IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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『天災』にして『天才』
現在いるビーチは四方を切り立った断崖に覆われた天然のアリーナ風のビーチで、外から出入りするにはISで水中トンネルを潜る必要があります。
空からなら出入りできる、って思われがちですがそれは上空を見張っている教師陣のIS部隊を抜けたらの話ですね。むしろ海中を通った方がまだ確率があります。なんて言ったって学園の教師陣のほとんどは元国家代表か元代表候補生なのですから。
なので現在このビーチにいるのは織斑先生と山田先生、そして各クラスの担任、副担任の方たちです。その8人だけで100人を超える1年生を教えるのですから先生というのは大変ですね。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験。専用機持ちは海上でそれぞれの専用パーツのテストだ。各員準備にかかれ」
『はい!!』
ちなみにその専用パーツは始まる時間になる前に搬入済みです。あとはインストールするだけなんですけど私がやると一時間以上かかるんですよね。20分でインストールってリース先輩早すぎです……
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
箒さんが呼ばれましたね? どうしたんでしょう?
「お前には今日から……」
「ち―――ちゃ~~~~~んっっ!!」
え? え!? 何この声!? ていうか誰!?
周囲を見渡すと崖の上から誰かが砂煙を上げながら駆け下りてくる。ていうか速っ!
その人影が崖下までたどり着くと大きく跳躍して……
「やぁやぁ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグしよう! 愛を確かめよう! いやむしろそのままベッドイ……」
グキャ!
「ぐえ……!」
「うわ……」
織斑先生が飛んできた人の顔面をダイレクトにアイアンクロー……骨の軋む音と共にその人が織斑先生の右手に掴まれた状態でブランブランと揺れています。
あれ? あの人は確か昨日の幻覚……?
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬぬ……とう! 相変わらず容赦無いアイアンクローだね!!」
シュルン! っと言う軽快な音と共に束と呼ばれた女性がそのアイアンクローを抜け出す。すごい、人間業じゃない。今どうやったんですか?
それだけ言うと束さんはいつの間にか岩陰に逃げ込んでいた(何で?)箒さんの所に走っていくと……
「やぁ!」
「ど、どうも……」
「えっへへ~、久しぶりだねぇ。こうやって会うのは何年ぶりかなぁ、大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱいが…グフゥっ!?」
いきなりのセクハラ発言にどこに持っていたのか箒さんが竹刀で突きを放つ……うわぁ……あれモロ喉に入りましたよ!? 普通死んじゃうんじゃ……!
「……殴りますよ」
「ていうかそれは殴るじゃなくて突くだよ箒ちゃん?」
あの突きを喉に食らって何で普通に喋れるんですか……この人も十分普通じゃないですね。
バシン!
「ザクゥッ!?」
「では今度から殴りましょう」
「殴ってから言ったぁ! 箒ちゃんひどーい! ねぇいっくん、酷いよねぇ?」
「え、えーっと……」
いっくんと呼ばれた一夏さんが困り顔で頬を掻いています。この呼び方と一夏さんの反応を見るからに完全に知り合いですね。
うん? 束……箒さんの関係者で束ってまさか……この人……
「え、えっと……この合宿では関係者以外立ち入り禁止の……」
「ん? 奇妙なこと言うねえ。IS関係者というなら、IS生みの親の私は関係者以外の何者でもないと思うのだけど?」
「え、あ、はい。そうですね……すいません」
山田先生撃沈。
え、ちょっと待ってください?
箒さんと知り合い、一夏さんとも知り合い、織斑先生の知り合いでISの生みの親ってもしかして……!
「おい束。自己紹介位しろ。うちの生徒たちが困っている。」
「え~っ! メンドクサイなぁ。私が天才の束さんだよー。以上!」
そう言ってくるりと回って見せるこの人は……やっぱり!
通称『天災』の『天才』と呼ばれる……
「や、やはり……この人があの…」
「篠ノ之……束……」
セシリアさんとラウラさんの呟きが聞こえました。というより他の人も私も声が出ないだけで内心同じ心境です。
全世界規模で確保命令と指名手配されている人がなんでこんなところに!?
