況が分かっているのかいないのか、颯人は2人ににこやかに笑みを向けながら手を差し出す。差し出された手を、カリオストロとプレラーティは得体の知れないものを見るような目を向けながら握り返した。
その様子を傍から奏が見ていた。颯人が枷を握り潰した事もそうだが、彼女は今の瞬間気になるものを見た。
それはほんの一瞬だが、確かに見た。枷を握り潰そうとする颯人の手に重なる様な、鋭い爪の生えた異形の手。
自分以外誰も気付かなかった様子のその光景に、奏は言い様の無い不安を感じずにはいられないのだった。
後書き
と言う訳で第182話でした。
原作と違い、2人の幹部を捕虜としたS.O.N.G.は颯人の交渉により2人と一時的な共闘関係を結ぶ事が出来ました。実は最初このシーンでは颯人とカリオストロ・プレラーティが手品で勝負をして、2人が颯人の手品を見破れなかった事を条件に契約すると言う展開にする予定でした。ただ書いてる内にそれだとテンポが悪いと言う理由で、このような形で落ち着きました。
ラストで描かれた不穏な描写。それの意味するところはそう遠くない内に明らかとなります。何よりAXZ編も終盤近いですしね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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