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鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

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第零章 メイファー・シュタット事件
プロローグ
  三人目の赤ん坊

 
前書き
始めましてブラッドエッジと言います
まずはプロローグです。 

 
 武芸者であるデルクは三人の赤ん坊を抱えながら、目の前で事切れていた女性の目を閉じた。その手は少しだけ震えていた。しかし、それは悲しみでも小さな命を救ったという安心からではない。目の前にいる女性の命を奪ったと思われる汚染獣の周囲の炎に勝るも劣らない憤怒の感情だった。
 

 今回の事件は極めて稀有なケースの汚染獣による襲撃事件だった。デルクが住む槍殻都市グレンダンではそこまで珍しい事件でもない。しかし、グレンダンに侵入し外来者受け入れのある宿泊施設を壊滅させたという事は、グレンダンでもそうそうはない。
 そんな事件の中、ただ一人宿泊施設に突入したのがデルクであった。
 今回の事件はグレンダンの最高戦力である「天剣授受者」が出張るものだ。一介の戦士であるデルクが突入する必要はない。
しかし、彼は聞いたのだ。燃える炎の中、悲痛に泣く赤ん坊の声を。
 行かないわけがなかった、否、行かない理由などあろうか? 自分の身には人を超えた武の力、しかし危険地帯にいるのはなんの力を持たないであろうただの赤ん坊。
 周囲の制止の声を振り切って、デルクは炎を衝剄で切り払った。
 本来なら装備を整えてから突入するべきだろうが、デルクは子供の声を聞くためにあえてそれをしなかった。そんな中、襲撃者であろう汚染獣がデルクに不意をついて襲い掛かった。
 一撃を受けきったデルクだったが、それは相手が人の形をしていたため、筋力が普通の老生体よりも遥かに下回っていたからに過ぎない。本来ならば武器である錬金鋼はへし折られ、その一撃はデルクの体を紙のように切り裂いていたことだろう。それだけ、老生体の一撃を受けるというのは命懸けなのだ、いや、本来なら受けてはいけないのだ。
 その後、なんとか老生体を退けたデルクは赤ん坊がいるであろう部屋に入った。そこは扉が閉められていたおかげで、隙間から入ってくる煙だけで済んでいたが時期に火が回ることは間違いなかった。
 そしてデルクはベッドを見ると、既に事切れた女性を発見したのだった。
 

 まだ若い、長い亜麻色の髪をした二十代そこそこの女性だった。そして女性の脇には三人の水に濡れた布に包まれた赤ん坊が泣いていた。
「……」
 三つ子か、とデルクは思ったがどうやら違うようだ。二人の子供は上質の布が使われており、一人は古着を再利用したようにあまり上質な布ではなかった。
 デルクは女性の服を見る。上質な布に包まれた赤ん坊達と違い、旅疲れしているのか色あせた服だった。逃げている途中で拾ったのか、とデルクは考えた。
 三人の赤ん坊を抱くのは少々大変だが、孤児院ではこれの倍の人数を相手にしたことがあるデルクにとっては慣れた行動だった。器用に左手で三人を抱えると女性に向かって黙祷をした。せめてもの供養になるように。
 その時だった、爆発と共に老生体が現れたのは。
「くっ」
 素早く三人を守る姿勢を取る。大きい音に驚いたのだろう、三人とも先ほどよりも鳴く声が大きくなった。
そして文頭に戻る。


