Fate/WizarDragonknight
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お掃除してたらいいことあったよ
前書き
新章スタート当初から難航しています……
気長にお楽しみください!
「う……これが二日酔いってやつか……」
皿洗いの手を止め、ハルトは口を抑える。
誕生日は、結局主役のハルトが倒れてしまったことでお開きになってしまった。ハルトが気付いた時にはすでに日を跨いでおり、折角の誕生日パーティもあやふやになってしまったのだ。
寝て起きてもまだ体から酒が抜けた感覚がない。ここに来るまでに、立っているだけで何度も立ち眩みに襲われた。
「ハルトさん、もうお酒は止めた方がいいね」
可奈美が苦笑いをしながらはたきを振る。
しっかりと掃除をしている彼女だが、可奈美が掃除をしているのを見るたびに、この仕事ではしっかりと掃除するのに、その努力の一部だけでも自室にはむけてくれないだろうかと思ってしまう。
「俺もう絶対に酒は飲まないから。絶対。一生」
ハルトはそう誓いながら、力を込めて皿を磨く。普段以上の勢いで汚れが落ちる感覚がする。
「人間はあんなの何で美味しい美味しいって言ってるんだ……?」
「お前そういえば味覚ねえんだったな?」
笑いながらそう言うのは、ハルトに酒を飲ませた元凶の一人。
大学の講義が早々に終わったらしいコウスケは、ラビットハウスのカウンター席で肘を付いていた。
「ま、酒が上手くねえって言われているようじゃまだガキの舌だってことだ」
「お前、あんなのが美味しいって感じるの? 信用できないよ……」
ハルトはそう言いながら、作業を続ける。
「うーん、お母さんは昔、特にビールを美味しそうに飲んでたけどなあ」
可奈美は天井を仰ぐ。
「え? じゃあもしかして、可奈美ちゃんも将来お酒をガブガブ飲むようになるの?」
「さあ? でも、ちょっと楽しみかも」
「……俺にはもう人間そのものが分かんなくなってきた。もうファントムとして生きていった方がよかったりして」
「ブラックジョークが過ぎるぜ」
コウスケはそう言いながら、注文してあったコーヒーを口にする。
「ハルトさんがまた人間不信になっちゃうよ……前回の戦いで得た経験が一瞬で意味なくなっちゃった」
可奈美が苦笑する。
前回の戦い。
それは聖杯戦争における、ルーラーの戦い。
ハルトと同じ名を持つ者を恨むルーラー、アマダムの策略により、ハルトたちは大いに追い詰められた。結果、ハルトはずっと隠していた自らが怪物だという正体を明かし、仲間たちから離れてしまった。
だが、可奈美の尽力と、異世界の来訪者による力説により、仲間の中に復帰したのだ。
「そういえば、士は今どこにいるんだろ……」
ハルトは、遠い目をしながら窓の外を見上げる。
異世界の来訪者、門矢士。またの名を、仮面ライダーディケイド。
ハルトに仮面ライダーの異名を与えた恩人である彼は、どうやら異世界から異世界を渡り歩いているようで、すでにこの世界にはもう存在しない。
「さあな? ま、アイツなら元気にやってんだろ」
コウスケはそう言いながら手を伸ばす。
「アイツ、オレが知ってる範囲では最強の参加者だったんじゃねえか?」
「そうだな……」
コウスケの言葉に、ハルトは思わずこれまで出会ってきた中で、最強クラスの聖杯戦争参加者を思い浮かべる。
まず真っ先に思い浮かんだのは、キャスター。
出会ってからかなりの時間が経つのに、未だにその名を明かしていない。
広範囲へ黒い魔法で攻撃するのと、対峙した敵の能力をコピーできる彼女が敗北する姿を、ハルトは一度として目撃していない。
次に、トレギア。
フェイカーのサーヴァントであり、ハルトと最も長い期間敵対し続けていた相手である。人の弱みを利用して、幾度となくハルトたちを追い詰めてきた。
最後に、邪神イリス。
ムーンキャンサーのサーヴァントであり、見滝原中央駅を押しつぶし、文字通り火の海に変えた怪物。可奈美たちがキャスターと手を組んだ上でも、まだ決定打にならないほどの強敵。
もし、士が彼らと戦うことになったとしても、いい勝負になりそうなイメージがある。
「そうだね。もしまた士さんに会えたら、私もお礼言いたいかも」
そう言いながら座席の雑巾がけを続ける可奈美。
だが、ハルトは見逃していない。そう言う可奈美の目は、ギラギラとした戦いを欲している目だと。
「……可奈美ちゃん、士に負けたんだっけ?」
「うん! でも、士さん本当に凄かったんだよ! もう色んな姿に変身して、その度に剣術が変わっていくのが本当にすごくて! 私の時はなんか迅位のスピードに追い付いてこれたし、もう___」