そんなことを考えていると山田先生が織斑先生の指示でざわついている各班の担当に向かいます。
「それで、頼んでおいていたものは?」
箒さんが躊躇いがちにそう尋ねました。その瞬間束博士の目が本当に光る。こう何かギュピーンって。
「ふっふっふ~、そこは任せなさい箒ちゃん! さあ! 大空をご覧あれ!!」
束博士がビシッと直上を指差すと何かが降ってきた。
砂浜に轟音と共に降り立った巨大なそれは銀色の立体の水晶体の様な何か。それが一夏さんの一歩手前に落下してきたのだ。
「あ、危ねえ~……」
危うくぺちゃんこになりそうになった一夏さんが思わず肩を下ろす。それと同時に目の前の水晶体が開いた。私のISがそれに反応しました。
IS……反応? ということはまさかこの中身は……
水晶体が倒れこみ浜辺の砂を巻き上げて中身を一瞬覆い隠します。
その砂煙が晴れると同時に束博士が誇らしげに声を上げました。
「じゃじゃじゃーんっ! これぞ箒ちゃんの専用IS『紅椿』!! 全スペックが現行ISを上回るメイドイン私の機体だよ!」
その言葉に反応するように作業アームで外に出されてくいるのは真紅の装甲のIS。
ってちょっと待ってください! 全スペックが現行ISを上回る!?
「さぁ! 箒ちゃん、さっそくフィッティングとパーソナライズを始めようか! 何心配ない! この束さんが補佐するから直ぐ終わるよー」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~箒ちゃん。実の姉妹なんだから、もっとこうキャッチーな呼び方でね。こう例えばそう、お姉ちゃんなんて……」
「……早く、始めましょう」
「ま、それもそうだねー。時間は有限だからねー」
箒さんが『紅椿』に乗り込むと束博士がコンソールを開く。
「箒ちゃんの基本データはもう入力してあるからね、後は最新データに更新するだけだよ~。ちょちょいのぱってねー」
束博士はそう言うと空中投影型のディスプレイとキーボードを6枚ずつ呼び出しすとそれを操りだしました。
普通どんな人でも同時に出来る作業は2つか3つが限度のはずなのにこの人は6枚のキーボードとディスプレイを同時(・・)に操っています。
手と目線を見れば分かる。この人は一瞬でディスプレイ全てに映し出されるデータを把握してそれを全て手元の6枚のキーボードで対応させてる。
しかもディスプレイに映し出される物の時間はほんの数秒。一枚でも私には追いきれないのに束博士はそれがさも当然であるかのように読みきって次々にデータを更新していきます。
「近接戦闘を主眼にした万能機だから、箒ちゃんに馴染むと思うよ。後は自動支援装備もつけておいたからね、箒ちゃんのために……お姉ちゃんが!」
「それは、どうも」
箒さん、何か固いですね。実の姉妹だって言うのに……やっぱり天才の妹と言うのは苦労が多かったんでしょう。
「ん~? おお、箒ちゃんってばまた剣の腕が上がったかな? 筋肉のつき方でわかるよ」
無駄話をしながらもその速度は全く遅くならない。いえ、むしろ箒さんと話をしている時は反応速度が上がっているように見えます。
「すごい」
誰の口から出たのか分かりませんが……いえ、私かも知れませんが……すごいという言葉でさえこの人には足りない気がします。
これが本当の『天才』……
「はい、フィッティング終了ー。超速いねさすが私!」
た、たった3分……速すぎる……こんな速度でパーソナライズとフィッティングが出来る人なんて今まで見たこと無い。リース先輩が素人のように見えてしまう。
「ふふん、後は自動処理でパーソナライズも終わるからねー。さてさていっくん、『白式』みーせてー」
「あ、はい」
束博士はそう言って『紅椿』を離れると一夏さんのほうに近寄っていく。箒さんのほうは調子を確かめるようにISの手や足を動かしています。腰には刀型の近接ブレードが2本。ということはあれも『白式』と同じく近接戦闘特化ということでしょうか。
そう考えているうちに束博士が一夏さんの展開した『白式』にコードを刺してディスプレイを眺める。浮かび上がったのはフラグメントマップ。