「クケ、ケケケケ」
 笑ったのだ、その老生体は。女性を見ながら、まるで狩りをして獲物を取った狩人のように笑ったのだ。
 その声に、デルクは憤怒の表情を変えぬまま空いていた右手を裏拳の形をとって衝剄を放った。壁ごと窓ガラスが破砕され、その出来た穴からデルクは飛び出した。
 いくらデルクが腕の立つ武芸者でも赤ん坊を抱えながら戦闘など出来るはずがない。赤ん坊に支障のない程度に走るが、人間と汚染獣、身体の身体能力は汚染獣に分がある。いずれは追いつかれるが、デルクは一人ではない。デルクが追おうとしていた老生体に何十発にも及ぶ衝剄の嵐が殺到する。
 外でデルクの帰還を待っていた武芸者たちが老生体を見逃すはずもなかった。デルクはそのまま走り続け、待機していた未成年武芸者に赤ん坊を預けた。
「なっ!? 幼生体だと」
 デルクを含む、武芸者が混乱していた。それほどまで幼生体の出現はイレギュラーだった。しかし、この程度でうろたえるほどグレンダンの武芸者のレベルは低くはない。
 素早く体制を立て直し、衝剄を放ちながら突貫する。汚染獣の中でもっとも弱い幼生体に遅れを取る武芸者はこの中にはいなかった。
 デルクも部下を率いて幼生体に突貫するが、デルクの目標は幼生体ではなく老生体だった。それ以外には目を向けずに、ただ老生体への道を切り開くために手の中の鋼鉄錬金鋼を振るった。
 ベッドにいたあの女性を思い出す。安堵した顔だった。子供を守るという親として立派な行為を果たして死んだ。最後まで子供のことを思っていたのだろう、腹には深い傷を負っていたがそれでもあそこまで逃げる執念と濡れた布を子供に包んだその愛情。だが、それを笑ったのだ、あの汚染獣は。それは、もしかしたら鱗と鱗が触れ合って生まれた幻聴だったのかもしれない。
 それでも、そうだとしても……
「……」
 ガキィ! と甲高い音がして錬金鋼と老生体が持つ歪な剣が打ち合った。
 老生体の顔を見ると目があった。いや、目というには歪。瞼も表皮もない、生物とは思えない目だったが、その目は驚いているように見えた。
 そんな時、背中から伸びている四対のかぎ爪が一斉にデルクに襲い掛かった。それを交わし、デルクは隙を見て一本のかぎ爪を切り落とす。
 そしてそのペースを保ちながら、かぎ爪を落としながら戦っていた。普通ならばデルク一人では老生体を倒すことはできないだろう。
 しかし、人型という形を取っていたのが良かった。人の形をしているなら基本は人間と同じであり、武芸は基本的には汚染獣に向けて使うものだが一番戦う訓練相手は人である。そのため、多少の力量差は経験でカバーしている。
 デルクは左側のかぎ爪を全て切り落とした。左側に武器がなくなったせいか、老生体はデルクが左側に回り込もうとすると右手に持った剣で振り払おうとする。デルクは冷静に刀で受け流しながら、仕込みを続ける。
 デルクの行動にイライラしていたのか、老生体は大振りの剣戟を繰り出す。そしてそれと同時に今まで守りの姿勢に入っていたデルクが一気に前に出た。老生体はまた笑った、勝ちを確信して……だが、剣と刀がぶつかりあった瞬間、剣が粉々に砕けた。
 外力系衝剄の変化、蝕壊。
 武器を破壊する剄技だ。何度もぶつけていたのは少量の剄を流し込みながら確実に壊せる硬度まで待っていたからである。
「かぁっ!!」
 内力系活剄の変化、戦声。
 大気を振動させ、破片を全て老生体にぶつける。しかし甲殻に覆われた老生体には効果は薄かったが目くらましにはなった。一瞬の隙をついてデルクは背後に周りながら、腰に刀を添え、右手は根元から握りしめていた。その手には右、左、別々の剄が収束していた。
 老生体はかぎ爪でデルクを迎撃しようとしたが、デルクの剄技の方が一歩早かった。
 サイハーデン刀争術、焔切り。
その名の通り、赤く染まった刀身はまるで焔のように煌めき、かぎ爪ごと老生体の体を切り上げる。
 全身にヒビが入るがあまりの硬さに、デルクの刀が途中で止まる。老生体は首だけ振り向きながら笑おうとしたが、デルクの手を見てそれを止めた。
「……終わりにしよう」
 その言葉とともに上に斬った刀を炎とともに軌道を変更する。上から下へ、つまりは一度ダメなら二度というやつだ。
 サイハーデン刀争術、焔重ね。
 甲殻とその下の肉と心臓を断ち切られた。しかしデルクはそれだけではこの汚染獣が死なないことは知っている。追撃のため、刀を頭部に向けた、その時だ。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
「なにっ!?」
 老生体は強烈な咆哮を上げたのだ。あまりの衝撃にデルクの身体が硬直する
 そして、自分の甲殻に突き刺さっていた剣の残骸を掴み、投げようとする。デルクは老生体の行動を阻止するために突きを繰り出した。
 サイハーデン刀争術、波紋抜き。
 放たれた突きが老生体の口に到達し、その頭部をズタズタに破壊したのと同時に残骸は恐るべきスピードで赤ん坊の元に投げられた。
「逃げろっ!!!」
 普段、叫ばない寡黙なデルクの叫び声は離れていた未成年武芸者の耳に聞こえていた。そして自分の手の中にいる赤ん坊に向かって何かが飛んできていると悟った時には全てが遅かった。
 小さな破片を迎撃するのは熟練の武芸者でも難しく、衝剄で迎撃しようとするが味方ごと吹き飛ばす可能性があるので出来なかった。もちろん未成年武芸者では対応しきれないだろう、誰もが最悪の結果を想像した。
 しかしデルクは間に合わないと分かっていても全力で走り出した。
 ――――その時、天剣級の剄がその小さな破片を破砕した。
「あっ……?」
 デルクは自分では考えられないほどの気の抜けた声を出し、周りの武芸者たちは唖然としていた。なぜなら、その剄を放ったのは腰を抜かして倒れている未成年武芸者の手の中にいる赤ん坊の一人だったからである。


 この事件はメイファー・シュタット事件と呼ばれ、生還した赤ん坊たちはデルクの経営している孤児院で預かることになっていた。そしてなぜ天剣授受者が介入しなかったのかは不明。三人の子供を守ったとされる女性は共同墓地に葬られた。


そして本来いないはずの少年の物語は九年後からスタートする。その先に待っているのは幸か不幸か。

 
 

 
後書き
早くグレンダン編を終わらせたいです……が、終わっても原作にはまだ入りません。
では次回までさようならー。

ここをこうした方がいいよ! とか、○○を出してくれ! などありましたら感想までお願いします。 
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