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炎上より食べ歩き

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第一章

                炎上より食べ歩き
 ネットで時折見る炎上特に食べものにまつわるそれを見てだった。
 サラリーマンの正田治虫はいつも苦い顔で言った。癖のある赤髪で細面で明るい顔立ちである。色白で顎はすっきりしていて一七七の背ですらりとしている。
「まず食いもの粗末にするなよ」
「それでそんなのネットに出すなよね」
「そうだよ、こんなので有名になってもな」
 妹で小学六年生の渚、黒髪をストレートのロングにしていて大きな吊り目で大人びた整った顔立ちで小学生にしては背も発育も言い彼女に言った。
「一瞬でそれからな」
「ネットにやったことが残って」
「ああ、物凄い賠償金請求されてな」
 迷惑をかけた店にだ。
「それでな」
「一生それで言われるわね」
「こんなので有名になってどうするんだよ」
 実家で妹に言うのだった、正田は大学を卒業して就職してもその方が何かと楽ということで実家暮らしであるのだ。
「本当にな」
「兄さんそれがわかってるから賢いわね」
「賢いっていうか常識だろ」
 こう妹、リビングで紅茶を飲みつつ読書に励んでいる彼女に言った。
「こんなのはな」
「その常識がわかってるということはね」
「賢いか」
「そうじゃないかしら」
「学校でトップクラスの成績で今純文学読んでるお前に言われてもな」
「純文学っていっても面白いから」
 妹は平然とした顔で答えた。
「泉鏡花はファンタジーよ」
「文章難しいだろ、俺は簡単な文章しか読めないんだよ」
 こう妹に返した。
「太宰治とかな」
「そうなの」
「あと夏目漱石とかな。しかしネットで有名になったらな」
 ここで正田はこうも考えて言った。
「広告収入凄いよな」
「かなりの副収入になるわね」
「そうしたら新車も帰るか?ポルシェ買えるかもな」
「そこまで稼ぎたいのね」
「ああ、馬鹿な炎上よりもいいのないか?」
「食べたら?」
 妹は表情を変えずに言ってきた。
「文豪や歴史上の有名な人の好物自分で作ったり馴染みだったお店に行って」
「食ってか」
「それを紹介するとかね」
「動画でか」
「どうかしら、泉鏡花も」 
 今読んでいる彼もというのだ。
「お豆腐好きだったし」
「へえ、そうだったのか」
「ただ。生ものは絶対に食べなかったから」
 泉鏡花はというのだ。
「夏でも湯豆腐だったらしいわ」
「それはかなり凄いな」
「そうよね、けれどそうした動画ならね」
「視てくれる人も多いか」
「少なくとも炎上して賠償金とかにはならないわ」
「人生アウトにもか」
「当然ね」
 それはというのだ。
「ならないわ」
「そうだよな、それはな」
「だから」 
 妹は兄に言った。 
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