「ん~……不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ? 見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?」
フラグメントマップはISが独自に成長していくモノだそうで、人間でいう遺伝子みたいなものです。ほとんどの人はそれぞれ違うフラグメントマップを作りますが基礎は同じだそうで……でも今はあの束博士でさえ首を傾げています。
「束さん、そのことなんですけど、どうして男の俺がISを使えるんですか?」
「ん? ん~……どうしてだろうね。私にもさっぱりなのだよ。いっくんのことをナノ単位まで分解すればわかる気がするんだけど、していい?」
うわあ、マッドサイエンティスト……しかも分かる気がするって分からないかも知れないって事じゃないですか。そんなので分解されたくないですよ。いえ、確定で分かるとしても分解されたくなんて無いですけど。
「いい訳ないでしょ……」
「にゃはは、そういうと思ったよん。んー、まあわかんないならわかんないでいいけどねー。そもそもISって自己進化するように作ったし、こういうこともあるんじゃないかなー」
束博士はそう言うと高らかに笑ってコードを抜き取る。
「ちなみに、後付装備ができないのはなんでですか?」
「そりゃ、私がそう設定したからだよん」
「え、ええっ!? 『白式』って束さんが作ったんですか!?」
その言葉にその場にいた全員の動きが止まる。
いえ、でも……そう考えると最初に一夏さんと戦ったときにデータがUnknownだった理由も説明がつきます。
「うん、そーだよ。っていっても欠陥機としてポイされていたのをもらって動くようにいじっただけだけどねー。でもそのおかげで第一形態から単一仕様能力が使えるでしょ? ま、元々日本が開発してたのはそういう機体らしいし結果オーライ?」
「馬鹿たれ。機密事項をぺらぺらバラすな」
「ドムゥッ!?」
織斑先生が束博士の頭を出席簿で叩きました。素晴らしい角度と音が浜辺に響き渡りましたが束博士は痛がってる風には見えません。
「いたた。は~、ちーちゃんの愛情表現は今も昔も過激だね~」
「やかましい」
痛いとは言ってるんですけど叩かれた部分を両手で押さえてるだけで顔は笑顔です。
それにしても今束博士が言った言葉……元々そういう機体を日本が開発していた? それの欠陥機が『白式』?
あんな近接戦闘特化のISなんて実戦じゃ使えないのは誰の眼から見ても明らか……それを必要とする目的は多分一つだけ。ISによるISの制圧、所謂対IS用ISのこと。
でも確かに『白式』の性能を見れば対IS用ISと見えなくもありません。シールドエネルギーが無いとISの堅牢な防御力は維持できないから、それを削り取れる『白式』がいればISでの戦闘は圧倒的に有利に立てる。
そうすればまた世界の中心に日本が来ることも不可能では……
「あ、あのっ! 篠ノ之博士のご高名はかねがね承っております! もしよろしければ私のISを見ていただけないでしょうか!?」
不意に上げられた声に意識を戻すとセシリアさんでした。あの有名な束博士を前にしてISを見てもらいたい、というのは私も一緒です。ただ何となくきっかけがつかめなかっただけで。
わ、私のも見てもらえません……
「誰?」
か……ってえ?
「金髪は私の知り合いにいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再会なんだよ。そういうシーンなんだよ。どういう了見で君はしゃしゃり出て来てるのか理解不能だよ。っていうか誰だよ君は」
ち、超絶的毒舌……!
「え、あの……」
「うるさいなあ。あっちいきなよ」
「う……」
あまりの毒舌っぷりにセシリアさんは言葉も出ずにスゴスゴと下がるしかありません。なんでしょう。一夏さんたちと見る眼が文字通り違うんですよね。人嫌いなんでしょうか?