「ああ、分かってる分かってるよ!」
剣について語り出したら止まらない。
それが、衛藤可奈美という少女の個性である。キッチンでコウスケと顔を合わせても、彼女の剣術語りは止まらない。
「で、酒の話は冗談として。お前はどうなんだよ、あれから」
コウスケの問いに、ハルトは肩を窄めた。
「どうって……どうもしてないよ」
「ああ、聞き方変えるわ。今でも人間になりてえか? 寂しかったんだろ」
その問いには、ハルトは即答できなかった。
未だに語り続ける可奈美を見つめながら、ハルトは静かに答える。
「今は……そこまででもないな」
ペラペラと話を続ける可奈美。
だが、ハルトは強く記憶している。
あの日、彼女が命懸けでハルトを孤独から救い出してくれたことを。
「そっか。なら、よかった」
それ以上は野暮だと自分で判断したのだろうか。
コウスケはそれ以上言及することなく、ほほ笑みながらコーヒーを口にする。
その時、ラビットハウスの呼び鈴が鳴る。
「「いらっしゃいませ」」
ハルトと可奈美が同時に挨拶する。
だが、入って来たのは客ではない。
「ただいま! 可奈美ちゃん! ハルトさん!」
学校から帰って来たココア。
彼女は可奈美の姿を認めると、一気に彼女へ抱き着いた。
「うわっ! おかえりココアちゃん!」
可奈美も驚くのは一瞬で、頬ずりをしてくるココアを受け入れている。
「私の可愛い妹!」
「わーい!」
「ココアさん……やっぱりとんでもない節操なしです」
呆れた表情をしながらココアに続いて入って来たのは、チノだった。
彼女はココアの袖を引っ張る。
「ココアさん。制服のままですよ。汚さないうちに着替えますよ」
「チノちゃん……これってもしかして、ジェラシー!?」
袖を引っ張られながら、ココアは目をキラキラさせる。
「大丈夫だよチノちゃん! 私にとっては、チノちゃんも大事な妹だからね!」
ココアは可奈美を抱えたまま、チノも抱く。二人をまとめて抱きしめる彼女に対し、可奈美は喜んでいるがチノは手で抵抗していた。
「おお、ココアすげえ器用だな」
「仕事は不器用だけどね」
ハルトはそう言って、最後の皿を洗い終える。
「よし。これで終わり。あとはお前のコップだけだな」
「? ああ、コイツか。もうちょいゆっくり飲ませろよ」
「別に急かしたりしてない。……そういえば、昨日はえりかちゃんも呼んでくれてありがとね」
「ん? ああ」
コウスケは頷いた。
昨日来てくれた人の中で唯一、蒼井えりかのことだけ、ハルトは良く知らない。
見滝原大学にいることが確認できたが、彼女の素性や願いなどはほとんど分かっていない。
「アイツも楽しんでいたみたいだからよかったぜ」
「だね。前からも分かっていたけど、何より彼女が聖杯戦争に参戦派じゃないってわかったのが一番よかったよ」
ハルトは安堵の息を吐いた。
「あとは、彼女のマスターだよね。何かしらない?」
「うんにゃ。オレもアイツのマスターは知らねえんだ。まあ、いつも大学にいるから、お前が前に言ったとおり、大学の人間なのは間違いねえだろうが」
「学生のサーヴァントだったとして、常に大学にいるとは考えにくいけど、かといって教授も常に大学にいるわけではないだろうし……可能性としては、事務員が一番高かったりするのかな」
「何なら直接聞いてやろうか?」
コウスケはスマホに登録されている『蒼井えりか』の名前を見せつける。
「連絡先!?」
「ああ。当然、オレは交換済みだぜ」
「それを早く言って!」
ハルトは思わず声を荒げた。
「それだったら、どこかで彼女のマスターに会いに行きたいな。また改めてさ」
「だな。取りあえず、蒼井とマスターの予定聞いとくぜ。どっかで話せねえか」
コウスケがポチポチとメッセージを送っている一方、可奈美がどんどん掃除を進めていく。
彼女は壁に飾られている額縁を外し、雑巾で拭き始める。すると、額縁から何かが零れ落ちた。
「あれ?」
一度額縁を元に戻し、落ちた物を拾い上げる可奈美。
「何だろ? これ」
「どうしたの?」
「こんなところに何か入っていたんだけど」
可奈美はそれを広げた。
古びた四つ折り紙。右下には地図らしきものが残りの三面には、それぞれ別々の記号が記されている。
覗き込むココアも、可奈美と同様疑問符を浮かべていた。
「地図と……これは、お店のマーク?」
「ラビットハウスと……あ、これって紗夜さんが働いているお店」
マークに検討を付けた可奈美。ココアが「きっと甘兎庵だね」と補足し、改めて紙を分析する。
直線による図形が無数に記入されており、見滝原___特に、この木組みの街地区の地図にも見える。