「ふー、へんな金髪だった。外国人は図々しくて嫌いだよ。やっぱ日本人だよね。日本人さいこー。まあ、日本人でもどうでもいいんだけどね。箒ちゃんとちーちゃんといっくん以外は」
「あと、おじさんとおばさんもでしょ」
「ん? んー……まあ、そうだね」
一夏さんの言葉に本当にどうでも良さそうに束博士が答えるのを見て分かった。この人は自分でも言ってる通り本当に親しい人以外に興味が無いんだ。
普通の人は自分の嫌いなものは記憶に残りずらいし興味を持てない。それと同じように、どうでもいい人の存在はすぐ忘れる。
天才と呼ばれる人は奇人変人の類が多いと聞きますがこれは予想以上に……
「こっちはまだ終わらないのですか?」
「んー、もう終わるよー。はい終わったー」
「じゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ。それでは試してみます」
そう言って箒さんが眼を閉じて意識を集中させる。
『おぉっ』
その一瞬で箒さんは空中に打ち出されるように飛び上がり、その余波で砂浜の砂が巻き上がる。
頭部だけ部分展開することでハイパーセンサーで箒さんの姿を捉えました。
周囲の歓声はその速度と機動性に対して。パッケージもなしであの速度は正直異常です。『全スペックが現行ISを上回る』……流石としか言えません。
「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
『え、ええ……、まぁ』
通信を介して箒さんの声が聞こえます。嬉しいような複雑なような声。
「じゃあ刀使ってみよー。右のが『雨月』、左のが『空裂』。雨月』は対単一を想定した武装でね、突きの動作に合わせて刃部分からエネルギー刃を連射して敵を蜂の巣に! する武器だよん。射程距離はまあアサルトライフル程度だけど『紅椿』の機動性なら関係ないね」
その束博士の説明通りに箒さんが右手に持っている刀を構えると、腕を前に突き出して突きを放つ。
突きが放たれると同時に一瞬箒さんの周りに赤い球体が現れ、レーザーとなって上空にあった雲を穴だらけにする。
あれで射程がアサルトライフル程度って……それに一発の威力もセシリアさんのレーザーライフルと同等かそれ以上。
「次は『空裂』ねー。こっちは対集団の武装だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよ。振った範囲に自動で展開するから超便利! そいじゃこいつを撃ち落としてみてね。ほいっと」
そう言うと同時に束博士はISも展開していないのに16連装ミサイルポッドを呼び出し箒さんに向けて一斉射撃!
え、何……それ。
しかも展開まで1秒かかってない!
「箒!」
一夏さんはそれどころではないようで、箒さんに向けて叫ぶけど、それは要らぬ心配でした。
『―――いや、行ける!』
箒さんが『空裂』を右脇下から振るうと共に帯状の赤いレーザーが広がる。そのレーザーが迫っていた16のミサイルを全て撃墜しました。
「すげぇ……」
一夏さんの感想はその場の全員の感想でした。何せ箒さんは『紅椿』に乗って稼働時間5分にも満たない。それであそこまで出来れば……十分強い。強いなんてレベルじゃない。『全スペックが現行ISを上回る』という言葉を改めて理解することになりました。
箒さんが下りてくるまでその場にあったのは関心と言う名の沈黙。誰も呆気に取られて何も言えません。
「た、た、大変ですっ、織斑先生!!」
その場の空気を崩したのは慌てた声で駆け寄ってきた山田先生。
「どうした?」
「こ、これを!」
山田先生が小型端末を織斑先生に渡す。そしてそれをみた織斑先生の顔がいつもより険しくなっていくのが見て分かった。
そしてその場でものすごいスピードで手話での会話に切り替える。
これ、普通の手話じゃないですね。一応代表候補生は手話も覚えてるのですがほとんど分かりません。日本独自の暗号手話、と言ったところでしょうか。
それが終了すると山田先生はそのまま走り去って行きました。
「全員注目!」
織斑先生が手を鳴らしてその場の全員の視線を集める。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼動は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。なおこれより許可なく室内から出た者は我々で拘束する! 以上だ!」
「「「はっ、はいっ!」」」
有無を言わせない口調の織斑先生にその場の全員が質問をすることも出来ずに作業に戻る。
一体何事……なんでしょう。嫌な予感しますね。こういう時の嫌な予感というのは当たるから嫌です。
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。
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