「ちょいっとオレも拝見……コイツは……シストの地図だな」
コウスケが覗き込みながら言った。
「シスト?」
「地図に宝物があるだろ? ほら、ここ」
コウスケはそう言って、地図の一点を指差す。
「この地図を作った奴が、ここにあらかじめ宝物を置いておくんだ。んで、地図を持った奴が宝物の中身を自分のものと交換して、また地図をどこかに隠す。まあ、木組みの街じゃたまにある文化だって有名だぜ? ま、宝探しだな」
「お前はやったことあるのか?」
「昔ダチん家行った時にな」
コウスケは懐かしむように頭の後ろで手を組む。
「実家は見滝原じゃねえけど、ダチがこっちに住んでたからな。ちょくちょく遊びに来てたぜ」
「チノちゃんはやったことあるのかな?」
「ありますよ」
チノが、そう言いながらホールへ降りてくる。
私服に着替えた彼女は、可奈美が手にする地図を見下ろす。
「懐かしいですね。街にいくつ地図が隠されているんでしょう?」
「そんなに沢山あるのか……」
「ま、そりゃそうだろ」
コウスケが苦笑する。
「木組みの街だと、恒例行事みてえなもんなんだろ? 昔から喫茶店を営んでいるんだ。やってねえ方が驚きだぜ」
「この街では、みんなやったことあるんだ……私も、やってみたい」
ココアが泣きだしそうな顔で呟いた。
「へえ、いいじゃん。可奈美ちゃんも行ってきなよ」
ハルトはそう言って、可奈美が手にしている雑巾を取り上げる。
「後は俺がやっておくから」
「ダメ! ハルトさんもやろうよ!」
「え? いや、俺もう大人だし……」
「いやいや、ハルトさんにも参加してもらうよ!」
可奈美だけではなく、ココアもまたハルトの背中を押す。
「ちょ、ココアちゃんまで……!」
「そうですね。私も、このシストに少し興味があります」
チノはココアの頬に頭を押し付けながら呟く。ココアが目を輝かせているが、それに構わずにチノは続ける。
「今度、皆で行きましょう」
「いいの? また別の日になるよ?」
「全然! そっちの方が楽しいよ!」
「私も! ハルトさん、一緒に行こうよ!」
可奈美がハルトの肩を揺らす。
二人に強く押されたハルトは困り果て。
後日、シストに行く約束を交わすのだった。
後書き
響「美味しいよ~! 寄って行って見て行って!」
キャスター「……ランサー?」
響「キャスターさんッ!? 何でここにッ!?」
キャスター「マスターは放っておけば何も食べないものでな。私が立つしかない」
響「へ、へえ……」
キャスター「お前はここで日雇いか?」
響「ちゃんとしたアルバイトだよッ! コウスケさんに注意されたんだよね、そろそろバイトくらいしてくれって……」
キャスター「……近頃のサーヴァント、全員働いているな」
響「友奈ちゃんは新聞配達、真司さんはファストフードだよね? キャスターさんは?」
キャスター「マスターの指示だ。色々と調査している」
響「調査? ……あッ! そろそろ時間だッ!」
キャスター「時間?」
響「そうッ! はい、この半額シールを張るとあら不思議ッ!」
___賭けろPRIDE 死ぬまでオオカミ 負け犬に成る つもりはない___
キャスター「……何だこれは? 弁当を狙う客たちの動きがおかしい……」
響「これこそ、聖杯戦争にも匹敵する、半額弁当争奪戦ッ!」
キャスター「まさか、タイムセールの弁当を狙っているのか? こんな時間帯に?」
響「そうだよッ! ここは狼って呼ばれてる人たちが拳と拳を交えて、己の拳を賭けて戦っているんだよッ!」
キャスター「バカな……」
響「かくいう私も、非番の日はよく参加しているよッ! でも、氷結の魔女って人には結構相打ちになってるんだよッ!」
キャスター「お前ほどの武術の才を極めている者が同格の一般人……?」
響「これこそ、ベン・トーッ! 特に2011年10月から12月までは熾烈を極めていたんだってッ!」
キャスター「重ねて聞くが、何故奴らはここまで苛烈な戦いをしているんだ?」
響「キャスターさん、それは当然だよ……ッ! だって、お弁当は……聖杯戦争以上の戦いだからッ!」
キャスター「参加者の……しかも、反対派とは思えない発想だが……」
響「拳でぶつかり、そこからその人のことが分かるッ!これぞ、青春ッ!」
キャスター「ほう……面白い」
響「キャスターさん?」
キャスター「手加減してやる……私も、参加させてもらおうか……!」
響「わーッ! キャスターさんがッ! 他の人たちを一瞬で蹴散らしたッ!」
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